気を抜くといつも晩ご飯食べてる気がする
今日もたくさんの方に読んでいただき感謝しております。お楽しみ頂けると幸いです。
「…ってわけさ」
「トラブルの中を見たらお前がいそうだな」
「違うと言いたいけど、否定できない…」
ギルドからの帰り道にデテゴと話している。時間はすっかり夕方だ。あと昨日戻らなかったことを説明していないのはザールさんだけだが、おそらく既に把握しているだろう。
形式として聞いてくるくらいはするだろうけど、既に知っているのではないかと逆に聞いたらとぼけながら肯定するだろうな。時々道具屋じゃなくて情報屋の方が合っているのではないかと思う。
「今日の『食材の宝庫』は順調に狩れたのか?」
「問題無いよ。前ほどゆっくりしなかったし、目的もあるから専念してやったし。ねえ。魔石がもっと必要になったんだけど、魔石がもっと手に入るようなダンジョンは無い?」
「あるけど遠いぞ?」
「構わないよ」
正直、獣系は飽きた。しばらくは別のものがいいくらいだ。このあたりはゲームの時は必要に応じて一日で色んなダンジョンに行けた感覚が抜けない。
「お前だけが責任を感じることではないと思うがな」
「ん?ちがうよ。たまには違うのを相手にしたいだけだって」
そこまで良い人ぶるつもりも無い。デテゴも勘違いしていたことに気づいてくれたみたいだ。
「まあ行くだけで普通なら数日必要だが、お前ならもっと早く着くだろうな」
「一旦地図だけでも良いから欲しいかな。何か所か教えてくれた中から選ばせてくれると更に嬉しい」
「構わないけどよ。せめて銅級に上がってからだろうな。他のところでは組合の有望株ってだけでは許可が下りないだろうからな」
「あとどのくらいで上がりそう?」
デテゴもう~んと悩んでくれたが、また今度調べておくよと言われてしまった。アイテムボックスの中には既に十分肉はあるし、これを納品するだけで十分だと思う。
実績を積むだけじゃなくて時間がかかるのは面倒だ。現実となると仕方ないんだろうな。こっそり入ってやろうか。
「こっそり入ってバレたらヤバいからやめとけよ」
くそぅ。
「で?もう許してもらえてるのか?」
「理由が理由だからね。最初はすごい怒られたよ」
ユーフラシアに帰ってきたらまずジジイを兵士に突き出した。形としては懸賞金付きの首を生かしたまま連れてきたことになる。ジジイ、結構極悪人だった。
鋼級の俺が本当に一人でやったのかと言われた。経緯の説明中に色々あったけれど、たぶん疑ったことを後悔していると思う。主に被害者はジジイだけだから、全く問題はない。
そのあとは急いでメディさんの店に戻った。店内で心配そうにしていた3人にまず謝った。リセルだけが怒って泣いて大変だった。メディさんとサティさんは特に何も反応は無かった。
「冒険者が不意に1日帰って来れなくなることなんて珍しくありません」
「10年帰って来ないことに比べたら1日帰って来ないくらいなんだって話だよ」
だから心配しなくても大丈夫だったでしょうに、ってリセルは言われてた。
イレブンは巻き込まれ体質なんだからって言われた。リセルはこっちでなだめておくからねとも言われた。けなしているのか、助けてくれているのか非常に判断に悩む。
昼食だけはそのまま無言だったけど一緒に食べて、すぐに『食材の宝庫』ダンジョンへと行った。なんとなくだけど、ひたすら魔物を狩った。目に付いた魔物は全て『挑発』して倒し尽くした。たぶん出現が珍しい魔物も倒したんじゃないかな。
途中からは流れ作業のようになってしまったが、特にミスも起こらなかった。他の冒険者がいたような気はしたけど視界に入らなかったから確信は無いかな。
組合に戻って納品して、デテゴと合流したのが今だ。今なら狩ってきたものを全部放出してやろうかという気持ちにもなる。思い通りにいくのは戦闘の結果だけだ。
「リセルとはちゃんと仲直りできたのか?」
「微妙かな」
「だったら、そういうときは何かプレゼントして謝るものだろう?」
「男が男に謝るなら言っても食べ物でしょ。そうだなぁ、肉とかじゃないの?」
デテゴが足を止めるから、俺だけ先に進んでしまう。
「なんだよ。……デテゴ?」
ものすごく妙な顔をしている。
「そうだったな。ダメなんだった」
「何がダメなのさ」
「気にするな。そうだな。何か晩ご飯の足しに一品、デザートに一品買って帰ることにしよう。お前の手柄にしてやるから揃えろよ?」
良く分からないが、たまに何か隠されているのでその延長線上の話なんだろう。その話に乗る。
「何買うかだけはお前が決めろ」
「まあそれくらいなら。リセルが好きなものなら、肉料理って言ってもあっさり目味付けで、野菜も一緒に食べる方が好きだよね」
「まあ、そうっぽいな」
まだすごい微妙な顔をされている。
「具体的に何買うかは、店に行ってから選ぶか。デザートはどうする?」
「あいつがSPゼリー食べるときは柑橘系のものを好んで先に食べてるんだよね。柑橘系の入ってるのが良いな。知ってる?」
「知らん。だが、知らんことは聞けば良い。組合に戻るか」
「オッケー」
デテゴのアドバイスが良かったようで、デザート食べてるときにはリセルの機嫌は直った。ただ、もう一回そこから当日に帰って来なくても心配するなということを再度お説教されていた。
「それにそこまで心配ならいっそついて行けるように戦闘訓練もすべきだと思いますけどね」
ザールさんが横から口を挟んだ。う~んとみんなが悩んだところで俺に視線が集中する。
「俺が決めるの?」
「最終的に一緒に行くのはイレブン君ですからね」
「まあ連れて行くのは本人が希望すれば連れて行くよ。元から遠距離攻撃とかで支援してくれる人がいれば良いかなとは考えてたし」
一応連携とか考えてたもんな。すごく前のことのように感じるけれど。印象に残る出来事が起こり過ぎなんだよ。
「では決定ですね。今度軽い手合わせからわたくしが見ます。ザールさんよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。同じ空間にメディもいてくださいね」
「分かったよ。何か見ながらできることを考えておくよ」
「サティ、あんまりムチャさせるなよ」
「失礼な!こう見えても金級ですよ。指導経験くらいあります!」
「落ち着きなって」
「いえ、失礼しました」
話がどんどん進んでいく。え、何?最初から決まってた感じなの?
「リセルさん。こういうときは挨拶をきちんとしておくものですよ。イレブン君はこういうときに少し抜けることがありますから。あなたが覚えておく方が良いでしょう」
「あっはい!、サティさんよろしくお願いします!」
「いも……、おほん。年下の子ががんばろうとしているのは可愛いですわね。では最初は戦闘訓練のときだけで結構ですから先生と呼んでくださいね」
「分かりました!お願いしますサティ先生!」
そう呼ばれるとサティさんは誰もいない方向へと顔を向ける。背中しか見えないがサティさんが何かに浸っていることだけは分かる。大丈夫か。
「あたしも料理に調合、今日から調薬まで教えているのにそんな呼び方されてないね」
「ごめんなさい。変えます!メディ先生!」
メディさんはにやっと笑ってリセルを撫でていた。
「メディは薬師ですからね。元から先生呼びされるのは慣れていますよ」
「なるほど。ということはサティさんは呼ばれ慣れてない?」
「女で冒険者目指しているやつがいるけどよ。いきなり金級の『剣舞の姫』に弟子入りするやつはいねぇよ」
「それもそうか」
俺も剣術を覚えたら教えてもらおうかな。いや、俺が剣を学ぶとしたら力押しになる。その該当者に目を向けていつか師匠とでも呼ぶことがあるのだろうか。
「なんだ?」
「いや、別にそれはそれで有りかなと思っただけ」
「ふふふ」
一晩離れていただけだが、心地よいなと思う空間であることは再度認識した。
お読みいただきありがとうございました。




