ちょっとした寂しさ
1投稿は継続します。1日に2投稿は調子が良ければ、にさせていただきます。それではお楽しみ頂けると幸いです。
いや~。地上の再制圧が完了です。ドロップの回収も完了しました。あぁ、アーミーアントはもう話にならなかった。余裕過ぎる戦闘だったので詳しい描写もカットです。要点だけは搔い摘みます。
前回でさえ余裕があったからね。とはいえ最大限らしい警戒網が敷かれていたよ。びっくりしたね。こっちの巣を潰す話は省略です。
ディスガイズアントの方は最初は遠くから魔法で攻撃した。近づいた時点で警戒されていたんだけど、氷魔法で一方的に倒すことが出来た。ステータスもかなり底上げしたからね。
素の攻撃力も確かめないといけなかったから途中で魔法は切り上げて接近戦も行った。前回に比べると非常に楽になりました。攻撃力そのものは魔鉄手甲に変えたくらいしか変化は無いけれど防御と魔力関連が向上してるのでまずダメージを喰らわない。
『テイム』のために取得した『心の余裕』があるおかげで精神的な具合も違う。両手に風圧甲(圧縮盾の正式名称)をしたところで『連魔』のおかげでかなり安定していた。単純に攻撃回数が増えた。必要なかったが、もう少し慣れれば足に付けてみるのも良いかもしれない。
「というわけで地上は片付いたので、続いては巣の中へと攻撃を開始します」
まあ地味である。巣の穴目掛けて水魔法で水を流し込んでいく。雨だって降るだろうから多少の対策はしてあるかもしれないが、巣を潰す目的で直接水を流し込んでいるので流れ込む水量は段違いだろう。
途中でメディさんに作ってもらったブドウ味のMPポーションを飲みながら水を生産した。大地そのものに干渉する魔法が使えていたらもう少し攻め方も変わっただろうけど、いつも通りだ。無いものは仕方ない。
そう考えているうちに何とか入り口まで水で埋まった。既に大量に水が染み込んだことで地形が変わっている。途中で飛び出してきた蟻も何体か仕留めた。
最後の仕上げがすぐに出来るほど余裕が無いので休憩したいが、水が周囲の土に吸収され過ぎると意味が無いのでやるのは今しかない。もう一度MPポーションを飲み干して気合を入れる。
水浸しになっている地面に触れる。水浸しにしたのは影響範囲を大きく広げるためだ。どれだけ地下深いところにクイーンアントがいたとしても水は重力に従って地下深くまで浸透する。
ただの水だけなら触れられたところで攻撃力はほぼ皆無だが、これに最後の一押しを加える。しっかりと深呼吸で整え、力を込めて言葉を放つ。
「MPブースト・氷魔法『氷獄』!」
せっかく回復した分も超えてごっそりとMPが抜けていくのを感じる。余計にMPも籠めているが、影響範囲最大をイメージして使ったため思った以上に消費される。ゲームでは時間にして7秒くらいだったが、そんな短さでは地下まで氷が降りていく気がしない。
1分間継続するとなると使用MPがひどい。MP自動回復のスキルもあった方が良かったかなと思いつつ、我慢しながら消費に耐える。
見えない範囲への攻撃のため、いつ倒せるかの目視での確認は出来ない。過剰かもしれないが、MPが枯渇するギリギリまで継続した。
「もう限界…。ちょっと休憩だ…」
簡単に融けることのない氷を巣に張り巡らせたから今すぐ倒すことはできなくても、いずれは削り倒せるくらいの環境は作った。これ以上は待つしかないだろう。
疲れの原因はMPの消費くらいで戦闘ではさしたるダメージもなく、久々に全力で動いたという心地よい気持ちしかない。体力の消費はあるはずだが、疲れにくくなった。原因は何だろう。
少しくらいスキルが増えたくらいでは違いが分からない。最初に取得した『走行』が関係している可能性が高い。何をするにしても全身運動だからかな。他にもステータスとして関係してなくてもそういうスキルを選んでも良いかもしれないな。
考察しながら待つ。しばらく待っても変化が無かったので、『清潔』を使ってきれいにした後、食事を取る。歩きながら食べられるように売られていた肉串やパンを食べる。
あまり一つの店で大量に買うと怪しまれるので、色んな店で4~5人分を購入している。パンなんかはパーティメンバー分も含めた買い出しだとか、お使いの依頼だとか誤魔化しても良いが、繰り返し過ぎると目立つので考え物だ。
それでも美味しいと評判のところは外してない。実際に味わってみると噂に違わぬ味が楽しい。肉には濃い目の味付けが効いているが、日本人の血かパンを一緒に食べる方がおいしく感じる。炭水化物は好きだ。
米は王国では栽培されていないので、魔国か帝国方面に行かないと手に入らない。それまでは小麦系のものでガマンだ。
そうやって待っていると煙と共に魔石とドロップアイテムが地上に現れた。不思議なことに地下で倒しても地表面に出現するようだった。さっきのアーミーアントのときに辞め時が分からずどうしようかと迷っていたら出現して驚いた。
アーミーアントの方が弱いからすぐに倒せたので待ち時間は短かった。試しをしたおかげで。アイテムの取り逃しもなく回収できた。これで全滅ではあるが、他に巣があっても困る。この森林を歩いて異変が無いかも確認するところまでが今回の予定だ。
ユーフラシアで待っている3人には短くても7日、長ければ15日くらいはかかると伝えてきた。場合によっては拙くても自分で料理をするつもりだ。スキルが無くても出来ることは出来る。技術系のスキルを使うと感じる不思議な直感というか補正が入るか入らないかだけだ。
道具はあるし、メディさんにも教えてもらったが、俺はそんなに器用では無いらしい。デテゴの本名を聞く前に料理の練習をしたことを思い出す。野菜を切ったときの分厚さがメディさんと俺のとでは全く違っていた。
最終的には美味しく仕上がるのだが、これでは一人旅をするのが難しいように感じてしまう。それとこのあたりがメディさんの調合の発想になっているのだと思う。だが、デテゴはこう言っていた。
「異性を掴むにはいろいろあるが、何か武器があれば良い。男は大体が胃袋だ。見ろザールとメディの顔を」
この3人で食事を囲むことがそんなに多いわけでは無いが、ザールさんが機嫌よくご飯を食べているのは明らかである。確かにすごくおいしいんだけど。そしてザールさんの表情を見るメディさんの表情もすごく嬉しそうだ。
「こういうのを見てしまうと恋人が欲しくなるんだよ」
「組合で出来るんじゃないですか?」
「ばかやろう。冒険者なんてほとんど男だぞ。女はまだ少ない。いたとしても既に相手がいるもんだ」
「受付嬢さんたちは?」
「既に相手がいるから出来る職種だな。ユーフラシアの組合長は目立つところに若い子を置かない主義だ」
「見えないところにはいるんじゃないですか。年齢がもうかなり離れているからなぁ」
この世界では成人と見なされるのが16歳からで、12歳を過ぎるくらいから働き出す子が多い。当然学生をしているものもいるが、16歳を過ぎると学者を本気で目指しているか、貴族の子くらいしかいない。
つまりは大体15歳くらいには働き出している。18歳くらいから22歳くらいの間には結婚することが多く、デテゴは既に29歳だそうだ。その年で結婚していない冒険者の男は珍しくないそうだが、女性は少ない。
しかも、働き出してすぐにそんな雰囲気を出すとさすがに仕事に支障が出る。しばらくはがまんらしい。
「俺は10年経っても同じものを見させられている…」
「キミのために僕とメディは10年間我慢したんですよ?」
「そうだぞ!」
「……俺はお前とメディが王国内の町の先々でたまに会っていたことを知っている」
「「なっ!?」」
「ごちそうさまでした!」
気まずい!顔見知りになった人たちの生々しい話を聞くのはさすがに…。すぐさまメディさんの店から外へと逃げた。食直後に散歩するのも悪くなく、その日はそのまま宿に帰った。
食後の後片付けをしなかったのは申し訳なかったが、気にしないで良いと言われた。
そのときの食事に比べるとアイテムボックスから出したばかりだから温かいとはいえ、食事が味気ない。
「仲間、友達かぁ。大学生活を2年やってたときにはそこまで感じなかったけどなぁ」
何となく寂しい。まあ自分の生活がおそらくとんでもないことにはなるだろうからあまり欲しがってはいけないだろう。既に友人が3人出来ただけで良いと考えよう。
まだ冒険者としての友人がいないので、そこから増やしていくのも悪くないだろう。出来れば同年代がいれば良いとは思うが、既にデテゴより強いらしく、同年代と釣り合いは取れないだろうと言われている。難しい話である。
まあどうしようもないことで悩んでも仕方ないので、片付けて森の中の巡回に移る。
しばらく歩いていたが、魔物の気配そのものが全くない。あの蟻たちはかなり生態系を歪めてしまっていたようだ。
そんなとき、何か声が聞こえた気がした。『索敵』を使っても反応が無い。少なくても100メートル以内では無いようだ。
けれどずっと叫んでいるのとどちらかというと近づいていることで方角は何となく分かる。言葉を話していることからも魔物同士ではなく人間種が関わっているのだと思う。
仕方ないと思って方角だけ切り替えてそちらへと向かう。少し移動すればはっきりと分かったので念のため気配は消して近づく。
逃げているのは小さい子どもだ。年齢とすると10歳は届いていないんじゃないだろうか。泣きそうな表情をしているが、ぐっと堪えて逃げている。使命感すら感じるような表情だ。
対して追いかけているのは抜身のマチェットを持った髭面の男が2人。何が楽しいのか分からないがニヤニヤ笑いながら追いかけている。多分問題無く倒せるだろう実力だと思う。
どちらが悪そうかと考えれば言うまでもない。とりあえず助けようと思う。
お読みいただきありがとうございました。