買い物後半と失敗
お楽しみ頂けると幸いです。
「前から思ってたんだけどさ。なんでイレブンはその箸ってやつがそんなに上手に使えるの?」
「これか?前にいたところでは、大体のものは箸を主に使って食べてたからな。小さいものも摘まめるし、慣れれば便利だぞ」
「簡単そうに使ってるけど、ぼくには無理だ!フォークで食べるよ」
「まあ何でも練習だよ」
今俺が食べているのは焼きそばだ。よく夏祭りで売っているようなやつを想像してくれ。屋台で売っている中で、おいしそうな香りがする!とリセルが選んだのがここだった。
入っている具は薄い豚肉や麺の細さに合わせたように細めに切られた野菜が入っている。結構手が込んでいて懐かしく感じた。鉄板で炒めるときに余計にかけられたソースが焦げた香りが素晴らしい。
これはリセルでなくても寄っていくだろう。ソースってあるんだと思いながら香りを思い切り吸い込むと、微妙に違う感じがする。ソースなのは間違いないが、何というか、深みが足りない?
(さすがにあの世界の企業努力に追いつくだけの研究は再現されてないよな。なんだかさみしい)
そうは思いつつも、懐かしい味には違いない。箸でガッツリ掴んで勢いよくすすりながら食べる。
「もぐもぐ……あ~、でもやっぱりうまい!」
「良かった~。でもさ…」
というところで冒頭に戻る。
「それって便利?」
「めちゃくちゃ便利だぞ。箸があれば他のカトラリー類はいらないんじゃないかな」
「う~ん、じゃあこれも練習か。ぼくばっかり練習してない?なんかイレブンも練習中のことないの?」
「今練習中のことか。無いことは無いけど、材料が無いだけで練習をしたい、なんだよな」
その返事を聞いて、少し悩むリセルだったが、はっとわざわざ声を出して何かに気が付いたことを主張する。聞いてあげるのが礼儀かなと判断する。
「何に気が付いた?」
「イレブンはぼくよりも生産に振ってないからか!僕が生産を選び過ぎてる?」
「それもあるだろうけどな。偏ってるのはあるけど、それはこれから考えれば良いよ。それに今俺が言ったのは一応生産でやりたいことだぞ」
「そうなの?じゃあ次はその材料を調達に行こうよ。どこで何を調達すれば良いの?」
他に買う物があるはずだけど、そう言ってくれるなら乗らせてもらおう。
「俺もあまり詳しくないんだよな。とりあえず魔道具屋に行こう」
「わかった。急いで食べる!」
「こぼさないようにね」
宣言通り食べ終わり、途中で簡単に食べられる串肉や果肉入りジュースなどを飲み食いする。串は回収して焼くときの着火剤に、ジュースは自前のコップでゴミを減らしていた。現実社会は細かかった。
それで次に来たのは魔道具屋だ。販売されているものをざっと見たが、生活魔法を魔道具として使えるようにしたものがメインに売られていた。
威力を上げ過ぎると危険なので、精々が魔法そのものに攻撃力がほとんどない生活魔法になるそうだ。それぞれ専用の魔導具が必要だがふつうに魔力を流すことで、火、水、風などが出せる。
冒険者なら1つは持っておいた方が良いといわれるやつだ。冒険者じゃなくても家庭用でも買えるが、割と高いので一般家庭ではあまり買わない。
ちなみに今の俺が生活魔法を使うとそこそこの魔物でも殺せる。いつの間にか筋力と魔力の差が約3倍になってるんだよね。
必要だったとはいえ、魔法に集中し過ぎた。しばらくは必要にかられない限りは魔法は覚えないようにしようと思う。守れるかどうかは未来の俺しか知らない。
一通り店内を見て回った後に念のため店主に聞いてみた。
「申し訳ない。『生活魔法』は使えるんだ。魔道具を自分で作ってみたくて材料をどこで仕入れられるかを聞きたいんだけど…」
「悪いな。商売敵になるかもしれないやつには売れない。出て行ってくれ」
ですよね。大人しく店から出る。出る前からリセルが怒っている。
「さっきの人ひどくないかな!」
「いや、普通の対応だと思うぞ。生活を脅かすやつには手の内を明かさないさ」
「そうなのかなぁ」
皆が皆、協力的ということは無い。それにここの魔道具屋では『生活魔法』を使える俺ではこれから先もこの店の客になることは無いから、これからのことを考えるとしつこく聞き出す必要もない。
「でも商品を見て使われているものは分かった。魔鉄だ。鍛冶屋でなら材料を買えるかもしれない。無理なら手に入るところをザールさんに聞く」
「最初からそうした方が良かったかもね」
「まあそうかもな。念のため武器屋に行って紹介してもらえないか聞いてみよう」
先に今身に付けている装備品一式を購入した武器屋を訪ねた。ギルドのお墨付きの店なら邪険に扱われることも無いと考えたからだ。実際冒険者証を見せると信用はしてもらえた。
念のためついでに、店に置いてある武器をそれぞれ1つずつ購入することを伝える。リセルの鍛練用にもなるし、何より試しに使ってみないと自分にどの武器が合うかが分からない。確かめるためにも色々といろんな武器が必要だ。
剣だけでも片手のロングソードやショートソード、両手剣があるし、槍も柄の長さによって種類があったのでそれらも1つずつ購入する。あとは斧、戦闘用の短剣、金属の付いた杖、念のために盾も大きさ別にいくつか購入した。おかげで、鍛冶屋への紹介のお願いは通してもらえた。
「大量購入してくれたからな。サービスだ」
と言って鍛冶屋まで案内ついでに一緒に来て、更に鍛冶屋店主に事情説明までしてくれた。先程の大量購入も伝えたことで魔鉄の購入を許してくれた。俺が冒険者として活動していること、この鍛冶屋で作った武器を大量に買ったことで気を許してくれたことが大きい。
引き換えにまた何か多めに買うときはぜひひいきにしてほしいと言われた。壊す可能性もあるからそれは約束しておく。大口の客への対応はどこの世界も同じようだ。次に武器を買うかは不明だが魔鉄はまた買いに来るかもしれないことも正直に伝えておいた。
その引き換えとして武器と魔道具で畑は違うが、見せられるものなら見せてほしいとお願いをされた。今考えているものを見せるのは難しい。正直に言うと角が立ちそうなので、失敗の可能性が高いので成功したらと濁しておいた。
隠すことなく話したことが気に入られたようで、魔鉄も本来なら珍しいものだけど必要なら融通してくれることも取り付けられた。
何かあったときにここも付き合いの長くなりそうな店にさせてもらおう。そうなると俺の在庫の放出をさせてもらおうとお礼の肉を提供させてもらった。喜んでもらえたので良しとする。
店を出た俺たちは他にも装飾品を見たり、小腹がすいたらクレープみたいな甘いものを食べて時間を過ごした。あとは他にも購入しておきたかったものを見て回った
「夕方か~。そろそろ帰るか。寄り道するのは許してくれな」
「うん!仕方ないよ。それで、明日から何するの?」
リセルはご機嫌だ。買い物をするときってなんとなく緊張するし、おいしいものを食べると楽しいからな。口をもごもごさせているから今は甘いものを思い出しているのだろうな。
「とりあえずは獣人の村に行くのとリセルの戦闘訓練の2つかな」
「わかった。ぼくも走って行けるかな」
「あ~。飛ぶから走らなくていいぞ。詳しくは明日な。それよりも、このあたりで良いかな。ちょっと掃除しようか」
わざわざ目立たない路地へと入って行く。すぐに後ろを塞がれ、前からも人影が出てきた。狙いはほぼ間違いなく分かっている。自分でもやってしまったと思っている。
「は~い。楽しいデートはここまでだ。自分から逃げ道のないところに入ってくるなんて馬鹿じゃねぇか」
「なにかしようとしてたんじゃねぇのかぁ~?」
「ガキ同士のくせにか!あっはっは」
こういう人たちの何が楽しいのか分からないのに高笑いするのって本当に何だろう。あまり近づきたくない相手ではあるな。
「お前らは黙ってろ。こどもの癖にえらく上等のマジックバックを持っているようだな」
何か責任者みたいな人が出てきました。一人だけ受ける印象が違うな。スキンヘッドに髭、おまけに片目眼帯の割にはゴロツキって感じじゃないけど。
そして!絡まれる原因はマジックバックに見せかけてたカバンです!初めて行く店なのにあまり考えずに色々と収納しすぎてしまった。結果が今の状況である。
「気になったから見ていたら、何でもかんでも放り込んでたぞ!相当入るんだ、あのマジックバックは!」
「そんなにすごかったのか?」
「武器屋でほとんどの武器を1つずつ購入してるんだぜ!それだけでも結構な量だ!。それにあいつらの道具も入っているだろうから相当な品が入っているはずだ」
静かにと言われても自分たちが優位だと思っていると静かに出来ない人たちみたいだ。こっそり話しているようでも聞こえてしまう。襲う対象を前に雑談しないでくれよ。気が抜けるじゃないか。
「黙れ、馬鹿ども!」
「はいぃ!すいやせん!親分!」
本当に親分だった。一喝すると子分たちは黙って攻撃意思をぶつけてきた。
「大人しく渡すなら見逃してやる。渡さないなら少し痛い目を見てもらうぞ」
こんな脅しの言葉が実在するなんて、と少し感動する。返事をしろとリセルが脇をついて知らせてくる。何ていうかなんて決まっているじゃないか。
「イヤだ」
お読みいただきありがとうございました。




