魔石がもっと必要だってことは分かった
お楽しみ頂けると幸いです。
「毎果、そんなことで俺は怒らないからさ。そこまでしなくても良いよ?」
若干声が震えるのはお許しいただきたい。
「そうでしたか。礼を失したかと思いました。お見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありません」
「大丈夫だって」
「薙刀さ~ん、戻ってきてくださ~い」
俺が毎果をなだめている間に万花がテーブルの端から下に向けて薙刀を呼んでいる。若干カオスだ。普通に作業させてほしい。薙刀が脇腹を押さえて戻ってくる。
「し、失礼しました」
「気にしないで。それくらいは大丈夫だから」
『手当』をかけて回復する。薙刀から感謝の言葉が聞こえてくる。ついでに作業も止まるから、説明しておく。
「どこから中魔石を出したか、だよね。俺にはアイテムボックスってスキルがあってね」
治療が終わったので色々と説明をしながら作業も再開する。ステータスには名前だけ彼女たちも表示された。詳しいステータスはまだ表示されていなかった。何か足りないみたいだ。スキルポイントの説明は出来たけど、全部は説明しきれなかった。俺ってややこしい存在だな。
残念ながらアイテムボックスには生物は入れないことを伝えたときに薙刀の顔が曇る。2人は表情に出なかったけど、入れたらついて来るつもりだったのだろう。
「いくらでも運ぶことが可能なのですね」
「そういうこと。ご飯に必要な分は当然巣に置いてもらって、余る分はもらえたら助かるかな」
「早急に準備いたします」
「マジで無理しないでね。そこまでは望まないからね」
万花も軽く確認しただけだろうに、毎果がやけに真剣な言葉で捕らえてくる。生まれて間もないのにワーカーホリックか、この子は。
「俺には他にも話さないといけない秘密があるけど、砕き終わるからこれの使い道を聞いても良い?」
「はい。眷属、というか新たにフレンドビーを生み出すのに使用いたします」
「産むんじゃないんだ」
さっと万花が顔を赤くする。しまったと思ったら表情を変えないで毎果が万花を隠すように出てきた。
「我々は既にフレンドビーから進化してしまいました」
「うんうん」
「ですが、指導は出来ます。巣の建築や蜜を集めるいったことの教育は可能です。もちろん実行も」
気まずいので全力で毎果の説明を聞く。
「薙刀も自身の強化も出来ますが、訓練を付けることはできるでしょう」
「え?はい!できます!」
完全に条件反射でしゃべらされてるように見えたけどね。
「ですが、逆に出来なくなったこともございます。通常の仲間の増やし方は出来なくなりました」
「そうなんだ。全員そうなの?」
進化してからそんなことを話す時間は無かったはずだが、いつの間に共通認識になっているのだろうか。
「そこで万花様の出番でございます」
そこでスッと毎果が身を引く。代わりに落ち着いた万花が出てくる。あれ?俺の疑問は放置ですか?
「私のスキルに『眷属養蜂』というものがあります。う…産むことも出来ますが、栄養が不足しているので魔石を基にして増やしたいと思います」
「そうなのか。じゃあこれで良いのか?」
「はい。ここからはお任せください。半分は毎果の、もう半分は薙刀の眷属とします」
そう言って魔力を放出すると魔石に送っていく。
「はい。主様はここまでです」
そう言って毎果と薙刀が両端で持って布で見えなくされてしまった。
「申し訳ありませんが、ここからはお見せ出来ません」
「そうなの?」
「はい」
見てはいけないというなら、そうなのだろう。命を生むところなので男は厳禁というところか。体ごと背を向ける。ついでに聞いておく。
「中魔石を割るだけで良いならこの村の人でも出来るからお願いしておこうか?」
「背に腹は変えられません。よろしいでしょうか」
「いいよ。そんなにかしこまらなくても良いくらいなんだから」
「主、その方が助かりますけど出来ないよ。巣の消滅を防いでくれたんですから」
薙刀さん、出来ないって言いつつ敬語じゃないから毎果さんが割と真顔で見つめてますよ。あ、気づいたね。
「今の薙刀くらいの話し方で良いくらいだからね。毎果も気にしないで良いからね」
「有難きお言葉に感謝致します。また後でしっかりと話し合いたいをしておきますので」
「そ…そうしますので…」
完全に負けてるね。力関係は対等じゃないんのか。序列ってのはどうしてもできるものだし、あとは2人と成り行きに任せよう。
話が逸れてる間に万花のスキルが終了した。生み出されたのは元の大きさのフレンドビーだった。
「お~。すごいもんだね」
「ありがとうございます。これから成長していきます」
一回で生み出せる数や、質を良くしていくことが出来るそうだ。中魔石を砕いたけれど大きさは砕きすぎて微魔石よりも小さいくらいだった。
ちょうど良いと言われたが、慣れていないうちから大きすぎるものでやってしまうと成功しないことが分かっていたからだ。
回数をこなしていくことで、生み出す蜂もより賢く、より多くしていくことが可能だそうだ。練習すればうまくなるってことだね。そうなると。
「また大量に魔石が必要だな」
「申し訳ありません」
露骨に万花がしょげてしまった。羽まで一緒に萎れている。そういうものなの?ってちがうちがう。
「あ~、責めてるわけじゃないよ。効率を考えないとバランスが悪いよなってだけだよ」
本格的に魔石が不足しそうだな。SPポーションにも、リセルの経験値にも、万花のスキルにも必要か。ドロップアイテム売って魔石を集めるか。
「わたしがもっと強くなれば自分たちで魔石を集められるぞ……のですが!」
言葉の修正は大変そうだね。睨まないであげてね。
「戦闘は俺の仕事だからね。気にせずにまずは自分たちの体制を安定させておいてよ。それがまずは一番してほしいことだからね。俺も1人仲間がいるけど好きなことをのびのびやってもらってるからさ」
「「かしこまりました」」
「わかっ…まりました!」
はい。がんばりましょう。
☆ ★ ☆ ★ ☆
次に来るのは少なくともゴタゴタを解決してからになるだろうから、数日は先だ。はっきりとはしない。だから中魔石が足りないなんてことになってはいけないので。持っていた中魔石の残り全ての97個を全てミケンダに預けた。
万花たちに渡すと色々と余計なことを考えそうなので、魔石が必要になったり、何かあったらこの人に相談しろとミケンダを紹介した。半分以上はミケンダへの手数料だ。やってもらっていることを考えたらこれくらい渡しても構わないことをしてもらっている。
さすがに多いと返そうとしてされたので、逆に先日作った中で特にうまく出来た各種ポーションをメラノさんに渡した。隊長に渡してくれとのお願いで。あの人なら村のための寄付は断らないし、俺の意図を汲んでくれるはずだ。もちろん、メラノさんも。
「ふははははは!」
「くそう!どうもありがとうっす!」
変な挨拶をして、馴染みの2人と気が付いた何人かと新しく味方にした3人に見送られて獣人の村を出た。
遠くに離れてもテイムした魔物とはパスが繋がっているので、なんとなく状況が分かる。この世界では念話が使えるようになるらしいけど、まだ何にも分からないな~。
それよりも急がなければならない。晩ご飯までには帰ると言ったのに、皆からしたら無断外泊だ。ミケンダとメラノさんに一筆書いてもらったとはいえ、自分自身での説明も考えておかなくてはいけない。
「いっそげ~!!」
ひたすら走ってユーフラシアへと駆け抜けた。
あ、もちろん顔面がボッコボコになったジジイも連れて来ている。縛られた状態でぐったりしているのでジェットコースターをしても意味が無いから楽しくない。
急ぐこともあって魔法は使わずに縛り付けた丸太を持って走っている。魔法に意識を割くよりもこの方が速い。素早さを上げるスキルを手に入れたおかげでこの方が速い。魔法の細かい練習も必要だ。
ジジイの顔面がボコボコになっているのは夜通し獣人たちの洗礼…じゃなかった決闘を受けていたからだ。
獣人たちもかなり悩んでいたんだよ。俺が連れて帰るから村で裁くことは出来ない。だけど下手したら死んでいたかもしれない仲間の気持ちがある。何より数日とはいえ可愛く感じてきたフレンドビーを全滅させた下手人だ。許せるはずがない。しかし、あまり陰湿なことを好まない獣人たち。
考えた末に思いついたのは魔法を封じた状態での一対一の決闘だ。これならお互いの名誉も守った上でもう一度戦いを仕切り直すことが出来る。これは名案だとなった。
ジジイコーナーは1人、セコンドもなし。傷の回復はしたけど体力が完全に回復するほどでもない。元から魔法主体の人だから体はあんまり鍛えていない。腹は出ていないが、別に筋肉が付いているわけでもない。
獣人コーナーはまあ多数。朝から起きてた獣人は終わったら早く寝るからって結構詰めかけて、夜行性の人はもっと遅くで良いからって順番を譲ったそうだ。だから状態を仕上げて参加したみたいだよ。肉体性能は今更言うことでもない。敢えて言うならスキル使わずにガチのタイマンだったら俺も複数相手はどこかで負けるだろうな。
子どもはさすがにダメだけど知ってる人は皆参加してたかな。隊長は参加してなかったか。いや~ミケンダの爪は鋭かったな。
ちゃんと条件は決めてやってもらったよ。一人は厳しいから一回終わったら俺が最初期に作った失敗ポーション(それでも普通のポーションくらいは性能ある)を飲ませること。武器・スキルの使用無し。
終了を決めるのは審判役の判断と獣人側参加者の終了宣言のみでジジイの辞退する権利は無し。審判役はきちんとした判断が出来る人にお願いした。これは守ってもらえたよ。
それで朝方太陽が昇ってきたくらいでみんなの気が済んだから終了になったそうだよ。獣人の中には泣いて参加した人もいたんだって。フレンドビーとすごく仲良くなってたマッツとその奥さんは泣きながら参加したんだって。審判はその迫力に驚いて珍しいなとそっちばかり見てしまったんだって。
他にも同じような人がいて、つい熱くなって応援も盛り上がったらしい。みんなスッキリしたらしくって、最後にポーションは飲ませるのは忘れていたらしい。だからボコボコなんだってさ。
俺?俺は参加してないよ。どちらかと言うと質はともかく、飲むとなるとしんどい味が良くないものの在庫が無くなって嬉しかったくらいかな。
俺が参加するのはこいつに指示した奴に対してかな。誰なのかな~。
タイミング良く(?)ジャンププラスに薙刀をやってる子たちの読み切りがあってびっくりした。一応弁明しておくと日が変わる前に薙刀の名前は決めました。薙刀を真剣にやっている男性の方々には申し訳ないですが。許してください。
お読みいただきありがとうございました。