青龍
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目的地となる神殿のある島は少し飛べば辿りついた。地図なんて無くても朱雀に似た魔力がここに来いと招いているようだった。
ただ心配なのは天候だ。
「あの島だけ嵐なんだけど」
雷雨で囲まれているのだ。濡れないように結界を屋根のように展開する。
「どう見ても怒ってるよね」
「だよな」
抑え込まれた怒りがグツグツと沸騰しそうになっている感じがある。これくらいのことなら俺でも出来るからね。それともそこまで怒ってないとか…。いや、それはないよな。
「リセルに会って機嫌直ったりしないかな」
「それなら最初からこんなに嵐になってないと思うよ」
「仰る通りだな。じゃあやっぱこいつを連れて来て正解だったな」
顔面に叩き込んだ爆破のおかげでまだ気絶から復帰していない。生きていることは確かなので治療は何も施していない。俺の『手加減』に乾杯だ。
「じゃあ嵐地帯に入るからな。結界あるとはいえ風の影響は受けるから注意しろよ」
「了解。…きゃっ」
突入すると凄まじく風の影響を受けて揺れた。ただ座っているだけが難しい。どうしても流されてしまう。倒れないように踏ん張るのと結界飛行の制御の両方は難しくは無いが少々面倒だ。
「ちょっとその場に固定するから動くなよ」
「待って待って」
そう言うとリセルは俺の背中にしがみつく。背中に伝わってくる感触が集中を乱す。
「何してんの!?」
「いや、術者の傍が一番安全じゃない?」
「ソウデスネ」
いきなりしがみついてきたから焦ってんだよ!察しろや!
離れる気は無いようなのでその状態で床を変形させて体に纏わせてその場に固定する。シートベルト座席の強力版だ。背もたれは無いけど、むしろ背中に体重はかけられないけど、ある程度は飛行に集中できる。
「前から思ってたけど結界魔法って便利だよね」
「形をグネグネ変えるにはそれなりに魔力もMPが必要だけどな」
ここまで自由度高いのはゲームの時には出来なかったしな。現実になってからの方が出来ることの一番の代表例だろうか。
「まあじゃあこのまま飛んでいくからな」
「それは良いけど、あのおじさんはいいの?ごろごろ転がってるよ」
「罰の一つってことで」
気絶状態で転がしたところで本人がその扱いに気づかないだろうし。なんで優しくしてやらないといけないのかって話だ。リセルも一応聞いてみただけで俺の返事にふ~んの一言で終わらせている。
風の抵抗を受け流せるように外装の形を変形させつつ、逆らわないように飛び続けていく。途中突風のせいでリセルの悲鳴があがったが、特にその進みを止めることなく到着できた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
神殿というからどんなものかと思っていたら石の柱しか残っていなかった。本当なら屋根も存在していたんだろうが、長い時間の経過のうちに崩れてしまったんだろう。
「青龍を祀る神殿や神社は聞いた中ではここが一番遠いよ。割と沖に出ないといけないからね。歩いていけるように町はずれにもあるし、ここに来る途中の離れ小島にも建てられたものもあるんだって」
「一番最初に立てたから古くて崩れてしまったんだな。再建はせずに生活の近い場所に建てていったんだな。信仰そのものが無くなったわけではないみたいだな」
飛行は解除したが屋根としての結界は残しているため傘のような雨具は使わずに散策している。気絶から立ち直れないオッサンは念動魔法でぶら下げている。起きられても困るから構わないのだが。
残っていた石の柱にそっと触ってみると少々魔力を感じる。
「ただの石の柱じゃない…?」
「そうなの?…ん~、私には分からないや」
「神職ってやつかな。神殿を立てるためにあるような職業やスキルがあったのかもしれない」
効果は建てられたものが長期保存できるようになるとかだろうか。ここまで微かにしか感じられないものだと『鑑定』で見てもさっぱり分からないや。
ここまで朽ちてしまうのは相当な時間経過があったんだろうな。手入れしないともたないのもあるかもしれない。海のど真ん中だし、青龍の魔力が強すぎて掻き消された可能性もあるよな。
「今からここに同じようなものを建てるには同じようなことが出来る人を探さないと無理だろうな」
「イレブンでも無理なことがあったね」
「俺は戦闘の方に振りきれてるしな。見たことも無い技術をいきなり再現は難しいと思うぞ」
念のためスキル取得画面を確認してみると薄い字で上級建築の文字が追加されていたが、タップしても反応が無かった。
「やっぱり無理だな。何か条件があるんだろうけど、そこまで探すまでも無いだろう」
そこまでするつもりも無いし。だがリセルは少し違ったらしい。
「え~、家がボロボロなのはかわいそうだよ」
「いや、そう言われても…。あ~、青龍に聞いてみないと分からないな。向こうの用件が終わったら聞いてみよう」
頬をふくらませて睨むリセルには勝てないので一応そういうことにしておく。青龍からしてもあまり気にしていないのなら建て直す必要は無いだろうし。そもそも今の俺には無理なんだけどな。スキルがなぜか取得できない以上、何でもできると思われても困る。
「じゃあ奥にある洞窟に行ってみようか」
「そうだね。すごい探検って感じがするね!」
「この奥に待ってるのは機嫌の悪い神獣なんですけどね」
「大丈夫だよ~」
まあリセルは何の神獣か分からないが、神獣の獣人だからな。同族と見なしてもらえるのかもしれないけど、こっちはパッと見はただの人間だっつーの。言いたいことはぐっとこらえてとりあえず歩いていく。
洞窟はかなり大きく。高さは10メートルほどはあるだろうか。幅も同じくらいだ。青龍が通れるようになっているとしたらこれよりも一回り小さいくらいが青龍の大きさなのだろう。
戦闘になったら勝つのは無理だな。戦闘で鳴らしたことのある者の性だろうか、一応戦闘の予測を立てていたが、熟考する必要も無く結論が出ている。
魔力は当然向こうの方が大きい。今感じているのは抑え込んだところから漏れ出たものだというのが進んでいくうちに理解させられる。抑えてこれなら手加減されたって魔力では太刀打ちできない。
予測できる体の大きさがもう大きい。大きいだけでこちらが受けるダメージに補正が入るし、HPも当然高いし、耐久だって高いだろう。つまり物理は無理。
何をどうして戦えというのだ。残る作戦もあるにはあるが、あまり使いたくない作戦しかない。
「頼むから怒らせたりしないでね」
「それは寝てる人に言ってほしいな」
「それもそうでした」
朱雀で慣れたつもりだったけど自分が緊張しているのが分かる。ゆっくりと足元を確認しながら進んでいくと目的地に着いたようだった。
「ここの角を曲がればいるぞ」
「そうみたいだね」
緊張している俺に対して、久しぶりに親戚に会うみたいな感覚で言ってくるリセル。この差が恨めしい。
動きも何もこの島に辿り着いた時から全てが察知されているだろうことは分かっているんだろうけど、そっと覗き込んでみる。
そこには大きな広場になっている上に大きな泉のようなものがあり、そこから青い龍が泉から頭を出して目を閉じていた。泉に浸かっているため体の長さは分からないが、太さは想像していた通りだ。出ようと思えばここから出られるだろうし、もしかしたらあの泉は海に直接繋がっているのかもしれない。
≪ようやく来たわね≫
「うっ」
慌てて見えない位置に顔を戻す。少し覗いただけなのに、即バレした。
「ほらほら、もう堂々といった方が良いって」
「分かったよ」
リセルに焚きつけられて仕方なくゆっくりと奥の広場へと入って行く。
≪待っていたわ≫
「お待たせして申し訳ないです」
≪いいのよ。私だってこの季節しかここにはいないのだから仕方ないわ。まずは色々と話すことがあるだろうけど、この辺りの海を変に荒されてて困ってるからそれを何とかしてくれる?≫
「それならこのオッサンが部下に命じて色々やっていたのを止めて来てます。今後同じことが起こることは無いと思います」
今後はマジで青龍がいるからこんなことしないように伝えていってもらおう。
≪あら~、手際が良いわね。お礼に言うこと聞いちゃうわよ~≫
青龍の機嫌は一気に良くなった。外の嵐もこれで治まってくれていたら良いなと思う。
「じゃあ少しだけお暇して良いですか?」
≪良いけれど?≫
「どこ行くの?」
「そこの角曲がったところに行くだけだから」
一人と一体にそう言って見えないところに移動する。そして壁に両拳を叩きつけて心の中で絶叫する。
なんで青龍が野太い声したオネエなんだよ!!
話す言葉は女性のそれだけど、声は野太い声のおっさんなんだよ!声はすごくいいけど!筋肉ムキムキの外国人の声に当てるのがピッタリな声をしてるんだよ!
≪ダメよ~、そんなこと考えたら。だって神獣に明確に性別はないもの。私の心がこういう話し方になってるだけよ≫
遠くから説明が聞こえた。思い切り心の声が聞こえとるやないかい。
今度の神獣はキャラが濃い…。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




