人拐いとの戦闘開始
ブクマありがとうございます。今日も夕方更新ができました。お楽しみ頂けると幸いです。
手は塞がっていても魔法は使えます。使いどころがあまり無かった風魔法レベル2『風針』が良い仕事をしました。同じ形状で『氷針』ってのもあります。思わず『火針』を習得するか悩みました。
ピアスの穴というには大きな穴が開いた。しかもたくさん。途中で話はしてくれたが、本当に嘘が無いかを確認するために過剰に施してしまった。もう一人の方にも知っている範囲で嘘が無いか確認したけれど本当のことだった。あとはこの2人が嘘を教えられている可能性もあるし、全部を知っているわけでは無いことだけ気を付けておこう。
針を刺すと当然血が出るわけだけど、血は流れるたびに氷に取り込んでいったから最初に比べるとそれなりに大きくなった。ただ、代償はある。MPがきつい。感情に任せてやり過ぎた。
村に近くに着くころにはMP枯渇寸前だった。見かねて皆さんがMPポーションを分けてくれて助かった。メディさんのに比べると美味しくなかったけど、回復量も少なかったけど。これは割合回復じゃなくて固定値回復だな。メディさんの調合はやはりレベル高いことが分かった。
「うむ。情報の聞き出しは助かった」
隊長がちょっと引いてる。そうかこれは刺激が強いのか。途中からリセルは羊系の女性に渡して何が起こっているか分からないようにしてもらった。見せなくて良かった。
やってみて思ったけど自分の手を使わなければあんまり問題はなかった。叫び声を出されるとうるさいから口は水で湿らせた布で封をしたので声は聞かずに済んだ。針も魔法だから自分の手に感触が残るわけでもない。視覚的な暴力があるくらいだ。大の男の泣き顔なんて見るもんじゃない。制御の関係上視界に入るけど。そのあと、大声を出さないように伝えて、確認してから話をさせている。心を折ってから話をさせるので十分だ。余計な強がりを聞く耳は持っていないので。
「注意すべきは嗅覚・聴覚発達の探査が使える斥候タイプと斧を使う向こうのボスですね。一番強いらしいですし。あとは有象無象らしい、と」
「守るべき人員を逃がせていることは聞いているが、全員かどうかは疑わしい」
「まあ何か要求があるなら言ってくるでしょう。それまでは近づくまでです」
「分かった」
素直になり過ぎて怖いよ。いや、怖がられているのは俺か。
多少の反省はしつつ、村へと案内してもらう。その途中で向こうも集まっていることを掴んでくれた。さすが獣人。だけど声には出さない。なぜかって?
「向こうにも人質を取られている」
「誰だ?」
「ニッツとラッシーだ」
「非道な、子どもを」
隊長さんが吐き捨てるように言う。まだ続きがあったけど、それよりも隊長の話を掻き消すように声をあげたリセルの声に耳を持って行かれた。
「ぼくのせいだ!」
そう言うと抱っこされていたところから暴れて抜け出し、進行方向に一人で走り出す。ただ、5歩も進まないうちに再び抱え上げられる。さすがにステータスが違う。多少の不意を突かれたところで完全に出し抜くことは出来なかった。
「リセラ様、ダメです。責任は我々が負います」
捕まえたのは猫の青年だけど、隊長が正面からしっかりと説得する。それでも暴れることをやめない。ぼくのせい、と言うことは探検にでも出てそのおかげで見つかり、囮になったけどやっぱり捕まったということかな。うん、よくある展開だね。
さて、そうなると一番角が立たないのはどうすることかな。と言っても一つしかないか。
「はい。良いですか?僕から提案です」
悪い意味で過剰な反応が返ってきた。結構な笑顔で礼儀正しく提案明日つもりだったんだけど。あかん、さっきのは相当な刺激だったらしい。正面から見てくるのは隊長さんだけで、他の人たちは少しだけ目を逸らしている。
「獣人の皆さんが表に立つよりも、謝罪の意味も込めて人間の僕がやります。あの子たち二人が無事に帰ってくる以外に条件はありますか?」
「いや、しかし…」
「せっかく仲良くなれそうな人たちに出会ったのに、嫌じゃないですか。俺は仲良くなれるなら仲良くしたいですよ。同族と認めたくは無いですけど、俺の手で人間の恥を雪がせてください」
「あの、だから…」
「え…、ダメでしたか…」
俺の手を借りるのはダメなようだ。もしかしてあれかな?獣人って正々堂々を好む描写が多かったからさっきの俺を見て『非道な手段を用いるやつだ!』とか認定されてしまったのかな。うわ~、失敗した~。これがきっかけで戦争の火種になったら嫌だなぁ。
……隊長の言葉を待っているが、どうも戦闘前の雰囲気ではない。
「手を貸してくれるというならそれは助かる。おそらくお前は我々よりも強いのだろう。強いというよりも巧いのだと思う。先程のごうも…、尋問も相手の呼吸を見て手を加えていたのだと分かった。理解は出来んが…」
そう隊長さんが言うと、猫青年の呟きが聞こえた。
「さすが隊長だ、ぶっこんだ…。俺にはできねぇ…」
全員が頷いているけどどういう意味かな?
「さっきみたいな凄惨なものを子どもたちに見せないようにしてくれれば助かる」
あ、隊長の懸念はそっちでしたか。
☆ ★ ☆ ★ ☆
というわけで、俺だけで人攫い集団の前に立つ。要注意と言っていたボスは斧を持っているし、見た目と聞いたのが一致してる。斥候タイプは隠れてるんだろう。見える範囲にはいないようだ。
子どもたちは見えないところに確保してあるようだが、俺の索敵範囲内だ。たぶんあそこというのが分かる。確認していると、交渉役なのか一人前に出てきて話しかけられる。
「あ?人間のお前がなんでそっち側で出てくるんだ?」
「まあ、あんた達みたいな犯罪では無くて友好関係を結びたいって考えてるからだよ。子どもを人質とかやめない?」
「うるせぇな!さっさと獣人を連れて来いよ!」
「いやいや、そんなにいきり立つとかやめましょう?それでですね。話し合いがしたいんですよ」
「話し合いだと?」
交渉役がボスを見て少しやり取りをする。
「内容次第だ」
「シンプルですよ。こっちにもそちらの人員だと思われる人質いるんで交換しません?そっちと同じ2人なんでちょうどバランス良いでしょ?」
見せないと伝わらないと思ったので、上空から地面に叩きつけるように落とす。地面にぶつけたりはしませんよ?これでちゃんと俺の実力が分かっただろう。
「交渉の通りにしてくれたら、命は助けると保証します。破ればどうなるかは、分かりますかね?」
そのまま交渉というよりも脅しをかける。そんな経験ないんだもん。お前らみたいな雑魚じゃ相手にならないよってことが伝われば良い。それに、危うく戦争を起こしかけるような行動を取るお前らを優しく返すわけが無いだろうが。二度と馬鹿なことをしようなんて考えられしてやる。
交渉役が何を言うか迷っていると、ここでボスが前に出てきた。
「お前がやったのか?」
「ボス!」
「口先だけでどうにかなるような奴ではないだろう。下手すると俺らよりもイカレてるぞ」
その評価は解せないぞ。俺の感覚が人攫い以下ってこと?パードゥン?
しかし、このボス落ち着いてるな。最初から姿は見せているから策を考えるよりも実戦で率いるタイプなんだろうけど。この状態の部下を見せても冷静なのか。他のやつらなんて一気に青ざめてるのに。
「お前の言葉を信じられると思うか?」
「信じないならどうなるかも理解してもらえるかと思ってたんですけど」
「そうなったとしても引けないな。俺らも楽しい生活がかかってるんでね。てめぇら!!援護しろ!」
前言撤回、笑い方がダメです。なんつう歪んだ笑顔だ。それにいきなり襲い掛かってくるとは交渉とはなんぞやってやつだ。魔法使いタイプだと思われたから接近戦なのかな。しかも俺は一人だし。
さて、戦うとして接近戦でやる方が良いかな。その方が引き付けられるしそれが良いか。久しぶりに気合入れて観ることにしましょうか。俺の地雷踏まれたし。
考えをまとめると、手甲を打ち合わせた。
お読みいただきありがとうございました。




