冒険者たちの底上げ
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話が終わって部屋の外に出ると一斉に多くの視線にさらされた。話の内容こそ分からないものの冒険者も職員さん達一同も、自分たちの長と急に現れた金級冒険者との話が気になっていたみたいだ。
ふと言い忘れを思い出したので、後ろに立っていたブーランさんに振り返って言うことにした。
「今思い出したんですけど帰る前に余所者として1つだけいいですか」
「なんだ」
何を言いだすのかという顔をしているし、後ろからは動揺やら敵意やらが飛んでくる。
「冒険者のガラが悪すぎます。俺だから何ともなかったですけど、大人数にあの絡み方をされたら街から出て行きますよ。今必要なのは外からお金を落として言ってくれる人であることも間違いないはずです。それをみすみす逃げ出させてしまうようなことをしては意味がありません。全体をダコハマリの冒険者を預かるものとしてブーランからの謝罪を要求します」
「それは申し訳なかった」
思ったよりもあっさりとブーランさんは頭を下げる。それと同時に冒険者側から巻き起こる悲鳴。
「オッサンが頭下げることは無いって!」
「俺らが悪かった!」
大体が自分たちがやらかしたことが原因だと認識できているようで何よりだ。だが、俺の耳は聞き逃していない。
「おやっさんに頭を下げさせるようなことを言うあいつが悪いんじゃねぇか」
「金級冒険者だとか言って子どもが何かの権力を使ったんじゃないのか」
「はい、拘束~~~!!」
影に隠れてまだ文句を言っていた若造(俺からしたら年上だけど小物だからこう言っても差し支えないだろう)2人を念動魔法で拘束して目の前で転がす。しゃがみこんでひとしきり睨みつけるとブーランさんを見上げて聞いてみる。
「こいつら頭下げさせた俺が悪いって陰口叩いたけど、ブーランさんはどう思う?」
「地獄耳か、お前…。あ~、冒険者の管理が出来ていないのだとすると協会長として俺の責任だ。イレブンが言っていることに間違いは無い。俺が頭下げたのはお前たちのためだったんだがそれも分かってもらえないとはな。重ね重ねすまない」
そう言ってもう一度頭を下げてくれた。自分たちが原因で更に頭を下げさせることになったバカ2人は真っ青を通り越して真っ白である。ブーランさんって本当に好かれてるんだね。もう少しそれが良い方向に働けばいいのにな。
ともあれ先程大勢で笑われた件についてはこれくらいで良しとしよう。バカにするために大勢で笑われるって凄くストレスを感じることだ。したくもない経験をしてしまった。
「では、仕切り直しまして。お前ら!日も高いうちからグダグダと暇を持て余してる場合か!!」
『大声』を使用してフロア中に響き渡らせる。
「冒険者なら漁という形でなくても街のためになるようなことを考えろ!でなきゃ役に立てるまで鍛えろ!」
「そんなこと言ったって俺たちだって思いつく限り努力したさ!でも冒険者と言っても少し力が強いだけの俺たちじゃあ手伝いくらいしかできないんだ」
「その年齢で金級冒険者になるような才能の持ち主には何を言っても分からないだろうよ」
俺の一喝にネガティブで応じてくる連中にイラっとしつつも指を一本立てて注目を集める。
「俺が魔力をうまく使えるようにしてやると言ったらどうする?」
「「「「「「なんだって!!!?」」」」」
ブーランさんも含めて驚きの声をあげる。
「全員成功ってことは無いですけどね。一応前例があるんで痛みに耐えられるのなら出来ると思いますよ」
自信ありげに言えるのは2ヵ月の間にグレイブ村を警備する人たちの実力を底上げするために試してみたことがあるからだ。スキルポイントでどうにかするという手段が使えない人でも何か方法が無いかということで。
「方法は簡単で、俺が発する魔力に耐えるだけです。自然と自分の中の上手く使えてなかった魔力が防御本能に刺激を受けて表面に出てきやすくなります。それを自分の感覚で掴んでください」
魔力はどんな人でも持っている者というのがこの世界での常識だ。しかし、それはゲームの世界の中だけで、現実となった今の世界ではそこまで常識でも無かった。だから色々とやってみようと思わせてくれたのだ。
「一度掴めばあとは自己鍛錬あるのみです。では、誰からやります?」
「俺だ!」
一番最初に手を挙げたのはシャツパッツパツ兄さんだった。
「相応に痛みがありますので手で口を塞いでいた方が良いと思いますよ。では、や~「ぎゃああああああああああああ」」
だから口を塞げって言ったのに。
☆ ★ ☆ ★ ☆
叫びを見て怖気づいた一部を除いて施術を行っての魔力の感覚を掴めた人は大体8割弱。残りの中から半分は遅れて掴んでくるだろう。それは2ヵ月の実験の中で分かっていたことだ。残った1割の人は本当に才能がない人だ。魔力というストレスがかかったのに魔力で防御出来ないということは欠片も活かすことが出来ないからと言える。
そんなわけだが、諦めずに冒険者を続けてはいけないということは無い。魔力を使わずに筋力だけでクリアを目指す脳筋ビルドだって存在したのだ。道は険しいが諦めずに進んでもらいたい。
「というわけで魔力の扱いに目覚めた人は元から使用していた人に基本の制御の仕方を学んでください。どんな方面に才能があるか分かりませんが、基本は同じです。身体能力を補助する方向にあるなら今まで通りでしょうが、魔法の方向に才能ある人は色々と工夫のしどころがあります。ぜひ楽しんでくださいね。俺はこの辺で帰らせてもらいますね」
サラッと大事なことを話して勝手に帰らせてもらう。今からこの人たちは自分の戦闘スタイルの新たな開発が始まるのだ。人に勧められたからと言って自分の性格と戦い方が合うかなんてのは別問題だ。自分で試行錯誤しながら試してくのが面白いはずだ。まあこの世界ではやり直しがいくらでも効くから気長にやってもらいたいものだ。
本音は面倒だからの一言に過ぎるのと割とケガをしているのが目立ったからだ。ケガをしても漁の手伝いをしようとしていた冒険者ならば新しく力を手に入れても下手な使い方はしないだろうと踏んだ。
ちなみに俺は常にステータス底上げの、暴力は大正義ビルドで進められるときはそうしていた。現状もそうだと言える。それが合わない時は魔法を主体にしていたが殴る蹴るの方が性に合っているのだ。
魔力の扱いに目覚めたからか皆さんからの見る目が最初と変わっている。これは恐怖か。俺の頭の上あたりを見ているな。内包しきれない魔力が現実で少し漏れるからそれが見えているらしい。いかんいかん。見えないように完全に消しておこう。
自分の力に調子に乗られても困るけど、俺を見て恐怖を感じるならしばらくは大丈夫だよね。どっちにしてもブーランさんの方が強いし。
さて、帰るか。
「ちょっと待て!」
ブーランさんからストップがかかる。
「何でしょう?」
「こいつらが動けなくなってしまった分の依頼消化を手伝ってもらおうか」
「海が荒れるから仕事無くなったのでは?」
「強くなったなら少しは出来るようになるかもしれねぇだろ。それにお前なら根本原因まで何とかしてくれそうだ。協会長からの特別依頼だ。受けてくれるだろ。ちゃんと金は出すし、お勧めの海産物の店を紹介してやるよ」
有無を言わせない口調だ。俺が引き受けると確信されている。確かに冒険者たちの痛みは1週間くらいは残るし、戦闘スタイルの研究となると現実世界となればそれこそ年単位で修業を重ねていくものだ。海の上でなんて足腰を使うのに魔力も使うとなると基礎を身に付けるのに良いな。環境は整えておくに越したことは無いか。
「午後しか自由な時間ないので今日のうちに終わらせますね」
というわけで海に出てどんなことが起きているのかを確認、原因が即排除できるものなら排除することになった。
昨日の晩に感じたところでいうなら人工的な気配がするんだよねぇ。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




