深夜にチェックを始めると翌朝に起こること
お楽しみ頂けると幸いです。
いよいよ明日です。出発前夜です。準備はそこそこに完了した。明日は起きたら近くまで来ているだろう領主三男の一行のところにこちらから迎えに行く。この1週間に起きたことを知ったら驚くだろうなぁ。
行くのは冒険者組合を代表してデテゴ、護衛依頼を受けてくれた冒険者たち、商人組合を代表してザールさん、あとは坊主に丸めた一行もついて来る。
明日はよほど変に抵抗をされない限りは平和に捉えるだけで済むだろう。
まずなんで元あっち側の坊主たちを連れて行くか疑問かもしれないが。やつら、いやこの人たちは実力を示した。
たった数日ではあるが、街中の清掃からお困りのおばあさんを助けるなど、善行を積んだ。罪状が消えたからといってそれではいけないと自主的にやったのだ。
自分たちの生活に必要な稼ぎも冒険者をやってきちんと稼いでいる。稼ぎ組と善行組はローテーションを組んでいるが、その人員の管理はザールさんが関係しているらしい。
表立って使える武装部隊を1つ手に入れたかのようだ。冒険者を抱えることでそちらにも役立つ道具に敏感になるからWIN‐WINなんだってさ。
あ~怖い。
あの人たちの元ナンバー2は逃げているが、ボスはこっちにいる。一応ボスだったので獣人たちを引き渡すはずだった黒幕と面識があるそうだ。風貌からいって獣人村襲撃を指示したのは三男の傘に隠れた腰巾着らしい。
今回も同行しているので顔見知りを主張する。デテゴとザールさんがいれば動揺を見せた時点で確保する理由になるからザールさんの護衛兼動揺を誘う係だ。残りの20名くらいも何かあったときに戦力にはなるので一応連れて行く。
その次にザールさんが一緒に行くのは、荷を改めるために行く。荷馬車の中に禁止されているものが積まれているらしい。どれだけ余計なことをしてくれるのか。俺は怒るからと教えてもらえなかった。
いくら領主の子どもとはいえ、街の商人組合を通さずにそんなものを持ち込まれるのは困る。まあ要するに現行犯で取り押さえるということだ。
冒険者組は主にその回収と警護で行く。今回の人たちは割と正義感で動く人たちっぽくて内容を聞いてやる気満々です。
俺?俺は一番最後の手段ではあるけど正規について行くメンバーじゃない。こっそりと隠れてついて行く。作戦なのでデテゴとザールさんは知っている。
他の人たちは知らない。何せまだ登録して数日で鋼級に昇格した将来有望な若手ではあるが、こんな大事件に積極的に関わらせるのは外聞が良くないとなった。
というよりも注目を集めすぎるので、隠れての参加になった。その方が確かに良いでしょうとのザールさんの言だ。
「あまり目立つと貴族が寄ってきます。権力者でも関係なく反撃するでしょうが、もう少し有名になってからにしなさい」
今回はザールさんが表に立ってくれているので誰も文句は言わないが、個人で目立ち過ぎるとザールさんのての届かない時と場所で手出しする奴がいるかもしれないとのことだ。
貴族は面倒そうだし、とそれには同意した。明日俺は街門から出ずにメディさんの家にこもることになっている。今までもそんなことあったしな。
それでも抵抗された場合の最後の止めの証拠運びと問答無用で取り押さえる係をすることになっている。俺だけ役割多くないかな。別にいいけどさ。
何を連れて行くかってのは秘密。ヒントは向こうが抵抗する気を無くしそうな人かな。
「イレブン、無茶したらダメだよ?」
「大丈夫だよ。手加減くらいするって」
寝る前なので宿の部屋で装備の点検をしている。持って行く荷物の忘れ物がないかの確認は俺には必要ない。アイテムボックスに全て突っ込んでいるからね。
でも、装備品に壊れているところが無いかとか、実際に必要なものが買い足してあるかの確認は必要なのでチェックしている。その横で忠告をしてくれているのはリセルだ。
「分かるけどさ。イレブンが戦ってるところとかあまり見たこと無いから良く分からないんだよね」
「ほほぅ。最初の時くらいか。あれって全然本気出してないんだけどな」
確かにリセルはステータスはかなり上昇したが、逆に上がり過ぎたことで戦闘状態に入ろうとしたときに力の加減が難しくなっていることが分かった。
普段の生活の時はそこまで問題は無いが、いざとなると力が出過ぎるので大変だった。明日はともかく、しばらくは俺と一緒に朝の走り込みから取り組むことになった。
リセルは野宿も出来る子だから、今の意見も踏まえてしばらくは街にこもらずにその辺りでスパルタに過ごしても良いかもしれない。
「その発言は厳しく訓練させて良いということだと解釈するがいいか?」
「ちがうって!」
なんていうかな~としばらく悩んだ後に、言いにくそうに伝える。
「ついてきたけど邪魔になってないかなぁと思ってさ」
「なんだ。そんなことか。条件は分からないけどステータスの共有が出来るからには同じパーティにいた方が良いだろう。俺は周囲に偽善に思われたとしても、自分が何者か分からなくて困っているリセルをここで放り出すことはしないぞ
言葉に一瞬詰まったような反応を見せ、しばらく顔をじっと見てきた後に、はあっと溜息をつく。
「ありがとうね」
「全然感謝を伝えるときの顔じゃないぞ」
いやいや言っているのが分かる顔になっている。
「うるさいやい。バカイレブン!早く寝ろ!お休み!」
そう言うとリセルは布団を頭からかぶってしまった。仕方ないなと思い、アイテムのチェックが終わったのでステータスを確認する。あの蜂娘たちも気になるからね。
リセルは目の前にいるが、特に問題無いな。身を守る手段だからと最低限少しステータス関係のスキルを上げておいた、固有スキルの『反射』がエグイ。全ステータスを上昇させるチート神スキルだった。
少しずつ慣れていくためと身を守るためということで少し上げたら信じがたい事実が分かったのでスキルレベルを1上げただけでやめた。まあ希望のスキルを上げたので本人としては満足のようだ。
しばらくは慣れるまでスキルは基礎を中心に上げることにしようかな。
蜂娘たちは種族が分かった。万花は姫蜂、毎果は働蜂、薙刀は戦蜂、となっていた。直接聞かないと分からないが、何かあったのだと思われる。ステータス確認のために真実の瞳でも使ったかな?
ステータスに数字が表示されないところから万花と毎果は戦闘は出来なさそうだな。サポートに徹してもらう方が良いかも。毎果は薙刀
そうなると拠点か。ユーフラシアでも良いけど、せっかくならもう少し広い視点で考えても良いよな。一旦後回しで。
最後に俺だ。
レベルで特技を覚えないことは早い段階で分かっていたから当分先で良いかと思っていた。獣系の魔物を倒すのに飽きたことと万花たち蜂娘たちに不自由させないようにするためにある魔法の習得を決意した。
一緒に旅する最低条件は整ったが、便利な状態かと言われるとあともう少しスキルの準備が必要だ。問題無ければあと3日くらいかな。スキルポイントがすごくかかる。
材料の関係で1回は獣人の村に行く必要があるから、すぐについてくるのかそのときに聞いてみよう。獣人の村で生活が安定するならそれで構わないというのもあるからな。
さて、これでスキルポイントは使い切った。一気に6種類の魔法を覚えたので練習が大変だ。最後に覚えたのだけ練習すれば今は良いので、しばらく寝ずに集中していたら使い物になるくらいにはなった。
思っていた以上に便利だった。制約はあるけれどこれだけで身体を鍛える必要がなくなるのではないか。MP回復の手段を整えようかな。『細工』で作れるけど材料がなぁ。
いや、しかし。ほんとに何これ、すっごい便利なんですけどぉ~!?
と、キャラが変わるくらいには便利だ。ゲームの時と違い過ぎだ。デテゴとサティさんが同時に襲い掛かってきても秒で無傷の完封勝ちが出来る。あまり使い過ぎると何も楽しくなくなるので使いどころは見極める必要がある。
ついでに嬉しいニュースとしてはMPと魔力がものすごく上がったので、調合の際に必要な中魔石の量が減った。水を生み出す時に少し強めにMPを込めると含有魔力が多く含まれるみたいだ。
魔力が多いからといってSPポーションは効果が高まるわけでは無かったが、中魔石の消費量が減ることは喜ばしい。2割減というところだろうか。他のことに使えるようになった。
さて、寝るか。あ、寝ながらでも使えるかどうか試しておこう。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「おい!イレブン!いい加減に起きろ!!」
「わあっ!」
「寝坊だぞ!!」
「マジか!」
集合時間までどれくらい残ってる?あぁ、寝てても残ってたか。解除しておこう。MPはどんなもんだ?少し回復が必要なくらいか。やっぱり回復手段をもう少し整えるか、MPの総量を増やした方が良いな。
「考え事してる場合か!もう!遅くまで起きてたんだろう!全然起きなかったぞ!」
「ごめんって。リセル。着替えたらすぐ出るからさ。朝ごはんを食べる時間はなさそうだから女将さんには謝っておいて」
「言っておくよ。デテゴさんやザールさんはもう出発してる時間だと思うよ。さっき窓の外見てたら通って行ったから」
「それはまずい!すぐに出る!」
戦闘用装備を装着すると窓から飛び出して一先ず荷物の回収に向かう。
「こらーーーー!」
リセルの遠ざかっていく声を聴いて少し笑ってしまった。
このときの俺は気が付いていなかった。リセルを一人で行動させたことによって、寝坊のことはあっさりとバレ、怒った女性2人にこってり絞られることに。
お読みいただきありがとうございました。




