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幻からの覚醒、そしてKO

人によっては微妙かもしれませんが、お楽しみ頂けると幸いです。

【イレブン視点】


思ったよりも冷静だな。目の前にいるのに、生前に持っていた感情があまり出て来ない。


…?だけど手が震えている。ああ、そういうことか。これは怒り過ぎると逆に冷静になるってことだな。次からは常にこうしたいものだ。必死に考えないようにしていたのに、腹立たしいことに声をかけられた。


「久しぶりやね。元気にしてた?」


叔母が話しかけてきた。ということは幻だ。俺たちの間にあるのはそんな普通の挨拶を交わすような関係ではない。なんせ目の前で死ぬところを見ているんだ。普通に挨拶できるはずがない。


地面を蹴ってみるが抉れない。飛んだ土がかかったが全く気にせずに関係ないことを何やら話している。言葉として認識したくもない。


つまり見えている物が全て幻ということか。それなら覚める前に、八つ当たりでもしておきたい。


「たった今、更に元気になったよ。宗教にのめり込んで自分の子どもの人生を散々狂わせた上に、じいちゃんばあちゃんに借金を背負わせ、うちの家や他の親戚一同の金も奪っていきやがって!」

「何を言うてるん?」

「黙れ」


無防備に近づいて来ていたので腹に両手で掌底を打ち込む。


「ゲボッ!ガフッ!」


口から大量に血を吹き出しながら吹き飛ばされていく。普通ならこれで死ぬって。どう見ても致命傷のはずなのに。まだ生きていること自体が幻で確定事項だ。でもちょうど良い。前の時は他人のあの人に任せてしまったからな。

魔力を発動させるために準備しながら歩いて近づいていく。すぐに血の跡も消えて立ち上がって近づいてくる。幻のプログラムが甘いな。


「ここで俺が自分の手でやってあげるよ。時間制限があるみたいだしすぐに終わらせよう」

「えっ!?何するの?お父さんに顔向け出来んよ」

「自分の兄の遺産でさえも自分の都合のために奪い取ろうとしたやつが言うな。お前が存在している方が人類の冒涜だ」


(雷魔法『雷槍多連』待機。右腕の周囲に固定)


「話を聞いて。あなたのためを思って言うのよ」


そう言って両手を広げて近づいてくる。気持ち悪い。史上最悪の吐き気がする。


「死ね」


抵抗するそぶりが無いまま近寄ってくるので右腕を前に差し出す。自ら雷槍に刺さりに来た。

槍があっさりと体を貫き、傷口は熱で焼かれて焦げる。最悪なことに臭いの再現もあるらしい。食欲が失せそうだ。

電流が体に流れたことで体全体が痙攣をする。熱で体が熱くなっていることが分かる。


それでも近づいてくるのだから怖気が走る。


「待機解除」


突き刺さったままの5本の雷槍が飛んでいき、地面に突き刺さって固定する。

どうせ幻、触れたくもなかったので潰すことに決める。


「『大氷塊』潰れて消えろ」


何か言っていたような気がするけど、知らない。さて、ずっとこんなところにはいられない。獣人たちがずっと目を覚まさなかったのがあのジジイの仕業だというなら、たぶん恐ろしく高度な状態異常だったんだろう。

俺へのかかりが悪いのも頷ける。こんなところでデテゴからもらったノーマルシンボルが状態異常を軽減してくれるとは。ありがたい。じゃあ状態異常を解除しよう。


「『覚醒』」


目の前に見えていた景色が見えなくなる。

少しだけ後悔している。『火魔法』を取得していなかったことに。そうしたら色々と派生していく魔法が使えた。地獄の業火で焼くことも出来た。

もっと苦しませることが出来たのにな。残念だ。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


今まできちんとあると思っていた感覚が戻ってくる。五感がハッキリしていくと分かるのは感覚が誤魔化されていたのだなということ。何らかの魔物が近づいて来ているということ。魔物の匂いと音が近づいてくることが分かる。

いつの間にか立ったまま目を閉じていたので目を開ける。見えるのはホブゴブリンとブラックウルフの群れ…それぞれ5体ずつか。


これがあのジジイの必勝法か。俺も無防備な状態だと少しくらいはダメージを喰らったかもしれないな。これに獣人たちも一方的にやられたのか。もしかするとフレンドビーもそうだったのかもしれない。範囲にいるもの全ての効果があるものなら便利だ。


しかし、幻相手にはいくら恨みのある相手でも完全にはスッキリしなかった。見たくもないものを見させられて怒らない人間がいるか?いるわけが無い。


こいつらでいいか。いいよな。


「グ?」

「ガッ!?ゴッ!」


無防備に近づいていた魔物たちは俺が意識をちゃんと持っているということに気が付いたようだが。近すぎるよ。正式名称となった圧縮手甲(風)を使って腕による攻撃力を上げる。


「せぇ~…のっ!」


一番近くにいたホブゴブリンを思い切り殴りつける。


「ギャッ!!」


悲鳴を少しあげたが、風の圧力で上半身が押しつぶされる。その体から風の勢いで血しぶきが舞う。それらを見てからようやく他の魔物たちも警戒心を上げる。


「ほっほ。焦ってはやく終わらせては楽しくもなかろうに」


突っ込み待ちのボケのつもりか、ジジイがとぼけたことを抜かしている。しかし、目の前の状況を確認すると表情が変わる。ゆっくりと構えていた姿勢から一気に警戒体制へと移行する。既にあなたの戦法は破れていますよ。


「お前たち、全力で阻「遅いよ」止せ……え?」


ドシャッ、ドシャという音がすると残りの9体の魔物も最初のホブゴブリンと同じ末路を辿る。魔石が落ちているところを見ると普通に魔物判定なのかな。落ちてる魔石はいつもの澄んだ色っていうよりは濁っていて表面が黒い。ジジイの呪いがかかってそうで触るのもイヤだな。


あと、そうだ。一応確認しておかないと。


「あの光は催眠か何かを引き起こすのかな。で、幻を見せて無防備にしたあとで、その間に配下の連れてきた魔物か召喚した魔物に襲わせるってところがあんたの作戦なのかな。状態異常にさえ気を付ければどうってことないね」

「馬鹿な…!自力で魔法を破るだと!?あれには人生で一番感情を揺さぶられた者が現れるようにしていたはずだ。なぜ抗えた?どうしてだ!?」


あ~。なるほどね。答えにくいな。


「俺のところに出てきたのは殺したいくらい憎い奴さ。顔も会わせたくないね。逆に目覚めるわ」

「そん、な、バカなっ…!」


あり得たんだから気にしないでほしいな。『覚醒』のことは言わなくていいや。本当はいつまでも殺していたかったけど、時間かけたくなかっただけだしな。


ジジイは驚きすぎて冷静な判断が出来ていないようだ。フラフラと立ち上がると一番近くにあったブラックウルフの魔石に触れて呟いた。


「一息でワシの召喚獣たちを始末しただと…?」

「それについては魔物が雑魚過ぎただけな」


『覚醒』は秘奥義を放つことが出来る状態になる自分だけのバフ状態を作り出す。まだ秘奥義どころか特技や奥義も発現させてないけど、それにはちゃんと理由があるぞ。使った瞬間にかかっていたデバフや状態異常なんかは解除されるからね。目覚めたってやつでしょう。意識だけ残していたのが間違いだったね。助かったんだけどさ。

一時的にステータスも上昇しているからさっきみたいに一瞬で始末したように見せかけることが出来る、さっきのも多少の時間差はあったよ。


さて、魔法も『覚醒』も解除しよう。殺してしまってはいけない。獣人のところに持ち帰らないといけないからね。


ん?なんかゴソゴソしてるか?


「あ~、悪あがきするなら今のうちだよ」

「なめるな!ファイアーボール!」

「『水壁』」


火球が飛んで来たので、水壁で防ぐ。消火消火。


「ア、アイスランス!」


『火魔法』無いんだよな。仕方ない。


「『土壁』」

「何じゃと…!こうなれば、エアハンマー!」


頭上から空気の圧力を叩きつけられる。重い!重力が増えたわけでは無いけどパンパンになった空気が言葉通りにハンマーとなって押しつぶそうとしてくる。


「ぶっ飛べ!『大嵐』!」


圧し掛かっていた空気ごと吹き飛ばす。ついてきた雨で濡れたのはこの際気にしない。普通に自業自得。


「終わりか?じゃあ遠慮なく」


前に誰かが言ってたな。自分の得意で負けたらどうしようもなくなる。すごく正しい。もう打つ手が無いのか顔を真っ白にして立ち尽くしている。

用心はするけれど肩が掴めるくらいまで近づいてしまえば、見かけも戦法も完全に後衛の魔法使いタイプ。近づかれたら終わりだ。


ジジイの両肩の上に両手をバン!と置く。見えなかったらしい。ビクッと肩を震わせ。この世の終わりのような顔をする。にっこりと笑顔を意識して一言。


「とりあえずフレンドビーたちの分、一発いや、二発殴らせろ」

「ぎゃあ!ゴッ!」


利き腕らしい右肩に一発。お約束で腹に一発。既にフラフラだ。罪悪感も湧かないのでこの場での止めを刺しておく。


「沈め」


頭を掴んで地面へと叩きつけた。

世間で騒がれている宗教団体には作者の親戚は入信していません。


お目汚しかもしれませんが、お読みいただきありがとうございました。

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