獣人の村での用事はこれで一旦終わり
お楽しみ頂けると幸いです。
黒幕がいるのかどうかについてもいるかどうかすら分からない。まだ何もわからないし、一旦置いておくしかない。偶然にしては色々と重なり過ぎている。だから尻尾を掴んだら即対処する。それだけは間違いない。
村に着いたけれど相変わらず俺は特に疲労無し。獣人族の方々は結構息切れ中だ。ミケンダはその中でもマシかな。獣人たちは何が何でも自分からは休憩って言わない。これが肉食系由来の獣人であれば余計にその傾向が強い。
意地が強いってことは一つの才能だとは思う。性格が悪いとは思うけど見てる分には俺は楽しい。強くなってくれたら村も平和を保てるし、それで良いかと思っておく。なんかね、尊敬の目線もあるけど、ライバル視というかなんか面白い奴見つけた~って目で見られてるんだよね。
可能なら格闘術の手合わせをしてみたかったが、今回はそこまで時間が取れそうにない。獣人特有のスキルもあるみたいだからいずれ手合わせをしてみたい。残念だが次に来た時にそれは置いておこう。
「あとは栽培やってみても良いって獣人いた?」
「いるっすよ。狩りを好まないのもいるっすからね。野菜育ててる獣人がいるんすけど、ついでにやってくれるっす」
「ありがたい!」
「引き受けてくれる方に会ってみるっすか?」
「もちろん!」
これから俺にとって必要な行動の堂々第1位は魔力草の栽培だ。これが無いとSPポーションが作れないからね。魔石の入手先も必要ではあるが、自然のことでもあるし一番時間かかるところからやっていこう。
ゲームみたいに放っておいたら勝手に育つわけでもないだろうし、成長するのにどれくらいかかるのかもやってみないと分からないしな。
ちゃんと育ててくれれば俺が確実に買い取るし、万が一作りきれなくて余ることになっても在庫についてはザールさんに頼めば良い。王国の経済を破壊しない程度の舵取りはしてくれるだろう。
獣人たちに必要な物資を渡す代わりに労働力で買い取る形だ。しばらくは俺のために作ってもらうけれど、俺が必要なくなったら自由に販売してもらって構わないと伝えている。
やってもらったのに成果が出なくても生きるための食料などの必需品は支給することにしている。その窓口になってもらう誰かも決めてもらうようにお願いしているけど誰がなるのかなぁ。
「育てると手を挙げてくれたのはこちらの2家族っす」
「「よろしくお願いします!」」
「ニッツとラッシーじゃないか。そのご家族の方で?」
「はい。助けて頂いたとご恩を返させていただこうと思いまして」
「娘の命のお礼は働きで報いさせていただきます」
ニッツは鹿の男の子、ラッシーはアライグマの女の子だ。元気に声を出しているところを見ると特に心の傷にもなっていないようだ。良かった。それにそれぞれ父親が来てくれている。
「僕らもちゃんと作業するからね!」
「まかせてください」
「お願いするよ。ありがとうな」
頭をぐりぐりとなでておく。あんまり触らせてもらったことないけど、人間の髪の毛と違う。毛並みが良いってこういうことをいうんだな。手が幸せだ。
いつまでもそれは失礼だし、父親たちにはしっかりと挨拶しておこう。
「引き受けてもらってありがとうございます。本当に助かります。こんなにはやく手を挙げてもらえるとは思ってなかったので、育て方はまた紙にまとめてきます。あと、自分もやったことが無いので、どうやったら成功した失敗したってのは特に聞きたいです。」
「紙、ですか」
「あ~、イレブン。獣人はよっぽどでないと字を読む習慣は無いっす」
「そうなの!?それはすいません。じゃあ自分用にまとめて…」
それを見ながら説明することにしておこうと考えたら、続いてドヤ顔でミケンダが横に立っている。
「オイラは読めるっす。だから読み書きは代わりにやるっすよ」
「そうか、ならそれでお願いするけど。一応なんで珍しく読めるやつなのか聞いても良いか?メラノさんと一緒に勉強したかったとかいう理由以外なら」
「う…」
当たりか。ドヤ顔がそのままで固まる。多少イラっとしたからすぐに突けて良かった。
「面白くないっす」
「うるせー。お前を笑わせるためにやるんじゃないやい」
「「ふんっ!」」
まあそれを見守っていた面々に笑われてしまうわけだが。仕切り直して諸々の話をした。土の状態について聞かれたが、ゲーム内の栽培については土の準備なんて項目はなかった。
そこも含めて試していこうとは伝えたが、森の中に自生している植物だから畑の土、森の土など条件を変えてまずは小規模に始めていくことにした。
水やりなどについては主にニッツとラッシーがやってくれる。どれくらいで芽が出るかは分からないけれど、持っていた魔力草のタネを一緒に植えていった。
あとは小魔石を粉にして畑全体に撒いておく。水は普通の水でも良いが、初回は撒き方の見本を見せておく。イメージは雨を降らすように細かくだ。
だが問題発生。いつもは柄杓で水を撒くそうだ。ここにはジョウロは無いらしい。今度自作してプレゼントすることに決めた。
作業が大方終わったところでそろそろ出発する時刻が近づいて来た。ニッツとラッシーたちとは一旦お別れする。
そのまま帰ることを話すと今回は見送りでミケンダがついてきた。
「じゃあ、すぐにまた来れると思うけど次来るときまでフレンドビーたちと農地のこと頼むな」
「了解っす。今回はすることあるので村に残るっす。イレブンについて走るのは大変だし。ただ、お願いしたいことがあるっす」
「何かの買い物か?足りないものがあるなら遠慮なく言ってくれていいぞ」
「借りがすごいことになりそうっすね。とりあえず知っておいてほしいのはオイラは巡視隊じゃなくなったっす」
「え!?なんで!?」
巡視隊のときと似たようなことをしていたじゃないか。農作業のときもついて来てたから違うと言えば違うけど。
「オイラの新しい役職名は外交役っす!人間の国にはそんな役割があるらしいっすね?今のところ取引するのはイレブンとザールだけっすから。顔見知りのオイラが一番早いってことになったっす。元からユーフラシアにも行けるような感じってのもあるけど」
「あ~、なるほど…」
まあ人当たりは良いし、冷静に人を見ることもできるみたいだし、適任と言えばそうなのかも?
「あとはイレブンの担当っすね。大掛かりになることが多いから把握しておく役割っす」
「人を歩く迷惑みたいな言い方するなよ」
「そうは言ってないっす。ただ、良いことをしても規格外が過ぎるだけっす」
「褒めてないよな。それでお願いしたいことって何?
「それは本人から言ってもらうっす」
本人?と思ってミケンダの方を見ると後ろを示していたので振り返った。そこにいたのは村の中で見たことのある獣人たちがわりと大勢いた。リーダーやお喋りのジェイブもいた。
その前に旅に出る格好を整えて、横に個人の荷物を置いている獣人が一人。
「ぼくを一緒に連れて行っておくれよ!」
「何言ってるの?村長じゃなかったの?」
自信満々に胸をはって立つリセルだった。
「この村での村長は形だけの役職だからいなくても大丈夫なんだ。ぼくの役割は強いて言うならイレブンみたいな人間に出会うために待つことだったからね。それに従うだけなのさ」
「え?どういうこと?」
「リセル様は何の獣人か分からないんすよ」
「そうなんだ?」
ミケンダの説明に頷いているリセル。というか周りの獣人たちは見送りだから拒否って選択肢自体が最初から無いことをうっすらと悟る。
「お兄さんに助けてもらった晩にお告げがあったんだよね。ついて行けば自分のことについて分かるだろうって」
「本当に?」
「本当に」
ミケンダの方を見る。頷きで返される。獣人の皆さんの方を見る。ニコニコと笑顔を見せられる。
「と言ってもまだ何回もここに来ることになるよ?」
「構わないよ。いきなり長年暮らしていた村から離れるのは寂しいから慣れるためにちょうど良いし」
「断る選択肢は最初から無さそうだし。良いよ。ついてきな」
「ありがとう!お兄さん」
喜びの表現のためか抱きついてきたけど、まだまだ子どもの獣人だ。とりあえずなされるがままにしておくと自分で肩車の位置まで登ってきた。
「じゃあさっそくしゅっぱ~つ!」
「おりろ」
お読みいただきありがとうございました。