竜の常識は非常識?
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「え~っとですね。落ち着いて聞いてもらうことは可能ですか?」
ダメ元で聞いてみる。無理だと思うけど!落ち着けないだろうけど!
自然と両手が前に出てしまうのも仕方ないことだろう。
『食うてしまったのかの確認をしておる!』
腕組みをして鼻息荒く告げられてしまった。
ですよね~。知ってた。もう正直に言ってしまうしかないか。
「あ~はい。正直に申し上げます。食べました」
『やはりか…』
そう言うと竜はがっくりと肩を落とす。
さあ、どうなる?全力で動けるように構えを取る。
観察を続けていると、その落ちた肩が震える。ブレス攻撃かと結界を張った時だった。
『小さき人間がワイバーンを食いよったか!!はっはっはっはっは!笑わせよるわ!くっはっはっは!!』
爆笑も爆笑、大爆笑をしている。これだけ大きければ嘘ではないというのは分かる。だけどブチ切れる前の大笑いの可能性もあるからせっかく張った結界はそのまま維持しておくことにする。
『味は?』
「は?」
『味はどうだったかと聞いておる!』
そこに興味持つって何なんだと思いつつ、味の感想を伝える。
「他の肉と違って噛むたびに肉汁が溢れてきて、めちゃくちゃ美味しかったですね。俺が思ったのは肉を噛むという満足感がハンパなかったですね。子どももいたんで一口サイズを心掛けたんですけど。もっと大きな塊を頬張るってこともしてみたかったですかね。まあワイバーン肉の備蓄を本気で考えてしまうくらいには美味しかったです」
味を思い出すと感想が流れるように出て来てしまった。次に手に入れたときはシンプルに焼いてみたり、もしくは塊肉をステーキにしてみたりしてみたいと思っていたのだ。本音がボロボロとこぼれてしまった。
『ふ~む』
「はっ!し、失礼しました!」
ここで自分が感想を伝えている相手を思い出す。竜だった。俺の体が手の平におさまってしまうほどの大きさだ。考えなくても会話が成立している時点でヤバいと考えなくてはいけなかった。
おそらくはこの竜の娘のペットを食べてしまったのだ!間違いなく殺されてしまう。結界は途切れていないので何とか身を守りながら戦うしかないか。覚悟を決めろ!
『やはり、エサが良ければ肉は上質になるのだな!手間暇かけるのが良いという我の理論は間違っておらなんだ!』
え?
『しかし小さき者よ。お前たちは肉を生では食わぬだろう?料理というものをしたのか?一度我も食してみたいぞ。ワイバーンの肉を全て食べてしまったのはそれで手打ちにしようではないか』
「ちょっと待ってくださいね。理解が追いつかないんで」
ペットじゃなかったのか?しかもワイバーンを育てて食べようと思ってたみたい?それでワイバーン食べたのを何か料理したものを捧げることでチャラにしてくれるの?
「食いしん坊の竜か!!」
『なんだと!?』
「ごめんなさい!?」
逆鱗に触れたか?竜だけに!
『食いしん坊とは何かこう我のことを的確に表現した言葉のように聞こえるではないか。今度からそう名乗ろうかのう』
はい決定!こいつは食いしん坊で決定ですよ~!
それと推測が立ったので聞いておくとしよう。
「もしかしてワイバーンって食用に育ててました?」
『そうだが?それ以外にあるまい。それに小さいころから育てたワイバーンを食べることで命の大事さを我が子に感じさせたかったのだ。だが早々に諦めてしまってな。まだ早かったのかもしれんな。ワイバーンを育てる10年くらい待てなかったようだ』
小学生が学級で子豚から飼育して泣きながら食べるやつですかね!それが10年サイクルって規模が違うね!
あと、その10年の手間を一回の料理食べるだけで済ませるなんて懐の大きさが違うね!胃の大きさも違うのかもしれないけどさ!
あ~、ツッコミきれないよ。最後に確認だな。
「じゃあ攻撃を仕掛けようとか、争うとかそんなつもりは無い?」
『無いぞ。逃げ出してしまった時点でワイバーンも小さき者にとっては危険生物であるからな。自分で始末しようと思っていたのだ』
良かった。でもティートとセラのことは伝えておかないといけないかな。
「とりあえず話が出来るのならこんな空中ではなくて落ち着いて地上で話しませんか?それに伝えておかないといけないことがあります」
『ほう。聞こう』
闘技場は避難場所になってたからダメだな。変に王都に近づくのもダメだ。普通に地上に下りれば良いか。考えているところを伺うように首を回した竜がまたトンデモ発言をして来た。
『その前に話をするのであればそろそろ同じ大きさになるのが良かろう』
竜はカッと光ったかと思うと徐々にその大きさを小さくしていく。元は赤い鱗を持つ竜だったが光が治まるころには赤髪が良く映える偉丈夫になっていた。
『人化の術である。これで小さき者の棲み処に入っても問題無かろう』
「助かります。これで解決ですかね」
人型になっても背中の羽根は収納自由なようで偉丈夫の背中に蝙蝠のような羽根が申し訳なさ程度についている。たぶん飛行の補助をするとかそんなところだろう。
さて、竜が見えなくなったことは確認してもらえるだろうし、この赤竜に事情を話しておくとするか。
「そういえば竜さんには名前はあるの?俺の名前はイレブンだけど」
『おお、そうか。名乗っておらなんだな。我が名はアガットという。よろしく頼むぞ。イレブンよ!』
濃い赤の色の名前だったかな。まあシンプルに分かりやすいな。王都の門を遠くに見ながら必要になりそうなことの説明を始めた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
『すまなかった~~~~!!!小さき者の幼子たちよ!!いくらでもこの身を罰してくれても構わぬ!!許せなども言わぬ…!!』
全ての話を聞いて真っ先にアガットが行ったことはティートとセラへの謝罪だった。二人を前に膝をついて頭を下げている。土下座という文化を知っていたら間違いなく額を地面に擦り付けてるね。
こらトワ!教えようとするんじゃない!
なぜこうなったか遡って説明しよう。
王都に入ってからの道中には人が歩いていなかった。おとぎ話と言われた竜が近くの上空に現れたのだから全ての人が家の中で震えていたのだろう。シンとした中で男2人で街の中を歩くのは良い経験になったよ。
ワイバーンが操られていただろうという前提は伝えたが、ティートとセラの生き残り二人を残して全滅させてしまった事を伝えている。もしかしたら他にもあるのかもしれないけどそんな話は冒険者組合でも聞いていないから大丈夫だろう。他にもあったのなら疑いのある所に俺が行かされているはずだ。
話した瞬間にアガットは震えた。人間のことを小さき者って言うし、ワイバーンを食用と言い切るからには少し侮っているのだと思っていた。しかし少し様子が違ったんだ。
道のど真ん中を歩いていたんだけど、見事に崩れ落ちた。膝立ちになって俺に理由を説明してくれた。
『娘が生まれて子どもというものに興味を持った。ある程度大きくなれば別だが、庇護を求めているわけでも無いのに小さい様よ。我の不注意が引き起こした惨劇の被害者がおるというのか。イレブンよ。案内するのだ』
急かされて闘技場に戻り、みんなとの合流を果たす。もう大丈夫なことを伝えたかったが、アガットが何よりも求めたのがティートとセラに対する謝罪だった。それが先程の場面になる。
凡そ王都がどういった状態かは伝えているのだが、それよりもアガットは二人に会うことを何よりも優先して希望したため俺ももう大丈夫だということを説明しきれていない。というかアガットが誰かという説明すら出来ていない。
「この人は誰…?」
実際に声に出さなくても目で訴えてくる仲間に対して説明を優先するのか。子どもの前で号泣するのはやめろと言うのが先か判断つかなかったが、ティートとセラが怯えてコトシュさんの後ろに隠れているのでそちらから対処し、全員への説明を始めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




