冒険者組合に登録しました
本日3話目です。あともう一話いけるかな。
冒険者組合の建物に入るとまず正面に受付があった。
「身分証発行が優先だからまずはそこに行くぞ」
とデテゴに連行された。半ば誘拐のように連れて行かれて受付へと向かう。
「こんにちは、デテゴさん。お久しぶりですね」
「おぅ、リネッタ。しばらくユーフラシアに滞在するから世話になるよ。まずはこいつの冒険者登録を頼みたいんだが」
「……お子さんでは無いですよね」
若干引くくらい、思い切り怪しまれている。すごい怪訝な視線を受付の女性はデテゴに向けている。さすがに似てないでしょうと心の中で返事を返す。
そんな疑いを持たれるほどにこの人だらしないのか、とイレブンも思わずデテゴを見てしまう。でも、本人も不服だったようだ。
「ちょっ!こんなデカい子どもいねぇよ!」
「…まあ、そうですよね。失礼しました。では、お名前をお伺い出来ますか?」
「イレブンです」
「イレブンさんですね。私は冒険者組合で主に受付業務を担当しているリネッタと言います。よろしくお願いしますね。まずはこちらに記入をお願いしたいんですが、字は書けますか?」
「えっと、たぶん…」
「なんでイレブンには丁寧なんだよ、全く…」
デテゴの言葉を軽く流すと、イレブンと軽く自己紹介して用紙を渡してきた。
イレブンへの対応は丁寧であることに、デテゴもブツブツと言っている。リネッタやデテゴに気づいた周囲の冒険者が身から出た錆だと言われている。一体この男は何をやったんだろうか。
受け取った用紙を見ると何を書くか指示しているのが元から使っていた日本語だった。歩く最中に見えた看板も漢字、ひらがな、カタカナだった。なんとご都合的か、助かるけれど。と心の中で何かに感謝しながら記入した。
と言っても、書いたのは名前と年齢、得意なことには戦闘、討伐としておいた。他には採取、運搬、護衛、探索、街中と色々種類が挙げられていた。
「推薦者はデテゴさんでよろしいですか?」
「あぁ」
「推薦者って?」
「戦闘を行うからには全くのド素人がなっても困るわけよ。実力があるかを実際に見せるか、保証者が必要なんだよ」
「デテゴさんにそこまでしてもらうのは悪いですよ?」
名を借りるなんてこれ以上迷惑をかけるのも悪いと思っていたが。
「有望な奴を連れてきたってことで俺にも少し優遇があるから気にするなよ。イレブンが強いのは本当だしな」
「それならまあ良いですけど…」
「もう少し強くなったら稽古つけてやるよ」
「それはまたそのときということで…」
対人戦闘での稽古では経験値は入らないから優先ではないし、今はあまり目立ちたくない。現在の実力は自分でも納得いっていない。せめてスキルポーションが手に入るようになってからだと考えている。
イレブンが将来的に手合わせをしても良いと返事したことで何かを考えているようなデテゴがいるが、思考中に邪魔するのも悪いかと記入内容の確認をした。
問題無いだろうと用紙を返却すると、今度は何かの紋様が入った鉄板を出される。
「では、この板のこの円内に血を一滴付けてください。針が必要でしたらこちらをどうぞ」
そう言われて差し出されたが、針は遠慮した。こんなところで感染症の危険など冒したくはない。
自分で親指の腹を噛んで血をにじませて、指定個所に血を付ける。両方とも受付嬢さんに渡すと、お待ちくださいねと下がっていった。
今度から『清潔』やらレベル7の微弱回復の『手当』を光を出さずに発動できるように練習しようとだけ考えていた。
「よし、冒険者証の発行待ち時間は暇だからな。組合の中の説明をしてやるよ」
デテゴがそう言ってくれたので、建物内部を指し示す先を一緒に見た。依頼を貼り出してあるボード、納品する窓口、大量に素材を卸したり、長期保存のための保存室、講習を受けるための道場、歓談の場として酒場。
別に会議を行うための会議室や貴族用に応接室もあるらしい。ランクが上がらないとお世話になることはないそうだが。最初は受付とボードと窓口で顔見知りを増やしていくように言われた。使ううちに慣れていくものなのだろう。
「金がないなら何か換金する物があれば、会員証が出来てから引き取ってもらえよ。良い物なら昇格のための貢献値も付けてもらえるかもしれないぜ」
「引き取ってもらいたいものはありますけど、貢献値って何ですか?」
ゲームでの冒険者組合にはそんなものはなかった。ある程度のレベルと特殊イベントをこなせばランクは上がっていった。ランクが上がらないと特殊イベントが起こらなかったが、ランクが下のイベントは簡単すぎてあまりヤル気にはならなかった。
ランクを上げるイベントさえクリアしておけば、難度が高めの依頼が舞い込んできたし、受けたいものがなければ建物に出入りし直せば依頼は一新された。現実になるとかなり違っているようだ。
「あ~、それはな…」
「力量不足の方に討伐を頼んで再起不能になられても困るので、過去のデータから依頼にランク付けをするんです。見合った力量の方に依頼をお願いするというシステムですね。そこで組合が一定認めると難度の高い依頼が受けられるようになります。貢献値の存在は公開していますが、具体的な数値は非公開です」
「お、会員証ができたか。説明も粗方終わったし、納品に行ってみるか」
「説明も私の仕事なんですけどね!」
「ま、そう言うなよ~」
「とりあえずこれが鉄級の会員証です。身分証明にも使えるので、肌身離さず持つようにしてください!で、あと説明してないことは!?」
デテゴは隣の窓口にいた男性に、俺がちゃんと説明してただろ?と確認を取る。板挟みになった男性が可愛そうだったが、説明はなされていたことは証言された。受付嬢のリネッタさんはもう!と怒ってはいたが、それでも許されるのがデテゴという男なのだろう。
受付嬢さんから逃げるようにして窓口に行き、納品をお願いした。納品には一番価値のありそうなサイウサギの角を二本と魔石も納品した。数が少なかったのですぐに査定結果はすぐに出てきた。結果はそこそこの金額だ。
査定結果
大きい角…320ガル
小さい角…180ガル
小魔石…200ガル
微魔石…2つで100ガル
合計額…800ガル
この世界の通貨はガルだ。大体1ガルで100円くらいの価値があると見て良い。価値が低いものは1ガルに見合うように量を調整される。魔物の素材となれば危険が伴うため高くなるだろうとは考えていた。
それでもイレブンが思っていたよりも引き取り金額は高かった。現実の世界となると、ゲームよりも少し高めの設定になっている。無一文には嬉しい話だ。
物の値段が変わっていなければ、10日分くらいの宿代になるはずだ。現実だと食事代もかかるから7日分くらいだろうか。ならばその間に稼げば良い。ゲームと違って魔物がお金を落とさないのでドロップアイテムの価値は高いのは助かる話である。がんばって貯めようとだけ心に誓う。その前に借りたものを返さなければいけない。
「デテゴさん、とりあえずお世話になったお金を返したいんだけど」
「馬鹿野郎。子ども一人を一日同行させたくらいで俺らが金なんか取るかよ。道中にお前が倒した魔物の素材も俺らに権利渡したんだしチャラだ」
「え?でも俺は本当に助かったんだ。だから…」
「だったら私が店を構えたときに宣伝でもしてもらいましょうかね」
「「ザール」さん」
門のところでいなくなっていたザールが傍まで来ていた。イレブンも近づいているのは気づいていたが、こういった反応をするのはお約束だろう。
「イレブン君は結構強いのでしょう?デテゴの見立てを信じて将来有望な方だと見込みました。私のお得意さんであると言ってくれたら、私も助かります。キミを助けたことの貸し借りは私もなかったことにするつもりです、引け目を感じるなら格安で仕事を頼むのでそれで手を打ちませんか?」
「お、じゃあ店の場所が決まったのか?」
「ええ。先程顔を出して来たら良いところが空いていたので即決で押さえました。まだ旅が出来るだけの体力はあるつもりですが、せっかく店を持てるので腰を落ち着かせましょうかね。私は明日から開店の準備で忙しくなりそうです。今日くらいは記念といきましょう」
「よし!じゃあイレブン、お前も付き合えよ!」
「他にも友人を呼びますから、君も大人しく奢られなさいね」
「え、ええぇぇ?」
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