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同情できない話

お楽しみ頂けると幸いです。

ザールさんの裏のお付きの人たちの協力を得て荷物を回収した俺は急いでデテゴ達を追いかけている。万が一の戦力としての余力も残しつつ全力を出している。

移動速度は根本的に違うのだよ!ふはは!


くだらないボケをかましながら進んでいると前の方に一団が見えた。良かった。追いついたみたいだ。安心したら朝ごはんを食べていなかったことに気が付いたので膨れない程度に食べておく。アイテムボックスさいこー。


デテゴ達を観察するが、俺は隠れてついて行くことになっているので寝坊で遅刻したことはバレていないようだ。良かった。安心した。じゃあ後はついて行くだけだ。


さっきまでの猛スピードに比べると馬の歩くスピードはすごくゆっくりだ。本来はこれくらいが移動の速度になるのだ。俺の移動速度がおかしいだけかと思い直す。


そのまま1時間が経過した。


「ダメだ。暇…」


悲しい現代に生きる人間の性が出てきた。暇さえあればスマホを触って情報収集したりまとめたり、常に何かをしているような感じだった。暇なところに何か無理矢理やることをねじ込んでいたのだ。

いきなりゆっくりついて行くだけと言われても暇にしかならない。昨晩あまり練習していなかった魔法の練習をしながらSPゼリーも摘まんでいるが、食べて味のレポートを書くのも限界がくる。あ、でもこれはおいしいな。


一番おいしかったのはレモンです。ハチミツとの相性が最高でした。少しショウガが効いていたのも素晴らしかったです。俺は大量に食べるのでエグ味が出ない程度に甘くない方が助かります。


この前、そう書いたおかげでしばらくその味しか渡してもらえなくなった。もう少しバリエーションが欲しいって言ったら他のものも入れてもらえるようになった。

どうやらこのレモン味はリセルの案だったようでセンスの良さを感じると直接褒めたら、喜んで作り過ぎたようだった。


リセル一人でこんなに作れるようになったのだなと成長を噛みしめるがさすがに1つの味を延々と食べるのは感動が薄れていく。最近は酸っぱいものを延長して他に無いかと追求が始まっている。楽しんでいるなら構わないんだけどね。

場所を借りたり、指導してもらう分のお金はまとめて払っているし食材の持ち込みもしているので大目に見てもらえている。親しき中にも礼儀ありだ。結構珍しいレシピを教えたしそれもあるかな。


メディさんとサティさんもそろそろザールさんの道具屋が開店するのでオープン直後のために多めに生産したり材料を調達したりと大忙しだ。いつ開店だっけ。もうすぐだったような気がするな。

あれ?もしかして開店祝いの準備しないといけないのでは?何も用意してなかったな。今作ってしまうか?あと、どれくらいで三男を捕捉することになるんだろうか。遠くの方を見ると発見したので今からでは時間はなさそうだ。

仕方ないな。最後に持って来た荷物の状態確認だけしておこう。必要ないなら構わないけれど、必要となったらそれはそれでかわいそうだよな。俺は絶対にしないと前世で心に誓ったもの。


パラシュート無しのスカイダイビングはしないって。ん?ノーロープバンジーの間違いかな?


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


【デテゴ視点】


久しぶりに大事件に関わっちまった。しかも相手は魔物ではなくて人間、しかも胸糞悪い貴族くずれ相手だ。一番面倒なパターンだだよ。本当に勘弁してほしい。

しかし、イレブンが疑われちまったし世話になってる冒険者組合に泥も塗られちまった。しかしザールの後押しもある。面倒だちは言うが今回ばかりは断るつもりもない。久々に皇子モードに戻るかしないかな。あれ肩凝るんだよな。


「準備出来ましたよ。デテゴ、行きましょうか」

「ん?ああ」

「また肩凝るとか考えてたんでしょう」


なんで俺が考えてた最後の方を当てて来るんだよ。こいつとの付き合いは十数年になるが、心を読んでるかのような洞察力にはいまだに慣れない。


「必要なら構わないさ。さあ行こうぜ」


俺とザールは2人で他とは違う少し豪華な馬車に乗る。他のメンバーは6台の馬車に乗っている。よくある乗り合い馬車だ。7台が揃っているとどこかへ行く貴族に見えるだろう。

まあこの馬車も元々は貴族の持っていた物ではあるが。他にすることも無いので、外の流れる景色を眺める。


そして、ザールが持って来て読まされた書類を思い出す。


馬車の元の持ち主は謝罪金として個人財産を全てを被害者に充ててほしい、残るようなら国に返上してくれて構わないと言った。本人は別の家に婿入りした次男を頼って王都へと行ってしまった。

そこで読み書きを教える仕事を始めるそうだ。そんな彼に罪があるとしたら三男の教育を間違えてしまったことだろう。三男が生まれるのと引き換えに妻が亡くなった。


母から愛情をもらえなかった三男に父も兄たちも惜しまずに愛情は注いだが、逆に注ぎ過ぎちまった。

隠すのがうまかった三男は、まず自分の罪を他になすりつけることを覚えた。まず使用人、爵位が下の子ども、立場の弱い女性。

同時に暴力を覚えた。バレないように隠れて振るうのは当たり前、貴族学校に通う頃には自分では手を汚さずに取り巻きを使うことを覚えた。


単なる暴力から金を稼ぐ道へと興味が移るのは自然の成り行きだったろうか。殺人以外のおよそ考えられる罪は大体犯していた。

真実に辿り着いた父は立場も忘れて自ら頭を下げて回った。できる限りの金で気持ちも現した。だから今回の話もそうなるかと思っていたが。


もう限界だったらしい。まだ40代のはずだが俺の祖父よりも老けて見てた。


気の毒なのは長男だ。もうすぐ代替わりだったというのに、自分勝手に振舞う三男のせいで領主の話が全て流れた。爵位も返上だ。一平民として生きることになった。

特に罪も無い男だったから、ザールが仕事になりそうなところを紹介してやっている。そのあたりは抜かりの無い男だ。1か月後にはどこかの町の代官補佐だ。父親の手伝いをしていた経験が活かせることだろう。

しがらみが無くなったことで、少しはうまくいきやすくなることを願う。


はぁ。頭が痛い。喉が渇いたので持っていた水筒で喉を潤す。


今日の仕事はそのきっかけになったバカの後始末だ。


自分が何でも欲しがったおかげで、周囲はほとんどを無くしてしまった。冒険者やってると命があるだけでもうけものだと考える。なんにでも感謝して生きるようになった。

だが、過去の経験から考えると1つでも失うことを恐れるやつはいくらでもいることは知っている。1つでも多く欲しがるくせに失うことは頑として認めない。そんな考えに染まらない者もいるが、今回はダメだったやつだ。

真っ黒に染まっている。母親がいなかったからだけでは理由にならない。それでも真っ当に生きている子どもはいくらでもいる。ここまでのことを仕出かす奴は、例え母親が生きていてもそこまで堕ちただろう。


思い出したくは無かったが、俺も三男だ。もしかしたら自分がこうなっていたかもしれないな。


「まあ君はそうなってはいなかったと思いますよ」


こんな親友が出来たことが俺にとって最大の幸運だったかもしれない。

最近できた友人も変な奴だし、もしかしたら俺は友人運は奇妙なことになっているのかもしれない。

あいつも方法は知らないが、ちゃんとついて来ているんだろうか。寝坊とかしてるんじゃないだろうな。


「正面に見えました」


御者席からその声を受けて外に出る準備をする。最初はあくまで穏便に捕獲する姿勢を見せる。その上で確保する。相手は既にただの平民だから遠慮をする必要は無いのだが、まあこちらのメンツを潰してくれたのだから意趣返しだそうだ。


「それに、そんなやり方ではイレブン君が納得しませんよ」

「お前本当は考え方が分かるスキルか何か持ってないか!?」

「いえ、僕のは洞察力って言ってください」

「溜息しか出ねぇよ」


そんなことを言って馬車から降りた。


「誰だ!?貴様!なぜ我が家の馬車から降りてくるのだ!!」


ここからがスタートだ。

お読みいただきありがとうございました。

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他にも書いた小説です。短編だけでも時間潰しに良ければどうぞ。
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婚約破棄は構いませんが…、本当に私がそんなことをしたとお思いですか?私の本気は少々刺激が強いかと思いますけれど
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