トレーニングもやってます。あと次回への引き
お楽しみ頂けると幸いです。
誤字報告頂きました。ありがとうございます。
はいはい。翌日ですよ。俺は結局宿に取っていた自分の部屋で寝た。本当に居心地の良い宿だよ。ミケンダとメラノさんも気に入ってくれていると嬉しい。
デテゴはちょっと落ち込んで帰宅していったけど強く生きてほしいと思う。さて、俺は今から宿に泊まった時の朝の日課である早朝トレーニングをする。
まずはランニングだ。まだユーフラシア全体のことを知っているわけでは無いので、大通りを中心に広い道を走る。同じ目的の人とは顔は知らなくても軽く挨拶する。
早朝から店前の掃除をしている人や仕入れてきた品を搬入している人たちの邪魔をしないように当然気を付ける。看板を見ておいてどこにどんな店があるのかを見ておくのも楽しい。
早朝トレーニングの理由はシンプルだ。体の感覚を磨くことだ。スキルが重要だとはいっても体を動かす感覚が磨かれていないと本番で動きがズレるし、それが原因で窮地に陥ったら笑えない。
何より動いてからの方が朝食が美味しい。作っているのが店主のおやじさんであるということが驚きだが。逆に元冒険者がそこまで出来るのだから俺もいつかはそこまでの腕になるだろう。俺が料理に興味持つなんて感慨深いなぁ。
スキルを上げれば良いとか無粋な問題ではなさそうなことは何となく察している。芸術系はそうなのかもしれない。数字に表れない感覚というか感性によるものがあるということかな。
走り終わってきたら宿屋の庭に戻ってくる。水分補給だけして、体が温まっているうちに格闘術のスキルを意識した上で体を動かす。型はあるんだろうけれど誰かの指導を受けたことがあるわけでもないので、動画で見た記憶を頼りに突きを打ち、蹴りを繰り出す。
一通り動かしたら大きめの丸太を出して突きを放つ。ずっと使っているものだから、打っている部分は段々凹んできている。筋力のステータスをこれ以上に上げてしまうと一気に壊れてしまうだろうな。右の正拳突きを終わらせると構えを逆にして左でも同じように行う。
他の動きを知らないから誰かに教わる方が良いだろうな。突きが終われば今度は蹴りだ。蹴りには違う丸太を使う。こっちは既に何度へし折ったか分からない。蹴りの方が威力が強いから仕方ない。
持って蹴るしかないから満足な動きが出来ない。少しストレスだ。本当なら魔法のトレーニングもしたいが街中でやったら確実に捕まってしまうのでガマンだ。今後は本気でトレーニングする場所も考えないといけないな。
一通り満足すると、こっそり見ていたミケンダとメラノさんに挨拶をする。
「気づいてたっすか」
「察知系スキルは動いている最中に使ってこそだからね」
本当は視界に入ったときに気づいたんだけど、それから索敵の練習にも使わせてもらった。使っていることをバレないのも練習の賜物だ。
「昨日はご迷惑おかけしました」
「デテゴのお酒って強かったでしょ?特に昨日は飲みやすかったらしいし」
「一口目で気づいたけど、もう頭が回らなかったのよ」
「いや、オイラかも謝るっす」
「気にしないでよ。お互いさまって言うし。俺と酒飲むときにはお願いね」
「は~い」
でも、酒は飲んでも飲まれるな、他人のふり見て我がふり直せとも言うからな。気を付けよう。
「謝罪代わりじゃないっすけど、格闘術なら少しお相手するっすよ」
「ほんとに!?ぜひお願いしたい!」
「良いっすよ~。ただ、スキルはあくまで格闘術という素地でどういった動きをするかはそれまでの鍛錬の成果っす。自分に合ったものを身に付けた方が良いっすよ」
「私たちは指の力が強いからそこを活かした戦い方をするのよ~。人によっては噛んだりもするのよ」
獣人っぽい話だな。声の大きさを調節したことからいっても内緒にしておきたいことみたいだ。
「それも手合わせすることに損はないっす。軽く組手をしてみましょうか」
「分かった。じゃあ、よろしくお願いします!」
殺し合いじゃない戦闘なんてほとんど経験が無いので寸止めを意識しながら行った。少し動きが硬かったからか最初はミケンダに軍配が上がったが、終わるころには五分五分くらいにはなった。
「イレブン君、こわいっす!才能の塊っすか!」
「強いのよ~。これでもミケンダは同世代の中では一番強いのに~」
それは知ってる。ここで惚気始める気か。
「俺もまあ色々あるからね。色々出来るようにしとかないといけないからさ」
少し休憩して談笑していると、女性の大きな声が響いた。
「あんたら!早く朝食に来なさい!片付かないでしょうが!」
「ひょ!?女将さんだ!」
「ごめんなさいっす!」
「すぐ行くのよ!」
慌てて食堂に移動して朝食を頂いた。汗をかいていたのは『清潔』で何とかしておいた。獣人の村で無償で使っていたので2人の前でなら今更のことである。
二食続けての美味を喜びつつ、今日の予定を確認する。2人はザールさんのところに行って、どんなものが用意できるのかを聞いてくる。俺は輸送班として今回は色々なものを調達する。
人さらいのアジトを有効活用するのは良いが、物品を運ぶのは俺が一番適している。ただ、いなくなった時のことを考えて台車を購入したりいくらあっても困らない調味料や食器など獣人の村で自作が難しいものを調達しておく。
対価は用意しておいてくれるそうだが、お金に換算できるものでは無いらしい。貴重なものだそうだ。装備品に関しては王国で手に入る中ではかなり良いものを持っているので、金の使い道が無いのでこれくらいの出費は気にならない。
朝食後は別れて行動、夕食はまたザールさんの家もといメディさんの店で集合となっているのでそれで解散した。
予定の買い物をしながらランニングで気になった店にも寄ってみて、店内を見て回る。直感に従って見て回るので早い店は3分くらいだし、気に入ったものがあればそこに取引をするだけだ。
昼食はまた出店で売っているものを買って食べ歩きだ。美味しかったものは土産に買って帰りたいからと大量に20人前購入する。またそのうち遠征中に食べることにする。
食べながら考えるのは獣人の村のことだ。正直、ミケンダと手合わせしたことで獣人の村に興味を持った。ステータスに現れない部分の強さを身に付けるためにしばらく住む権利をもらっても良いかもしれない。
そう思えばこれくらいの出費は先行投資と考えていくらでも出せる。メディさんが作ってくれているSPポーションのために戻ってくるつもりだし。
それに以前から考えていた計画に獣人の村を巻き込んでみるのも良いかもしれない。人手に余裕がありそうだし。
☆ ★ ☆ ★ ☆
色々回ってメディさんの店に帰ってきた。そういえば店の名前は『メディスンハウス』らしいよ。薬屋ともメディさんの家とも取れるよね。
それはともかく、開いた扉を持ったままミケンダとメラノさんが立ち尽くしている背中が見えている。固まってるみたい。店の中に何かあるんだろうか。
「そんなところで固まってどうしたんですか?」
変な気配など感じられないし、ただ驚いているだけのようなので後ろから声をかける。
驚いてますって顔で二人がゆっくりと後ろを振り向く。その隙間から店の中に誰かいることが分かる。2人だ。
「な…!?」
同じく固まってしまった。ザールさんの横に見たことも無いくらいの美人さんが立っている。かわいいとか美しいとか女性の外見を褒めるのに使う言葉は色々あるのは知っているけど、もしその人に使う言葉を決めろと言われたら俺は綺麗にする。
街中での一般的な女性が着ているようなワンピース姿だというのに、見かけたら目を離せないくらいに似合っている。これは外に出ない方がいい。絶対に色々と寄ってくる。大きくパッチリとした茶色の瞳が印象的だが、ショートに纏められた髪の毛の色に見覚えがある。茶色だ。この店で茶色の髪の毛の女性は一人しかいない。ザールさんが隣に立っている時点で一人しかいないけど。
「メディさん???」
「そうなんですよ。すいません。君たちが一生懸命動いているときに僕は今日は彼女を磨くのに一生懸命でしたよ」
メディさんは顔を真っ赤にしてザールさんの後ろに隠れてしまった。ちょっと状況が分からなくて困っていると、後ろからデテゴがやって来た。俺たち3人を横を通り抜けて中の2人に話しかけていく。
「お~す。今日も御相伴に与りに来たぜ。今日ギルドに持って来られた上等な鳥肉をもらってきたからまた今度の材料にしてくれよ。それからメディに頼まれてた薬草とかその他いくつかいつも使ってるやつの納品だ。俺からの差し入れも含まれてるから遠慮なく受け取ってくれ」
「デテゴ!ちょっと待って!」
「なんだよ、イレブン。というかそんなところに立ってたら邪魔だろ。あ、メディ髪切った?」
「反応が軽いんだよ!」
「そこじゃないっす!」
「そこじゃないのよ!」
最終的にデテゴに詰め寄っていた。
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