厄介ごとに巻き込まれる不思議
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拠点を確保した後、色んなところで領主であるラグギゴ侯爵の不満を耳にした。捕まらないのは兵士でさえ給料がカットされてヤル気を削っているからだろう。しかし、重税なんて一体誰が得をするというんだろうか。少なくともダコハマリの街のために使うとは思えない。
「助けたいと思うのは構わないんだけど金の流れを考えると腹が立つから考え物だ」
「助けてあげたいと思うのはダメなの?」
「村で人手が足りなくて困ったるってのとはまた別の話なんだ。よく考えてみろ。さっきの屋台の人たちを助けようと多く買い物したとしてもラグギゴ侯爵の懐にいくことになるんだぞ。負けた気分になるじゃないか」
そうなのだ。根本原因である侯爵を叩かない限り街の状況は良くならない。なぜ重税とも言える状況になっているのかも聞いてみないと分からないからな。もしかしたら王都にも言えない困りごとでもあるのかもしれないし。街の人の感じから可能性は低いけどな。
「王都への報告はやっておくからこれからのことを相談しよう。俺たちの第一目標は青龍に会うことだ。朱雀が火口にいたように自然が厳しいところを棲み処にしている可能性が高い」
「ダコハマリの街の周辺でそういったところが無いかを聞いて回るってことだね」
「そうだ。その手段だけどどうする?俺は冒険者組合でまず聞いてみようと思うが」
「私とトワちゃんは今日みたいに観光しながら聞いて回ることにするよ」
やけに良いこと考えたみたいな顔をして言ってくるな。リセルの考えそうなことで言えば……、あ~なるほど。
「分かった。あんまり金を使い過ぎるなよ」
「うっ。了解」
観光にかこつけて色々と買い物を多めにするみたいだな。拠点に必要なものの買い込みを併せることで良しとすることにした。
「糸太郎も拠点防衛の作業があるよな。福来も一日は作業に必要だろうし、そうなると防衛に目立つようにソウガも拠点にいてくれるか?」
問題無いとそれぞれのジェスチャーが返ってくる。さて一番謎なこいつらの配分だが。
「フレンドビーたちはどうする?」
「聞いていればダコハマリの街の様子が不穏なのが気になっているのでしょう?忍び込んで参りますよ」
「万花、そういう言い方するなよ。トワが行きたがるだろうが。トワ、ダメだぞ」
「わかった………御意」
元気な柴犬のように反応したトワだったが俺からの注意で一気に萎れてしまった。ご機嫌の回復はリセルに頼もう。これで多量の買い物に理由が更に追加されてしまった。仕方ないけど。
「失礼しました。いつものように敵対勢力が潜んでいないか、何を企んでいるのか調べて参りますね」
「安全第一だからな。なるべく毎果隊と薙刀隊で補い合うようにいくんだぞ。特に毎果隊は強くないんだから気を付けろよ」
「お優しい言葉をありがとうございます。ご命令通りに行動するように厳命いたします」
ある程度の行動方針と予定をすり合わせて決定して解散となった。
就寝準備に移ったみんなを横目に外に出ると、睡眠をあまり必要としない糸太郎がはやくも拠点の防衛強化を実行していた。え?昼にあまり出歩くわけにもいかないから夜の方が作業の都合にちょうどいい?確かにそうだな。
今回も例に漏れず街の郊外にあった別荘の一つを買い取った。他の住居とも離れているから多少の改造をしても気にされないだろうし、ましてや要塞レベルの防衛を敷いていたとしてもバレることは無いだろう。近づくやつがいれば別だが。
「海が近くて良い別荘だよな。気にせずにバカンスに来るのにもちょうど良いかもしれない。休暇の時に使っても良いよってみんなに貸し出すのも良いかもな」
各地に作っている拠点の良い使い方かもしれない。休みの日にグレイブ村だけにいるのも微妙だし、出来ることをこの2ヵ月で知られてしまったわけだし。気にせずに制限無しの開放をしてしまっても良いかもしれない。
「今は暗くて分からないけど海も近いはずだしな。夏の避暑地として良いか、ってあれ?」
海の方から魔力を感じる。一人で放出できるような魔力ではなく、魔石の力を振り絞って中規模な効果を引き起こすかのようだ。
「海の方から人工的な魔力放出か。これも街の異変の何かに関係してるのかな」
しばらく観察していると風が強くなり波の音も大きくなってきた。天気予報が出来るわけでは無いけど天気が悪くなってきたようだ。あまり荒れないことを祈って俺も就寝しようと拠点へと戻った。
☆ ★ ☆ ★ ☆
翌日は決めた通りにそれぞれの情報収集に移っていった。ちなみに俺が一人なのは誰も同行したがらないからだ。何か気になることがあるとドンドンと移動していくのでついて行くのが大変と言われた。
昨日のようにゆっくりと観光するくらいなら問題無いが、今日みたいな活動の時はむしろ一人で動けと言わんばかりの行動を勧められる。自分でも自覚があるだけに仕方ないと思っている。
そして大体情報収集は他の人任せになるかな。荒事に巻き込まれることが多いからね。
「ひょろいな~、兄ちゃん。海の街ダコハマリで活動するには筋肉が足りないんじゃないか?」
「あんまりいじめてやるなよ~。ふるえちゃってるじゃねぇか!」
上半身ムキムキで筋肉の形がわかるようにシャツをパッツパツに来たお兄さんになぜか絡まれている。ちなみに震えているのは本当。
だってこんな典型的な絡み方を今更されるとは思ってなかったからね。笑いを我慢するので大変だ!
周囲の人も楽しいらしく俺とシャツパッツパツ兄さんとの絡みを楽しそうに見守っている。協会職員の人はオロオロしている。こういうのを治める人がいるはずなんだけど今日はいないのかなじゃあ仕方ないか。
「そこそこに鍛えてるんで大丈夫ですよ。問題無いとは思ってるんで、良かったらこの辺りで神様関係の建物や精霊が祀られているような場所って御存知じゃないですか?」
一拍置いて大爆笑に包まれる。
「「「「ひゃ~はっはっはっはっは!!」」」」
そこまで面白いこと言っただろうか。戸惑いが出てくる。待っていたらさっきの兄さんとは別の人が小型の樽で出来たコップを持って近づいて来た。
「余所者がいきなり知りたいこと知れると思うなよ。まずは洗礼を受けないとなァ!!」
コップを振り下ろしてきたので腕を掴んで止める。ついでにコップには中身もまだ入っているのでこぼされないように取り上げる。
「危なくないですか?」
普通なら怪我してただろうな。驚いた顔で俺が掴んで手から逃げようとするがこれくらいでは離すつもりは無い。
普通の冒険者だと突然の理不尽な暴力と場の雰囲気で縮み上がってしまうところだが。あいにく1でもダメージを与えられるようになってからケンカを売ってもらいたいものだ。いや、1くらいなら偶然食らう可能性があるから2以上かな。
「海で有名なダコハマリの街の冒険者は午前の内から酒を飲むような暇人の集まりですか。で、見知らぬ余所者には何をしても良いと。恥知らずばっかりですね。依頼受けないなら全員引退したらどうです?」
結論から言おう。その場で大乱闘になった。後悔はしていない。
ちなみに報告会の時に「やっぱりついて行かなくて正解だった」と口を揃えて言われてしまった。俺だって好きで巻き込まれてるんじゃないやい。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




