出会った二人と現状の確認
今日も複数投稿していくつもりです
「私の名前はザール、彼の名前はデテゴです」
「よろしくな」
「ザールさんとデテゴさんですね。よろしくお願いします」
言葉はしっかりと通じたし、街まで乗せてほしいという願いも叶えてもらった。途中で野営をもう一度挟むとのことだったが、それくらいは全く問題がなかった。
むしろ会話をすることが出来る相手がいるだけで感動ものだった。おまけに果実を見せると、珍しい果実だったようで非常に驚かれた。思い出として1つは自分用に残し、2つは感謝の気持ちとしてそれぞれに渡した。
移動中に話を聞くとザールは商人をしていて、デテゴはその護衛だそうだ。護衛というには強すぎる気がしたが、初対面の人にいきなり聞くわけにはいかない。
道中で出会った魔物を倒しているとはいえ、イレブンも戦闘技術とステータスには大きな開きがあることは否めない。目で捉えるのはあまり変化は無いが、体が今一つ思い通りというには少し違う気がしている。サイウサギ程度では問題無いが、強い魔物に出くわす前にきちんと準備を整えなくてはならない。
食事を頂くことを約束してもらったが、一方的にもらうのは申し訳なかったので、途中で仕留めた魔物のドロップアイテムは譲った。ちょうど肉が手に入ったので食事に肉の追加が決定された。
魔物を戦い終わったときに生活魔法レベル10の『清潔』を使うと、やんわりと『清潔』は人前では使わないようにとアドバイスされた。何でも『清潔』を会得するまで生活魔法を使いこなす人はなかなかいないそうだ。
レベル1の『送風』、レベル2の『着火』、レベル3の『水発生』くらいまでなら使えるようにするが、それ以降となるとあまり使うものがいない。
レベル8の『光明』はダンジョンでは非常に便利だが、自分で覚えずにパーティ内の雑用係に習得させることが多いし、そこまでがんばって自分を売り込む人がいるくらいだ。ここまで到達するのに大人のMPをもってしても3年くらいはかかることが多いらしい。
それを超えるレベル10の『清潔』は更にそこから最短でも5年はかかるため、よほど子どもの時から訓練していないとイレブンの年齢で使えることはないそうだ。
この年数は専門的に練習したらという過程なので、大概の人が途中であきらめて各属性魔法の習得に励むそうだ。『清潔』は生活魔法唯一の魔法だが、会得しようとする人は少ない。街に一人いればその人を頼るか、風呂に入れば良いからだ。移動中は我慢するということだった。
納得する一方で、自分のミスを自覚したイレブンは焦っていた。
(自分の境遇についての説明は考えていたけど、この世界の一般常識について知らなさ過ぎた)
地球でというよりも日本にいた時でも住んでいる県が違えば常識も違うし、極端なことを言えば家庭でも違うのだ。落ち着いたふりをして考えると、自分の設定に世間知らずを付け加えることにした。
二人に話したイレブンの『説明』は、村に住んでいたが追い出されてしまった。
何か悪いことをしたわけでは無かったが身寄りがいなかったため肩身の狭い思いをしていたから。(少々変わった育ちをしていることをアピール)
追い出されたのは突然のことで、状況を理解する前に着の身着のままで途中で拾った木の棒と果実以外に持ち物は無い。(遅まきながら貧乏アピール)
物心ついた時から一人で暮らしており、ある程度のことは一人で出来るがそれがずれているかもしれない。(常識がないことは正直に)
食料を森や川で調達すること以外は、小さいながらも畑が家にはあったのでそれらを駆使して何とか生きてきた。(←戦えることの伏線)
生活魔法も他に出来ることが無いから、暇な時間を使って遊んでいたら使えるようになった。(←無理矢理付け加えた設定)
夢中で走ってきたからどこに村があるのかも分からない。(←ありもしない村を探されても困る)
そんなわけで噂には聞いていた冒険者になりたいので街へと連れて行ってください!(←直球)
ということにした。まあデテゴの方は怪訝な顔をしていたが、ザールは終始ニコニコとしていたので話はおおむね信じてくれていたと思って話を終了した。
話し終わるころには野営場所として行き交う人々が使って場所を整えられた場所があったので野営することになった。無理しても街に辿り着くのは深夜から明け方になる距離だそうだ。
天気が良ければ遠目に見えなくも無いそうだが、あいにくと今日は見えなかった。
野営の手伝いとしてテントを立てたり、竈の使い方、火の起こし方、警戒の時の注意点など、教えてくれるものは全部覚えるつもりで聞いた。
2人とも性格は違うがそこが逆に良かったらしく、2人で組んでザールの商売を盛り立ててきたそうだ。一緒に旅するうちにお互いの長所と短所を補い合い色々とフォローしあうようになったそうだ。それぞれ最低限の技術は身に付けているそうだが、得意な方がやった方が良いと決まったらしい。
今回の旅でそろそろ腰を落ち着けようと決めたらしく、ザールは街で念願の店を開くことになっており、デテゴも一緒に街に残るか再度旅立つかは悩んでいるところだそうだ。
2人とも20代後半から30代入ったかなというところだから安定を考える年齢だそうだ。
「好きなことやってるんだから、それはそれで良いんだけどな」
「私は最初から荒事は苦手ですから、ようやく店を構えるだけの金と、それから伝手と場所を手に入れて提出できるように書類にして揃えましたから」
「俺はまだ悩み中だよ。冒険者組合から教官の話はもらってるけどな。自由に旅に出ても良いかなと思ってはいたんだが…」
その微妙なニュアンスがありそうだが、まだ踏み込んで良いのか分からないイレブンは気が付かなかったことにした。
「僕はしばらく生きていけるように環境を整えようと思います。何をするにしても準備が大事ですからね」
「若いのに堅実ですね。立派なことです」
ザールに褒められて照れながら和やかにその場は終了した。
☆ ★ ☆ ★ ☆
そろそろ寝ましょうとザールに促されてイレブンはテントに入って眠らせてもらうことになった。夜番はデテゴの仕事なのだそうだ。
「この街道は2日もすれば到着する道だ。どうせ荷台で寝ることも出来るから良いんだよ。これくらい冒険者なら慣れっこだ」
そう言って引き受けてくれた。ザールからも気にしないで良いことを伝えられた。
「いつものことだから大丈夫です。そんなに気になるなら早く寝て、早く起きて彼が早く眠れるようにしましょう」
こう言われると眠るしかなくなる。朝起きて朝食が出来るまで仮眠してもらうなり、何か出来ることはあるはずだと考えることにした。
だが人がいるところで寝るのは久しぶりだし、自分以外の人のにおいがあるところで寝るのは少し緊張する。この時間で考えを整理する。判明したのは現在の状況だ。
(今は王国歴104年、本編が始まるのは203年だから本編よりも約百年前ってことだ)
本編が始まる王国は存在している。町や村はそのままのようだし、技術的にも大きくは変更無いようだ。王国歴が104年なだけでその前に千年以上別の国という形で文化は存在していたからな。
魔国も魔王4人が争っているそうなので大魔王はまだいない。色々な種族で小競り合いはしていても、他国からの干渉に一致団結する気風は相変わらず。
一番気にしていた帝国は、まだ小国だった。発展するのはこれからのようだ。しかもラスボスが台頭するのは本編の始まる10年前から。今から約90年後のはずだ。何か動く前に探し出して始末してやろうかな。
あの皇帝は存在するだけで害悪だ。一言で言えば嫌いだ。やらかすことが非常に不愉快だった。そのため本編クリア時には可能な限り鍛えて手も足も出ない状態で甚振って倒していたし、クリア後の鍛え上げたデータで暇つぶしにプチッと潰していた。
余りの嫌われっぷりに最短の開始から何秒で始末できるかのタイムアタックにもなっていた。栄えある優勝者の時間は9秒35だ。男子100M走の世界記録よりも僅かながら早い。タイムを出したのは画面の向こうの友人の一人だった。
お気に入りのキャラを使い捨てにされたことを根に持っていたので限界に挑戦したそうだ。いや、話がずれた。
(更にザールとデテゴか。道具屋カンパニーの前身を築いたのがザールで、その無二の友人がデテゴだったよな。でも、デテゴは何かに巻き込まれて死んでしまったって設定だったよな)
これについてどうするかを悩んでいるうちに疲れが残っていたのかイレブンは眠ってしまった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
イレブンが同じテントで完全に寝付いたことを確認したザールはこっそりと起き出すと外で火の番と警戒をしているデテゴの近くへと寄った。
「やっぱり寝ていなかったのか」
「隠してはいましたが言い分は信じられないものの、一晩野営したのは本当でしょう。明らかに疲れていたので。眠りやすい状況を整えただけですよ」
「相変わらず子どもには優しいな」
あくまで大声は出さずに気を付けてザールが早口になる。
「当たり前でしょう。人の可能性というものは尊いものなのですよ。私が助けてもらったように、私も命を助けられるような何かをしたいと考えて道具屋を開くのです。安価で高性能な薬を揃えたり、便利な魔道具を扱ったり、野望は色々とありますよ」
「分かった分かった。耳タコだよ」
呆れたようにいうデテゴを見て、落ち着いたザールは再度所定位置に座り直す。先程とは違う表情を作り、表情を引き締めてデテゴに相対する。
「あなたからみて、イレブンという少年はどう判断しますか?」
「悪い奴ではない。隠し事はしている。荒いが気遣いも出来る。そして、おそらくだが強い。ただめちゃくちゃだ」
「その3つは私も同意見です。でもめちゃくちゃとは?多少強いのは分かりますが、私と同じくらいでしょう?」
デテゴは今はな、と呟くと焚火に薪を一本追加する。火が付いたことを確認すると、野営をしているときに酒は飲めないので代わりのタバコを焚火から火をつけて味わう。少し吸ったところで呟きの真意をザールが待っていることに気づき続けた。
「今日一日だけでもあいつの動きが格段に良くなった。おそらくレベルが上がっている。だが、それだけでは説明できない何かはありそうだ」
「そうなんですか。なんとなく強いなって感じは分かったんですが」
「あの分なら街に着くまでに何度か戦闘をくり返せば、お前では勝てないくらいにはなるだろうな」
「なるほど。では将来のお得意さんになるかもしれないなら、仲良くしておいた方が良いかもしれませんね」
「そうだな。俺もすぐに旅には出ずに少し見守ることにしても良いかもしれないな」
「とどまってくれる方が良いのですがね」
「さて、どうするかな」
デテゴも自分の身の振り方に悩んでいた。
お読みいただきありがとうございました。