蟻が大量発生していた理由
今日もありがとうございます。お楽しみ頂けると幸いです。
今は夜、割り当ててもらった寝床に寝ころんで次に試す方法を考えている。食事も取らせてもらって場所の確認も済んでいる。かかる時間から考えれば明日一日で巣は2つとも処理することは可能だ。
ただ、どうやったら効率よく倒すことが出来るだろうか。可能なら森への被害も少ない手段が望ましい。水も土も手っ取り早く思いついたものをやってみただけだ。昆虫というには大きすぎるが、特徴や弱点などを考えてみるべきだろうか。
蟻系魔物は属性的には甲羅が硬いからか火耐性がある。既に一撃で倒せるようにはなっているが、硬い殻のおかげで防御性能も良い。
ザールさんに渡したら簡単な防具が作れるだろうと言うくらいだ。在庫の限りではあるが大量に卸すことが出来るので、試作品を経て大量に出回るだろう。まあ活用されるならそれで良い。肘や膝当て、胸当てなどになるらしい。
話はそちらではない。倒す方法を考えよう。いっそ巣穴に乗り込んでいけたら楽なのだが、蟻がギリギリ通れるくらいの大きさでしかないので人間は通れない。入ることができるのは子どもくらいだ。
あとは入るとしたら空気くらいか。空気穴は通っていたのでそれで窒息を狙うか?考えつくがすぐに否定する。全部を塞ぐのはあまり現実的ではない。明確な空気穴でなくても土も呼吸しているから多少の空気の出入りはある。
どう穴を広げているのかも探索するのに時間もMPも必要となる。あまり効率が良くない。真空にするのも無理だ。それこそ一網打尽にするには溶岩を流し込むくらいのことをしないと簡単にはいかに。森に取って天災だからしないけど。
上手くまとまらないことに溜息を吐いたときに閃いた。ふと閃いた。天災か、あれならどうだろうか。そう思ってスキルポイントを振ってみる。むしろなぜ最初に気が付かなかったのか。今日の反省を活かすことが出来る。あとはやってみるだけだ。
「うん、明日が楽しみだ」
そう言って窓から見える星空を見た後目をつむった。まだ少し夜の空気を味わっておくつもりだったが、あっという間に眠ってしまっていた。
移動で疲れていたのかあっという間の感覚で朝を迎えた。夜行性の獣人もいるので、切り替わりの時に起こしてまわる役目の者がいる。起こしてくれたのはフクロウの獣人だった。起きる時間の指定はリセルの指示だったらしい。
手短に支度を整え今日の案内役の巡視隊の人を紹介してもらって一緒に移動する。ついて行くだけで現地に到着だ。今までのものと違って森の中に出来た広場っぽいところだった。これくらいあると地上の制圧はしやすい。ということで。
「おっし、地上制圧は完了だ。巣に取り掛かるぞ」
特に数が出てくることも無かったので割と簡単に終了する。案内役を務めている巡視隊の人は遠くへと移動してもらった。思いついた方法は至極単純、地面の下に巣があるなら地面そのものを武器にすれば良い。
まずは昨日と同じく土を巣の中へと流し込む。巣を作るのに運び出されたのを補填しないと大穴が開いてしまうことになるだろう。時間経過でなくなるのか残るのか知らないけれど、今存在してくれればそれで構わない。
流し込んだところで取得した魔法を使用する。
「大地魔法『大地凝縮』!!」
魔力の及ぶ範囲を限定して流し込んだ土も含めて本物の土も巻き込んで凝縮する。その間に挟まれた魔物がいたとしたら押しつぶされることになる。結果、1分もしないうちに魔石が大量に発生した。
「よし、これが一番早いな!っとと…」
まだ慣れていないため立ち上がるとめまいがする。しばらくは大人しく座って回復を待とう。最後の1つに取り掛かる前に固めたままでは森に悪いので元の柔らかさへと戻しておく。そこでもグッとMPを消費してしまって倒れそうになる。
少しずつMPポーションを飲む。魔石の出現を見て近づいて来ていた巡視隊の人にも心配させてしまった。申し訳ない。でもこれで地面の下に手を出すこともできるだろう。魔法を色々取得したから魔攻の値も伸びた。大雑把に攻撃するならしばらくはこれで通じるから、次の段階へと目を向けよう。
特筆することも無くもう一つの巣も対処を完了させる。特筆というなら戻ってきてからの方がそれに当たるだろう。
☆ ★ ☆ ★ ☆
戻ってきてまた休息を取らせてもらっている。少し村の中を散歩している。およそ森のほぼ全域の駆除は終了のようである。簡単には討伐出来ない数だったから対峙しきれて良かった。
クイーンアントは大魔石だから巣に1つあることは確認している。ドロップアイテムもスタンピードでなくても増えすぎた魔物の処理は必要だから間に合って良かった。
そこが友人たちの住むところなら手伝うくらいは訳はない。獣人たちもほっとしてくれているようだ。正直なところ獣人たちからお礼をもらう義理は無いのだが、何か用意してくれているらしい。
自分の好きで行ったことに対して過剰に言われるのは逆に心苦しい。一部だけで構わないので信用できる人間とは仲良くしてもらうことだけお願いした。現状はそれだけでも十分だ。どうせならもう少し俺の準備が整ってからお願いしよう。
これで心配していたような魔国との対立はなくなると考えて良い。肩の荷が下りた気分だ。明日にはまたユーフラシアへと戻ってザールさんが言っていた事柄に対処するとしよう。
そこへイレブンの名前を呼びながらミケンダが走ってくることに気が付いた。
「蟻じゃなくて別の虫の魔物の巣を見つけたっす!イレブンに対処を何とか頼みたいっす!」
「獣人たちでは難しそうなのか?」
「いや、なんならオイラだけでも対処できるっす。むしろこれはイレブンへのお礼のために引き受けてきたっすよ」
「まてまて。意味がわかんないよ。念のため付いてきて、なら分かるけれどさ。あんまり俺を頼り過ぎるのもダメだと思うぞ」
あんまり手を出し過ぎてもいけないのではないか?頼られるのはそう悪い気はしないけどさ。
「とか言いつつ、頼られたら嬉しいって感じてるのはバレバレっす」
「ぎくっ、…はいはい。そうですよ。帰る時間には余裕あるから大丈夫だよ。でも、獣人たちだけでは難しいの?手の出し過ぎは良くないと思ったんだけど」
照れ隠しすら見破られるようになったか。恥ずかしい。
「対処は出来るんすけど、イレブンがやる方が良いかなってオイラが考えたっす。それに獣人も苦手とするタイプなんす」
「そこまで言われると俺も対処できるか自信持てないよ」
「絶対にやるって言うと思うっすよ」
楽しそうに言ってくれるじゃないか。短時間とはいえ気の合う友人となったミケンダがそこまで言うからには期待をしようじゃないか。
「で、相手は何なのさ」
「ふっふっふ。相手は…蜂っす」
「オッケー、やる」
「即答してもらえると思っていたっす~。明日朝一で行くっす。見たことの無い種類だったから念のため有志が何人か随行するので連絡してくるっす。準備しとくっすよ~」
いつかテイムしようと狙っていた魔物じゃないか。自分でも目つきが鋭くなることが自覚できる。タイミングがあれば絶対に捕まえるつもりでいたが、こんなに早く機会に恵まれるとは思っていなかった。
楽しみにしていたが、巣をみつけたところに近づいていく。しかし途中で見かけていた働きバチを見て悩んでいた。
「あれば巣っすよ。さっきからどうしたっすか?」
「う~ん、ちょっと迷ってる」
言うべきではあるだろう。せっかく見つけて俺のためにとここまで連れてきてくれたのだから。
「あの蜂は本当ならフレンドビーっていう種類の名前だ。その名前の通り友達になりやすい種類だな。でもたぶんあいつは既に人間とは敵対することを選んでいるっぽい」
近づく生物に対して好意的であれば通常の黄色のままだが、敵対的なら目が赤く染まる特徴がある。もうね、さっきから眼が真っ赤に染まったのが飛び回ってる。
弱い種である代わりに友好的な関係を結んだ相手を守護者に置いて守らせるはずなんだけど。もしかして蟻があそこまで色々なところに広がっていたのはこいつの仕業か?こいつの蜂蜜はうまくいけば普通のハチミツから最高級品のハチミツまで幅広く変化していたはずだ。同じ虫なら栄養たっぷりの食料になる。
なんかそんな気がして来た…。どうしようかな…。
お読みいただきありがとうございました。