ミケンダとメラノさんの関係
お楽しみ頂けると幸いです。
急遽食事の人数が増えてしまったが、任せなよとメディさんは承諾してくれた。見た目は暗い色のローブをがっちり着込んでいるが、中身はとても姉御肌の人だ。
申し訳なかったので、今日だけでは使えなさそうな量の材料を見せて使いそうなものと欲しいものを選んで引き取ってもらった。あとはパンや飲み物とかも俺と獣人2人で買い足してきた。
買い出しの時に2人でコソコソ話をしていたが、内緒話なら俺が入るわけにもいかないし、聞かなかったふりをしておいた。これは後で考えたら何の話をしていたのかすぐに分かった。
そうして出来上がった夕食はさすがの美味しさだった。
それぞれの前にはとろとろになるまで煮込まれた肉のシチューに、パンに挟んで食べても良いくらいの肉野菜炒めがドンと置いてある。
魚は一口で食べられるサイズだったのでカラッと揚げてある。サラダも山盛り用意してあった。ドレッシングがメディさんの手作りらしい。デザートとしてフルーツゼリーもあるそうだ。
買い出しは30分もかかっていないはずなんだが、どれが新しく準備されたメニューなんだろう。しっかりと6人分が用意されているんだけど。
まあいいや。メディさんの料理の腕の良さは今に始まったわけじゃないし。俺が同じ材料や調味料を使っても同じ味にならないことは既に分かっている。
本気でスキル構成真似てみようかな。たぶん無理だけど。料理得意な人って何かマジで魔法使ってるんじゃないだろうか。
「イレブンです。では、交流会をはじめます。よろしくお願いします。では、いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
「新しい取引先が獣人の村とはまた面白いですね」
「まあ。生活に必要なものを買わせてくれると助かるっす」
「普通に買いに来ていただく分には全く構わないですよ」
「事情を分かった上で付き合ってもらうのはそれで助かるっすよ。それに何かあったときに繋がりがあるのは安心っす」
「しかも繋いだのがイレブン君とくれば、何かあったのでしょう?」
「そうなんっすよ。怖かったっすよ。聞きます?」
「僕はあまり現場を見ていないのでぜひお聞きしたいですね」
不名誉な言い方をされているが、内容的に事実だけで誇張部分が少ないので止める理由にはならない。
「メディさんの料理は聞いていた以上!しちゅーも色んな味がしておいしい!肉野菜炒めもピリ辛でおいしい!」
「そ…そこまで手放しで褒められると、なんだか恥ずかしいな」
「む…。乙女の匂いを感じ取ったのよ!お腹だけでなく耳まで幸せにしてくれそうなのよ」
「近寄ってくるなよ。ひぃ…!近いって」
「なんですって…!私よりもふわふわな髪なのよ…。ちょっと真剣に色々と話を聞きたいのだけど…!」
「分かったから、ちょっと離れて!」
メラノさんの懐き具合がスゴイが、すっかり仲良くなったようで何よりだ。メディさんの目元は俺も見たことが無いので分からない。ちゃきちゃきした印象のあるメディさんだが、根っこは恥ずかしがり屋らしくそこまで気を許しているのはザールさんだけ。
デテゴも昔に見ただけで旅から帰ってきて見たことが無いそうだ。ま、それはザールさんだけに見せるってことでいいや。馬に蹴られたくもないし。
元からミケンダとメラノさんの2人はユーフラシアに買い出しなどに来ていたそうだ。変装に慣れているのはそういった理由だ。万が一バレてしまったときのことを考えると危険なため深い付き合いをしている人間はいなかったそうだ。
ほぼ何でも揃えることが出来る道具屋と繋がればこれから不都合なこともあまり無いだろう。メディさんの心をメラノさんが押さえていればザールさんも協力することになるだろうし。
「また個性的な奴らを連れてきたな、イレブンよ」
「いや、新しい一面を俺も見せられてると思ってるよ」
ミケンダがザールさんと話を合わせられるくらい社交的だとは思っていなかったし、メラノさんが料理上手な人にここまで甘えに行く人だとは思っていなかった。
それでも体重の預け方がすごいな。あまり見すぎるとザールさんが怖いから食事とデテゴの相手に徹しよう。
「それで?蟻の捜索はどうだったんだ?」
「とりあえずこの前の巣は2つとも潰してきたよ。今は獣人たちにも協力をお願いしてきたよ」
「は~。どんなことになればそうなるんだ?」
「範囲を広げて探しているときに獣人の子を助けて、あとは成り行きさ。迷惑をかけてしまったから少しでも役に立つ縁を繋ごうとここへ連れてきたんだ」
「いや、今回の成り行きもあるが、魔国から離れた位置の森にまさか獣人が暮らす村があるってことの方が驚きじゃねぇか」
「それは、まあそうなんだけど」
「冒険者組合は魔国の方にもあるからな。登録してるなら向こうに渡りも付けられる。王国に滞在する理由があるってことなんだろうな」
「そういえばそうか。どんな理由だろ」
ゲーム内でも獣人の村が王国にあるなんてことはなかった。現実ならではの話だ。心当たりのイベントも無いから獣人たちの思うように状況を整えてあげることと俺が勝手に手出しさせてもらうだけだ。
お互いに恩がある状態だけど、お互いにまだ返しきれたとは思っていない。好きにさせてもらうさ。
しかし、メラノさんの絡みがちょっと正視できないくらいにはやたら絡みついているぞ。精神年齢的には構わないが、肉体年齢的にはアウトじゃないだろうか。そろそろザールさんが怖い。
「あ、メラノさん酒飲みました!?この人弱いんすよ」
「そう言われてたから私は出してないよ?イレブンもいるし」
「ん~?このねえちゃんのグラスに入ってるの俺の酒だな」
「デテゴ…、君のせいではないですか」
「ははっ!すまねぇな。お~い、大丈夫か?」
そう言っているうちにメディさんの膝枕でメラノさんは寝てしまった。メディさんが髪をなでているが、髪の毛のなで具合の良さにおおっと声を出して感動している。
「ご迷惑かけて申し訳ないっす。どうかご容赦願いたいっす。絶対においで気づいていたはずですが、甘えたんだと思うっす。村じゃ飲ませないんで」
「このねえちゃんは割と酒乱なのか?」
「見ての通りっす。誰彼構わずスキンシップが激しくなって、おまけにスタイルも良いもんですから村の同年代は一回は心臓を掴まれるような思いをさせられてるっす」
「ふ~ん、ミケンダも?」
いじわるのつもりで聞いたら、返ってきた答えに驚かされる。
「勝ち抜いたのがオイラっす」
「ん?恋人なの?」
「もう結婚もしてるっず。獣人は種族が違っていても結婚して子どもを作ることができるっす」
「それは知らなかっですね。情報収集が甘かったです」
「だったら、もう少し肌が見えないような服にした方がいいんじゃないか?自分の女の肌を見られるのはイヤだろう?」
メラノさんの服装は似合ってはいるんだけど、二の腕やら太ももやらが出てるから視線を受けることが多い感じだ。始終ローブを着込んでいるメディさんからすれば驚きの服装なのだろう。
「ん~。獣人感覚でいうと己の身体には誇りがあるし、自分の女が美しいと自慢できるのは嬉しいっす。メラノさんが良いならオイラからは特に何も言うことはないっす」
そういうミケンダも肌が出ているわけでは無いが、体はしっかりと引き締まっているのは見れば分かる。森の中で巡視隊の装備をするときは分からなかったが、二人の服装にはそういった価値観があったのか。
おしゃれとか考えたことの無い俺だが、多様な価値観のありかたは受け入れたいので受け止めたらそれで終わりだ。
だが、メディさんにはそうでは無かった。ものすごくザールさんの方を激しく何度もチラチラと見ている。これはこのままいたらお邪魔になりそうだなぁ。
「今日はそろそろお開きで良いんじゃない?メラノさんも運ばないといけないし。俺の泊ってる宿屋の部屋はお勧めだよ。元から2つベッドがあるから部屋が無かったら代わりに使ってよ」
「そこまでしてもらうわけにはいかないっすよ!」
「俺は俺でこっちで固まっている男を何とかしないと」
デテゴは結婚という話から固まっている。種族が違うとはいえ、10も年下のミケンダとメラノさんが結婚していた事実に衝撃が抜けきっていないようだ。身体はこの中で一番大きいくせに膝を抱えるんじゃない。
「というわけで解散で」
「そうしましょう。ミケンダくん、また明日来てください。差し当たって必要なものと発注しておくものなどの話をしましょう。店を開けるのはまだ先ですが取引の話がどこでも出来ます」
「感謝するっす。明日またここで良いっすか」
「ええ。お待ちしてますよ」
ザールさんはもう宿に泊まってないからね。何かあるときはここに来れば連絡が取れるよ。そのうちこの店も移転か改築するんだろうね。
お読みいただきありがとうございました。