『金の生る木』パーティとの一件
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「ナニコレ?」
「自分で読んでから聞いてよ。私だって書いてある以上のことは知らないよ」
リセルも読んではいるようだから聞いたのに、仕方ないから自分で読むことにしよう。
……ふむふむ。金にがめつい系の冒険者と注釈が入っているな。その一心で金級に上がれるほどになったのなら大したものだ。が、金級になってからの素行に問題アリと。なるほどなぁ。
「『極上の果実』ダンジョンは下手な金級だと死ぬと思うってのは伝わってるのかな?」
「金級が一番上だから自分たちでもいけるとの主張をしているって注釈も付いてるでしょ」
あ、ほんとだ。つまりは断るに足るだけの材料が無かったのかな。ザールさんを商人と侮ったら後がこわいのに。かといって無理に突入させて死なせるには惜しいというわけだな。
「じゃあ入れるけれど長期活動に踏み切るには至ってないし、トワに対応してもらうのでどうかな。武闘大会準優勝者だし」
頬に手を当てて悩ましげな表情でリセルがため息を吐く。
「うまく、手加減が出来ると良いけど…」
「たしかにそうだけど、大丈夫…だろ」
流れる無言の空気。理由は分かってる。対人戦に期待が出来ないだろうと判断した俺はトワには一撃必殺の心得を聞かせていた。やられた瞬間の記憶すら残さない一撃は気絶してしまったしか思えないのだ。
何度も続けば理解できるだろうがそれまで何度も手を取られるのは面倒だ。相手の記憶に残る状態でお引き取り願うにはトワは不適格かもしれない。一人くらい意識を刈り取るくらいなら良いだろうけど。相手は5人いるわけだし。
「いや、俺がやるしかないか。……あ、もうここには到着してるんだ」
「もう丸2日は待たせてるね」
「そんなに放置したら怒ってない?」
「ここに来るまでに陸路で来てるから移動の疲れを癒してるよ。ここにしかない温泉の良さを体験してるからまだ不満には思ってないみたいだよ。ご飯もお酒もおいしいから満足してるみたいよ。貨幣獲得に良いお客さんね。ちなみに女性従業員は近寄らせてないわ」
「なら良かった。でももう少し早く言ってよ」
「暴れだすくらいならすぐに叩き出す理由になるから良いかなって」
「そういう問題じゃないだろ」
図らずも懐柔してしまったみたいだな。仕方ない。どうなるかは分からないけど行くだけ行ってみようか。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「ここの村の経営に関する権利を寄越せ」
冒険者組合の一室を借りての第一声がこれだった。デテゴは立会人として同席しているが、口は挟まないスタンスだ。この場で暴挙に出ないようにという意味でもある。
「お金儲けを目的にしているわけでは無くて、移動の中継点に少しばかり提供してるだけですよ。それにここは村ではなくて個人的なキャンプですから」
おかしい。書類には『極上の果実』の攻略に関して一枚かませろって話のはずだったのに、キャンプを村扱いした上に乗っ取り宣言をされてしまった。
「ここはグレイブ村の土地を借りただけです。正式に王国やら貴族から通知が来れば村の開拓に切り替えないことも無いですけどすぐにはあり得ません。全部個人的な趣味の範囲です」
「それで通じると思ってんのか!」
至極正論!温泉とかスー〇ー銭湯並みに施設整えたもんね。でも一日あれば撤去可能だし!
「思ってますよ!」
一応反論しておく。
そうすると後ろに控えていた一人が俺と話すリーダーに耳打ちする。イヤな予感がする。
「リーダー、これはきっと内々に開拓をするように命令されてるんですよ。公にできないからそう言い張っているだけなのでは?」
「その可能性が高いな」
コソコソ話しているが、聞こうとしなくても全部聞こえるレベルだ。仮に命令されたとしたらどうしようかな。丸ごと譲ってどこか別のところにでも行こうかな。たまにダンジョンに潜ることがあっても縛られたくは無いしな。
訪れそうな気のする未来について考えていると机を叩く音とともに怒声が響く。
「おい!優しく言っているうちに言うことを聞いておけよ。俺たち『金の生る木』が狙いを定めて逃がした獲物はいないんだぞ!」
「どれだけ若く見えても一応同格の金級冒険者ですよ。脅しが効かないことくらい分かりません?」
相対した瞬間から見た目で侮っていることは分かっていたがここまで浅い恫喝でどうにかなると思われているなら心外が過ぎる。
「こっちはパーティだけでなく個人でも金級だぜ」
こっちはパーティでは金級ではない。既に魅力を感じなかったので申請しなかったのだ。個人で金級という称号でもういいと判断してしまった。
しかし、金級というだけで無法をはたらこうというからには資格を剥奪する理由になる気がするけども…。
ん…?これってそういうことか!デテゴの方を見ると俺からしか見えない角度でやっちまえとハンドサインを送ってきている。
ついでに笑顔のザールさんが笑顔でGOサインを出しているように幻視する。
そこまで指示されたら仕方ない。やるか。
「ではどうしますか?決闘でもして奪い取りますか?そういう顔してますもんね」
待ってましたと言わんばかりに笑顔だ。自分たちで言うにはデテゴの手前言いづらいが俺から言い出してくれたらありがたいというものだろう。既に発言内容が冒険者ではなく恐喝犯のそれなんだが。
「だったら話ははえぇ。そうしようじゃねぇか!」
「分かりました。面倒なんで5対1で構いません。おまけに俺が負けたらあなたたちの下で働くということにしましょうか」
「乗った!」
「自分たちが負けた時のことは聞かないんですか?」
「いくら武闘大会優勝者でも同格5人相手と戦って負けるわけねぇだろうが。お前さんがマヌケで良かったよ!」
心底自分たちの勝ちを疑わないようである。安心した。嫌いなタイプだ。手加減をミスしても誰も困らないだろう。
☆ ★ ☆ ★ ☆
移動に5分、新しい方の鍛錬場に来た。こちらの方が広いからね。どちらかと言えば村の外だという言い方の方が正しい。
俺はパッと見で戦うような装備でもないし、武器も無い。対する『金の生る木』はガチガチに武装して手に持っている武器も本気のものだ。しかしさして脅威は感じない。模擬戦をするときのトワ一人の方が殺されそうな雰囲気を感じる。
一応公平を期すつもりだろうが始まるまではコチラサイドに立っているデテゴが聞いてくる。
「イレブン、その格好で良いのか?」
「本気出すまでも無いし」
「自分で言うなら良いけどよ」
中央に立ったデテゴが寄ってくるように声をかける。
「始まっちまったら公平に勝敗を付ける!両者ともに不満は無いな」
「ああ」
「ねぇよ」
ニヤニヤ笑っている人ってその顔を自分で見たことあるのかな。とてもじゃないけど見られた顔してないんだけど気づいてるんだろうか。これに関しては男とか女とか関係ないよね。
そうしている間にデテゴの確認が進む。
「では、『金の生る木』が勝てばこのキャンプの支配権を握ることになる。イレブンが勝ったときはどうするんだ?」
「あとで考えておくよ」
「ありえないからよ!協会長さんも気にすんな!」
今デテゴが小声でなんて言ったか聞こえなかっただろうな。殺すのだけはやめておけと口が動いてた。そこまではしないって。
「では、いいだろう。両者少し下がれ。…………始め!」
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




