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助けたのは獣人(この国にはいないはずです)

お楽しみ頂けると幸いです。

「はぁ…、はぁ…、はぁ…」


とにかく逃げないと。緊張しているからかいつもよりもはやく息があがる。足が疲れた。もつれそうになるのを何とかがんばって動かす。動け!

このあたりまでならまだ来たことある。知ってるところでまかないと今度はぼくが帰れなくなる。それでも2人を森に連れ出したのはぼくだ。だから危険から遠ざけるのもぼくがやらないといけないんだ。


「っと!」

「お~い、慌てて逃げなくてもいいんだぞ~」

「逃げるだろうがよ!優しくねぇな~」


木の根に足を滑らせた。何とか踏みとどまったけど、しっかり見られていた。まだまけてない。泣きたくなるのをがまんする。

何が楽しいのか分からないけれど笑ってる。大人たちが言っていたのは本当だった。ぼくがいけないことをしたからぼくだけで何とかしないと。

村からは逆方向に逃げる。気づかれる前に囮になったから今標的にされているのはぼくだけだ。


「逃げないと」


「声をかけながら追いかけたら思った通りに逃げてくれたな」

「所詮ガキだからな。子どもの浅知恵ってやつだ。これでこいつらの隠れ場所の方向は分かった。売り飛ばせば良い金になるだろう」

「最近はショボかったからな~。俺たちはツイてるよ。ボスに献上する前においしい目を見れねぇもんかな」

「そこまで俺たちが頭回るかよ。まあでも実際に見てからだな」


少しがんばって走ったから隠れたけど、たぶん藪の中に隠れているのはバレてない。でもこの辺りにいることは分かってるんだ。だってどこにも行かないから。話していることで村の場所がバレてしまったのは分かった。でも理由が分からない。

ぼくも捕まったら売られてしまうらしい。みんなも捕まったら売られる?どうしてそんなことになるのかな。ひどいよ…。でもちゃんと逃げれたかな。そうしたらはやくみんなで逃げてほしい。言うこと聞かなかったぼくがひどいことされるのはがまんするけど、みんなは逃げてほしい。


「さて、バレることは無くてもそろそろ面倒だな」

「どこにいる?」

「そこ」

「分かってるなら早く言えよ!」


ダメだ!逃げよう!とにかく走らないと。



もう一回走り出したけど、さっきから隠れて逃げられなくなった。常に姿が見える位置で追いかけてくる。最初は逃げられるかと思ってたけど全然出来ない。無理なんだ。敵わないんだ。

泣きたくてもあきらめちゃいけない。できる限りのことをしないと。でも足がもつれてまたこけてしまった。


「もうそろそろ良いんじゃね?」

「なぁ坊主よぉ。自分が勝てると思ってることで負けたら立ち直れねぇよなぁ?」

「これで大人しく捕まってくれていたらあとの仕事もしやすいからな」


やっぱり捕まったらダメだ。逃げないと!…でも、もう怖くて動けないよ…。ごめんなさい…。


「とりあえず助けるね」


やさしい声がして、黒い布をかぶせられた。よくわからなくて、あわてて布から顔をだしたら追いかけてきてるのとは別に背中を向けて立ってる人間種がいた。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


声を頼りに来てみたが森の中で男が品の悪い声をだして笑ってるし、胸糞悪くなりそうな現場を見た。捕まえるとか、おとなしくとか、どう見ても人攫いです。イラっとしてしまう。

追いかけられている子どもをよく見て驚いた。一体何が起きているというのか。異常事態であることを理解するとめまいがしてくる。これは介入しないととんでもないことになってしまいそうだ。


具体的に言えば、魔国が本気で王国を滅ぼしにやってくるかな。たぶん、いやほぼ確実に。最悪のことを考えて行動するなら助けておいた方が良いな。

とりあえずは男2人との間に割り込み、メディさんのときと同じく合成糸のマントを一枚取り出して被せてあげる。


「とりあえず助けるね」


出来る限り優しい声を気を付けた。ちょっと自分じゃないみたいで気持ち悪い。まあ現状を脱する前に気を抜くのも嫌なので油断はしない。

しかし、困った。魔物はある程度ゲームと見かけが一致するが、人型は戦闘する機会があっても見た目は兵士や固有キャラと決まっているため、目の前にいる男2人の強さに関するデータがない。


いや、勝てるとは思うけどどのくらいの強さで行けば良いのかが分からない。ある程度の力の調節は出来ても万が一があっても嫌だ。


「こんな森に人がいるなんて珍しい。同業者…ってこともないな」

「たとえ同業者であっても見られたからには逃がすことは出来ないな。大人しく死んでくれや」

「一人なら口封じも簡単だしな」


それを聞いて閃く。


「なるほど!その手があったか!確かに一人だと色々困るな。その点2人はいいな。気兼ねせずに済む」


いきなり笑い出した俺に気持ち悪さを感じたことが分かる。その顔は何度かされたことがあるから言葉にされなくても分かるぞ。

でもお前らも言ってたじゃないか。


「勝てると思ってたのに負けると立ち直れないんでしょ?そっくりそのまま返すよ。ちなみにどっちが賢いのかな?」

「はぁ?何を言っ「こっちが頭悪い方か」」


直接触れてしまうとどうなるか分からなかったので、触れないように気を付けながら急接近する。腹の前で止まった掌から生活魔法レベル1の『送風』を無詠唱で放つ。

途中で割り込んだからだが、悲鳴をあげる間もなく吹き飛んでいった。助けた子はもちろん、もう一人の方もゆっくりと吹き飛んだ方を見て動けないでいる。相手の力量を見極められないのはお互い様だよね。


傍目からは掌底で吹き飛ばしたようにしか見えないはず。実際は攻撃魔法でもない生活魔法を効果が弱まる無詠唱で放っている。圧縮して解放と一手間は加えたが。

少しでも強ければ耐えられるはずだが、それすら出来ないということは思った以上に一般常識との差は大きいらしい。それとも序盤である王国には魔法防御を上昇するような装備が無いからだろうか。

ステータスの魔力が上がれば魔防も上がるはずなんだが。そうなると単純に弱いのか。


「じゃあ聞いてほしいんだけどね。この子の村に手を出そうとする人間を見逃すわけにはいかないんだ。五体満足でいたかったらそのままで待っていてくれるかな。思ったより飛んだから拾ってくるよ。逃げたら今度は上空に向けて飛ばすよ。水平に飛ばすよりも痛いと思うから余計なことしないでね」

「なんで…?」


後ろから声が聞こえる。いや、ほら、本当なら君みたいな獣人が王国内でも魔国とは遠い位置にいるなんてことあり得ないんですよ。


「えっと、獣人族って義に厚い種族が多いんでしょ?だから魔国内じゃないとはいえ人間族の犯罪に巻き込ませるのはちょっとね。飛んだ方を拾ってくるけど、このままここにいるのは怖いかな?」

「大丈夫…」

「念のためあっちの男の周りには、動けないようにするから。君も近づかないようにね」


露骨にビクつかれてしまった。男は分かるけど子どもまで脅かしてしまった。ま、怖いか。氷魔法で両手両足に胴体程の氷で封じて転がす。起き上がれないだろう。


「じゃあ待っててね」


拾いに行きながら、魔国についての特徴を思い出す。


何と言っても魔国に住む魔人、獣人、亜人たちの特徴がヤバい。魔国内の自分たちの中で争うだけなら種族ごとやら都市間やらで争ってる。けれど他国からの侵害や魔物の被害などがあった場合には全ての争いを即刻停止して一致団結する。そして争いの原因となったものを本気で殺しに来る。

大体が魔国側に非が無い。魔国にいる人たちは強いものが正義ではあるが、非道なことはほとんどしない。そんな確率は人間と同じかそれよりも低い。強さや自分たちの力に誇りがあるからだ。だから取引や交渉はしても一方的にうらやんで下に付けようなんてことはしない。強い者に従って村・町・都市・国みたいな塊を作るくらいだ。

欲望だけなら人間族の方がひどい。特に貴族連中。それから盗賊か人攫いか分からないけどそういうのも現実になるといるみたいだ。情けない話だ。

誇りがあるなら他から見て恥ずかしいことなど出来ないはずだ。恥の概念が無いのだろうと思う。貴族がらみのイベントはゲーム内でもあったからね。大体は迷惑な奴しかいなかったけど。


考えが逸れたところで見つけたので意識の有無を確認しようと近づいていくと、ちょうど目を覚ましたところだったようだ。


「てっめぇ…何をしやがった」


理解不能の現象を起こされたらまずこわいと思わないのだろうか。今度は理解できるようにしないといけないようだ。面倒な…。

お読みいただきありがとうございました。

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他にも書いた小説です。短編だけでも時間潰しに良ければどうぞ。
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