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ミケンダと組手

お楽しみ頂けると幸いです。

「お~い、合流させてくれ~」

「やっと来たっすか!待ちくたびれたっすよ!」


ミケンダは俺が来ると思って十分に待っていてくれたようだった。既に体も温まってやる気十分のようだ。


「待って待って。リセルはどんな感じかだけ教えてよ。どこにいるの?」

「リセル様はすごいっすよ。体の動かし方はまだまだぎこちないっす。今までオイラたちが守っていて戦うなんてことさせてなかったからっすね」

「レベルも上がらずに弱かったからな」

「この村でも珍しいっすよ。でもレベルが上がったおかげっすかね。体力だけはあるからまだがんばってるっすよ。ほら」


実際に見てみた。うん、これはまあ。


「ひどいな」

「そうなんっすよ。でも楽しそうでしょ?」

「そうだな。転がされまくってるのに、めちゃくちゃ笑顔って逆に怖いよな」


今までリセルは守られる側だった。俺と初めて会ったときは逃げるしか出来ていなかったけど、守る側に行けるってことがこれで分かったみたいだな。得意不得意はあるけど体術として体が動かせるようになっておいて損はないからな。

どちらかというと受け身やこけてすぐに体を起こすといったことを先に学んでいるようだ。合間に攻撃の避け方をくり返し指導されているんだな。


「というか相手ってジェイブさんじゃん。指導中は別人なのな」

「話し出して止まらなくなってるところしか見てなかったっすかね。あれは役立つことを言っているから咎められてないだけで、結局ずっとしゃべっていることにはかわらないんすよ」

「そう言われればそうなのか…?でも確かになって指導だから気にはならないな」

「オイラはあれも何度も聞いたことが時折混じるので疲れるっす」


顔と言わず体全体からうんざりって感じが放出されてるな。


「例えばどれのことだ?」

「常に3手先を読め、自分の重心は保ったまま相手の重心を崩せ、相手が嫌がることをやれ、敵には容赦するな、相手がどんな奴であれ強者には敬意を払え…。よく言うのはそのへんっすね」

「言ってることは正しいけどな」

「一週間くらいなら目新しいっすけどね、1か月で黙って指導してくれないかなって気になるっす」


いくら言っていることが正しくて聞いてもらえなくなるってやつだな。必要な時に必要なことを話す、か。大事なことだが難しいことだな。


「まあ良い人であることは確かっすからね。嫌いでは無いっすよ」


ジェイブさんが悪い人ではないのは俺も分かっているつもりだ。わざわざ言ってくれるのは言わずにはいられない彼の気質があったとしても、自分の血肉になったときに感謝することになる気がする。

リセルはしばらく任せておいて良さそうだな。体力があるって言っても限界も知ってほしいし。


「じゃあ俺らも手合わせ、やるか?」

「望むところっすよ」


リセルが転がされているのは広場みたいなところだ。端から端まで見えるし、何なら家にいながら様子が見られるって家もある。

だから俺が広場に来ていること、ミケンダと話しながら見学していたことに気が付いていた人もいる。まあほとんどの人はリセルを見てほほえましく見ていたって感じだ。

ただ俺たちが始めてからしばらくすると周囲が俺たちの方に目を奪われるようになってきていたらしい。


理由は、まあ俺が悪い。一対一という状況が俺に味方しすぎた。

ミケンダとの組手の目的は、獣人の代名詞である鋭さとスピードを体験したかったからだ。痛みにも不慣れだから正常な精神を保つためとも思っていた。


周囲からの横やりが入らずに目の前の敵に集中して良いという状況は、今までの俺が行った戦闘の中でもほぼ無い。長時間周囲から間断なく攻撃をされるのが普通という中で戦闘をして来た。

つまり、避けまくってしまったのだ。


「だあああああっ!!当たらない!卑怯な!」

「人聞きが悪いぞ!」


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


最初の様子見ではお互いに手を出し合いながら、確かめるくらいで済んでいた。お互いにどう動くのか一進一退だ。


右手の攻撃を防がれたらお返しに右足の蹴りが出される。屈んで避けた後に体当たりをしようとするが、足さばきで避けられる。ついでに足を払おうとされるので距離を取る。

そういうスタントだとお互い示し合わせたような感じでお互いに何度も仕掛け合う。この段階ではまだ余裕があった。


「さすがにやるっすね」

「それはミケンダもだろ。お互いにあんまり見たことがないからどれくらい動けるのか確かめてるだけじゃないのか?」

「まあ、そうっすね。じゃあ少しだけ本気出していくっすよ」

「いいぞ!ケガは気にしなくていいからな!」

「ありがたい、っすよ!」


ミケンダは三毛猫の獣人だ。猫の特徴は何かと聞かれても俺は猫を飼ったことがない。知っている範囲での一番の特徴は、体が柔らかいことだ。


「ぬあっ!」


一撃を躱されたと思ってからすぐさま死角から回し蹴りが来るとは思わなかった。


「今のをかわすとは。さすがっす!」

「そう言いながら、手を緩めないのな!」

「当たり前っすよお!」


本気を出すと言ってから、不意を突いてくることが多くなった。予測とは違う躱し方をされて、予測を一から建て直す前に死角から一撃。かと思えば正面から強烈に一撃を叩き込んでくる。

意識の外し方が上手だった。基本的に性格がまっすぐなミケンダがそういう戦い方をするところにも驚きが隠せない。


何とか距離を取ったところで、一息つく。一応確かめるために間が欲しかった。


「ミケンダ。お前もしかして」

「いや、普段の性格はこのままっすよ。でも戦うってなると体が自然とこう動いてしまうんすよ!イレブンだって一撃もきれいに入っていかないじゃないっすか!」

「なるほど、ジェイコブさんの教育の賜物か」

「そう思ってくれっす」


普段の性格は生来のもので割とまっすぐに生きている。しかし、ジェイコブさんがリセルの指導でも言っていた言葉の1つである『相手が嫌がることをやれ』ってところをしっかりと実践しているんだ。

体が柔らかいことを活かして不意を突く一撃を入れて倒せば良し、無理なら意識の外からの攻撃に慣れさせたところで正面突破の一撃をまっすぐにぶつけて攻撃する。

これで相手はどこからどのように攻撃してくるのか思考の選択幅を広げられる。よく考えられているし、そのためにかなりの修練を積んだことが分かる。


「デカい一撃の師匠は隊長?」

「違うっす。マッツさんっす。あの人も話さないだけで体の動きの指導は文字通り手取り足取りやってくれるし、見本は何度も見せてくれるっす。しゃべらないだけで教えは至極まともっす」


搦手はシマウマの獣人ジェイコブさんから、一撃の深さはゴリラの獣人のマッツさんから。言うのは簡単だけど身に付けるのは大変だよな。


「で?隊長からは何を学んだんだ?」

「えぇ?もうそこまで欲しがるんすか?イレブンも少しは手の内明かすべきっすよ!」

「そうか?俺の場合はただこざかしいだけだと思うぞ」

「やってみてからオイラが判断するっす」

「じゃあ行くぞ。泣くなよ!」


まずは普通に右でまっすぐ、は弾かれる。お返しでの右の突きは左手で腕の内側からはじき返す。ついでに左に動こうとしたので左の腿にわざわざ屈んで突きを入れておく。


「何がこざかしいんすか?少しは痛いっすけど」

「だろう?もう逃げられないよ」

「イレブンが攻める雰囲気だとしてもこっちから攻めることもあるんすよ!」

「攻守交代の宣言がはやくないか?」


ミケンダが色々と変わらない攻撃を仕掛けてくるが、きちんと捌く。手の内を見せろって言われたからにはちゃんとやる。

何度かの攻防を繰り返して表情が歪んでいたのはミケンダの方だった。


「なんつーことしてくれるんすか」

「だからこざかしいって言っただろ?」

「まさか全部の攻撃が同じ位置に打ち込まれるとか思わないっすよ。つまり全部見えてるってことっすか」

「まあそういうことだな。スキルにも反映されてるかは分からないが、眼の良さには自信があるんだ」


相手の動きに合わせて狙ったところに一撃がいれられるように動く。体がしっかりと動くようになり、一対一という環境であればそれくらいは出来る。

ただ、相手が割と予想通りの動きをしてくれないと出来ない。ミケンダが先に動きを見せてくれたから判断できるようになった。後手だから出来たことだ。


「これでなかったら、有無を言わさずに連撃をいれていくくらいしかないな」

「や~。それはしんどいっす。絶対にオイラより強いじゃないっすか」

「まあお前が全部出してきたらわかんないよ」

「相変わらず何を見てるのか良く分からないやつっす」

「まあ今回はそれもあって来たようなものだからな。今晩教えてくれよ?」

「わかったっすよ。はい、お待たせしましたっす。リセル様」


俺の少し後ろに目線を移して言ったかと思ったら後ろから飛び掛かってきた。リセルだ。


「やっぱり腹が立つくらいに強いな!イレブンは!」

「気配を消して後ろから飛び掛かってくるな!」

お読みいただきありがとうございました。

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