寝ずの見張り。自己責任です
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誤字報告ありがとうございます。
「ただいま~?」
「「「おかえり」」なさいませ」
異口同音に色々と返ってきた。拠点に戻ると全員が揃っていた。俺が一番外に出ている時間が長かったようだ。
「早速だけど相談がある。特に万花と薙刀なんだけど」
「相談も何も命じてくれて構わないのですが」
「たしかに。みずくさいな、主は?」
「そこはほら、それぞれの都合とかあるかもしれないじゃないか」
「イレブン様の命が最優先が普通ですけどね」
「全くです」
毎果も頷いている。こんな感じだったかな。最近自由にしてもらっている間に忘れてしまってたよ。自分の戸惑いは横に置いて俺の見てきたものを説明した。途中のあれこれについて何か言われると思ったが、やっぱりそうでなくちゃという訳の分からないコメントをリセルから頂いてしまった。俺にはトラブルメイカーの素質があるのかもしれない。
「というわけで冒険者組合に何かされる可能性があるから強くない人を中心に警護をお願いしたいんだ。捕らえた奴から情報を搾り取りたいからさ。生かさず殺さずくらいで頼む」
ブーランさんがいたから止められてしまったが、俺は俺の思うとおりに動きたい。こそこそと悪事をはたらいているところを見るにバレなければ何をしても良いと相手方が言っているのだ。そっくりそのままお返しさせて頂こう。自業自得、因果応報、やられたら100倍にして返せとはよく言ったものだ。
「俺からのお願いはそんなものだけど、他に何か共有しておいた方が良いことあるか?」
「イレブンのもらって来た青龍と関わりがありそうな場所が描いたメモをちょうだい。私たちが聞いてきたところと同じかどうか突き合わせておくから」
「ん、これだ。頼んだ」
「了解」
「トワはなにかあるか?」
リセルから何も無いみたいだが、同行していたトワ目線で見たら違う物が見えていたかもしれない。
「リセルお姉ちゃんは街の若い男の視線を結構奪ってた」
「ちょっと!イレブン、何も無かったからね!」
トワの口を塞ごうとしたリセルを止めて、トワの話を最後まで聞くためにトワを持ち上げて聴取する。
「私が追い払ってた。少し威圧するだけで腰抜かしてたから近づかれなかった」
「よし、よくやった。まあ俺がいなくて良かったんじゃない」
威圧では済まないことになってそうだし。平和な観光が出来ていたなら良かったのではないだろうか。
「それはそうと、なんで街の漁獲量が下がっていることにイレブンは気が付かなかったの?魚を仕入れてたんじゃないの?」
「無茶言うなよ。大所帯って言ってもフレンドビーたちの一部隊が素潜りで獲れるくらいしか獲ってないし、あのザールさんが心配いりませんってやり取りを確保してくれてたんだぞ。現地の人たちも最優先で揃えてくれてたとかじゃないか」
無償であれこれするのも文化保護のためというか、そのあたりの罪悪感からだ。俺が感じる必要もないかもしれないが、こういうのは気が付いていた時に払拭するに限る。取り返しがつかなくなってからでは遅いこともあるだろうから。
「他に問題が無いならそれぞれの役割と気が付いたことをそれぞれやってくれ。領主の増税の件については俺たちが何か言える立場では無いが、何を考えているかによっては闇討ちしても良いくらいには無理難題を言っているようだし、そっちも調べてもらえると助かる」
「かしこまりました。そちらにも毎果隊、薙刀隊から派遣しておきます」
「めっちゃ助かる。頼むわ」
万花の秘書っぷりに感謝する。他には特に問題が無かったようなので、これでお開きにしようとしたところでリセルが聞いてくる。俺が一人で何かすることを察しているようだ。
「イレブンは何するの?」
「嵐魔法を使えるのは俺だけだからな。漁師さん達の仕事に邪魔が入らないかどうか見張るよ。妨害する方も一人で出来るはずのことじゃないし」
「見張るのを一人でやる方が無茶じゃない?」
「そうか?少なくともあと一人確保してしまえばいいんだよ。それに邪魔するなら今日か明日だ。人の心を折るなら希望をへし折れって言うだろ。やっぱり嵐が起こるんだって思わせるにはすぐ邪魔をしに来るはずだ。夕方以降に船を出すことは無いだろうから明日の早朝じゃないかな」
勘で言っている事に自分でも途中で気が付いたが、口は止まらなかった。俺の発言を聞いてリセルの目がスッと細くなる。
「そこは聞いて来てないんだ」
「なんか担ぎあげられそうになって逃げてきたからな。あくまで予想だ。悪いが」
「自分で責任取るんなら良いんじゃない?」
「はい。そうですね。そうします」
リセルにそう言われてしまった。裏取りが甘い責任は自分で取ります。
☆ ★ ☆ ★ ☆
そんなことがあってやって来たのは漁の妨害をしてきたあの男が潜んできたポイントだ。今まで見張っていたポイントだとバレるかもしれないがここ以上に見晴らしの良いところは無い。
とはいえ、漁が出来るようになったという噂はダコハマリの街に轟いていて、明日の早朝に一部ではなくほぼ全ての漁師さん達が万全の体制で沖に出るそうだ。ここで嵐が来れば大打撃だし、心を折ることに繋がるだろう。
今は静かな夜更けだが、何かがあるような感じはいまのところしていない。寝ずの番をするには波の音が心地よすぎて眠くなってしまいそうだ。
そんなことを考えてから何とか3時間耐えたときだった。時刻は深夜だ。夜明け前にもまだ遠い時刻のころに漁船に近づく怪しい影がいくつか見えた。
しばらく観察していると何艘かの漁船を見繕っているようだ。この時点でいくつかの妨害を思いついたが、一番あり得そうな事態に対して対策を始めておく。
船の近くにしゃがみ込むと何かの準備を始めた。あれ?てっきり船を繋いでるロープを切ると思ったから念動魔法での邪魔をしようとしたんだけどな。
既に監視場所はローブの男がいた地点から彼らの上空へと移動している。前後左右は見回していても上には気を払わない。そんな発想も無いしな。
何をしているのか見ていたら分かった。放火だ。船を燃やすつもりらしい。どこまで漁師さん達の邪魔をすれば気が済むのだろうか。火が付いたところで風を強く吹かせて男たちが燃えるようにしてやる。慌てて火のついた魔道具を手から取り落とす。
着地と同時に魔道具を踏んでアイテムボックスに収納する。これも物証だ。
「船を燃やすとかひどいな~。嵐での妨害はもうしないのか?」
その一言で戦闘態勢に移った男たちはそれぞれが剣やナイフを出して襲って来た。
が、元から船に危害を加えようとしていたことは分かっているのでこちらも迎撃の準備は万端だ。念動魔法は見えない手を動かしているようなイメージだ。通り道に仕掛けているだけで十分邪魔になる。足をひっかけ、持っている刃物を叩き落させるだけで動揺を引き出すことが出来る。
さて、捕まえたのち黒幕を吐かせるとするか。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




