知識解放
お楽しみ頂けると幸いです。
さて、SPポーション作成初日の夕食だが俺は給仕に徹していた。自分としては集中こそしたが人に迷惑をかけているなどとは思っていなかった。
これは何かの間違いだと主張したかったが、希望の食事を取れなかった時の人の恨みとはかなり恐ろしいものであるらしい。マジでザールさんを敵に回したらダメだ。そんなわけで今必死だ。
生活魔法の『手当』は気持ち程度の回復でしかないが、俺の魔力なら効果も底上げされるだろうからとメディさんの(精神的な)ダメージを回復させて、簡単に卵焼きだけでも作ってもらった。
何とか治まって良かった。明日からはもう少し考えて行うことを誓う。
償いついでにザールさんには道具屋に役立ちそうな話を今思い出せる範囲で伝えた。よくある家電製品はこの世界でも新しい魔法道具を作るヒントになると思ったけれど作る技術を持った人がすぐには確保できないので保留となる。
すぐに使えそうだとザールさんに一番ヒットしたのはポイントカードだった。
「いくらお買い上げしたかでポイントが付いて次回以降のお支払いの時に使える。なるほど、普段使いする商品はそれで更に買ってもらえそうですね」
「店員が処理するのが大変ですけどね。計算するのにお金とポイントを同時に考えたりとかなると面倒です」
「支払い時に使用すると考えると混雑時に面倒かもしれないですね」
「そういうことです。やってみないと分からないでしょうけど。あとは、お手軽なのは30ポイント溜めたらオリジナル商品と引き換えます、とかだと確認して渡すだけです。支払いの時にハンコ押すくらいですかね」
「それなら簡単ですね!設定するものにもよりますが、少しくらいは希少価値のあるものでも良いですね」
「有名どころで言うと白いお皿ですかね」
最後の提案は聞いてもらえなかった。白さを作り出すのはかなり難しいのだそうだ。そこまで難しくなく、珍しいものを考えてみることになった。
ちなみにデテゴは商売の話をしているときはあまり入って来ない。けれど俺が聞く前に中魔石を持っていそうな魔物の情報を持ってきてくれたので、今度は俺が何か聞く番である。
「じゃあ代わりに俺にも何か面白い話聞かせてくれよ」
「興味あることって何さ」
「お前は魔物に関しては色々と情報を持っているんだろう?」
雰囲気ががらっと変わって真剣な雰囲気で聞いてくる。
「何か気になることでもあるの?」
「最近の討伐した魔物の話を聞いてると動物型の魔物ばかりでな。大規模に邪人系の魔物の討伐を聞かないことが心配なんだよ。底上げをしておかないとやつらは油断したところで襲ってくるからな」
「邪人系ってゴブリンとかのことでしょ?王国に出現するんだ」
「お前も知らなかったか。王国にもそれなりに出現はするんだぞ。街や村には入って来ないが、やつらに人間の国境なんて分かりやしないからな」
そこも俺の知っているルールとは違いますね。出現地域を勝手に変更してくる魔物なんていたら面倒極まりないわ。
「こういうときは大体新人冒険者から死んでいくんでな。育成係となると一人でも生きて帰って来れるようにって考えてしまうんだよ」
元から面倒見の良い男である。それに救われた身となると真剣に考えなくてはいけない。要するに魔物から確実に逃げられるようなアイテムがあれば良いのだろう。
そのときにピン、と閃いた。正確には思い出した。
「それならさ。野営用の魔物避けの香の材料に加えて、フライントの花の葉とスガイメル草の根ってのがあれば何とかなるかな」
「メディに聞いてみないと分からんな。ちょっと待ってろ」
少量持ってきてもらえたが、両方とも採取するときに捨てられる部分らしい。だが、本来名前も付いている草に使えない部分など無いのだよ。
それは使い方を知らないだけだ。デテゴがメディさんに聞きに行っている間に調合レシピを書いていたメモを見せる。
「何をするんですか?」
思考から戻ってきたザールさんが覗き込んできた。
「もしかしたら、ポイントカードの商品になるかもしれないですよ」
書いたのはの発光激臭玉の作り方だ。簡単に言えば目印となるように発光塗料が込められた球だ。現代で言うところのペイントボールだ。かつ発光塗料にはとんでもない臭いを放つように仕込むのだ。
使い方は簡単だ。逃げたい魔物が襲ってきたら投げつけて使う。がんばって当ててほしい。どうしても無理だったらどこかにぶつけるだけでも良い。臭いで追い払うくらいは出来る。
魔物の中でもゴブリンやオーク、オーガと言った言葉の通じない二足歩行の魔物は総じて頭が良い。多分ヒトの進化をまねているのだろう。
それでも意思疎通ができるほどでは無いが、欲望を叶えるために知恵が働くといった程度だ。でもその知恵が厄介で、野営のために使う魔物避けの香を抜けてくることがある。
そんなやつらが襲ってきたときに発光激臭玉だ。目標に投げつけて当たったとしよう。すると、当てられた魔物は魔物避けの香よりも強い臭いで気絶する。魔物避けの香よりもヤバい臭いなのだ。人間はもちろん鼻の良い獣人は気絶しかねない。使うとなったら全員逃げた方が良い。
複数で襲って来ていても近場で発生した臭いに驚いて仲間を置いて逃げ出す。そして発光塗料がへばりつくから夜でもかなり目立つようになるし、昼なら臭いでも分かる。臭いが消えても発光塗料は数日残るので位置がバレバレでその個体には不意を打たれることは無いだろう。
発光の原理は知らないけれど本来なら追跡のために使用する設定みたいなので消えづらいのだそうだ。まあ発見すれば逃げるのも追いかけるのも自由にできるという話だ。
よく逃げるユニークモンスター捕獲のために使用されるものでイベントの限定アイテムだが、常用できるならそれは役に立つだろう。
「注意点は街の近くはもちろん、街中で使ったら大災害です。渡す時に軽く臭わせて注意喚起させてくださいね。訴えられたら負けると思いますよ」
少なくとも獣人はブチ切れる。ゲーム内でそんな描写があったからね。魔物用を先に作って、改良できそうなら街中で使用可能なものを研究してください。
「あたしには無いのかい?今日の一番の被害者だよ」
「えっと作ってる最中に思い出したんですけど、手軽に食べるのに使えそうな加工食材があるなって。仕入れからだと思うんでザールさんかもしれないんですけど」
ちらっと見るが怒っているかどうかは見ただけでは分からない。
「どんなのだい?」
「ゼラチンって言うんですけどね」
反応を見ても誰も知らなさそうだ。手に入らないのかと再度別案を考えようと思ったところで
「聞いたことがありますわね」
「マジですか!どこで!?」
サティさんが横から朗報をくれた。
「冒険者組合でですわ。ねえ、デテゴ様」
「俺は、ほら、あんまり受付には行かないから」
しどろもどろになって目線を逸らして答えるデテゴ。興味のある範囲にしか注意が向かないとは。デテゴという個人を見る分にはそれで良いか。それよりもサティさんの反応が気になるけど。
サティさんの方を伺ってみると、考え事をしている顔だった。
「今は新人の方々の育成にお忙しいですから良いとして、少し鍛えさせて頂かないといけませんね…」
そう言って一瞬だけ微笑むと普段通りの表情へと戻った。気づいたのは俺だけかなと思っているとふとリセルと目が合う。プルプルしている。お前も気が付いたのか。内緒だぞと目線を送るとコクコクと頷いていた。
デテゴは気づいてもいない。過去受けていた教育はたぶん厳しいもののはずだし、気合入れたら今からでも思い出すだろう。がんばってほしいと念を込めて合掌しておく。
☆ ★ ☆ ★ ☆
夕食後に冒険者組合に行ってゼラチンを少量仕入れてきた。うまくいけば大量に欲しいと伝えておいたので少し取り置きをお願いしておいた。
ついでに完全に忘れていた昇格を受け取っておいた。これで鉄級から鋼級に上がった。イメージとしては鉄から余分なものをそぎ落として鋼になるイメージだな。
新人から色々と仕事をこなして鍛えられたってことを表現したいのかな。次は銅だから色々と成果を示せということらしい。ゼラチンを学ぶべく一緒に来たデテゴとしてはもう少し組合の公式の仕事を受けろとのことだが、今はそれよりも優先することがあるから許してもらいたい。
組合証を更新するだけだったのでさっさと帰ってきてゼラチンを使ってSPポーションのゼリーを実験として作ってみた。一番手っ取り早いし数が食べられそうだ。
他にも料理に使えるので女性陣も一緒だ。リセルも今後のことを考えて見てもらっている。
「こうやって混ぜて冷やせば完成ですかね」
「どのくらい冷やせばいい?」
「3時間はかかるはずですが、魔法だともう少し早いですかね。あんまり急いでも味が変わるかもしれないので何とも言えませんが」
「味見はどうなるの?」
お菓子ということで反応を見せたリセルはどうしてもそこが気になるらしい。いや、それはあと2人も同じか。
「俺が、宿で、寝る前に」
「じゃあぼくも!」
「寝てるんじゃないか?」
「子ども扱いするな!」
体を拳で叩いてくるが、全く痛くない。それよりもかかってくる目線の圧力の方がこわい。
「女の前でお菓子を独り占めにするのか」
「それはいけませんね」
メディさん、恥ずかしがり屋はどこに行ったんですか。
「メディは内弁慶ですよ~」
サティさん、貴族の女性が食欲むき出しにするのはどうかと。
「サティは昔からお菓子が好きだったな。食べても動けば良いと知ってから剣術の稽古量が増えて今じゃ剣舞の姫だしな」
デテゴはもちろんしばかれた。
お読みいただきありがとうございました。