ついに気が付く
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貴族が国を出るって大変なんだなと思ってデテゴの方をチラッと見る。目が合ったらげっそりとした顔で頷いていた。自分の時のことを思い出したのか、サティアーナさんのことを考えてそうなっているのかは知らないが。とにかく確信犯的に国から追い出されるような状況を作り出したんだろうな。
言葉通りに信じるなら国中の依頼を自分に可能な範囲でだが、大量に解決していったみたいだ。パッと見はすごく良いことをしているように見える。でもたぶんそうじゃない。
この前教えてもらった話だと今の帝国はそこまで大きくない。帝都でさえこのユーフラシアの倍くらいの大きさだそうだ。王都に比べると半分の大きさくらいだということになる。
需要と供給って話がある。どんなものであっても、必要とされる量とそれを満たそうとする量が釣り合うように成立しているという話だ。軍隊もいるらしいけど過剰に依頼が溢れるような状況ってのは考えにくい。実際に国として存在する以上は経済や治安などの面から釣り合いが取れるように調整する何かは自然と行われるものだ。冒険者の支店から考えると自分たちが生活をしていくための稼げる依頼が無ければ当然移動する。だから一定数の依頼の確保は組合の腕の見せ所らしい。デテゴが調子よくそんなことを話していた。どんな依頼でもこなしていけるような冒険者を鍛え上げていくのが俺の当面の目標だ、とか言っていたな。
その均衡状態が取れたところに新規参入者の1人が意図的に大量に冒険者の依頼を受けるとどうなるか。もしかして公爵家の力も使ったのか?さすがに国をひっくり返すようなことまではしないよな?
依頼する側は解決すれば問題は無い。しかも公爵家で美人のお嬢様が解決してくれたのなら嬉しいことだろう。狙ってやっているんだから人気取りのために相当愛想よく振舞ってもいるだろう。
対して受ける側の冒険者は受ける依頼が無くなると生活できなくなる。つまり冒険者たちの生活を干上がらせたんだ。それ自体は公爵家のお嬢様だから咎めにくい。他に止める手段が無かったから彼女の出国を認めるしかなかったんだろう。言い訳は武者修行のためとか、貴族の務めよりも世界のために力を役立てたいとか。
冒険者の質はもちろん大事だが、当然人数がある程度必要なことだってある。この世界に運営はいないがスタンピード現象は起こるそうだ。強い人間が1人では対処しきれない。
しかもサティアーナさんはいずれ何らかの手段で出国することがほぼ間違いないほどの確定事項だ。公式に認めていなかったら亡命や国外脱出も充分にありえた。
サティアーナさんが受けきれなかった依頼をこなしているだけの冒険者で良しとするか、彼女の主張を認めるかの二択を迫られたんだろうな。なんとはた迷惑なことをしでかすんだ。しかし、その人が今目の前にいる。
ま、こんなの全部俺の妄想だから本当のことが半分でも入っていればすごいってところだろう。
それでもザールさんは同じことをしかねないからそれが何か悪いですかって感じで意気投合するだろうし。メディさんもこの件に関してはザールさん寄りの考え方をするだろう。ザールさんに毒されたと言っても良い。恋する女性ってことでサティアーナさん見方をするだろうし。
細かいところまで気づいてないのはミケンダとメラノさんだけか。欲しいものは力づくで手に入れろ、の獣人族だから違和感も特にないんだろうな。経済の話は分からずとも自分の目的のために努力したところだけは理解したっぽい。
2人はこの際置いといて、頭を抱えているのはデテゴだな。そこまで思われているなんて嬉しいことじゃないかと笑顔で肩を叩く。自分でもどんな表情をして良いのか分からないよ。
まあ仕事に一直線になって、貴族のいう結婚適齢期と労働者である国民の結婚適齢期が大きく乖離しているのは現代と同じのようだし、好かれている人との結婚がきっと幸せだよ。
そういう気持ちを込めて笑顔を見せる。
「結婚おめでとう」
「サティ、少し話をさせてくれよ…」
「わたくしは構いません」
「聞きたいことは聞けたから、俺はもういいよ。お祝いも言ったし」
そう言って立ち上がる。もうそろそろ出発しても良いかな。そう言うと引き攣った笑顔でデテゴが引き留めようとする。
「感覚が一番近いのはお前だけなんだよ!」
そうだろうねとは俺も思うけれど。逆に2対5の勝てない戦いをするよりも、傍観者として戦いを避ける方を選択する。
「元とはいえ皇子殿下と同じと評していただけるのは光栄です。でもそろそろ行くよ」
腰を浮かして2人に出発を告げようとしたとき、そこでサティさんがぶっこんできた。
「デテゴ様、わたくしのような女はお嫌ですか?」
「「えっ!?」」
「幼いころに結んだ婚約にしがみつく女はお好きではないですよね」
「いや待て、サティ。多少驚いたことは確かだが」
悲しそうな顔を見せるサティアーナさんの方へと慌てて向きを変えるデテゴ。話し方が本名を打ち明けた時と同じような口調になっている。いつもの話し方はやっぱり多少作ってるんだな。俺もまた面白い事態になったとみて座り直す。
「正直な話をすると婚約の話は王族と公爵家の繋がりを象徴したものだ。それに縛られる必要はないのだぞ?」
「デテゴ様と私の繋がりのきっかけはそうでしたが、交流をするうちにわたくしにそんなことは関係なくなりました」
「そうだったのか?」
「はい、その……、デクロズ様をお慕いしてしまったものですから。はしたないことをお伝えしてしまって申し訳ありません。でも、それくらい思っていなければ何年もかけてお探ししたりはしません」
「それは、そうかもしれないな。そこまで慕ってくれていたことについては感謝する」
そう言って、非常に言いにくそうにデテゴは続ける。それは彼が一番心に引っかかっていたことだ。
「しかし、俺は仕方なかったとはいえ君を捨てて逃げた男だ。本来なら貴族令嬢として幸せに暮らすはずだったあなたの人生を狂わせてしまったことについては謝罪する。謝罪などでは許されるものではないのだが、まずはそれだけでも受け取ってほしい」
「デクロズ様が国外に出たことは仕方のないことでございました。私ももう少しお力になれれば良かったのですし、こうしてお気持ちを聞けただけでわたくしは嬉しく感じております。ですが一点だけ、決して私としては誇りを持って生きております。狂ったなどとは思っておりませんので」
「そうか。そう言ってくれると嬉しい。私も一目会えただけでも嬉しかったよ」
いつもの笑いではなく、優雅な微笑みを浮かべている。教養って凄いな。デテゴにこんなことが出来るなんて。
テレビ越しに見るなら良いけど、知っている人の本気の恋愛話を見ているのはこっちがすごく恥ずかしい気分になる。というかそう考えるのならデテゴがやっぱり責任取った方が良いんじゃないかな。本人は主張しているのはそこだしな。
そんなことを考えているうちに話が佳境に入ったようだ。
「ご迷惑であれば私はここから去らせていただきます。でも、可能であれば妻という形でなくとも、お傍にいる、いえ、この街に留まることだけでもお許し願えないでしょうか」
そう言って一筋の涙がこぼれる。デテゴはそれを見て少し迷ったが、サティアーナさんの頬に残る涙のあとをぬぐう。
「確かにサティは昔から俺のことを慕ってくれていたな。そうだったのか。感謝する。そうか、私はあなたのことを勘違いしていたのかもしれないな」
「デクロズ様」
「ここでは何だ。また別の機会に話をさせてもらっても良いだろうか」
「もちろんでございます!」
そう言ってお互い見つめ合えるように座り直して、過去の思い出話を始めてしまった。
ちょろい!お前よく王族やれてたな!
そう思ってしまうのは俺だけだろうか。知らなかったとか言って顔を赤くして呟いてるんじゃないよ。サティアーナさんがデテゴと結婚したいのは本当だろうけれど。
「嘘無しの真実のみで相手に信用させるとは、やりますね」
「ザール!」
道具屋と薬師夫婦は諸々分かった上で話をしてるし、獣人2人は途中で飽きて思いで話を始めてしまっている。隊長のしごきも2人でやれば大丈夫でしたか。そうですか。
あれ?ここで恐ろしいことに気が付く。
俺だけ1人?
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