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ザールの一族の過去

ブクマしていただいた方ありがとうございます。そこまでして読んで頂けるのが嬉しいです。

今日もお楽しみ頂けると幸いです。

どういう手段で攻めて来られるのか次に何をされるのか。その辺りはザールさんが任せておきなさいと言ってくれたので、任せることにした。

メディさんの家へと移動する間にどんなことがあったのかをそれなりに共有しておく。この情報でザールさんがうまく調べてくれたら嬉しい。味方で良かったと改めて言われた。

リセルのことは詳しくは食事しながらとしつつも、俺の同行者で今回の件については終了まで見届け人でもあると紹介した。


メディさんもサティさんにもリセルは可愛がられた。見た目が幼いこともあるが、よく食べるところがかわいい!と気に入られた。2人も名前が似ていることから数日で思った以上に仲良くなっていた。腹ペコのところに美人のお姉さん2人に可愛がられてご満悦だった。

一人でついてきたことで心細いこともあるかもしれないと思っていたが、懐く人がいて良かったと思う。ただ、甘えすぎてしまうことが心配になった。デテゴはともかくザールさんの不興を買うと俺まで被害を受けそうだと思ったが、ザールさんは終始ご機嫌だった。


「ザールさんの機嫌良いのはなんで?」

「ん?メディが子どもを可愛がっているのが見ていて楽しいんじゃねぇか」

「まあそんなところです」


肯定してくれたし、信じておこう。そうか、ザールさんも男子が甘えても大目に見てくれるんだなと安心した。


「仮定の話ですが」

「はい?」

「イレブン君がリセルくんのようにメディに甘えたとしたら」

「絶対にしないんで安心してくださいね」

「ならば仮定の話もしなくて良さそうですね」

「はい」


めっちゃ怖いんですけど。メガネが白く光って目が見えない状態だし、どっかの指令みたいな雰囲気を放ったぞ。戦闘力が無いのに、相応の圧を放ってくる人には逆らわない方が良い。

デテゴは全く意に介することなく食事を続けていた。まあ男3人で予想される動きを色々と考えていた。あの人数を不問とすることが出来るのは人が限られている。


一番は領主本人かその家族、もしくは領主の手足として働いている役人の中でも上層部くらいしかありえないが、領主本人はあり得ないとザールさんは言う。


「本人と話したことがありますが、そういうことをする人物ではありません。通常に運営しているだけできちんと生活できるわけで獣人に手を出すメリットがありません。そういった趣向のある方でも無いはずですし」

「でも、知られてないだけってこともあるんじゃないのか?」

「まあそれを調べているわけですし、そこまで時間を置かずに分かることでしょう」


坊主頭の土下座を店前で見た時からずっと一緒にいるが、ザールさんが誰かに情報収集の指示を見ていない。いつ誰に指示して情報を洗っているのだろうか。


「ザールさんの情報網って何なんですか?」

「聞きたいですか?」


一瞬後悔したが、隣にいるデテゴがあっけらかんといいんじゃないかと言い出す。


「害のある情報なわけでもないし」

「刺激は強いかもしれませんね。まあ知っておいてもらっても良いでしょう。僕だけ出自を話していませんでしたからね」


食事も終わって食後のお茶をメディさんが淹れてくれた。サティさんはお腹いっぱいになって転がっているリセルの相手をしてくれている。食後の洗い物はあとで2人でするそうだ。

メディさんと微笑みあったザールさんは、お茶がおいしいですねとこぼした後に話し始めた。


「実はこの国の貴族なんですよ。もう継承権も放棄しましたけどね」

「えっと。すごい友達関係ですね。2人とも…」

「そうだな。貴族じゃなくなった理由は違うが、何か自分と同じだって感覚はあったのかもな」

「そうですね。僕は資格なしとして判断されたわけですので、デテゴみたいにやむなくという訳でもありませんけどね」


図らずも共通点があったことで友人になり得たらしい。出会いが12~3歳と言っていたから既に20年いかないくらいの年数らしい。そこまで続く友人関係というのは羨ましい。


「でも、デテゴみたいに逃げるしかなかったなら仕方ないにしても、ザールさんが資格なしってどういうことですか?策謀を巡らすならデテゴよりもザールさんに適性があるように思いますけど」

「通常の貴族家では無かったんですよ。表に出ることの無い裏の仕事をする貴族でして」


自然と背筋を伸ばして話を聞く。というか聞いて良いのかな。


「他言しなければ大丈夫ですよ」


心を読まないでください。


「当然身体能力が必須になるんですが、そこまでの才能が無かったんです。一族始まって二百年以上ですが、史上初のことだと言われました」


デテゴはにやにやしているが、どうなったら面白くなるのか想像がつかない。裏の仕事をする人たちか。体を酷使するまで鍛え上げて、感情を殺し、場合によっては親兄弟すらも無表情で切り捨てるってのが裏の仕事人のイメージなんだけど。


「ぼくが生まれた当時は祖父が当主だったのですが、生まれた時点で僕の才能の無さは見抜かれていたようです」

「良く生きてましたね…」

「そうですね。ある理由で生きることになりました。そして成長したんですが、6歳を迎えるころには自分の無才には気が付きます。自分よりも小さい弟や従弟妹たちが自分には出来ない動きで訓練をしているわけですから」


勉強もそうだけど、運動能力は明らかに優劣がはっきりするからね。年下に負けるとなると厳しい気持ちになるのも分かる。


「俺も流れで手合わせしたことあるけど、本気出されたら勝てる気しないぞ。正面からの試合ならまだ良い勝負できるかもしれないけど、本分はそこじゃないからな。生き残りをかけた何でもありとなると勝てる気はしないな。そもそもやつらの戦闘は複数行動が基本だし」

「そうですね。戦闘は最終手段で、そうならないように動くのが基本です。まあそれはともかく」


デテゴよりも強いかもしれない人が複数で連携してくるの?どんな訓練してるんですかね。俺ももう少しSPポーションを飲む量増やそうかな。


「話を戻しましょう。運動の時間を勉強に回されていたので6歳でも賢い方だったと思いますよ。事実を受け止められるようになったと判断して家業について説明されました」

「笑いどころな」


そうだとしても言うなよ。


「裏の家業からは全員足を洗って、戦闘は万一の場合を除いて極力行わない諜報活動を専門に行うようになったそうです。きっかけは生まれたばかりの僕、と言われました」


とりあえずは意味が分からないので聞きに徹する。


「生まれたばかりの無力で、才能も見込めない僕を見て祖父は命の尊さを突如悟ったそうです。その3日後には王国との話し合いを終わらせ、一族を全員集めて家業の変更を告げたそうです」


デテゴは声を出さずに笑っている。ザールがうるさいですよと注意しても止まらない。


「今のこいつからは純真なんて言葉が出てくるガラじゃないだろう?」


それで笑えるのはデテゴだけだ。赤ちゃんがかわいいのは全生物の共通点で、唯一の武器だからだよな。それがザールさんのおじいさんの心に巣くっていたものを打ち破ったんだろう。


「まず言い訳になると思いますが、一族が手にかけたのは国家の敵です。イレブン君が言っていた中に当てはまらないことと願います」

「まあ本当に正義の執行人なら。全部がそうでは無いんでしょうけど」

「可能な限りの償いはしたと。いえ、現在も継続中です。そのおかげで私が必死に稼がないと一族は結構ギリギリの生活です。商人で良かったですよ。ある程度余裕を見せないと信用してもらえないので。知っていますか?殺さないようにするためにはより圧倒的な武力が必要なんです。訓練は過去より苛烈ですね」


不殺って大変みたいだもんね。付き合いは短いが信用は出来る。信用するしかないか。ザールさんと敵対するのは、イヤだし。


「いきなりで変更してうまくいったんですか?」

「一族が家業を変更することには反対もあったそうです。王族に限らず、貴族や一族内でも反抗した人にはお話はしっかりとしたそうですよ。それまでの活動でお話しするには十分な材料があったので楽だったと聞いています。それからは諜報部隊に残る者もいますし、私のように表に立つ者の補佐をする者もいますね」


罪を悔いているかは分からないけど、これまでの償いの実績があるもんな。だったら俺がどうこう言うことは出来ないな。罪を償う意識か。今度から確かめることにしよう。そういった積み重ねが今のザールさんを守ってるんだな。まあ俺もこの人好きになってしまってるしな。


「だから情報収集が早くて正確なんですね」


どことなく自慢げに頷いてくれる。


「長く続く一族の自慢です」

「10年の放浪の旅も表は俺が護衛していたけど、裏からはそっちの護衛もあったんだ。ついでだから国中回って商売もしたし、情報収集の手伝いもしてたよ。それもそれで楽しかったけどな」

「そんなところです。明日の朝には君の掴んだ手がかりから分かることもあるでしょう」

お読みいただきありがとうございました。

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