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花見

ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。

「みんな静かにしてないで何か言ったら?」

「トワ、口開けてたら花びらが入っちゃうよ」


既にどんな場所か知っているのは俺とリセル、あとは蜂娘含むフレンドビーたちだけだ。もしかしたら福来あたりは自分で見ていたかもしれないけど、ここについてからの反応を見る限りは初見のようだ。


ここにはおよそ俺が知っている桜のほぼすべてが植えられている。ゲームの中なのだからと運営ががんばったらしい。今となっては確認する術も無いから何とも言えないけれど。


そんなわけでみんなを連れて来たが初めて見る桜の光景に言葉を失っているようだ。こういうのを見ると連れて来たかいがあるってもんだな。時期になると学校の前や川岸に咲いてたりするから足を止めてじっくり見ようと思わないとあまり見ることも無い。

誰からも誘ってもらえないやつは、とかは言わないように。過去の俺も傷つく。


みんながおのおの風景を見に行きたいからとあちこちに散らばっていくので一応注意をしておく。


「ここはセーフティーエリアだから大丈夫だけど一歩外に出ると魔物が襲ってくるから気を付けてね。具体的には桜の咲いている場所から外に出るとアウトだよ。目の前が桜でいっぱいになるようにってことにすると背中を魔物が狙ってるってことになりかねないから気を付けるように」


出てきたとしても大体の人は問題無いだろうし、薙刀隊も散らばっているから大丈夫だろう。


『我が付いているからどこでも行き放題であるぞ』


「イレブンさんの言ってたことは守るよ」

「お手伝いしなくて大丈夫ですか」


ティートがアガットを諫め、セラは手伝いを頼まれたそうに聞いてくる。どうするかとリセルを見ると恐らく同じような苦笑を浮かべていたのだろう。


「見るのは後でも出来るし手伝ってもらいましょうか」

「「やった!」」

「じゃあとりあえず地面を整えるから待っててくれ」


そう言って広く取れそうなところを見繕ってしゃがみこみ、両手を地面に当てる。地表には石があるし草も生えているが全部を排除するのも少々悪い気がするため少しだけ手を加えさせてもらう。

石は排除し、デコボコは平らに均すが、草はそのまま生えているようにとその下の土に手を加えていく。表面上を見ているだけではだんだん地面が均されていくように見えるだけだ。


ある程度手を加えたところで地面に直接座らないで済むように気で作った丸椅子を置いていき、更に料理を置くためのテーブルも出していく。

こんな場を自分で用意したことが無いので正直手探りだ。椅子は人数よりも多めに置いておいて自由に移動が出来るようにしておいた。テーブルも丸テーブルをいくつか島のようにして置いておく。これで好みの料理のところなり何かと自分たちで集まって過ごしてくれることだろう。


「さて、ふたりに手伝ってもらうのは料理のセットと皿やカトラリーをここに出すから各テーブルに置いて行ってくれるかな」

「待って待って。その前にちゃんと拭かないと」

「おっと悪い。じゃあ先に拭いて来てくれるか」

「「は~い!」」


ふたりに拭くための台拭きを渡して二人が作業を始めていく。どうやら丁寧にやるのを前提としてどちらが多く拭けるか勝負することになったようだ。アガットが確認とカウントをするらしい。カウントはフレンドビーたちに代行させることにしたから思う存分チェックしてくれ。


『よ~い、スタート!である』


掛け声とともに俊敏に動いて拭いていく。若干体が大きいから腕が長いこともあってティートが有利か?宿屋の息子ってこともあってか男の子の割には拭き方も思ったよりも丁寧だ。それでもセラも負けてないな。村長の娘だったらこういうことには慣れてないように思うが。

あぁ、次のテーブルまでの移動が短くて済むようにコース取りをしているのか。要領が良いというか全体をよく見れているな。


がんばってくれているならそれで良い。


たぶん似たような顔で見ているリセルに聞いてみた。


「アイテムボックスから出す時に『清潔』をかけてるから拭かなくても問題無かったのに」

「こういうのは仕事を作り出してでも子どもに手伝わせるんだよ~」

「そんなものか?」

「わざと褒めることを増やすんだよ。イレブンは実際に小さい子の面倒は見たことないの?」

「無いわけじゃないけどそこまで考えたことは無かったな」


小さい子の世話は嫌いじゃなかったけど先に俺がしてしまうことが多かった気がする。う~む、目から鱗が落ちる思いだ。


「村長やってるとそういうところに目が行くのか?」

「みんなが笑顔になってくれるにはどうしたらいいのかなって考えることはあったかな。でも大事なことは隊長たち大人がやってくれてたから自然と子どもたちの面倒を見ることが多かったんだよね」

「何事も経験ということか」


今度特訓を貸す時に俺も少し気を付けてみることにしようかな。


「あ、イレブンが特訓の時に気を付けるとかはしない方が良いと思うよ」

「心読んでるのか?」

「あ、やっぱり?」


そう言ってコロコロと笑う。


「なんでダメなんだ?」

「そりゃあ訓練の悪魔が急に優しくして来たらこれ以上何をさせられるんだってなるからだよ」


俺はどうやら悪魔らしい。え?マジで?


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


机も綺麗になり、勝負は引き分けだった。テーブルは奇数だったが最後に辿り着いた時にちょうど同時だったため仲良く半分ずつ拭いて引き分けとさせたアガットの言葉巧みさも中々だった。

その後は均等に料理を配膳していき、酒のつまみになりそうな物だけを固めたテーブルを別に作っておいて自由に始めることになった。


特に挨拶して始めるわけでは無かったので、自然とそれぞれで食事がゆっくりと始まっていった。


俺はこの国での酒の解禁年齢を超えたので飲んでも構わないのだが、場の雰囲気がどうなるかを見てからにしようと思う。


ガンジャスさんの少しずつ飲んで風に吹かれるような飲み方も通みたいでカッコいいが、デテゴたちのようなとにかく量を飲むような飲み方も良いなとは思う。ただ、この場ではもう少し桜を見ろよと言いたくなってしまうが。

結局は子どもと女性組に紛れて食事中心に進めていくことにした。久しぶりに従魔たちにもそれぞれ食事を取り分けてあげるのも久しぶりだった。放っておいたら勝手に食べてくれるから良かったが、やはり主人としては放置していたと言われても仕方ない。


「いつも文句言わずについて来てくれてありがとうな」


何を言っているんだ?という顔で食べるのをやめたがそれでも言葉にするのは大事だと思ったのだ。周囲の皆さんもニヤニヤ笑うのはやめてくださいね。


少しいたたまれなくなったので、移動してまずはガンジャスさんのテーブルにお邪魔する。


「何じゃ。酒でも飲みに来たか」

「いえ、休憩みたいなものです。お酒の感じはどうですか?」

「悪くない、どころかこういった酒に巡り合いたかったのだと思うの」


ひたすら待っている間の時間を使って日本酒を開発した。この国での酒造法がどうとか知らないのでまずは自分たちで消費する分だけだ。それでもアウトなんだっけ?いいや、細かいこという人はこの場にはいないし。


やり方は通常通りだ。米を発酵させるということしか知識には無いため、スキルの勘に頼った手順を踏み、ほとんどの工程を魔法で促進させた。本当に時間をかけて作った物とは全くの別物だと思う。

飲んでみたところで俺はそこまで飲んだことが無かったので成功しているかも分からないけど、風流の元で飲むならと思って頑張った。実験台にしたガンジャスさんの反応を見る限り悪くないようだ。


「僕にももらえますか?」

「うむ。良いかな?」

「ガンジャスさんが良ければ。ザールさんなら味についてもアドバイスもらえそうですし」


ガンジャスさんは俺に許可を取ると日本酒用に作ったお猪口を新しく取り出しザールさんに渡す。注がれたザールさんも一息で飲み干してしまう。


「ふ~っ。キレがあるけど甘味がある。それなのにスッキリしている。ワインやエールのような甘味とはまた違いますね」

「米を発酵させてますからね。だいぶ失敗しましたけど」


一応褒めてもらえる及第点ってところか。あ、確かに些細なことでも褒められると嬉しいな。


「僕はどうせなら甘口ではなくもっと辛口なものの方が良いと思いますね。今あるものとの差別化を図るという意味では」

「なるほど」

「と、何も知らない人が作った物ならそう言うんですが。味がどうとかまで考えて作ってはいないんでしょう?」

「そうですね。まずは出来るかどうかだけでやってみたので。これもまだまだ試作だと思ってます。作った中では一番良いと思ったものなんですけど。一応辛口のものもあるんで試します?」

「なんと、まだあったのか?」

「ガンジャスさん一人だったらこれ一本で十分じゃないですか。これ度数高いんですから」

「ふむ、仕方ないの。ザール殿、お付き合い願おうかの」

「光栄です」


とても大人な飲み方をしている。理想的に桜見ながらの花見酒だし。少し講評をもらいつつ次回の参考にしようと話を聞いてメモをしておいた。

参考になったお礼にと今回一番出来が良かったと思われる物を二本に分けて二人に渡しておいた。今日だとすぐ飲んでおしまいになるのでまた今度飲んでくださいねってことで。


あとは、あの騒がしい集団のところには行かなくていいか。


少しだけ散り始めている桜に毎年来れるように空間接続のポイントを1つではなく2つ設置しておいた。

お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。

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