リセルは何か考え事をしている。俺は到着の前に暴発しかける
今日もありがとうございます。お楽しみ頂けると幸いです。
【リセル視点】
イレブンって思っていた以上にとんでもないやつかもしれない。結構力いっぱい暴れたのに平然と走り続けるんだもん。下手に落とされたら自分の身が危ないことも分かってたけどさ。何か仕返ししてやりたかったんだ。
そりゃあぼくは全然レベル上がってないから弱いってこともあるんだけどさ。全くダメージを与えた感じがしなかったよ。なんでぼくはレベルが上がらないかなぁ。
戻ってきたメラノから聞いていたとはいえ、イレブンがこの世界の人間じゃないか~。しかもまだ2週間くらいなのに、獣人の村でもトップクラスに強さまで手に入れている。
通常とは違う強くなる方法がイレブンにはあるらしい。やたら変な色の飲み物を飲んでるけど、それは関係あるのかな。ぼくを気遣って休憩するときも飲んでるし、村にいるときも飲み物だけは一切自分で出したものだけを飲み続けている。
たまに美味しくないときもあるみたいで、声には出さないけど体をビクつかせている。飲んだ後は必ずメモを書いてるし。聞いたけど『飲みやすい配合を見つけるためには手あたり次第やるしかないんだ』って言ってた。
何か新しい飲み物でも売り出すつもりなんだろうか。強い、魔法使える、商売も出来る、割と性格も良い、顔がカッコいいかは…どうだろう?優しそうではある。鈍感だけど!!!
それでもなんとかユーフラシアへ連れていってもらうことには成功した。しばらく同行もしてくれるみたいだし良かったと思う。
イレブンの目標は強くなるってことが大きいらしい。ぼくは…強くなることに関してはあんまり興味なかった。色々ある目標の中では下の方だ。ぼく自身のわがままみたいなものだからね。
でもパーティってことはパートナーに近いってことだよね?メラノとミケンダみたいな感じ?ミケンダはメラノのためにって言って勉強がんばってたもんなぁ。そのおかげで強い上に賢いって評価をもらってたもんなぁ。
メラノもミケンダの装備品だけはすごく気を遣って作ってたよね。防具に関しては鎧が手に入らないから、女たちの作業頼みのところあるけど。メラノの作ったミケンダのだけレベルが違うんだよね。なんか良いな~って。
ぼくもイレブンに同じようにしてもらえるのかなぁ?え?どうしよう?
あ、でもぼくも何かしてあげた方が良いよね?
それならぼくもイレブンについて行くために強くならないといけないよね。ずっと頼るのも悪いし。ミケンダから聞いた話だとバトルマニアの気があるって言ってたもんね。
じゃあぼくも強くなりたいってもっと真剣に考えた方が良いかな。けど何とかしなくてもぼくがダメージを負うようなことは滅多に起こらないからいいかなぁ。囮になることを許可してもらえたらだけど。その戦い方はダメかなぁ。今度見てもらおうかなぁ。
いや、強くはなれなくても他のことで何かの役に立つ方法が無いかも考えよう。メラノは裁縫が上手だ。村で一番って言っていいくらいだ。
ラッシーはニッツの部屋の片づけをするようになった。最近はぼくじゃなくて、ずっとニッツと一緒にいるようになった。獣人の女は惚れたら一途だから仕方ないか。
あとは…そうだ。マッツは奥さんのハチミツを使ったお菓子が絶品だった。メチャクチャおいしくて、甘くて、ほっぺたが落ちるかと思った。マッツは甘い物苦手だけど。もったいな~い。
例えば他になにかあるかな…?う~ん、すぐには思いつかないな。
しかし、くぅ…。このからだが恨めしい。何回見ても女の子の体に見えない。イレブンにまったくそういう目で見られてないのは分かってたから肩車を自分から仕掛けたけど、何の反応も無かった。それなのにいきなりのお姫様抱っこはずるい。
でも気が付いてないからね。イレブンにはな~んにも思われてない。今も相変わらずの抱っこ状態で走ってるし。それに男だろ発言、これは正直やるせない。
わかってるかなぁ。ぼくの身になって考えておくれよ。初めての出会いはピンチのときに颯爽と現れて助けてくれた。あれはよっぽどのことじゃないと冷静ではいられないって。思い出しただけで顔が熱くなる。
しかもその次は(たぶん)神様からのお告げだよ?
『村に現れた人間の男について行けば自分自身について知ることが出来るだろう』
そんなことをお告げにされたらさ、『あ~、運命なのかなぁ~~!!』って思ってしまうじゃないか!
でもなぁ。自分でも自分が何者か分からないのに、いきなりそんなこと言われても困るよね。見方を変えればぼくたち2人とも自分が何者か分からないってところは同じかな。
いきなり打ち明けて対応を変えられてもイヤだからしばらくはナイショにしておこう。宿屋と野営のときは気を付けないといけないな。
とりあえずの一番の目標は村のみんなの安全確保だ。ん?それってイレブンに言ってたっけ?
☆ ★ ☆ ★ ☆
【イレブン視点】
もう少しでユーフラシアに到着する。あと20分くらいかな。そろそろ人通りがあるからスピードを落としてリセルにも歩いていもらおうかな。よっと声を出して大きく踏み切ったときだった。
「大事なことを言い忘れてた!」
ばっと顔を上げたかと思うとそんなことを言い出した。少しだけびっくりした。ちょうど高めの丘から飛び出したところだったので。
「ちょっと口閉じておいた方が良いぞ」
「え?」
つい下を見てしまったらしい。たぶん20メートルくらいはあるかな。この高さからなら何とでもなるから問題ないけど。しかし、俯いて周りを見ていなかったせいで心構えがなかったリセルは急な浮遊感に反射的にガマンが出来なかったみたいだ。
「うぎゃーーーーーー!!」
「うるせぇ!口閉じてろ!」
一瞬気を逸らされたが、まだ何とかなった。風魔法も使ってバランスを取り戻すと両脚での着地になんとか成功する。あ~、びっくりした。
ほっとしたら同じような顔をしていたリセルがみるみるうちに表情を変える。
「何してるのさ!」
「移動だよ。前見てなかったリセルが原因なんだと思うが」
正論を言ったつもりだ。納得したら少し考えて提案してきた。
「分かった。じゃあけんか両成敗だ。だからお互いに収めようじゃないか。話はおしまい!」
めちゃくちゃ強引だけど、無駄な話をしていても仕方が無いので抑えておこう。まあ弟みたいなやつに張り合っても仕方ないしな。移動再開だ。
「で、何?」
「自分が何者かは長期の目標なんだけど、それよりも先に達成しておきたいことがあるんだ」
「他にも何かあったのか」
「決まってるじゃないか!一応ぼくは持ち上げてもらってるだけとはいえ、村長だよ!村長が考えるのは村の発展と安全確保だよ」
「じゃあ安全確保の方か」
「そういうこと」
ちゃんと村長としての自覚があるんだな。人のために何かがんばろうとするのは良いやつだ。最初に会ったときも自分が犠牲になっての行動だったもんな。あまりいじり倒すのはやめておこう。
ザールさんの帰還要請もそれに関してのことだろうから、説明しておいた方が良いのかもしれない。だからきちんと動いてもらっていることを説明しておいた。あの人は腹も笑みも黒いが義理は果たしてくれる人だ。
説明が終わるころにはユーフラシアを囲む壁が見えてきたので爆走をやめて歩きに切り替えた。一応最下級の鉄級冒険者が、街の近くまで爆走しているところを見られるのは良くない。
「リセルはユーフラシアは初めてなのか?」
「うん。万が一のことを考えてね。今回が初めてなんだ。あ、滞在費は持ってきているから荷物から出してもらえる?」
「通行料くらいは出すよ。中に入ってからも使うだろうし」
「いや、それはわるいよ~」
「俺もザールさんとデテゴに同じことをしてもらったからさ。いいんだよ」
そう言って自分の胸を叩いた。街道に植えてあった樹の陰に立っていたローブの人がローブを外した。
「イレブン様、お待ちしてました」
「サティさん?」
「だれ?」
「えっと、デテゴのパートナーさんだよ」
そう伝えるとリセルはへ~と言って下から上までを見る。一部を見てクソッと小さい声で言った。男子ならそう反応するよな仕方ないけど、本人の前では言ってはいけないぞ。
サティさんは嬉しそうにしたり、リセルと目が合うとなぜか目を光らせた。狩人を思わせる目に感じたのは俺だけか?でもすぐに俺へと向き直る。
「先に説明をするべく待っていました」
「説明、ですか?」
「はい。先日イレブン様が捕縛した犯罪者集団が全員無罪として釈放されました」
「そうなんですか」
「イレブン、落ち着いて。魔力の圧が強い」
「おっと、ごめんよ」
深呼吸をくり返す。感情で魔力が漏れてしまうようでは一人で生きていかなくてはいけなくなる。
「大丈夫か?」
リセルが背中をなでてくれる。吐き気がしているわけでは無いが、いたわってくれる気持ちには感謝したい。
「ありがとう。冷静になったよ」
リセルに向かって伝えると、良かったと笑みを浮かべてくれた。そのままサティさんへと向き直る。
「落ち着きました。で、誰を潰せばいいんですか?」
「全然落ち着いてない!」
「このためにザール様はわたくしを外へ行くように指示されたんですね…」
リセルは頭を抱え、サティさん顔を手で隠して呟いているのが聞こえた。
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