女神の腕輪と初戦闘
あともう1話いけるかな…
仮説は立てたが、一応警戒はする。基本的に何かのイベント以外で町村の中に魔物が出現することは無い…はず。隠しダンジョンの入り口は村の中にあるので、頭の中の地図を頼りに目的地へと向かう。
ここを曲がればダンジョンの入り口である洞窟の入り口が見えるところまで来ると足を止める。家の陰でしゃがみこんで呼吸を整える。
(万が一、ゲームと法則が変わっていたとしたら…?魔物が村の中にまで入ってくることが出来たとしたらどうする?)
緊張しているのは、そんな可能性を考えてしまったからだ。この村の外にいるような魔物ならまだ対応できる。
ただ、隠しダンジョンの魔物は別だ。気づかれた瞬間に即死だろう。なにせクリア後に挑むダンジョンの魔物だ。ステータスだけが全てではないとはいえ、初期ステータスではさすがに勝つことは出来ない。
その万が一を考えると足が竦む。想像するだけで呼吸がしづらくなる。こんなに緊張するならSPを貯めて呼吸のスキルも取ろうとしょうもないことも考えてしまう。
(ゲームの中と違って、一発勝負の現実になるとこんなにも怖いんだな)
ゲームであればダンジョンだろうが、火山だろうが雪山だろうが躊躇無く進める。使うのは指だけだったし。現実では命は一つだ。慎重に進まなくてはならない。
この認識の違いだけは今後も注意しておいた方が良いかもしれない。何のためにこの命を使うのかって話だ。よく考えればこの俺は何かの役割があるのだろうか。本編でいうなら今はどのあたりなのだろう。
現在進行形なのか、もし隠しアイテムがあるなら既に本編は終了しているのだろうか。もしくは全く関係ないのか。
この村を出てからの目標が何となく決まる。まずは現在がどういう状況なのかを把握することだ。終わっているならそれでいい。ストーリーを進める上で大変なところもあるから手伝うのも有りだ。
心が決まると気持ちが落ち着いてきた。深呼吸をしなくても鼓動も落ち着いてきた。息を潜めると意を決して目立たないように少しだけ覗き込んだ。
「特に何もいない…か…?」
体はまだ家の陰に隠しながら立ち上がる。洞窟までの道を観察してみるが、特に踏み荒らされたという様子もない。あの洞窟から何かが出てきているということも無さそうだ。
隠れていた家から道へと体を出し、警戒は続けたままで洞窟まで慎重に歩いて近づいていく。入り口に立ったとき、心底震えた。
「この寒気を感じて中に入ったのなら、そいつらは勇者だよ」
絶対に入りたくない。
先程スキルを確認した時に感知だとか察知だとかのスキルもあった。上級だったから取得するのはまだ先になるけれど。
ゲームをしているときには音や感覚で何かを探ったり知らせたりするくらいで優先度は高くなかったが、現実なら取っても良いかもしれない。
そういったスキルを何も持っておらず、何を感じるはずも無いはずのに、恐怖と寒気が止まらない。一歩でも入ってはいけない。入りたくない。自分が薄笑いをしていることには気づかずに入り口からは離れる。その意味には気が付かないまま。
観察して分かったことは、魔物が出現するのはゲームと同じ法則で考えて良さそう、ということだ。これが分かっただけでも収穫だ。町中では安心して良いことが分かる。
震えがくるほどの恐怖を味わうと少々のことが怖くなくなった。魔物は出ないことを確認出来たので目的のものを探してみる。クリア後になると洞窟入り口脇に小道が出来て、画面を切り替えてその先に置いてある。現実には草藪が侵入不能で進めないなんてことはありえない。試しに分け入ってみる。
ガサゴソとかき分けて草藪を抜けてみると、見覚えのある宝箱が置いてあった。
「置いてあったか…。道が開けてたわけでもないからこの置き方だと現状の判断つかないな。…中身あるのかな」
村人が逃げる前に中身を取って行った可能性は思いついていなかった。走り寄って周囲を確認すると一応箱を叩いてみる。コンコンと金属の音がした。元からこの宝箱にトラップはなかったから無駄な行動だ。自分の行いに半笑いしながらパカッと開けてみる。
「女神の腕輪!あったよ、超ラッキー!」
早速装備する。この腕輪の効果は取得SPを2倍にしてくれる。クリア後にSPを溜める時間を半分にしてくれる。
この腕輪の素晴らしいところは、レベルアップ時だけではなく、あらゆる場面で2倍にしてくれることだ。特殊スキルの『取得SPアップ』と効果は重複するから併せて4倍だ。激アツである。
仮に常時装備していなくても、スキルポーションを飲むときに装備する手間を取るだけでその効果が倍になる。こんなアイテムをレベル1の段階から手に入れられるなんて感動する。
強化に役立つどころの話ではない。いや純粋に強化に役立つんだけど。これを付けても、装飾品はあと3つ装備できる。まだ最初の方なので装飾品自体が中々手に入らない。これで装備枠の1つを使うことに問題はない。
これでこの村で出来ることは今のところ無い。村を出よう。やはり状況を確認するには人に話を聞くのが一番だ。
村を出るために入口へと向かうと思わぬ出会いがあった。入り口にはなぜか兎が待ち構えていた。ただの兎ではない。頭に当たる部分に縦に角が二本生えている。大きさは本当の兎よりも一回り大きいくらいだ。この世界に本当の兎なんているんだろうか。ややこしい…。だがその筋肉の密度は全くの別物だ。
「サイウサギか…。この辺りなら出てきてもおかしくはないな。出現分布も特に変更はないと判断して良さそうかな。いや、それはもう少し見る必要はあるか。ゲームと現実だと差はどんなものかな」
イレブンは顔見知りに会うかのような軽い足取りでサイウサギに近づく。サイウサギはイレブンの動きを捉えてはいるが、村と外を分ける境界線から入ってくることは出来ない。反応を見る限り入れないだけで見えてはいるようだなとイレブンは判断する。
持っているのは何の変哲もないただの木の棒だけだが、それを扱う筋力はスキルを上げたことによってステータス補強されている。ただ、今のステータスでもサイウサギは一撃で倒せるほど甘くない。木の棒はゲームの中でも最弱の武器だ。ただ、一撃で倒さなければ反撃を喰らう。その一撃で瀕死になるだろう。
「様子見なんでね。まずは先手はお前が攻撃してきてくれよ」
木の棒で牽制しながら村の外に出て、サイウサギの突進攻撃が可能な場所へと移動する。サイウサギも警戒はしていたが、相手のイレブンが弱いと判断するとウサギ系最強攻撃の突進を仕掛けてくる。
イレブンはそれをしっかりと見極めてひょいっと突進を避ける。繰り返すこと三度、思うように体が動けることを確認する。
(このくらいなら特に問題無く動けるんだな。大学生の体よりも、この体は思った通りに動く。コントローラーで操作してるみたいにイメージ通りに動くみたいだ)
四度目の突進を躱す時にようやくイレブンから攻撃を仕掛けた。
「あらよっと!」
サイウサギが横を通り抜けるときに、タイミングを合わせて角の無い頭の部分に木の棒を叩き込む。一発をもらったサイウサギは一瞬ひるんだが、そのまま進んで振り返る。頭を振って再度の突進を仕掛けてくる。
芸の無い攻撃に対して、イレブンは同じように避けるともう一撃加える。さすがに同じ箇所への二撃目の攻撃はその衝撃をしっかりと伝えることが出来たようだ。耐えられずに足をもたつかせるサイウサギ。さすがに警戒して近づいてくることをやめる。
「魔物側から逃げるってことはあんまり無いはずだけど、あっても困るしな」
後ずさりをしようとするサイウサギに対して最後の止めの一撃はイレブンから近づいていく。サイウサギがイレブンの接近に気が付いた時には既にイレブンの攻撃圏内に収まっていた。
躊躇なくイレブンは最後の一撃を脳天に叩き込む。バタッと倒れたサイウサギは、倒れた数瞬後に煙と共に消滅する。魔物が消えるときのエフェクトはゲームと同じだった。
今回は一対一の戦闘のため、倒したら戦闘は終了だ。すぐにドロップアイテムの確認になる。煙が消えると残されていた物は3つ、魔石が1個と角が2本だった。肉や毛皮が無いのは悔しい。
それよりも待ちに待っていたのは経験値だ。サイウサギは1匹で53の経験値を持っている。画面を開いて確認するとレベルが1から一気に4に上昇していた。
ステータスを調整したことで20くらいまではレベルが上がりやすい。そこからは必要経験値が一気に上昇する。ステータスはそれぞれ微上昇し、スキルポイントは本来150のところを『取得SPアップ』と女神の腕輪のおかげで合計600も得られた。
そこからアイテムボックスに手に入れたアイテムを収納して、もう一度スキルのページを開く。スキルポイントを振る前にもう一度ゲームと違うことをよく考える。
まず生活基盤を整えなくてはならない。生きるためには水や食料が必須で、清潔についても考えておかなくてはいけない。戦闘だけを考えたり、効率だけを考えていくだけではいけないはずだ。
ならばゲームの世界に迷い込んだものとして試さなくてはいけないものはこれだろう。ゲームではただの通過点の役立たずだと言われたもの、生活魔法だ。ゲームでは劣化魔法扱いされ、ただの通過点扱いだったが現実となれば話は違う。
生活魔法で発生した水が飲めるなら、持ち運びの必要がない便利な人間水タンクの完成だ。それも踏まえてしばし、画面と向き合って何に振るかを考えることにした。
戦闘に簡単に勝てる理由のために書き直しているようなものです。お読みいただきありがとうございました。