サティアーナさんの話を聞こう
お楽しみ頂けると幸いです。
三人で即相談して出発を少し遅らせる。今日の日が暮れるまでに帰ればいいのだ。2時間くらいなら遅くなっても大丈夫。荷物は俺が持つからもう1時間までは更に延長しても良いかな。こんな面白そうな話は聞かずに放っておくわけにはいかない。
都合よくデテゴは休みだし、あとの3人もサティアーナさんに仕事の説明をするつもりで午前中は店を閉めることになっている。
椅子を一つ食卓に増やして座る。デテゴ、を起点に時計回りにサティアーナさん、メディさん、ザールさん、ミケンダ、メラノさん、俺で座っている。
「デテゴさ、ミケンダとメラノさんに話しても大丈夫?2人は信用してもいいだろうからさ」
「もう名前を聞かれてしまってるからな。変に中途半端にするよりはしっかりと説明しておく方が良いだろう」
「申し訳ございません…」
自分が原因なので怒りきれないデテゴと自分の失態にひたすら恐縮しているサティアーナさん。静かな状態も少し居づらいので、先に軽く説明役を引き受けておいた。
と言っても、デテゴが帝国の元第三皇子であることと、そこからの十数年の中でひたすらたくましく育っているのだろうことを話しただけだ。サティアーナさんにも俺から見たデテゴが頼りになることも話している。
俺の知らないことについてはザールさんが説明してくれた。というか最初からそうしても良かった。まあ複数人から話す方が良いということで許してほしい。
メディさんが再度飲み物を淹れなおしてくれたところで、ようやく2人から話を聞くことになった。
「まずは初日からご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。ご丁寧に場を設定して頂きありがとうございます」
「いえいえ、とんでもない。全く知らないよりも知っている人の方が雇う側としても安心できますからね。あと、ここにいる者はデクロズ殿のことをデテゴと呼んでいるのでご容赦くださいね」
「では、デテゴ様とお呼びさせていただきます。よろしいですね?」
「あ…いや…」
「よろしいですね?」
お~、これが威圧か。サティアーナさんがデテゴの方を向くとちょうど俺も範囲に入る。バシバシ感じるよ。本来はデテゴに効くようなものでは無いはずだけど、めちゃくちゃ効果あるな。これはかなり過去にやり込められているな。
「まずは自己紹介させていただきます。わたくしは、サティアーナ・ファ・ホワイトリバーと申します。ホワイトリバー公爵家の第四女でございました。家は出奔しており、今はただのサティと名乗っております」
「本物の貴族のお嬢様じゃないっすか!」
「昔の話です。教育は施されましたが、剣を握っている方が性に合っていたはしたない娘でございました」
「そうだ。こいつはそんな『お嬢様~』なんてもんじゃ……でぇ!!」
「デクロズ様…ではありませんでしたね。デテゴ様、そんなことを言われると悲しくなりますわ」
今は決してテーブルの下を覗いてはいけない。デテゴが足を抱えていても気にしてはいけない。この人たぶんものすごい内弁慶なお転婆お嬢様だ。たぶん全員が把握したところでザールさんが話を進める。
「それで、サティアーナ様は」
「ザール様は雇い主でもありますから、敬称は不要ですわ。気軽にサティとお呼びください。貴族位も返上してきておりますので」
「はぁ!?お前、マジか!?」
デテゴは思わず立ち上がってサティアーナさんの肩を掴む。肩を掴まれたことが嬉しいのか少し喜びつつも、すぐに表情を引き締めてデテゴに顔を向ける。
「落ち着いてください。お座りなさいませ」
「いや、しかし!」
「デ・テ・ゴ・さ・ま」
「はい、座ります」
そのやり取りに何が含まれているのかさっぱり分からないが、座って小さくなった。あれ?物理的に小さくなった気さえする。
「話が進まないのでどんどん行きましょう。まずサティさんの冒険者としての経歴を私から紹介しますが良いですか?」
「はい。お願い致します」
「では。サティさんは元金級冒険者で二つ名は『剣舞の姫』と呼ばれています。女性ながら凄まじい剣の使い手だと聞いています。メラノの護衛ということで採用しましたが、報酬を少なくする代わりに弟子入りすることで契約しています」
「元金級冒険者…」
「メディさんの弟子か…。もう兄弟子になるのかな」
「そうじゃないっすか?」
「それは後でいいのよ。今はちゃんと聞くのよ」
「「は~い」」
デテゴは冒険者としてのランクで負けていることにショックを受けているようだ。さっきから少し色が抜けてしまっているように見える。
「続けますよ。僕の店が出来るまではこちらで薬を販売するので店員もしてもらいますが、開店したら販売は引き取るので、護衛と弟子をお願いすることになります」
「なんで薬師の弟子になろうと思ったんすか?」
「デ…デテゴ様はあまり強くなかったというのにやんちゃをされる方でしたから、薬学の勉強はしていたんです。私も勉強していたつもりですが、年下であるというのに遥か上の実力をお持ちのメディ師を見て尊敬しておりました」
「メディ師とか、恥ずかしいね」
「いえ、ぜひそう呼ばせてください。弟子入りを条件に雇っていただいているので」
「本当なら金級冒険者を引退させて雇うのは無理なはずなんですけどね。双方納得の上なので問題ありません。ぼくが知っているのはそんなところですね」
デテゴを見た感じ、その呼び名からも逃げられないと思うな。しかし、相変わらずむちゃくちゃ有能なザールさん。それに金級冒険者なのによく引退できたなぁ。なん…はっ!?
「今、何かお考えになりましたか?」
「いえ、何も!」
心を読まれた!?女性の禁止事項を思い浮かべることすら察知するとか桁が違い過ぎる!無心で聞こう。
「それでは搔い摘んでわたくしのお話をさせていただきますね」
☆ ★ ☆ ★ ☆
デテゴ様との出会いは幼いころでしたね。お互いに跡を継ぐことを期待されておらず家の強化に使われるはずだったのですが、わたくしがデクロズ様に一目惚れをしてしまいまして。話の中ではデクロズ様とお呼びするのをお許しください。
そのためならお勉強もがんばると言ってしまいましたので、婚約と相成りました。それまではわたくしもお転婆令嬢などと呼ばれてしまうほどでしたが、デクロズ様との出会いで心を入れ替えることとなったのです。
ですが、私が成人を迎える前にデテゴ様がデクロズ様がくだらない争いのためにお母様や護衛と共に姿を隠すしかない状況になってしまいました。あのときほど自らの無力を嘆いたことはございません。
勝手がまだ許されなかったわたくしは探す手段をいくつか講じたのですが、結果はご存知の通りでした。新たに縁談もありましたが、相手の方を見ても何も感じませんでしたのでお断りさせていただいていたんです。
その中で新たな閃きを得ることが幾度かございました。
「あなたを娶るためには何が必要なのか?」
私より強い方を希望するようになりました。その時には既に騎士団に混じって鍛錬をこなすことが日常でしたから貴族の生ぬるい鍛練しか受けていない方には負けることはございませんでした。
やがてわたくしと真っ向勝負では勝てないと分かると別の言い方をされるようになったのです。
「いつまでも帰って来ない元婚約者を待つ必要はないのではないか?」
ならばこちらから探しに行こうと考え、自由に活動できる冒険者になりました。父母に知られたときはしっかりと話をして理解してもらいましたわ。
しばらくは帝国内を依頼を受けて探し回りましたが、見つかりませんでした。どうしようかと考えているときにまた閃きを得ました。
「ヤツは帝国内の争いに生き残れなかった負け犬だぞ!」
帝国に嫌気がさしたのだ気が付くのに数年必要だった自分を恥じ入りました。閃きをくださったその方には最後の負け犬という言葉については訂正して頂いたのでご安心ください。
(今は夏ですからご自宅で窓の外でも見ながらゆっくりと静養されているだろうことはお伝えしなくても良いですね)
国を出て冒険者活動をするとなるとさすがにすぐには許可を得ることは難しかったので、国内で依頼をひたすらにこなしていました。数か月しないうちにわたくしの熱意は父母だけでなく国内に広がり、国をあげてわたくしを支援してくれる方が増えました。
祖国を後にはしましたが、今でも背中をおしてくれていることを感じますわ。
国外に出てからも色々とございましたが、ここで巡りあわせたのも運命でしたね。本当に喜ばしいことですわ。
金級冒険者はそれ以下と比べて活動量がハンパない(細かい設定は考えてませんが)とでも考えてください。
お読みいただきありがとうございました。