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赤い玉襲来、神獣『朱雀』からの呼び出し

お楽しみ頂けると幸いです。

「はぁ」

「ため息つきたいのはこっちだよ」


土下座からの説教をしばらく受けてようやく許されるまでに長時間必要とした。足が痺れるということは無かったことだけが救いだ。

頭を下げたことに関しては殺しかねなかったのだから仕方ない。むしろ土下座で許してくれたのだから感謝して然るべきだとすら思っている。


では、なぜため息をついたのか。それは遠くから火の玉がこちらにゆっくりと近づいてくるのを見つけたときにリセルが放った一言が原因だ。


「あれ、神獣の遣いだってさ」

「なんでわかるの、ってそうか」

「精霊さん達が騒いでる。自分たちでも滅多に会わないからって」


そうか~。精霊さんでも滅多に会えないんだね。本物であることは疑ってないけど。理由だけは不安しかないな。


「この目の前の光景が原因だと思うけどね」

「それしかないよな。生きて帰れたら夕食を豪勢にしたいな」

「いいよ。生きて帰れたらね」


さすがに死ぬかもしれないもんな。何かもっと何かしておけば良かったな。


「あぁ、隠しダンジョンも行きたかった。あとは運転ってものをしてみたかった。全部手作りになってただろうけど。あとは、この世界に来てから一度くらい米を食べたかった」

「コメ…?あの風が吹いたらサラ~っと揺れて風が通って行くのが分かるやつ?

「そう、それ。稲の先に実る米。……ん?」

「あれがそうかもな。それらしいものなら最近見つけたって話を聞いたよ」

「は!?」


初耳なんですけど!?


「獣人が魔国から来たことは知ってるでしょ?」

「もちろんだ!まだつながりがあるのか!?」

「つながりは無いけど、その時に持っていた植物を森に自生させてるんだよ。栽培が難しかったけど、フレンドビーたちに任せたらそこからうまく収穫できそうな気配があるって毎果さんが通訳してくれてた。その中にあったはずだよ」

「なん…だと……」

「ちょっ!?イレブン!」


思わず立ち眩みがして倒れ込んでしまう。受け止めようとしたリセルも間に合わず倒れた俺を起こそうとしてくれている。悪いな、体に力が入らなくて起き上がれそうにない。


「いや!寝てる場合かーーー!!!」

「うわっ!」


飛び跳ねたところでリセルに当たりそうになっていたみたいだ。


「ごめん!でも今はそれどころではない!」

「だからなんなんだよ!」


食べることにあまり興味は無かったとは確かに言った。言ったぞ。でも無くして初めて分かるものがある。それが俺にとっては米だった。味が濃い目の食事を食べていると腹は満たされていても何かが飢えているんだ。何かが俺に訴えて来るんだよ。


(米ならもっと美味しく食べられるんじゃないかな)


最初にデテゴとザールさんに拾ってもらって馬車で移動しているときは特に何も思わなかった。あのときは食べられるだけで感謝した。もちろん今でも感謝している。

でも、冒険者生活が少し軌道に乗ってくると少し良いものが食べられるようになってきてる。特に『食材の宝庫』に行くようになって肉と金に困らなくなると物足りなくなってくるんだ。


(この肉を炊き立ての米の上にのせて丼にしたらすごく美味いんじゃないか)

(卵か、醬油もあるんだぜ。なぜ米が無いんだ?)

(魔国に行けばあるのは分かっているんだ。だが、簡単に行けるようなものでもないし。ガマンだよ、ガマン…)


「って思ってたのに、実は近場にあったというのかーーーー!?」

「ひーーーー!?」

「はっ!ご、ごめん!少し暴走してしまった」


すっかり価値の落ちた土下座をもう一度して、何とかリセルに問題無いことを何とか訴える。氷と水を魔法で作って頭の上で熱を冷ましているというパフォーマンスもしておいた。

それもそれで混乱した上の行動と言えなくは無いが、きちんと魔力の制御をしているのだと判断してもらうことは出来た。


「落ち着いた?」

「大丈夫だ。驚かせるような真似をして本当に悪かった」

「本当に出会った最初は物静かだと思っていたのに。明るくなるのは良いけど、少し変な感じになることが多くなってきたね」

「確かに、そうだよな」

「そんなに気にすることでもないからね。落ち着いてくれたら大丈夫だよ」


リセルはそう言ってくれるが、本当にそうか?確かに俺ってこんなに感情を表に出す人間だっただろうか。良い意味で人間らしくなったとは思うけど。少しおかしい気がするのも確かだ。

だからと言って手がかりがあるわけじゃないし。


「イ、イレブン」

「ん?」

「お越しになられたよ」

「そうだ。頭から抜けてたよ。こちらに到着するのを待ってたんだった」


≪色々と事情を抱えた人間…いや、お前は変人か。そっちは神獣の獣人だな≫


「この聞こえる声は、この目の前の赤い玉からの声か?」

「精霊さん達がそうだって言ってるよ」

「えっと、お偉いさんなら跪いた方がいいのか?」


≪そんなことまでは別にしなくていいぞ≫


「そうなのか。ちょっとどう話しかけたものか困ってしまったもんで」


声はどちらかというと少年の声に近い。でも威圧感があるわけではないけれど、威厳があるというのか、素直に従ってしまう何かを感じる。


≪まずは順番に説明しようと思うが、先に結論だけを伝えておく。可能なら神獣『朱雀』さまのところまで来てもらいたい≫


「え~~~っと、それはどういった意味でしょうか」


背中に汗が大量発生したのを感じる。少しだけリセルを見ると顔が真剣さと緊張も併せた顔をしてる。たぶん俺も同じ顔をしてる気がする。

わざとじゃないとはいえ、テリトリーだろう場所を荒らしたからな。注意で済めば良いけど。粛清なら全力で抵抗するか。試作のために生産系のスキルを優先的に取得したのが悔やまれる。


≪待って待って。朱雀さまが話がしたいからって招待しに来たんだよ≫


「お話の内容によっては殺されてしまうとかですか?この惨状の原因は俺なので、それなら俺だけで勘弁してもらえないでしょうか」


≪別にどうこうしようとかは考えてないよ。本当に話をするだけ。来てくれたら2人にとって役に立つことがあるからさ≫


「ぼくは分かるけどイレブンも?」

「俺は別に神獣に関わりを持った覚えはないと思うんだが」


≪僕からは何も言えないけど、2人とも呼んで来いって言われたのは本当だよ。山頂まで案内するからついて来れる?≫


「ちょっと相談する時間をくれ」


≪いいよ≫


許可を得たので気持ち赤い玉から距離を取って小声で話す。小声にしても聞かれているような気はするが、こちらの意思統一の方が優先だ。


「どうする?」

「どうするも何も、戦わなくて済むなら一度行ってみよう。リセルのことが分かるチャンスじゃないか。念のため今持ってる分のSPポーションを全部スキルポイントに変えて強化しながら行こう」

「そこまでしなくて良いと思うんだけど…」

「失態続きだからな。危険かもってところに行くんだから安全策は取らせてくれ」

「わかった。ぼくはレベルを上げるからスキルポイントはイレブンが上げなよ。残り時間でできることをしよう」

「ありがとう。そうさせてもらう」


赤い玉には大人しくついて行くことを伝える。


≪ゆっくり飛んだ方が良いのかな?≫


「ついて行くことは可能だと思うからお願い」


受け答えはリセルに任せて、ゼリーを大量に流し込む。固形物じゃなくて良かった。飲むにしても限界があるからな。食べながら戦闘用のスキルを取得していく。

秘奥義を取得するには不足だったので、万が一の時の継戦能力と一撃の威力の底上げ、それから不意打ちが出来るようにスキルポイントがゼロになるまで振り切った。


「リセルは?」

「ぼくはレベルアップでステータスが上がるからね。スキルをどうしようかな」

「限界まで上がるわけじゃないけど、これなんてどうだ?」

「練習無しで出来る自信無いよ?」

「本気でやれば大丈夫だ」

「えっと、目立たない程度で練習しておくよ」

「俺もちょっと動いておこう」


赤い玉がどこを見ているのかは知らないけど、後ろまでは見ていないことを祈って2人とも練習しているうちに山頂が近づいていた。

お読みいただきありがとうございました。

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