薙刀とリセルの強くなってからしたいこと
お楽しみ頂けると幸いです。
到着したのは『食材の宝庫』の中にある森エリアだ。人目を忍んでの行動をしている。入り口で言われたことだがテイムした魔物が蜂ってのは珍しいらしい。
その人たちは心底珍しいと思っていることが分かったが、わざわざ喧伝することもない。変に絡んでこられても面倒なのであまり目立たないようにしている。
「この辺でいいかな。じゃあ始めようか。最初は俺がこの辺りにいるやつらを呼び寄せて色々と種類を見せるので、大体の特徴を覚えてくれ。ここは動物型魔物だけが出現する。骨格からどんな攻撃をしてくるかというのは推測できる。防御、回避を優先させること。作戦は命大事に、危ないと思ったら呼ぼう!で頼む」
「ぼくはそれで構わないけど。薙刀たちもそれでいいの?」
「俺が倒したあとはリセルにやってもらう。薙刀たちが俺やリセルが倒した分の経験値を得られるならその方が安全で良い。パワーレベリングではあるけど、今のままではここの魔物と戦うには問題があるからな」
「ぱわーれべりんぐって?」
知らなかったか。言葉が違うのかもしれないな。
「弱い奴の代わりに強い奴が魔物を倒してレベルだけガンガン上げていくことだ。」
「なるほどね。でもまあ怪我したり死ぬよりはその方が安全だしね」
「不甲斐なくて申し訳ありません」
薙刀をはじめ蜂たちが萎れていく。う~ん、なんか勘違いしてないか?ここに連れてきたところで最初から君たちだけで魔物を倒せるわけないじゃないか!そのまま言ったらもっと傷つくな。あ~。
「最初から強い奴はいない!」
「!」
顔を上げてくれたのでそのまま話を続ける。
「俺が強くなってほしいと思ったのは万花たちを守るためにかなり無理をしていると聞いたからだ。むしろそこまで無理をさせていたことに俺は感謝の気持ちと申し訳ないって気持ちの両方を持ったぞ」
「それは主たちの手を煩わせたくなく思いまして…!」
「獣人たちの手伝いも最小限にしてもらっていたんだろう?それって違うと思うぞ。手伝う方も申し訳ないって思われるより強くなれるときにしっかり強くなってほしいと思うはずだ。少なくとも俺はそう思ってるし。今がそのチャンスだぞ。掴んでおいた方がいい!」
薙刀はともかく周りの蜂たちもちゃんと聞いてくれている。言葉がわかってるのか。前からそんな感じだったな。
「受け取った恩は心に留めておいて返せるときまで取っておくんだ。誰かの手助けが無いと生きていけなくて普通だからな。それで俺とか万花や獣人たちが困っているときに助けてくれ。これでお互い様ってやつになるからさ」
「はいっ!必ず強くなり、恩に報います!」
薙刀はくるっと後ろを振り返って部隊の方を向いた。
「いいな、皆!今日だけは助けを頂戴するが、いつか必ずこの恩を返すぞ!」
声が出せないフレンドビーたちは敬礼して、羽を震わせている。統率感すごいな。
和風な名前にしたけれど武者とか武士みたいな感じになってる。戦闘探索部隊もフレンドビーの中では少し強いくらいってのが少し強くなってるみたいだし。
留守を任せられる部隊を多めに作っておくか。隠れ家とか接続ポイントは多めに作っておきたいし。ザールさんの反応を見る限り色々と拠点はあって損しないみたいだからな。
しかし、不思議なもんだな。直接テイムしてないはずの戦闘探索部隊も俺がテイムしたみたいに言うこと聞いてくれるな。間接的な契約状態なのかな?何にしろ少しぬいぐるみ感があってかわいい。それは今は横に置いておこう。
「ぼくも恩返しはちゃんとしないとね」
「え?そういえばそうだったか。俺の方が借りが多い気がしてるけどな」
「そうかな。そういえばそうだよねぇ。まあどっちでも良いよ。じゃあ…相棒かな?」
「あ~、そんな感じだな。まあよろしく頼むわ、相棒」
相棒か、それが一番しっくり来るかな。かなりサポートしてくれるし。これに甘えたらいけないな。これ以上の失態はダメだと自分を戒めよう。
さて、はやいうちに、経験値が分配されるのか、薙刀の入手した魔石でリセルが経験値取得できるのか、押さえておきたいところだ。最初は検証タイムでもある。だから皆にとっても必要な時間なのだ。
「じゃあ、一瞬だけ『挑発』発動!」
空気がピリッと変化したことを全員が感じ取ったようだ。感覚がしっかりしているのは優秀だね。俺はスキルが無かったら感じ取るのは難しいな。
特に薙刀たちにとっては格上しかいない死のエリアにも等しい。そんな中で自分たちでは無いとはいえ敵意を向けられると厳しいようだ。
「あ、突然で悪いな。でも結界で閉じてるんじゃなくてこういう格上が近くにいることにも慣れる必要があるだろう。耐えてくれ。リセルの近くで防御に専念してていいからな」
蛮勇を見せようとした奴らもいたけど薙刀がぶん殴って回収していた。うん、俺の感覚ではそれが正解。俺がいるんだから無駄に死にに行こうとするのはダメ。
『挑発』は一瞬だったので呼び込まれてきたのも近くにいたやつらくらいだ。小型の牛型、猪、枝の上に鳥型もいる。他にも諸々と来てるな。今日はBBQ確定かな。
「よ~し、じゃあカッコいいところ見せますかね」
☆ ★ ☆ ★ ☆
【リセル視点】
一緒に行けば何か変わると思った。助けてもらったことを理由に無理矢理ついて行った感じだった。
数日で本当にあっさりとレベルを上げてくれた。滅多に戻らないだろうと思った村を拠点にしているのは少し笑える。戻るのなんて数か月は先だと思ってたのに。
少し恥ずかしかったのはあるけど、皆が心配なのも本当だから一緒にいられるのは嬉しい。
イレブンは段々と表情が幼くなってきている気がする。少し聞いた話だと前は苦労していたらしい。イヤな目に遭ってたみたい。そこは詳しく話してくれない。子ども扱いしてるからだ。今だと違うかもしれないけど、逆に聞く気はなくなったかな。
聞けたことは少しだけ、向こうの世界ではあんまり力で押し切るってことが良くないらしい。だから耐えることで乗り切ろうとしていたんだって。
結局は我慢できなくなって爆発、少しおかしくなってたって言ってた。ここでまた普通に笑えるようになってくれたらいいと思う。
ぼくも自分でどうにもならないことに悩んでた。
だって年齢は20歳なのに、体は10歳児と言われるくらいに小さいまま。神獣の獣人が原因だとしたらこんなのは何かの呪いに等しい。
特にイレブンに子ども扱いされるとすごく腹が立つ。年齢相応になったらメディさんやサティさん、それにメラノみたいに結構いいスタイルになるはずなんだぞ。…違ってたらイヤだな…。
で、そんなことを考えさせてくる男は今楽しそうに魔物を倒している。一応こちらに魔物が来たら迎撃するために『精霊魔法』を使う準備だけはしてある。
一応戦闘については学んできているから、基本は知っているつもりだ。その中でずっと真理だと思っていたことは、体の大きさは武器だ、ということだ。それが今まさに崩されようとしている。
「余裕余裕~」
今イレブンが相手しているのは、彼と同じくらいの大きさもいるけど、どちらかと言えば一回りくらい大きい。それらがいろんな角度で襲っているのにフラフラ突進を避けて的確に一撃で大ダメージを与えている。足を止めた魔物には多分魔法を放って仕留めている。
「この世界での戦い方ってのを開発しようと思うんだ。一対多数なんてのが一番燃える展開だからな。それに対応できるように万能に戦えるように練習中だよ」
昨日はそんなことを言っていた。今はまだ格闘術だけだけど、装備の持ち替えが簡単に出来ることが分かったから戦闘中に持ち替えながら戦えるようにしたいんだって。ロマンだ!って言ってた。すごく子どもっぽい。
それに参考にって言われたけど何をどう参考にするのか見当がつかない。格闘術だけを見ていたのと違って、今のイレブンの戦い方は真似することは難しい気がする。
仕方ない。見るところを変えよう。魔物が全力で攻撃してるのを見て、自分ならどう対応するかを考える方が良さそうだ。
ステータスを信じるならイレブンよりもステータスはいくつかぼくの方が高い。ぼくは基本的にレベルアップの上昇率が高いらしい。
特に頑丈が高くてその次に魔力は成長が良い。昨晩メモしたステータスを見るとこんなのだ。
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名前:リセル 種族:神獣の獣人 年齢:20
レベル:26
経験値:1196/16602
保有SP:2860P
HP :280/280
MP :428/428
筋力 :170
頑丈 :218
素早さ:190
器用さ:294
魔力 :231
運 :62
攻撃力:170
魔攻力:231
守備力:306
魔防力:310
取得スキル一覧
○基礎
武術:格闘術(☆)
知識:料理学(☆)食材学(☆)植物学(☆)薬学(☆)服飾学(☆)
感覚:聴覚強化(☆)嗅覚強化(☆)味覚強化(☆)美的センス
技術:ナイフ捌き(☆)作業が得意(☆)
魔法:魔力放出(☆)魔力センス(☆)
○上級
生産:料理(☆)調合(☆)調薬(☆)裁縫(☆)
特殊:森の声(☆)器用な手(☆)
魔法:精霊魔法(7)
○固有
吸収(☆)反射(2)
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一番高いのは器用さだけどこれには理由がある。生産スキルを身に付けると器用さのステータスが一緒に上がるものが多かったからだ。手をよく使うし、うまくやらないと失敗してしまうからね。
イレブンの話によるとステータスが高くて損することはあまり無いらしい。微妙な調整が出来るようになったり、体の感覚がより研ぎ澄まされるようになるそうだ。『くりてぃかる』とか『かうんたー』が決まりやすい!らしい。
『精霊魔法』が使えるおかげで自分の手で武器を使って反撃しなくていいということもあって、イレブンを押し切って選んだ装備を持つ。
見た目は何も変わってないのに筋力も付いたからすごく重そうなのに軽々と持つことが出来る。
ごめんね、イレブン。さっきの相棒宣言で絶対に決めたよ。後ろで守られてるようなお姫様みたいなのでガマンしない。むしろ無茶ばかりするキミを前に出て守れるようになることでキミへの恩を返すよ。
村の男たちでも持つのに苦労するような重さの重魔鉄の盾をいつでも使えるようにしておく。ひとりでフラフラと舞っているようにしか見えないくせにドンドン仕留めていくイレブンを見る。
ほどなく、一撃も攻撃を受けることなく倒しきったところで魔石やドロップアイテムが出現する。いつも見た光景だ。ぼくも拾い集める手伝いをしよう。盾は必要なかったな。
でも、いつもと違うことも起きた。
「ほわああぁぁぁぁ!?」
薙刀が叫んでいる。どうやらイレブンが倒すだけでもレベルアップが可能みたいだ。ぼくも最初に魔石でレベルが上がったときに一気に上がったから驚いたな。
周りの戦闘探索部隊もプルプル震えているから同じようにレベルが上がってるみたいだね。どのくらい強くなったのかな。ぼくは見ただけでは分からないんだよね。
「ん~。俺は経験値丸々入ってるけど、薙刀たちは一部だけって感じだな。半分も入ってないな。見てただけだからかな。動けなくなるのは危険だから俺が結界張っておくか。薙刀たちが落ち着くまではリセルが戦ってみるか?」
「望むところだよ」
見てろよ。いつか絶対に守ってやるからな。がんばらないと叶わないことだけど、誓う。
ステータスを久しぶりに出しましたが少し変えました。ご了承ください。
お読みいただきありがとうございました。