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『結界魔法』が便利

お楽しみ頂けると幸いです。

【少し前までナンバー2と呼ばれた斥候視点】


「かつての同僚と顔を会わせることになるなんて驚いたでしょう」

「全くです。御者のふりをしていて助かりました」


忘れもしない。少し獣人のガキに痛い目を見させようとしただけなのに、腕を吹き飛ばされてしまった。何とか仲間の助けで逃げ出すことは出来たが、失った腕は戻らない。義手生活になってしまった。

もう戦闘は出来ない。代わりに斥候で培った周囲を探る能力に集中することで移動中の安全をより確保する役割につくことになった。

腕が無くなるなんて死んでしまおうかと考えたが、まだ役に立てるならもう少しがんばってみても良いかもしれない。


そう考えている間に本当の俺のボスがいつまにか変装を解いていた。本来の姿はどう見ても30歳前後にしか見えないくらいだ。しかし、見かけと本当に年齢が一致しているかは不明だ。

さっき見せた魔物の召喚を素質のある者に教えていたりはするが、どう見たって年上の弟子が多くいる。あいつらよりも年齢が上なのだとしたら相当な年寄りのはずだ。

しかし、そんな人でも身内にはある程度温情をかけてくれる。


「しかし、腕を無くしたと聞いた時にはどうなるかと思いましたね」

「この義手の恩は改めて返させてもらいます」

「気にしなくて良いんですよ。今回の仕事で獣人の棲み処が分かったんですから。少し偵察をさせていますから戻ればその話を少し聞くとしましょう」


割と今は機嫌が良いようだ。それもそうか。積み荷は結構な額で捌くことが出来る危険度の高い薬だ。薬というよりも毒と言った方が良いだろうな。

あの町の経済をこれで少しでも崩すことが出来れば仕事がしやすくなる。しかも締め付けるはずの領主の子どもがもちこむのだからいくらでも捌けるはずだったが、仕方ない。

改めて違う場所で商売をするしかないだろう。


「甚振るのも良し、奴隷にしても良し。肉体の素質が良いというのは羨ましいものだ。そうだ!薬の効果を確かめるために子どもに飲ませて、親にそのレポートを書かせるなんてのも良いかもしれないね!」

「そうですね!」


言っていることはヤバいことだが、たかが獣風情だ。どんな目にあおうが俺の知ったことではない。


「では、僕は次の作業に入りますかね」


少し進んだところで罠を仕掛けることになっている。いくらボスがあり得ないほど魔物を召喚できるといってもさっきの魔物だけで足止めは出来ないだろう。

進んだところで発動する魔法を仕掛ける。ボスが自ら行うということはついでに大型の魔物も出現させるのだろう。


「そこまで必要ありますか?」

「一番最初に話していたのは、銀級最強と呼ばれたデテゴです。さっきの魔物だけならやつ一人でも全て処理できるでしょう」

「そんなやつが…」

「有名人の顔くらいは覚えておきなさい」

「すいません」


そうか。これから御者の仕事をするなら覚えておいた方が良さそうだな。


「他のやつらもそこまで腕は悪くなさそうでした。念には念を入れておきます。この先の分かれ道で一旦仕掛けておきますよ」

「分かり――――!?」


しかし、そこで何かが落ちてくる音がしたかと思うと先を進んでいた馬車が急停止した。


「何事です!」

「ボス!上から丸太が!」

「上!?上には何もないでしょうが!」


馬車を少し横にずらして見てみると確かに丸太が一本突き刺さっていた。丸太には何かが縛り付けられていて、その上には良い笑顔で笑う少年が座っていた。

顔を見た記憶は無い。無いが話は聞いた。あいつは俺の腕を氷の魔法で吹き飛ばしたガキだ。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


【イレブン視点】


『結界魔法』がすごい便利なんですけど~!


ゲームの時は防御のための魔法だった。戦闘中にだけ使えるってのはもちろんだったけど、壁を作ったり、キャラの周囲を立方体で囲んで防御を上げてますって感じで表現されていた。

この世界ではどうなのかなと思って試してみたら、意外と汎用性が高い!本質はどうやら立方体を発生させることが出来るようだ。基本的には攻撃性のあるものを防ぐようだ。薄くして壁にすることも出来るし、大きく発生させて中と外を隔てるように使うことも出来る。俺の中の結界のイメージが反映されていると言える。

もちろんスキルレベルを最大にまで上げないと自在に使えないけど、その辺りに抜かりはない。あとは自分で使えるように練習あるのみ!


複数を出現させることまでは出来るけど、高速で操るってのはまだ慣れないな。練習次第でいくらでも使い道がありそうだ。本命の魔法に辿り着く前に思わぬ収穫を得た。バフは装備品で補っていたし、設定上攻撃と回復に寄せていたから補助系は見過ごしていた。

ちょっと今までに取得した魔法も攻撃だけでなくて色々と使えないか試してみたいし、誰かに教えてもらうのも良いかもしれない。


そんな便利な結界だが移動にも使える。結界を床に前面には『風壁』で防御しながら移動している。完全に防ぐと移動している感じがあまりしなくて味気ないのだ。それでも上空は少し寒い気がするのでここも何か考えどころだ。

空中移動は丸太のいかだを浮かせた経験が役に立っている。あの時は常に浮かせるように意識していないといけなかったが、結界は楽な方に違っている。

一度出現させてしまえば維持には意識は割かなくて良い。あとは移動のコツさえつかんでしまえば物を乗せても落ちないし空飛ぶ床だ。下見ると怖いから迂闊に足元は見れないけれど。


ユーフラシアを出発して最初は試行錯誤をしていたが、一度設定してしまえばすることは無い。暇になったまま色々と考えていたところで動きがあった。


上空からなので会話は聞こえない。だが、三男たちはのこのこと馬車から降りてきたみたいだな。なんで簡単に降りて来るかな。バカじゃないだろうか。


ん?あの御者強くないか?他のやつらもそこそこやるくらいは強いような…。

あの動きは!こいつと同じように魔物を召喚しやがった!しかも数も多いぞ?元を押さえる方が良さそうだな。


あ、先回りする前に三男たちの周りに結界張っておこう。怪我されても困るからね。簡単に死なせないよ~。

邪人系の魔物もあのくらいの数だったらデテゴ達も余裕でしょ。今度こそ先回りしよう。しかしどうやって行先をごまかす気なんだろうか。空から見てるとは思わないから何か手段があるんだろうな。


でもあんまり遠くまで行かれるのも面倒か。どうせこのジジイも関係者なんだろうし、これが目の前にあったら止まるかな。じゃあ起こすか。


「お~い、起きろ」


開いた状態で固定されていた口に残っていたポーションを流し込む。顔から出た液体で顔中バリバリなんだもの。触りたくもない。

リセル特製の苦さを強調した微弱回復ポーションだ。これでダメなら激辛微弱回復ポーションと超酸っぱい微弱回復ポーションを流し込むつもりだったが、起きてしまった。


「もう…tskt」

「聞こえませ~ん。今結構な上空なんだ。下に落とすから下の馬車を止められるように、『いいこえ』出してね」


返事を聞く前に下を見せて状況を把握させる。


「いいね。じゃあいく~、よっと」


表情が変化したことだけを確認して、投げるために担ぎ上げる。表情の変化が何を示しているかなんてことは気にしない。

助けてなんて言われて助けるのは善人だけだ。フレンドビーたちの何気ない暮らしを壊しておいて、自分が追い詰められたら助けてということが出せる時点で腹が立って仕方ない。

もう一度馬車の進行方向を確認して、手前に突き刺さるように角度を見定めて掛け声に合わせて投げ落とす。投げてから気が付く。


「投擲スキルでも取っておいた方が良かったかな。あ、成功した。馬車も止まった。じゃあ俺も降りよう」


そういう経緯で丸太の上に降りた。


ここから話が最前線へと追いつくことになる。


「やあ。この馬車には何かいけないものを積んでるんでしょ?それって犯罪の証拠だから持って逃げられると困るんだ」


言葉が終わるころには合図も無く攻撃を加えるべく、無言で襲い掛かって来られた。。


犯罪者と分かっている相手に対して可能な限り丁寧に対応したつもりだったけど。でもこれからの俺には生半可な攻撃は無駄なんだけどな。

一枚板で攻撃を防ぐ結界の使い方をしても良いけど、少し違う防御をしてみよう。


まず1つ、相手が進んでくる顔の位置に出現させた。戦闘は自分から当たりに来てくれる。ガン!と良い音をしてのけぞる。結構な衝撃だったみたいで鼻血を噴いた。痛そう。

次に進んできていた男の前に邪魔になるように結界でグイっと押してやると、後続を巻き込んでこけた。

何が起こったか理解できず、足を止めてくれたので、もう一度声をかける。


「やめておきなよ。もう逃げられないからさ。こんなところで無駄に怪我したくないだろ?」


言ってから気が付いたが、シンプルに煽っているようにしか聞こえない言葉だった。全容が掴めなかったからかまだ攻撃の意思は残っている。

しかも何も動くことなく一連の動きが起きたため、俺が魔法を使っているということを見破った。


「切り替えろ!」


さっき召喚魔法を使っていた男の声に反応して、弓や魔法に言ってしまえば遠距離からの攻撃に切り替えた。投擲用だろうナイフに持ち替えたやつもいる。


「撃て!」


だからって相手にも聞こえるタイミングで声に出したらダメでしょ。


まず炎の魔法が飛んで来た。防ぐ。

次に矢、タイミングを少しずらしてナイフ。防ぐ。

今度は角度を変えて矢と氷の魔法と見えにくい風の魔法。大丈夫ですよ。防ぐ。


何度か繰り返してされたが、全部防いだ。視界の中に納まってもらえるような道の狭い場所にしたし漏れはないね。時々『索敵』もしている。

この間の体勢は、地面に直角に刺さった丸太の上に座っている。手は丸太に添えているから、奴らからはどう見えているかな?


「手も使わずに防いだ?」

「化け物か?」


そう見えるんだね。ざわざわとしだした。かと言って手を止めるのかな?

魔物も召喚しないみたいだ。でもずっと放っておいたら後続が来てしまう可能性もあるぞ。


「くそっ!」

「こうなったら俺が!」

「そうだ!遠近構わず仕掛けろ!」


遠距離攻撃に切り替わってから何もしていなかった男3人が前に出てくる。近距離専門なのだろう。槍に斧に剣と割とよく使うものが多い武器を手に近寄ってくる。


「誰か1人でも近づければ良い!」

「そうだ!」

「かく『ゴっ』」


2歩目の時点で3人ともが壁にぶつかって止まる。


「面倒だから大きいのを一枚張ってあるんだ。もう抵抗やめなって」


これで終わるなら良いんだけどな。そうはならなさそうだ。

お読みいただきありがとうございました。

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他にも書いた小説です。短編だけでも時間潰しに良ければどうぞ。
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婚約破棄は構いませんが…、本当に私がそんなことをしたとお思いですか?私の本気は少々刺激が強いかと思いますけれど
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