ダコハマリの協会長さん
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小ダル型コップが何個も飛び交い、刃物はさすがに持ち出さなくても容赦なく殴る蹴るが横行する大乱闘。原因の俺はそれを職員さんの横で眺めている。
じっくりと動きを観察してみてたけどこの場には冒険者等級で言うところの銀級までくらいしかいないね。もしかしたらそれ以下かもしれない。魔力もきちんと使いこなせていない。筋肉とステータスだけでどうにかしているような感じだね。
「激しいことになってしまいましたね~」
「あわわわわわ……」
青い顔になって震える職員さん達。後で片付ける時に面倒なので小ダル型コップはこぼれないように念動魔法でそっと受け止めて端の方に寄せている。だから壁側見ると面白いよ。中身の入ったコップがたくさん並んでいるという不思議現象が起こっていることになっている。
10分ほど暴れると、落ち着いてきたようで周りを見回す余裕がある奴が出てくる。それに合わせて集団幻覚よろしく幻魔法を解除する。彼らの目には今までそれぞれがボコボコにしていた俺の姿が一瞬のうちに消えてしまったように見えているはずだ。
「最初のガキはどこ行った!?」
冷静に怒るようになったなら相手しても良いかな。
「片付けに回ってたよ。あんまり散らかしてもいけないと思うよ。もういい年齢の大人でしょ?職員さんたちに迷惑かけたらダメだよ」
あまり聞かずにガーガーと喚きだしたので面倒だから魔力を解放しようしたときに組合の入り口の扉を開ける人物がいた。
「何の騒ぎだ!静かにしろ!!」
この人はここにいる連中よりも強いなって中年から老年に入りかけているおじさんが入って来た。若いころは相当に強かっただろうことが今からでも分かる。
「組合長…」
横でボソッと呟く職員さんの言葉が聞こえたおかげで騒動が終わることを確信した。
しかし、地元の冒険者びいきをされても困るためどこかで俺も意見をいう機会はもらわなくてはならないだろう。それでも職員さん達の範囲まで幻魔法はかけていないから味方になってくれるはずだ。彼らの目にはいきなり悪態をつきだして暴れる冒険者しか見えていないのだから。
こちらをちらっと確認した後大きなため息を吐くと弁明しようとしていたシャツパッツパツの兄さんに拳骨を落とした。
「バカやろう!!武闘大会優勝者で金級冒険者に逆らって命があるだけありがたいと思え!!馬鹿者どもが!」
何と俺を知っているらしい。弁明する必要すら無かったらしい。自己紹介をしておいた方が良いみたいなので冒険者証を取り出して見せる。
「どうも。金級冒険者やらせてもらってます。余所者だけど仲良くしてください」
☆ ★ ☆ ★ ☆
「うちの馬鹿どもが迷惑をかけたな」
「いえいえ。自分の知名度がまだまだなだけですから。ブーランさんはどこかでお会いしましたか?」
ダコハマリの冒険者協会の協会長さんはブーランさんと自己紹介してくれたので俺もきちんと挨拶している。最初からこんな風にお話してくれたら内容によっては食事代くらい奢っても良かったのにと思ってしまう。
「俺がお前さんを見たのは武闘大会だ。これからの有望な冒険者も出ることが多いんでな。年寄りの楽しみとして毎年見に行くことにしているんだ。今日はお仲間はいないのか」
「別行動してます」
そう言って出してもらったお茶を一口頂く。家で飲む方がおいしいのだがさすが協会長だ。イイものを飲んでいるようだ。
「おいしいですね」
「まだ若いのに茶の味が分かるんだったら大したもんだ。腕ばかり鍛えて文化的な生活を忘れたような奴がたまに出てくる。それじゃあいけない。もっと子どもが英雄と憧れるようなものを目指してこそ一流の冒険者だ」
目をキラキラと輝かせて熱弁してくれた。子どもの時の憧れを未だに持ち続けているみたいだな。見た目よりも若い印象を受けるのはそういう理由か。
「それで、この街まで来たのは何か理由があるのか?」
「あ、大事になるのでここだけの内緒にしてほしいんですけど、いいですかね」
「内容に依るが」
「神獣の青龍と関係するようなところがあれば教えてください。分からなければ候補でも良いです」
「は…?」
口を開けて数秒ほど固まったブーランさんは何とか動き出すと持っていたコップから一口茶を飲むと落ち着いて呼吸を整えた。
「若ければ何か情熱に燃えているのは良いものだと思うがよ。そんな夢物語を追いかけて何か理由でもあるのか?」
「理由まではナイショです。ただ、確実に実在していると確信してますし、向こうからも姿を現してくれるのではないかと思っています」
ニコニコと相対していると絶対に明かさないという言葉を汲み取ってくれたようで折れてくれた。リセルの詳しい事情まで話す必要までは感じないのが正直なところだ。
「ダコハマリに伝わるお伽話で青龍が存在するって話は残ってる。だがそれが詳しい現場がどこかってのは残っていない。いくつか候補の海岸や建物なんかはあるから教えてやろう」
「それで十分です。助かります。ついでにもう一つ聞いていいですか?」
「なんだ?メモを書いてからにしろ」
「分かりました。しばらく黙ります」
お茶を飲みながら待たせてもらう。書いてもらったメモを見ると場所の名称と行き方を書いたものだった。みんなで手分けしていることを考えればこれで十分な成果だろう。
「ありがとうございます。じゃあ聞いても良いですか?」
「なんだ」
「あの下にい冒険者の人たちは依頼を受けにいかないんですか?」
「その質問に答えるには今この街が置かれている現状に関わってくる。余所者のお前が首を突っ込むのか」
「お尋ね者になっても良いくらい貴族の横暴ってのは嫌いなつもりですけどね」
「既に知っているのか。まあしばらくこの街にいるなら知っておけ。ただし、無暗に首を突っ込もうとするな。この街に生きる者が解決すべき問題だ」
「下手な覚悟では手は出さないと誓います」
胸に手を当ててそれらしい宣言をする。どうせ手を出すなら街ごと全部助けるつもりで手を出します。
ブーランさんとしても思うところはあるようだが詳しく話してくれた。
冒険者と言っても地域柄いろんな仕事の手伝いをする。それこそ漁の手伝いと警護なんて仕事もあるくらいだそうだ。しかし、最近の不漁で採算が取れないのに加えて沖まで船を出すことが出来ない事情もあって、この時期に漁関係の依頼を受けている冒険者があぶれているというのだ。
漁を行うのは日も昇らない早朝から俺が組合に顔を出した時点で一仕事終えて彼らからしたら夕方の感覚らしいのだ。それは失礼な言い方をしてしまったものだと反省する。だが思うことは一つ。
「景気が悪くなっても酒場で飲む余裕があるのはすごいですね」
「あぁ、それか」
ブーランさんが何か言いにくそうにしている。何かピンとくるものがある。
「もしかして代金を肩代わりしてるんですか?」
「一部だけな。後は安くてうまいものを優先的に回してもらっている。なんだ!?その顔は!」
「いえ、別に」
「昔からのコネがあるってのは良いものだ。冒険者時代、いろんなところを見て回ったがやっぱり故郷が一番住みやすいもんだ」
良い話風にまとめようとしているが、あの現状の原因はこの人にもあるように思える。まあしかし後輩や弟子がカワイイという気持ちはこの2ヵ月で俺も分かる気持ちだから何も言わないでおこう。
「何とか昔の海に戻ってもらいたいものなんだがな」
責任を背負う男の切なる願いの言葉だった。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




