冒険者組合と商人組合の理由
今日もありがとうございます。お楽しみ頂けると幸いです。
絵面がひどいってことに誤解をしないでほしい。頭を下げる前の一瞬しか見えなかったけど髭が伸びている人が何人もいた。髭も一緒に剃ればいいのになんで頭だけきれいに丸めたんだろう?顔に傷の入った強面のおじさんからひょろっとした若いのまで全部がきれいに丸めた理由はなんだよ。
土下座の姿勢のままなんか震えてる人もいるし、なぜかすすり泣きも聞こえてくる。高所に怖がってた人かな?ボスが泣いてるんだろうか。それとも俺がそんなに怖がられているんだろうか。
あと、これは公衆の面前で行われている。いつもならそこまで通行人もいないはずの道に、路地から色んな人が見てる。坊主の集団が引き連れてきたのか、見かけた人たちが呼び込んできたのか。
坊主たちが頭を下げたタイミングは俺が現れた瞬間だ。理由は分からなくても俺が原因だということは知られてしまった。ヒソヒソと話し声が聞こえてきそうだったので、意識的に『聴覚強化』をオフ!
「あの犯罪者みたいな男たちが土下座って何をすればそんなことになるんだろう」
「この街を取り仕切ろうとするやつなんじゃないか。憲兵に知らせた方がいいんじゃないか」
「近頃の若いもんは!なあ、ばあさん」
「困りましたねぇ、おじいさん」
「お母さん、あれ何~?」
「しっ!見ちゃいけません!
それでも聞こえてしまった。声を出したら余計に何かを失いそうで、しばらく身動きが取れずに固まってしまう。この光景の圧迫を受け止められる人はいるだろうか。いたらごめんなさい。俺が無理なだけだ。
しばらく現実逃避させてほしい。リセルが揺らしているような気がするけれど。顔を両手で隠してしばらく伏せる。誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「おい、イレブン。俺だよ。大丈夫か」
「…はっ。大丈夫です。少し意識が飛んでただけです。ヤクザ丸出しの土下座を自分が生み出してしまったという幻覚を見てました」
「それは現実だ。あきらめろ。とりあえず、ここじゃなんだから冒険者組合に行こう」
「…デテゴ?うん、分かった……」
あとからリセルに聞いた話だと店前からはリセルに手を引かれて歩いて移動したらしい。全く覚えてないけど。俺が覚えてるのは、最初から冒険者組合で良かったんじゃない?って思いついたときで、冒険者組合に到着してから。
それからすぐに思いついたことは一つだけ。
野次馬の中にいた最後の母親!お前にだけ言うことがあるぞ!だったら連れて来るんじゃねぇよ!お前確信犯だよな!そのセリフ言いたかっただけだろ!
☆ ★ ☆ ★ ☆
建物の中に大勢が入るところというと酒場か鍛錬場だったが、周りに聞かれないようにする必要があるので鍛錬場になった。
ここにいるのは俺とデテゴとザールさん、組合職員数名と坊主集団だ。あと、俺から離れたくないと言ってリセルもいる。晩ご飯も我慢するそうだ。サティさんはメディさんの護衛で店に残った。
「状況が知りたいです」
「それはちゃんと説明するよ。今回のことは冒険者組合も腹に据えかねてるんだよ」
「味方がいるのはありがたいですけど。そのあたりも良く見えないです」
「お前がいなかった間のことを説明するよ」
ほぼ新入りだろうに、この場を仕切るのはデテゴらしい。人望は元から持っている男だしな。それは納得だ。
「まず、こいつらは冒険者組合に保護を求めてきた。来た時には既に坊主頭だ。俺たちが強要したわけじゃあない。それは勘違いしないでくれよ。反省を見て分かる形にしたらしいぞ」
「その説明はあとで良いんで」
「くっくっく。無罪放免の方だな。こいつらの罪はなんだ?」
「獣人をさらいそうになったこと」
「そうだ」
俺が答える前にリセルが答えた。責任ある立場を任されると頭の回転も速くなるみたいだ。デテゴが満足そうに肯定する。
「こいつらを罰するということは、それを依頼した連中まで捜査の手を伸ばすことになる。そうなると困る連中が罪を握り潰したんだ」
「で、そうなったとしたらイレブン君はどうしますか?ミケンダ君やメラノさん、そちらの方を連れている段階で答えは分かっていますが」
「いや、まあとりあえず話し合いに行きますよね。言葉は通じなさそうなんで口以外での話し合いになりそうですけど」
「それを恐れたから連中はそういう状態になってる」
デテゴが見ないように指でさす。壁際に一列に並んで正座している。土下座しようとしたから、逆に凍らせるぞと脅して止めている。痺れているだろうに微動だにしない。いや、もぞもぞはし始めてるか。
「納得しました。切り捨てられたけど、良しとせずに罪を償うってことですか。意外と律儀ですね」
「そうだ。それだけの恐怖を叩き込んだお前を尊敬するよ」
「風魔法の練習と実験だっただけなんですよ」
「罪人の強制プログラムに良いのかもな」
冗談とも本気とも分からない言い方をされて曖昧に返事しておく。魔法のレベルもすぐに上がるようなものでは無いみたいだし、レベル10まで育てないと出来ないみたいだ。最高まで上げたところでこんな使い方をするやつもいないのだろう。技術は遊びか軍用で使うことで伸びるって話だったような気がするんだけどな。
別の職員に呼ばれたデテゴは少しだけ外すと言って行った。
「イレブン君の使い方としてはあまり良くはない話ですね。デテゴにはやはり商才は無いですね」
「そうなんですかね。必要にかられたから空を飛ばしただけなので」
「言い方がキミらしいですね。ちなみに商人組合も今回の処置には抗議をしていますよ。先に話しておきましょうか」
「そうなんですか?」
獣人と商人組合に何か関係があっただろうか。
「イレブン君という未知の存在を逃す手はありません。街を嫌って出て行かれては大損です。イレブン君の味方をした方がよほど良い結果を生みますからね」
「さ、さすがですね」
俺が理由だったのか。素直に感謝出来ないのは何か対価を求められることかな。新しいスキルの活用法とか思い出しておこう。
ザールさんほどの商人が義理ではなく自分たちの利のために味方してくれているのなら余計に納得できる。しかし、ザールさんの一存でそういうことになるってことなんだろうか。何人かの代表で話し合って方針を決めるとかじゃないのかな。俺の視線に気が付くとザールさんはにっこりと笑う。笑って返しておく。詳しく聞くのはやめておくことにした。
そのときちょうどデテゴが帰ってきた。
「説明しとけってだけだったわ。言われたからには話しておくぞ。ザールの方の話はもう聞いたか?」
「デテゴがいない間に聞いたよ」
「よし、じゃあ俺のも聞いとけ。すぐに終わる。冒険者組合も泥を塗られたと判断してる。現行犯で正式に登録しているお前が捕まえてるし、一緒に来たミケンダとメラノも種族は違えど冒険者資格を持ってる。なのにそれらが誤認だと判断されちまえば侮辱がすぎるってもんだ」
「だから彼らも保護してるんですね」
「ああ、遡っての罪も公式に無くされてしまったからな。それを許してもらえるとは思ってないそうだが。全部自供したからそれに見合った奉仕活動をしてもらうと組合長が慣れない裁判官活動してるよ」
元からの顔見知りらしく、困っているところを見るのは楽しいらしい。逆のことがあったら笑われているのだろうな。デテゴのことだから。でも俺の意見も言っておこう。
「通るかは別として言っておきたいんですけど。俺の基準では人殺しや、人身売買で他人を踏みにじっていたらそれだけでアウトなんですけど」
「ん~。確かいなかったはずだけどな。そういうどうしようもないやつは命がけの労働に回されるから捕まったら死を意味するんだ。行先の例でいうと魔物の戦闘での肉壁か鉱山送りだ。ここにいるのは傷害や強盗がほとんどだって聞いたぞ。こいつらは他国の冒険者崩れだ。怪我は魔法で治るが、殺しだけはマズいからな。この国みたいに大国過ぎると他国の小物犯罪者まで捕まえきれないんだが、殺人者だけは徹底されるからな。小物も取り入れることで誤魔化しを図ったんだろうけどな。そのあたりの取り調べも大丈夫なはずだが」
「ふ~ん、そうなんだ」
「もう少しまじめに聞いてくれよ」
もう一度全員の顔を確認していく。なるほどな。
「で、ここからはどうしたらいいんですか?」
「そこからは僕の仕事ですよ。明日まで待ってください。メディががんばって作ってますからそれを楽しみに行きましょう」
「ご飯か?」
話の内容を聞いてはいたが、さすがに限界だったらしいリセルが元気になった。その表情を見てか、ザールさんも微笑む。
「では、いつもより慎ましくですが新しい友人を歓迎しましょうか」
お読みいただきありがとうございました。




