自己犠牲と仲間のために行動することは全然違う
今日もありがとうございます。お楽しみ頂けると幸いです。
「イレブン、これは?」
「俺も分からない。今日ここにいた獣人は6人で合ってるか?」
「合ってるっす。どこに?」
木陰に寝かせていた獣人たちを指差す。一旦全員で様子を見に行き、触ったり胸に耳を当てて確認する。今度脈拍の取り方を教えておこう。
その後、ミケンダだけが近づいてくる。いま気が付いたけど隊長も来てるんだ。あの人、狼の獣人だってこと以外教えてくれてないな。
「手当を感謝するっす」
「気にすんな。俺が自己満足でやってるだけだ。村に連れて帰ってあげてくれ。ここに来た時に結構危ない人もいたから」
少しの差ではあったが、ここに到着してから何があったか。あの時呼びに来たフレンドビーがテーブルの上にいること。墓を勝手ながら作らせてもらっていることを伝えた。
「……分かったっす」
一緒に来ていた隊長に事情を説明しに行った。相談している間にも1匹ずつ潰さないように回収していく。さすがに回収には魔法を使った。風で浮かして墓用に掘った穴へとゆっくり下ろす。
慎重に気を付けながら周囲にもいないかを探し、漏れが無いように探した。『手当』は効かなかったのでせめて『清潔』できれいにした。
最後に巣の中も確認して、見つけたのに関しては同じようにきれいにしてから穴へと連れて行く。
おおよそ見当たらなくなったところで、土をかぶせていく。正しい埋葬法とは思えないが、地上に放置して終わりとはしたくなかった。罪悪感がこみ上げてくるから。
獣人たちは周囲を警戒しに少し散らばって行った、残っているのはミケンダと隊長だけだ。
墓といえば木の一本でも刺してあげる方が良いかと思って巣の近くにあった木を選ぼうと探してみる。2人も一緒に探してくれる。
「ん?」
「どうせなら、この巣のかけらも一緒に埋めてあげてはどうっすか?」
「それも良いかもしれないな。イレブンはどう思う」
「なんだ?」
「だからぁ」
「ちょっと待て」
ミケンダの声は聞こえているんだ。他に何か言っているような声が聞こえるんだ。
「どうかしたっすか?」
「悪い。少し、静かにしててくれるか?」
2人は顔を見合わせつつ、言った通りに話すのをやめてくれた。何かが聞こえている。
周囲を探してみると、土の中から?声が聞こえた気がする。すぐに膝をついて慎重に『土魔法』で土の中を探る。
―――――これか。
土を持ち上げてそっと地上へと移動させる。でてきたところを手の平に乗せる。見つけた蜂はさっきのよりも一回り小さい。すぐに『手当』を発動する。
「おい!フレンドビー!」
呼びかけても反応が無い。近づきながら、ありのままの事実を伝える。
「生き残りだ!」
言い終わる時にはこちらへと飛んできていた。
一つの巣なんだから姉妹ってところか。1匹だけ生き残りを見つけられた。自分だけじゃないってだけで気持ちは全然違うよな。
喜んでくれている気がする。分かんないけどさ。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「さてと」
追いかけるために新しいスキルも取得したし、たぶん行けるだろう。
他の獣人たちも見回りを終えて戻ってきた。追いかけようと思えば臭いを辿って追いかけられるが、状況が不気味過ぎることで戻るという話をしている。
懸命だろうな。情報を整理する限り、ここでの戦闘はそこそこあったはずなのに、去って行く臭いは1つだけ。数が減るなんておかしすぎる。
「隊長~、ミケンダ~。ここはあとをお願いしても良いかな?」
「どこに行くつもりだ」
「そうっす!手がかりが無い以上一旦戻る方が良いっす!」
「大丈夫。方向を教えてもらわなくても追えるようになった。俺一人で行ってくるわ。それにさ」
悪いけど『威圧』を発動させてもらう。ついて来てほしくないんだよね。
隊長以外は後ずさりをする。そうしてくれ。
「一緒に行ったとして巻き込まない自信が無いんだ」
演出で軽く『嵐魔法』で竜巻状に風を舞わす。散っていた花びらや葉が周囲へと散っていく。
本当に申し訳ないんだけども。『追跡』のスキルを取得したら気づいてしまったんだな。この空間に残る気配というか魔力に。
「犯人は主に邪人と狼型の魔物だ」
「なぜ分かった?」
隊長はまだ冷静だ。代わりにミケンダは顔に焦りが出てる。こいつは良いやつだな。友達になれて嬉しい。
「『追跡』のスキルを最大まで伸ばした。残っているものに関して敏感になってより掴みやすくなった。地面の上に残っている足跡がより分かるようになった。数は分からないけど、種類くらいは分かる」
「他に分かることはあるか」
「言ってなかったことと分かったことを合わせると犯人の種類くらいは」
う~ん、悲しい。俺は疫病神か。
「やっぱり獣人は魔国に帰った方が良いかもしれないね。リセルにも街に戻ったら話しておくよ」
「いきなり何を言うっすか!」
「この襲撃に人間が関係しているって言っても?」
「え…?」
なんかね。遠くに一人いた痕跡があるんだよ。最終的にそいつ以外は消えてるみたいなんだよね。その上でそいつだけがここから逃げたっぽいんだよね。
ミケンダを始め、他の獣人たちは驚いた表情を浮かべて固まる。隊長以外は。
「隊長は気づいてたんですね?」
「臭いでな。誇り高き狼の血が流れているおかげだ」
「さすがです。邪人や狼を従えてるってことは、『魔物使役』でも使えるんでしょう。意図的な襲撃です。ハチミツが欲しかったのかな。獣人たちを生かしてくれた理由は分かりませんが、前のことを考えるとまた襲撃があってもおかしくないです」
「ここにいたらまた同じ目に遭う可能性があるということか」
「そうです。残された痕跡から考えても獣人は彼らと同じ状態に追い込まれる可能性があります」
俺が手当てしたばかりのときに比べると表情から苦痛が消えている。快方に向かっていると考えて良さそうだ。
「俺は人間だからどうなるかまだ未確定です。でも俺が単独行動することに異論をはさむ人はいないでしょう?村に帰ってください」
厳しく言っておかないと納得してくれないだろうからなぁ。万が一を考えると。
「逃げなかった時のことを考えて、俺が全部何とかすればいい」
「――っ!」
「隊長?」
「考えていることは当たっていたか?」
正解とは言いたくなかったので目は合わせずに逸らしたままにしておく。質問の答えについては、ズバリ一言一句、タイミングですらバッチリ正解だった。超能力者か。
「お前が種族ではなく、その者の在り方を見て付き合ってくれていることは分かっている。ならば俺はお前がいる限り魔国に帰ることは無い」
「でもこんなに続けて事件が起こっていたら、「オイラも」あ?」
「オイラも帰らないっすよ!頼るしかできないのは悪いっすけど、何とかはしてくれるんでしょう?どうやら実力はもう敵わないようなんでついては行かないっす。友達として頼むっす」
ミケンダはまっすぐ見てくれている。隊長も同じか。周りの人はそんなに話したことないけど、2人が信じるならってところかな。
そうか。あなたたちも俺を人間というくくり見ずに俺個人を見ていてくれたと。それで信用してくれるんだね。
人間というくくりで自分を一番差別をしていたのは俺ですか。俺だってさ、せっかくできた友達を手放したくはないよ。ちょっと強がるくらいじゃあすぐに見破られてしまうのか。くそぅ。
「でもちゃんと情報共有してください。それで一人でも魔国に帰る人がいたら行けるようにします。手段はザールさん任せだけど」
「それはオイラがちゃんと責任もって伝えておくっすよ。この状況もイレブンにお任せしてるんだから気にしないで良いっす」
「怪我人の人たちにもちゃんとだぞ」
「了解っす」
ミケンダはサムズアップで意思を伝えてくれる。あとは信じるしかないか。近づいてきたので拳を打ち合わせる。
「ニヒッ!」
「はいはい」
「村の警護もしなくてはいかん。そちらは任せた」
「了解です」
隊長はいつまで経っても無表情だ。けど、信用してくれていることは伝えてくれた。
「じゃあ、諸々あとは任せた」
そう言って行こうとしたら生き残りを抱きしめていた蜂が抱えたまま飛んで来た。目の前でホバリングで止まると腕(?)を一本突き出してきた。
拳でコンをしたいのかな?右手を出したが大きすぎたので、人差し指だけにしてそれにぶつける。お前の分も返してくるよ。
お読みいただきありがとうございました。




