遠くから呼ぶ声
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自分がやらかしたことはある意味予定調和を生み出しただけと多少ふるえながら見なかったことにする。
無言の空間が響く―いや、うめき声は無視するとして―中で次にすることは装置の解明だ。比較的抵抗をしなかった白衣に近づく。
「この装置の使い道は?」
最初は無言だったが、自分に聞かれているとは思わなかったと言い訳をした後に正直に話してくれた。
「天候を操る装置ね。壊してしまったからもう証明は出来ないけど、命令を出していた人を抑えたからもう大丈夫だよな」
爆破を顔面にぶつけたこともあって歯が何本か抜けたらしいが、それだけで済むなら良いことだろう。次に起きるのはいつのことになるだろう。
「もうそろそろ出たいのだが」
「ディースも本当は捕らえられる側の立場だよね」
「依頼をこなしていたに過ぎないな。しかも組合に所属している冒険者でもない。雇い主が金を払わない以上俺にはこいつを守る義理は無い」
そんなものだろうか。
「今までにお金もらってないの?」
「俺が雇われたのは昨日からだ。常に横にいて守れと言われたがお前のような奴が攻めて来るなら断っていたな」
そう言って俺が作った中で一番大きい氷壁に近づいて抜刀の構えを取る。
「三連斬」
そう呟くと抜刀して一回、返す刀は少し軌道を変えて一回、更に一刀目とほぼ同じ軌道で一回の合計三回刀を振るった。それなりの動体視力を持っていないと一回しか刀を振るったように見えないだろうな。
「見えたか」
「名前通りに三回振るってるところは見えたよ」
「未だ見破られたことは無い。今の俺に出来る奥義だ。お前が手抜きで放った魔法ですら破壊できないなら俺にはお前に勝つ手段がない」
発動してからしばらく経った氷壁ですら壊せないならそう考えてもおかしくないか。
「そうだな。それを見た時から気が付いていたのか」
「下手に暴れたところで敵うはずも無かったからな。こうやって落ち着いてお前との距離を測りたかった」
なるほど~。でも将来は九連斬になるから期待してな。ガードを崩してから発動することも多いからよほどうまくやらないとクリティカルがひどすぎる技だ。まあ注意するのはそれだけって調整されてたからその点は楽だったけどさ。
「今のままでは到底届き得ない地点にお前はいるのだな。俺は既に自分の技を継がせるべく弟子を取っているからお前に弟子入りは出来ないが、たまには手合わせ願いたい」
どうする?交流していく間にこいつの人生観を変えることが出来たら、というかこいつを搾取しようとする人間を遠ざければもう少しましな人生を歩むことが出来るかもしれないよな。気にせずやっちまうか。今更だし。
「まあいいけど。普段はグレイブ村にいるから。ちょっと待って」
書類仕事をしている間に作っていた俺の判とサインを入れたものを書いて渡す。
「何だこれは」
「お前は仕事運がなさすぎるから、多少そっちも世話してやるよ。これを見せれば多少は変な奴らは寄って来ないよ。それでも変な奴らに利用されるならお前も本物だ」
「よく分からんがくれるというならばもらっておこう」
簡単にいえば金級冒険者である俺といろんな意味で手を出してはいけないザールさんとが提携して行っているのがグレイブ村でのキャンプ開発事業である。その関係者だよってことにした。王家にも許可取ってやってることだし調べれば変なことはされないはずだ。
ただ、有効期限も限られてるからな。何か新しいことを考えないといけないよな。まだしばらくはやめるつもりは無いけど。ま、そういう先々のことは何か良いことが思いついたらということにしておこう。
氷壁でなく白衣たちを拘束していた氷を解除して連行できるように後ろ手にだけして並べていく。誰か一人だけが逃げようとしても無駄だ。14人という長さだが誰も反抗せずに並んでくれた。
「あれはどうするんだ?」
「ん?ラグギゴ侯爵のこと?俺が魔法で運ぶよ」
念動魔法で拘束して宙に浮かせる。曲芸にしか見えないだろうけど下手に後ろ手で縛るだけよりも拘束はキチっと出来ているはずだ。
穴を掘ってこの空間に侵入した俺には正しい道なんて分からなかったけどディースが覚えてくれていたので、特に何事も無く地下から脱出することが出来た。後は屋敷の中から外に出て合流するだけだ。
侯爵を突き出してからの話とかダコハマリの街のこれからのことについては俺は関与しなくても問題無いはずだ。
ふと窓の外を見ると天気が悪かった。
「あれ?装置を壊したのに天気が悪いな」
「…そうだな」
ディースの目から見て天気が悪い。というか海が荒れている感じがするな。そして現象は違うとはいっても何となく激しく荒れ狂う気をを感じる。
「ん~…」
「どうした?」
「いや、でも、まさかなぁ…」
ディースから聞かれても気の無い返事しか出来ない。これと同じものを感じたのは火山でのことですね。となると認めて良いのか認めたくないというか悩む。何が暴れそうになっているかは分かった。信じたくは無いけど。
「とりあえず門のところまで急ごう」
「ああ」
しかし戦闘に入ったらそれなりにイケメンに見えるのにそれ以外の時は気が抜けるキャラなのか。中々にこいつも多属性のキャラだな。
白衣たちも屋敷の構造がある程度把握していたようで途中でこけることも無く連行することが出来た。
「イレブン!」
「リセル。この状況で悪いけどついてきてくれる?」
「やっぱりそうなの?」
「だと思うよ。質が似てるから」
何の話をしているのか分からないディースと何となく察しているトワでは同じ無表情でも少し違う。白衣たちのロープはそのままディースが握る。
「さて、こいつはどうしようかな…、連れて行くか」
少し迷ったが、なんとなくそういうことにした方が良い気がする。ここで戸惑うのは周囲にいる全員だ。代表してリセルが聞いてきた。
「え…?その人は?」
「今回の黒幕のラグギゴ侯爵だ」
「連れて行く理由は?」
次に聞いてきたのはトワ。もっともだと言わんばかりにリセルも頷いている。
「ん~。棲み処を荒らされて怒ってそうだし、そこに連れて行く方が良くない?それよりも早く来いって言ってる感じがするよ。はやく行こう」
「分かったよ。まあ連れて行ったところで必要なければ寝ていてもらえば良いもんね」
「そういうこと」
手早く準備を整えて俺はリセルを連れて空へと浮かび上がる。足元には見えるように色を付けた結界が敷いてある。空の住人となった俺はとりあえずリセルに方向を探ってもらう。
「なんとなくあっちかな?」
「沖にある島の方か。あっちに関係あるって情報聞いた?」
「古い神殿があるって話を聞いたよ」
「俺も聞いた情報だな。やっぱりどれだけ古い伝承でも残ってるもんなんだな。じゃあ行くぞ」
「うん!」
目指すは街から離れた場所にある神殿、いきなり当たりを引き当てることが出来て良かった。待っているのは青龍。こんなに早く見つけることが出来て良かったな。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




