俺だけが取り残される話(すぐには気がついてない)
お楽しみ頂けると幸いです。
「だから言ったでしょう?みんなも驚くと」
「変って意味じゃないよな?笑われたりしてないよな?」
「メディさん、純粋に感想を言うと綺麗すぎてビックリしました。そういう意味の驚きです」
「いやぁ、人間の方でこれほどまでの方はちょっと見たことないっすね。あ、オイラにはメラノさんが一番っすよ」
「メディちゃん見た後で言われても自信無くすのよ。でもザールさん今度からは私もかませてほしいのよ。もっとお化粧とかさせてみたいのよ」
「メラノさん、その話詳しくよろしいですか?」
「もちろんなのよ」
そういって硬直から脱したメラノさんはザールさんと一緒にメディさんの腕を両脇からがっちりと拘束して食卓の方へと移動していった。3人の表情がそれぞれ印象的ですらある。
残された男3人だったが軽い感じでデテゴが話しかけて、中へ入るように促す。あまりの流れに動けていなかったことに気づいて一緒に店の中へと入る。
「俺も知らないメディだったな」
「デテゴさんでも知らないくらい前はあんな感じだったんすかね。なんか苦労してそうな感じもするっすね」
「そうだな。俺が出会った時にはもう前髪は下ろしてたが、ローブまで着込んじゃいなかった。俺の秘密を打ち明けたときに事情も含めて素顔を見せてもらったことがある。そのときにはもうザールと将来を誓い合っていたな。もっと前からな気もするがな」
「なんで髪をおろすことになったの?」
「それは俺が勝手に話して良いことじゃないな。まあ何が切欠かって昨日の会話の何かだろうが、吹っ切れたのだとしたら友人としては嬉しいことこの上ないな」
「イレブン、女性の秘密を勝手に聞くようなことをしてはいけないっすよ」
「ご、ごめんなさい」
まあ、そうか。目元を隠すってのは余程何かあったのだろう。はっきりと目が見えるようになってからの方が恥ずかしがっているというのは逆のような気がするが、そのうち慣れてくれるのだろう。
食卓には移動するといつも通り食事が用意されていた。さすがメディさんである。一日かけて磨いたとはいえ、食事の準備だけは欠かさずにいてくれた。持って来たものを所定の位置に保管してきたデテゴが白熱している2人を止める。
「おい、2人ともよく見ろよ。挟まれてるメディがオーバーヒートしてるぞ」
「おっと、ではこれくらいにしておきましょうか」
「メディちゃんごめんなのよ。でもがんばるって決めたのなら協力するのよ」
「はひ、ぁぃがとぅごじゃぃます」
頭から煙を出しかねない勢いでフラフラしている。普段から褒められると過剰に照れるメディさんだが、今日はいつもは褒められることの少ない外見だったからかいつもよりも激しいようだ。横で支えている人がいるから倒れることは無いけど。
さっと見た感じ、あとは個別に取り分ければ食事の準備は完了か。薬師の弟子として師匠のお手伝いでもしようかな。最後の配膳は俺が勝手にやってしまおう。みんながメディさんに集まる中、準備を先に始める。
「可愛がり過ぎましたかね」
「馬鹿、やりすぎだよ」
「いや、メディが私のために容姿を整えると言い出したから嬉しくなってしまいましてね」
「それでもやりすぎだと思うっす。メラノさんもダメっすよ」
「私の本当にやりたかったことは知っているはずなのよ?良いじゃないの!」
「メディを美しくする同志として聞き捨てなりませんね。そこも詳しく」
「はいは~い。ご歓談中失礼しますよ~。食事しながらにしましょう」
運ぶだけになったので途中で割って入る。さすがにみんな気づいて手伝ってくれた。ザールさんはそのまま現状待機だ。
「イレブン君すいませんね。客である君にさせてしまって」
「いえいえ。ここまで来たらほぼ勝手知ったるですから。メディさんは師匠であり、弟子ですし。やれることがあるならやりますよ」
ほとんどメディさんがやってくれていたので俺がやったのは仕上げに盛り付け、あとは配膳するだけだった。お礼を言われるまでも無く、運んでくれたら助かるってくらいだ。4人であっという間に準備完了だ。
食事中に聞いた事のまとめは、ミケンダの言葉がきっかけだったそうだ。俺たちが帰った後にメディさんから話があったそうだ。
『自分の女が美しいと自慢できるのは嬉しい』
という部分について。
「オイラじゃないっすか!」
「わたしは知らなかったのよ。ふ~ん」
「えっ!えぇ!?」
メラノさんはぷいっと顔を逸らした。表情が見えなくなったミケンダは凄く焦っているが、大丈夫だ。俺からは耳を真っ赤にしてすごくニヤニヤしているのが見えている。あとは2人でやってくれ。
ザールさんは惚気を話し、それを聞いて苦笑するデテゴに再度KOされるメディさん。立ち上がることを禁止されて慌てるミケンダとご機嫌を取ろうとしてくれるのすら嬉しくなって段々と赤いのが広がってきたメラノさん。
ものすご~く口の中が甘くなった俺は一人で食事を終えると勝手に片づけを始めた。寂しくなんか…あるわい!
「メラノさんの元々の夢って?」
「羊の獣人なのは知っての通りなのよ。何か服飾関係に興味があったのよ」
「あ~、羊毛ってそういう用途に使われますもんね」
「実際に作っても良いし、デザインを考えるだけでも構わないのよ」
「でも現状の獣人の村の状況では機能性が優先だったっす。これからは少し変わるのかもしれないっすけど」
「まあ今の生活も気に入っているのよ。服飾や裁縫だけに集中できるようにするには技術も足りないだろうし、そんな余裕も無いのよ」
なるほどな。これはいけるのではないだろうか。
「ちょっと話を聞いてもらっても良いですか?まさにそんな状況の方を探していたもので、ついでに獣人の村全体を巻き込んだ契約も考えていまして。巻き込みが可能か聞いてもらっても良いですか?」
話をさせてもらった結果、ミケンダとメラノさんは乗り気だ。獣人の村全体もほぼ間違いなく大丈夫とのことだ。何がその確信を持たせるのかは分からないが、いけるというなら大丈夫なのだろう。
ザールさんも可能な範囲で出資してくれるそうだし、回復してきたメディさんも加入は問題無かった。デテゴも何かが出来るほどの権限は新入りのためまだ無いが、銀級冒険者として意見を聞かれることはあるので協力は可能と言ってくれた。
あとは俺が安定して稼げるような手段を身に付けるだけだ。今あるスキルでも構わないが、生産系で何か良いものを考えてみよう。便利なものに囲まれた生活をしていたのだから、そこからアイディアを具現化すれば良い。ふふふ。
☆ ★ ☆ ★ ☆
結局メディさんはローブ姿に戻った。
「徐々に慣れていくから普段からは顔を出すだけにする」
その言葉通り、顔はちゃんとローブから出すようになった。隠す前髪が無くなっただけだが。こっそりとザールさんに聞く。
「でも、これ男が確実に言い寄ると思うんですけど?」
「大丈夫ですよ」
「ずっと張りつきっぱなしっすか?」
「開店してからの楽しみが更に増えたのですから、自身のやるべきことはしっかりと行いますよ」
ミケンダも一緒になって聞いてみるが、ザールさんは変わらずニコニコとしている。いや逆にもその笑顔がもう怖いよ。
「つっこんで聞かない方が良い気がして来た」
「そうっすね」
「お前らの心配しているようなことは起きないよ。もっと常識的な判断をする男だから」
「メディさんが絡んだ時は暴走すると思ってるから」
「オイラも同意見っす。野生の勘がそう言ってるっす」
「大丈夫…だよな?」
最終的にデテゴも不安になったのでしっかりと親友に確認する。ザールさんは頷く。
「今日の昼の買い出しのときに求人を出しましてね。良い人がいたので即採用しました。明日の朝から新たに店員を一人雇います。店員兼用心棒兼メディの助手という立場です。冒険者の女性ですよ。彼女さえ良ければ私の道具屋が開店したら店員は別の者を雇いますから、メディの助手として雇うことになるでしょうね」
「ってことは冒険者だったけど薬師になりたいということか?」
「元からメディの薬を愛用してくれていましてね。護衛や必要なら素材収集のことも含めて役に立つと売り込みをかけられていたんですよ。せっかくの渡りに船なので乗ることにしました。服を選んでいるところに偶然出会って売り込みをかけられました。話し合った結果、利害の一致しましたしね」
ザールさんは自分がいないときにメディさんを守ったり、動いてくれる人が欲しい。その女性は尊敬するメディさんの元で働きながら可能なら技術を身に付けたい、というところかな。
翌日の朝から来てくれるならせっかくだから挨拶しようとの話になった。獣人の村へと戻る予定だったので、次の機会としてしまうと先になってしまう可能性がある。
今後のことを考えて念のため顔を会わせておいても良いだろうと提案された。メディさんがいないときに初対面となっても面倒だし。店主不在の時に知り合いだと言ってもすぐに信用されない可能性もある。そんなややこしい話にもならないと思うけど。
外見は黒髪を背中まで伸ばした長身の美人さん。軽鎧と細剣の装飾もバランスよく、魔法的な力もこめられている感じがする。初日だからまずは用心棒を押して出してきたようだ。
ただ、その彼女が問題だった。
「デクロズ様!」
「ん?俺の名前を知っている?」
「わたくしです!サティアーナ・ファ・ホワイトリバーです!」
その名前を聞いてデテゴはハッと表情をして、少し顔色を悪くする。
「サティ…アーナ?なぜここに!?」
「やっと…見つけました!!もう、逃がしませんよ!」
「ちょ、ちょっと待て!」
「いえ、もう聞きませんし、逃がしません!幼いころの婚約通り、わたくしと結婚して頂きます!」
お読みいただきありがとうございました。