私兵隊制圧
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ラグギゴ侯爵の屋敷の前には人が溢れていた。正確には屋敷の門から少し離れたところに人だかりがあり、門の前に並ぶ私兵隊と睨み合いをしている。
前方にばかり注意が向かっているので俺たちが後ろから近づいても全く気が付いてもらえなかったが、出していた看板に私兵隊が気が付いたため、その表情を見て段々と後方確認として俺の方に目線が飛んで来た。
「すいません。通してもらえますか~」
曳いているものがものなだけに少しだけ道が出来ていく。そこを進もうとすると自然に人だかりが割れていく。その間を通って俺が先頭になるまで前に出た。
私兵隊は敵意が満載だ。誰も何も言わないがいつでも抜剣して襲ってきそうな気配を見せている。
「これはどういう状況ですか?」
リセルが適当に周囲にいた人に聞いている。
「街中の噂を聞いて領主様に直接問いただしてみようとしているのさ」
「そうしたら、直接会うなど出来るわけが無いだろうと撥ねつけられているんだ」
「やましいところが無ければ堂々と言えば良いのに」
「それをしないってことは噂は本当なんだよ、きっと」
口々に答えられたことで多少こちらは騒がしくなったが、状況は分かった。何かされたときのために結界魔法の準備だけはしておこう。
では次は俺の番だ。
「漁師さんの船に火を付けようとした一団と嵐魔法で漁を妨害していた魔法使いを連れてきました。こちらの関係者の方だと思うんですけど」
「確認させてもらおう」
責任者っぽい人が出てきて荷車の中を確認する。当然目にするのも嫌だろうものも視界に入るだろうが知ったことではない。それよりも確認してほしいのはおっさんだ。
「このおっさんともう一人は間違いないですよね。あなた達と同じ服着てるんですから」
よくよく考えれば隠密作戦の最中に身元がバレるような格好をしている方が悪い。あとは裏仕事をしている奴だろうとここまでくれば身元の保証やらはしてくれるだろう。何せこの人は元が良い人なのかこのままでいいのか疑心暗鬼になっているみたいだし。
「とりあえず何か良からぬことをしていたのは間違いないよね」
無言で返された。何も言うことは出来ないよね。
「じゃあどうしようもないところまで来ていることを言ってきてよ。直接言えないなら伝言でも構わないし。もしくは押し通るよ?」
「それは遠慮願おう。それと身柄を引き受けたいのだが」
「無理無理。ちゃんと確認獲れてからでないとダメだね。証拠隠滅されたらたまらないもの」
そこまで言ってみると何も言わずに屋敷へと入って行った。
隊長さんを見送りしばらく待っていると屋敷の中が多少慌ただしい。何かが壁に当たったかのような音と怒鳴り声が聞こえた。
「ねえ、イレブン」
「荒れてるねぇ。これは荒事になりそうだ」
「避難しておいてもらう?」
「その方が無難だろうけどさ。言っても聞いてもらえるのかね?」
「やってみるよ」
戦闘になっても庇うくらいは出来るのだが、下手に近くにいない方が安全というのは間違いない。リセルがやる気になって避難を呼びかけるが、聞いてもらえるわけも無く、むしろ逆だった。
「街のことは街の者で片を付けるのが筋ってもんだ。ここまでやってもらってなんだがあんた達が離れててくれ」
逆に遠ざけられそうになった。それは引き取りがあるのでと動かないことを意志として伝えて踏みとどまった。
そんなやり取りをしている間に屋敷の中は静かになっている。人の動きが激しくなっているような気はするが中に何があるのか分からないので何をされるのかが分からない。
油断と言えばそうかもしれないが、今更負けるとは全く思えてない。俺だけでもお釣りが来るのにリセルとトワまでいるとなると過剰戦力だ。
そうこうしている間に私兵のほとんどが屋敷の庭に引き上げてしまい、人の波は俺たちよりも前に出てしまう。感想としては少々邪魔になっている。
「聞いてもらえないよ~」
「それだけ自分たちの街が好きだということなんだろうね。これは本当に危険な状況にでもならないと引いてくれないだろうな」
「何かする?」
「いくら何でも俺たちがやるのはダメだ。ケガさせないだけなら何とでもなるから状況を見守ろう」
「あ、さっきの人が出てきたよ」
リセルに言われると隊長が出てきたところだった。私兵隊に説明するのだが、内容を聞く限り危険だな。
「聞こえたか?」
「うん、聞こえた」
「聞こえなかった」
トワも耳は悪くないんだが俺たちほどスキルを自由に取得できるわけでは無いから聞こえていなかったようだ。
「とにかく一番前に出よう」
かき分ける暇がなかったので俺はリセルとトワの手を掴んで空を飛び、一番先頭に出させてもらった。
「は~い、申し訳ないんですけどもう本当に下がってくださいね~」
有無を言わせずに結界を張ってこちらに来れないようにする。
「何をいきなり…!」
といったところで俺が掴んだのは後ろから飛んで来た矢だった。
「ほいほいほいっと」
更に飛んで来た矢を掴んで見せるとさすがに一歩引いた。既に結界を張っているのでわざわざ掴まなくても良かったんだがこういうのはインパクトが大事だ。
振り返って私兵隊を見ると既に剣を抜き次の矢を構えて攻撃態勢を整えていた。
「こんな感じで危ないので避難してもらって良いですか。あ、俺たちは冒険者なので逃げる時間稼ぎますので」
言い終わるころにはかなり下がってくれていたし、逃げる人は街の方まで逃げ出してくれていたのでこちらは大丈夫だろう。追わせなければ良いのだから。
「えっと、どうする?」
「私やる」
「じゃあ任せた。あ、ちゃんと視認できる倒し方にしろよ。何が起こったか分からないと理解できないだろうから」
「分かった。気を付ける」
トワがやる気を見せたので任せることにした。
ふっと姿が消えたので、動いた方向へと目線を追うと走って近づいて来ていた剣を持った私兵隊の前に姿を現していた。
トワが目の前に現れたことにも気づかないまま、まず先陣を切っていた一人目が蹴り飛ばされる。吹っ飛ばしたおかげで後続の足が止まる。左右に分かれてトワ目掛けて襲い掛かって来るが、二刀流で受け止め…ずに手にした二刀で襲い掛かってきた剣をあっさりと切り落とす。動きが止まったところで顎を蹴り上げて昏倒させる。倒れた2人はピクリとも動かなくなった。
完全に動きを止めた私兵隊だがそこで飛んで来た次の矢。難なく叩き落としたトワは俺が鍛えた苦無を弓兵に向かって投げて弓の弦を切る。直接の方が手加減しやすいからだ。下手に苦無を投げて急所に当たると危険だ。あいつ、いつも眉間を狙うからな。
こうなると接近戦で抑えない限りトワは制圧できない。が、苦無が見切れないどころかトワの動きすら捕らえられない私兵隊は時間が経つにつれ蹴り飛ばされていく。多少の治癒は必要だろうが、問答無用で武力解決を図ろうとしたのだから多少痛い目に遭うのは仕方ない。
ほどなく隊長を除く全員を制圧し終えた。
と同時に俺は屋敷の扉に炎弾を叩き込んだ。
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