大漁だ~~~~~
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早速お勧めの店で昼食を取った。不漁でも岸から取れる魚でどうにか経営しているようなのだ。沖に出た魚の美味さを楽しそうに話してくれるのはブーランさんと店主さんだ。
店主の手元を見ていたが、話しをしながらも手が止まることがない。これが職人かとじっくりと技も堪能させてもらった。
刃物を扱う技としては再現できるけど、魚の身のどこに刃を入れれば良いのかを見極めまでは真似できない。これは再現不可だ。ここに来るしかないと思わされる。
「コリコリとした身がうま~い」
食べさせてもらったが絶品だった。身はギュッと締まっているのに噛んで染み出てくる甘味は思わずにやけてしまうほどだ。両手を頬に当ててしまう。
「これ以上のものが海にはあるからな。それを取り戻してもらいたい」
「良いでしょう。出来る限りのことはさせてもらいますよ」
決意を新たにさせてもらった。食べる量としては確かに足りなかった。岸から釣るだけでは店で出すのに十分な量を確保することは難しいのだ。漁師たちも試行錯誤しているが船が転覆しかねない波となると帰ってくるだけで精一杯になってしまう。
まだ満たされない腹は自分のアイテムボックスから出したものを食べるとしてここは捕まえてきた魚の調理をしてもらう約束をするだけで十分だろう。何よりも皆にも食べさせたい味だ。
「ちなみに魚の持ち込みで調理してくれたりもしますか?」
「やってるよ。ただ、今は岸からならともかく沖の方は危険だからね。誰も船なんて出してくれないと思うけども」
「手段はどうにかしますよ。海の中に原因があるかもしれないなら徹底的に探すだけです」
どういうことかという顔をした二人にニコッと笑顔を送っておいた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
海がどっちの方向にあるかなんてのはダコハマリの人に聞けばすぐに教えてくれる。そして見えてくるのは突き出した半島もありつつ、大きな砂浜や海岸だ。思わず叫ぶ。
「う~み~だ~!」
周囲に人がいないわけでは無いんだが叫んでしまった。笑われてしまうのもやむなしだが海など前世でも滅多に見なかった海を見るとテンションが上がる。うん、叫んだことに悔いは無い。
空を見上げてみると非常に良い天気である。カッと太陽が眩しい。昼頃ということもあって真上から照り付ける日差しは少しだけ痛みも感じるくらいだ。
但し波は荒い…感じなのだろうか。素人が岸から見ただけではイマイチ分からないものだ。沖の方では天気が悪いのだろうか。見た感じでは天気も良さそうなものだが。
「すいません。今日は沖まで船で出られましたか?」
叫ぶ俺を見て苦笑いしながら漁の網を手入れしていた漁師さんに聞いてみる。
「ああ、天気も良さそうだが出てみたんだがね。途端に天気が悪くなってね。今の腫れが嘘みたいだよ。手入れしても使う機会がないんじゃおまんまの食い上げだ」
「なるほど。どんな船でも無理なんですか?ほら船もここから見た感じ、数人で乗る大きいのや個人で乗る小さいのまであるじゃないですか」
木だけの小舟から金属を使った船までが並んでいるのだ。大きいものなら多少の波にも負けなさそうだと思ってしまうのだが。勢いよく顔の前で手を振ってその疑問は否定の言葉と共に別の漁師さんから返された。
「ダメダメ!どれに乗ってもダメだよ。おまけに言うならどんな時間に出てもダメさ。早朝の夜明け前なんて格好の漁の時間だってのに出ても人間だけは帰って来なきゃいけない。岸に戻って来て海鳥どもが海上に飛んでるのを悔しく見るしかないのさ」
船がアウトということらしい。となると考えていた手段で行ってみるしかないな。
「分かりました。ありがとうございます。違う手段を使ってみたいと思います」
会釈をして漁師さん達から見えないところに、誰からも見えていないだろう海に突き出した小さい半島に移動した。
「ここからは遠くに砂浜が見えるくらいだな。目の良い人なら見えるんだろうけど。さて、からくりは結構分かってきたぞ。現行犯で捕らえたいから俺も海に出てみるか」
半島といっても砂浜が無いだけで海は目の前である。ここで何をするかと言えば船の創作である。字を間違っているわけでは無い。創作で合ってる。
「『結界魔法』転覆しにくいような大きめの船」
ガッと魔力を込めて形作っていく。色付きで仕上げるために少し海の方を見れば見つかってしまうだろうけどそれで構わない。
作るのは前世で一度だけ乗ったことがあるフェリーだ。大きいと多少の波でも関係なく進んでいくことが出来るだろうと判断してとにかく大きいものを作ろうとしている。
「結構ごっそりとMP使うな。ポーション飲んでおこう」
補給をしながら大きめのものを作った。一度作れば具合が分かるからな。次からはもう少し上手く作ることが出来るだろう。外見しか作っていないから中身はスカスカだけども。
「さて、船体が安定するように海水を注入してと。ん?」
先程まで眩しいくらいだった太陽に雲がかかってきている。俺の船づくりを確認したからか実力行使に出てきたな。これで確信が持てたな。
「確実に嵐魔法だ。使い手がどこかにいる。けど、どこにいるか探す前に沖に出てみるとしようかな」
俺の魔力ゴリ押しで船は進む。本当なら使用している金属やら何やらの重みで安定するんだろうけど、不安定になるところは俺が無理矢理にMPを注ぎ込むことで解決している。次第に雨が降ってきた。
「雨が降ったところで魚が獲れれば問題無いんだよっと」
『探知』を発動して海の中を探る。見つけた魚群までの距離も深さもしっかりと把握する。
「今度は『結界魔法』網バージョンだ」
魚群に見合った大きさの網を用意してポイントまで移動する。近くなったところで網を放出する。そのころには目を開けていられないくらいに嵐が襲い掛かって来る。
「あ、これだけ離れてたら結界で防いでもバレないか」
今さらなことに気が付いて船上に結界を敷いて雨を遮断する。温度差で一気に寒くなったように感じる。身体を温めて少し時間を取る。俺のように強化したステータスを持っているとも思えないし、潤沢なポーションを持っているとは猶更思えない。
漁を始める前にそのまま待機すること1時間ほどだっただろうか。そろそろ飽きたなと感じるところで雨が上がってきた。仕掛けてきたやつのMPが切れたのだろう。
「よし、今だ!」
網を海の中に投げ入れるかのように動かす。実際に俺が投げ入れるわけじゃないから。指先ひとつで自由になるってもんだ。1時間の間に魚群を追いかけることにも慣れていたのですぐに整う。間違いなく網の中に収めたことを確認するとすぐさま引き上げに入る。
それと同時に岸辺の方へと急転回して戻り始める。
「よく考えたら魚のしめ方とか分からないや。とりあえず凍らせれば良いのかな。分からないなりにそうしておくか」
船上まで上がってきた魚は船内部の極寒の空間に放り込んでおく。いつの群れだったが色んな種類の魚がいた。現実世界の1つの群れは1種類の魚で構成されているわけでは無いようだ。
意気揚々と海岸まで戻ってきた俺はぽか~んとした顔の漁師さん達に迎え入れられた。この場合は勝手に乗り込んだって方が正しいか。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




