現行犯を取り押さえる
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呆気にとられるとはこのことという顔をした人たちを前に船から降りて言うことは決まっている。
「今ならきっと船を出したら漁が出来ますよ」
結界魔法で作った船を解除して凍っているが漁の成果を見せた。何を見せられているのか最初は分かっていなかった漁師さん達も見つめ続ければそれが自分たちが獲って来ていた海からの贈り物だということは分かる。
「行くぞ!船を出せ~~!!」
どの漁師さんかは分からなかったが出た声は海岸中へと広がっていく。もう漁のためには一番良い時間では無いだろうにさぞ楽し気に笑顔で準備を整えていく。やっぱり我慢していたんだねぇ。イヤ、生活のためには必死にもなるか。半々だと思っておこう。
「漁…したかったんだねぇ」
とりあえずまだイメージとして柔らかい理由に引っ張るように呟いておく。
で、だ。今から漁に行くのは焚きつけたわけだけど、邪魔をさせるわけにはいかないな。さきほどの嵐魔法の出所はなんとなく場所は絞り込んでいる。次に同じようなことをしてくれば今度は完全に特定できるだろう。
魚は凍りついたままアイテムボックスに収納すると、それを見ていた人たちから異変を感じる声は上げられたが、現状から考えれば些細なことで掻き消されてしまった。うん、ラッキーだった。
「あの子が出来たってことは俺たちも根性見せるチャンスだよな」
「帰ってくるときには時化は治まってた。本当に行くなら今しかない!」
「そうだ!今しかないぞ!」
「男どもが帰ってきたらすぐに処理をできるように準備しとくよ!」
俺に声をかけているのかみんなが嬉しさで舞い上がっているのかは分からないけれど、どんどん伝播していって海岸から離れていた漁師たちも気が付いて巻き込まれていたようだった。
「俺も今がチャンスかな」
こっそりと『隠形』を使って姿をくらませると空へと飛びあがった。自分が漁をするのではなく漁師さん達をフォローする立場であれば俺は自由に動ける。相手がもう一度嵐魔法で邪魔をしてくるだろうから使ってくればすぐに対策できる。邪魔するための準備が先程の俺で無くなっているのか、まだ余裕があるのかは知らないが、もう一度漁師さん達が行く様子を見せるとどう出るのかな。出来れば確保したいから邪魔を入れに来てほしいと思うのは不謹慎だろうか。
足の下を見ると漁師さん達が続々と船を出していく。海岸には残った人たちが次々と声をかけている。中には祈っている人もいる。いつも時化になるから今回も同じことにならないようにってところかな。風を受けた帆がたわみながら船を前へと進めていく。どれだけの期間漁に出ていなくてもこれくらいは訳は無いのだろうな。どの船も危なげなく進んでいく。
……きちんとした船もちょっとほしいな。帆船は技術を身に付けるまでが大変だし、どうせ風魔法で動かすことになるから一つ先の世界に行きたいな。スクリューの付いた船かパドルの付いた船だな。グレイブ村に戻ったらロイーグさんに相談してみよう。
さて、漁師さん達はどうなるかな。
しばらく見守っていると変化が現れてきた。同じように時化の兆候がやってきたのだ。まず風が強くなってきた。雲もそれを呼び水に多く現れてきた。しかし、
「思い通りにはさせない」
両手を頭上まで持ち上げて魔力を高める。
「目には目を、嵐魔法には嵐魔法だ」
風を暴れる方に動かそうとする動きを逆方向にぶつけて悪化しない方向へと作用していく。風が押し返してしまえば天候も悪化してこない。俺が悪化させないように注意する必要はあるけれど。突然の時化に足止めをされていた船たちもポイントを目指して沖を目指して行く。
一応海岸の方向を確認すると歓声が上がっている気がする。大漁を期待してか動きが激しくなってきたのかな。期待されたのなら漁師さん達にもがんばってもらいたいね。漁の成果までは俺は関与できない。探知の結果を教えるのは違うだろうし。
さて、そろそろ本腰を入れようか。お互いが邪魔をしている状況だが、相手には余裕は無いのか俺の妨害を押し切ってくるような勢いは無いようだ。では、相手の懐にまでドカンと一発やってみますか。
一気にMPを込めて威力を上げる。その影響は俺が船を作り出したのとは違う海に突き出した半島にある山の上に吹き荒れた。一気に押しきって平和な海を維持する。これで妨害は無いかな。悪化する様子の無い天気に漁師さん達もそれぞれの場所で漁を始めた。ここはやっぱり網を使うんだね。
じゃあ俺も行ってみようかな。
収束した嵐魔法が直撃した半島へと降りていく。木々が薙ぎ倒されているポイントがあるが、人の姿はない。周囲を探しても見当たらないので探知を使用してみると、上空に反応があった。思わず見上げる。
あ、人が飛んでる。上に飛ばされていたのか。あれが原因かな?邪魔する嵐魔法も消えたし、ローブ着てるし、魔法使いっぽい。あ、落ちた。落ちる瞬間に魔法の発動を感知したから衝撃はうまく散らしたようだ。生きてるなら良かった。何とでも出来る。
近くに寄っていくと声は上げないようにしつつも俺に対して警戒感を表していた。
「くそっ!貴様、何者だ!」
「そのセリフはお互い様じゃない?俺は漁師さん達の味方をしたい、あんたは邪魔をしたい。それだけでいいと思うん」
最後まで言い切れなかった。
「ウィンドブレード!」
話し終わる前に風魔法の刃で攻撃された。嵐魔法の使い手なんだから風魔法もお手の物だよね。だけど残念!直撃するも無傷。ステータスと体の周囲に纏う魔力の量が根本的に違うね。今は制限を緩めて精々3割というところだ。自然に影響を及ぼすためには1割だけの状態では少々出力に自信がなかったからね。俺が全力を出すのはいつになるかな!
そういう意味では目の前にいる男も相当な使い手ではあるんだけど、簡単に抑え込める。そして使い道がえらくみみっちい。もう少し殺傷能力の強い風魔法を使って来いよ。
「なぜ、切れない?」
「偏にイメージがおろそかになってるね。真空って分かる?空気が存在しないぐらい薄めると色々と使い道が出て来るんだ。その応用で風の層を鋭くするんだよ。そうすればもっと威力が出る。それ以前にあんたの魔力が弱すぎるのが原因としては大きいけどね」
同じように見様見真似ウィンドブレードを使用して片腕を切り落とす。うめき声を聞く趣味は無いので結界で口元を抑えてシャットアウト。切り落とした腕は目の前で燃やして傷はこれ以上血が流れないように治療しておく。集中しないと嵐魔法で漁師さん達の邪魔も出来ないだろうから処理としてはこれで良し。
「って、ショックで気絶してら。…余計に安全と思えばいいか」
協会長からの依頼はこの男を突き出せばいいかと考えて、念動魔法で持ち上げる。直に触るともっとやっちゃいそうだもんね。
どんな理由があったとしても人の生活の邪魔をしてたんだ。許せそうにはないな。ってこれで相手が自然保護を名目に乱獲し過ぎの漁師を諫めるために邪魔してたとかだったらどうしようかな。腕の治療もやろうと思えば出来るんだからいいか。
しまった。気絶させる前に問いただしておけば良かった。
ん~。でも一方的に漁師さん達に何も言わずに妨害してたんだからこいつはきっと悪い奴だ。そう言うことにしておこう!何よりも現行犯捕縛できたのだからこれ以上暴れられないように抑えつけるのは間違いないはずだ。中途半端なことをして反撃を食らうのも嫌だし、逃げられたら元も子もない。
そう考えると縛り付けておいた方が良いかもしれないと思い、体は海老反り、残った左腕も後ろに回して胴に固定し、口にも詰め物をして声を出せないようにしておいた。
「これで物理的に動けないし、魔法的にもワンテンポ遅れるから対処できるだろう」
ふと思いつくともしかして別の地点から嵐魔法で邪魔する奴がいるかもしれないことに気が付いた。周囲を索敵するが見当たらず、そんな妨害が入ることも無かった。元凶がこのローブ男であることはほぼ確定したので、安心して漁師さん達の船が帰ってくるのを見守ることにした。
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