疲れを癒したいときになぜか思い出したのはあいつ??
お楽しみ頂けると幸いです。
「は~、倒せてよかった。さて降りるか」
MPも相当に消耗したが、なんだか精神的に疲れた。必要なことは行うが、それ以外はしたくない。数字に表れない部分での疲労が一気に襲い掛かってくる。可能なら寝たい。でもここで寝るわけにもいかないから、少しでも気持ちの上がることを考えよう。
まずは今の一撃についてだ。本来なら秘奥義って言っても形だけ再現したもどきだし、魔物のサイズは大きくその枠をはみ出していたものだし倒せるかは心配だった。本来なら使う魔石は1回につき1個が普通だが、現実は簡単に制約を超えて5個も使ってきた。
結果はイベントレベルかレイド級の魔物の出現だ。召喚主が弱かったから出現した奴も見掛け倒しで助かったが、ちゃんとレベル上げしていたら危なかった。
でもまあ倒せたから一安心だ。
ここはゲームを基にしてるけど完全に違う異世界だと認識する良いきっかけになったとすら思う。ゲームならどうやったって、こんなこと起こせるはずがないからな。
知識と道具でゴリ押し出来たら、ゲームは苦労しない!準備する制約がかかる分現実も大変だけどね。
そんなことを考えながら地上へと帰還する。サイクロプスが巨大だったといっても10メートルだ。降りるのにそこまで長い時間は必要ない。
とりあえず向かう先にあるのは丸太から外された罪人だ。死んでなければ良いはずだからセーフという話だったので、咎められることは無いだろう。むしろ治癒している部分もあるのだし。
それはさておき、考えておきたいのは使用武器だ。何にするかを考えながら歩を進める。打撃は先程イヤな思いをしたので、切れ味を追求した剣か刀で良いだろうか。それとも突き刺すと払うが可能な槍か?手ごたえ無しを希望するなら不遇と言われがちな弓を使うのも有りか。
回収してとりあえず丸太に縛り付けながら使う武器について思いを馳せる。戦闘中に武器の換装が出来るのなら結局は気分で何を使っても良いのではないか、ということに気が付き何でも良いやと結論づけたときに縛り付けが完了した。
振り返ったときにはじめて周囲の表情を見た。
そういえば、他の人のことは意識の外になってた。一撃に精神集中しすぎたせいかスッキリしすぎてもう何か、これ以上は気も抜けちゃったな。逃がしはしないけど、俺がこれ以上何かしようって気はなくなったしな。それよりも何かちゃんと秘奥義使いたくなったな。そっち方面の強化もしないとな。
あ~、義務じゃなくて色々とやりたいこと増えてきたな~。使う武器もやっぱり自作しようかな~。
それにしても静かすぎない?そう思って周囲をよく見てみるとその場にいる誰もが皆、目と口を大きく開けている。その視線の先は……自分だ。
このとき、唯一デテゴだけは余計なことをいうなと視線と身振りを送っていたらしいんだけど、気の抜けた俺の視界には入っていなかった。
「どうかしたの?」
口にしてから気が付いた。どうかしたのって何だ。どうにかしていたのは自分では無いか。見た目大きなサイクロプス、どう見てもレイド級のボスを一人で、しかも一撃で倒した。こんなリアクションにもなるのも仕方ないか。だんだん頭が冴えてきて、頬を汗が伝っていくのを感じる。
敵味方関係なく視線が集中した中での第一声はかなり重要である。あとから考えても確実に間違えた自信はある。俺はそのときこう言った。
「みなさん、見なかったことにしません?」
「「「「「「できるか!!!!」」」」」」
主に味方のはずのデテゴや冒険者から声は発せられ、敵対していた男たちでまだ意識のあった者たちは完全に心を折られて膝をついた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
そこからはスムーズではあった。相手に敵対意思が無いのだから当然だろう。少し戻ってザールさんや坊主たちと合流、そもそもの原因の元貴族のボンボンと商人くずれの集団を回収した。
こちらまで何があったかは見えないし聞こえもしなかったが、ザールさんは既に何があったかの例のあの人たちから全て報告を受けて知っていた。
「まだまだ計り知れませんね。敵対関係になりそうなときは、全力で謝るので許してくださいね」
俺が血も涙も無いような男だと暗に言われた気がして、こっちが現在進行形で許してほしいと思った。武力では勝てるかもしれないけど、生活はザールさんに握られていると思ってるんでね!
帰りは馬車に乗せてもらってユーフラシアへと帰還している。行きはひたすら何かしていたが、帰りは逆に何もしたくない。馬車の中で誰にも見せなかったような感じでぐったりと横たわっている。
すでに十分なほどに時間は経過したが、もどきとはいえ秘奥義を模して使った反動か精神的な消耗が激しい。
こんなに疲れるんだ、というのは発見だ。条件さえ揃えば戦闘でいつでも使えるものだと認識していたし、取得した当初はバンバン使っていたのが申し訳なくなってくるよ。
「結局あの一撃は何だったんだ?」
「あれは…、秘奥義もどきだね」
「秘奥義は分かりますが。使える時点で一国で5本の指には確実に入ると言われるものですよ?」
「金級でも使えるやつはほとんどいないな。白金級なら何とかいるんじゃねえか」
そんな扱いなんだ。敵キャラでも一人につき一つは設定されていたし、こっちも何かしら準備されている中から選んで習得できるものだけど。
人口から登場人物の比率を考えたらそう言われてもおかしくないか。
「正しく言うとあくまでもどきなのは、簡単に言えば形を真似ただけで威力は色々と底上げしたんだ。反動でここまで疲れるとは思ってなかったよ」
今回は突然必要だったから秘奥義の動きを自前で再現したに過ぎない。その分、色々と体内で魔法を使って『一拳』の威力を上げるために色々したけど。
「まあ正式なものをまた今度取得しておくよ。あくまでもどき。本当ならもっと…」
一応俺は笑って言った。二人に浮かんだのが恐怖じゃなくて良かった。
同乗した馬車は一番豪華な馬車で一旦いつもの3人だけにしてもらっている。俺があまりに疲れているからゆっくりさせるためと言っての配慮してもらった。悪い意味に聞こえるかもしれないが持つべきものは友人だ。
まあやる気が起きないのも当たり前か。それだけの消耗をしたのだから。こんなときはメディさんが作ってくれた体力回復ポーションでも飲んで気を紛らわそう。
そう思ってカバンから取り出して出てきたのは、なぜかリセルが作ってくれた。レモン強めの回復ポーションだった。
「お、なんだ。お前そのレモン味気に入ってるな!リセルが大量に作ったのによく飽きないもんだ」
「ほっといてよ。何を気に入るかなんて俺の好みだろ」
「回復量でいうと、メディが作ったものの方が良いはずですけどね。そちらを飲まないんですか?持っているでしょう」
「え?う~ん…」
そう言われれば確かにそう。取り出すまでは俺も同じことを考えていた。でもふっとなぜかリセルがもじもじとしながら作り過ぎたんだけど、と言いながら持って来たことを思い出す。
あのときは笑って受け取ったんだっけ。この味が気に入ったから飲むよって言って。まさかSPポーションだけでなく、他のポーションまでこの味で作ってくるとは思わなかったけど。自然となんか笑える。
「良いんですよ!」
「何がです?」
「俺の大事な『弟分』が応援のために作ってくれた物の方が、精神的な疲れは癒されそうですから!………なんです?その顔。デテゴも」
ザールさんは滅多に見せない驚いた顔を、デテゴは顔を手で覆って下を向いている。そのあとは2人で寄って何か話をしている。
「ザール、良いのかよ」
「少なくともここで言うことがベストだとは思いませんよ」
「それは、そうだけどよ。報われないし、こいつ思った以上にポンコツだし」
「何だよ。いきなりけなすとか失礼だと思うぞ。ちゃんと理由を言ってくれよ」
半分遊ばれているような感じがするし、まだ本調子ではないので聞き流しても良いのだけど声はあげておく。
「別に何でもない。ポーション飲んだら寝てろ。俺はちょっと外の空気が吸いたい」
「僕も少し他の馬車の様子を見てきましょう。そろそろ休憩ですしね。イレブン君も疲れているなら寝なさい」
「2人共が言うなら、そうさせてもらいます」
デテゴが外を見るとちょうど昼頃でちょうど休みを取っても良いような時間だった。小休止を取るために2人は一度降りていった。
「俺は、寝るかぁ」
誰もいなくなった馬車の座席に自分の体を投げ出した。帰って待っているのが寝坊が原因の説教ということも忘れて。
お読みいただきありがとうございました。