犯人をさがそう
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獣人の村に滞在すること1週間、一日に一回は戻ることにしている。昼食を取った後だ。時間としてはそれで大体半日くらい経過しているからだ。
「あっ!」
「はいは~い。不法侵入者さんは大人しく捕まりましょうね~」
スタンガンくらいの威力の雷魔法をぶつけて痺れさせる。
「糸太郎はまた罠を補修しておいてくれるか」
シュタッと了解の意を示してもらったので後は任せる。
何を狙っているのかは知らないが毎日家に侵入しようとしてくる輩がいるのだ。糸太郎の糸の罠を掻い潜れる一般人などいないから侵入した時点で身動きが取れないまま固定されてしまうことになる。
なんとか逃げようともがくのだが簡単に逃げられるのなら毎日定期的に戻って来たりはしない。切るのなら天昴くらいの切れ味が無いと脱出は不可能だ。服を脱ぐつもりでいれば何とかなるだろうけれど肌に一本でも付けば終わりの状況であまり博打を打つ者もいない。
捕まえた奴は全て王都警備に突き出している。侵入者の仲間が助けようとしたところで刃物も絡めとってしまう。それは王都警備が捕まえようとしても同じことだ。
最初は忘れたものがあるからと取りに戻りたいと言ってきたセラを連れて戻ったことが切っ掛けだ。問題無く見つけたられたのだが外がうるさかったので様子を見てみたときに惨状に気が付いたのだ。
「可能ならばご協力いただけないだろうか」
困り顔の王都警備の方に言われると否とは言えなかった。外の様子が見えるようにだけ整えておき、時間を決めて戻ることにした。しばらく捕まってぶら下げられるのは反省の時間だと思ってもらおうか。
晴れの日ならいいが、雨の日は大変だし、姿勢によっては体力を消費することになるかもしれないが自業自得ということで。
それに家の中に入ろうとしたところで、誰かと一緒に入るか俺の魔力を帯びた物を持っていないと居残ったフレンドビーたちによって殲滅されるので糸でぶら下げられるだけマシだな。
まだ掻い潜って家に辿り着けた者がいないので実際の被害者はいないが。泥棒に入って人生終了とは考えてもいないだろうな。そろそろ無謀な挑戦者もいなくなるころだろうと期待したい。
そろそろ周囲も慣れてきたので、王都警備の担当者も俺が出てくる時間を把握している。今日の侵入者を引き渡すと日課は終了だ。だが今日に関しては冒険者組合の本部に詰めているデテゴのところに行かなくてはいけない。
フレアワイバーンに命令をした女を探す件で今日あたりに結論を出すという話を聞いていたからだ。
優勝はしたものの観客席からは遠目だった。だから髪をバンダナとかで隠し、顔を少し眼鏡をかけるなどして隠せばちゃんとした知り合い以外にはバレることは無い。知り合いからも変装している様子を見れば少し気を使うくらいはしてもらえるだろうから問題無い。ある程度気の利く人たちで良かったと思う。
そんな感じで冒険者組合に到着した。中に入ると身を守る鎧など身に付けていないラフな服装でなおかつ顔を隠している俺を見て反応する奴もいるが、周囲に止められている。その後に驚いた顔をしているから俺の変装だと冒険者には分かるのだろう。
こっそり聞いたところによると、竜殺しが異名として囁かれているらしい。竜なんて王都周辺には出て来ないのでワイバーンだというのに尾ひれが付いてしまったのだろう。竜なのに尾ひれとはこれいかに。
それはさておき。竜も出てくれば倒すことは出来るけどワイバーン倒した程度でそこまで騒がれるのは少しどうなんだろうかと思ってしまう。ゲームでも本編中に倒せる魔物だし。
本物はクリア後のサブイベントで倒す竜くらいになってから言ってもらいたいところだ。しかし、見かけとしては若いからコワモテムキムキの冒険者に何か言われるかもと思っていたが、ちょっかいを出されないで済むならそれが良い。
と、いつもの場所で受付をしているネマさんを見つけて話しかける。
「デテゴに呼ばれてきたんだけどいます?」
「いるよ。来たら通すように言われているから行ってもらって構わないよ」
「わかりました~」
「ちょ、ちょっと待ってくれる?」
「はい?」
すぐに踵を返そうとした俺の服をバシッと掴んでネマさんが止めてきた。
「途中まで案内するよ」
「はぁ…」
何か話したいことでもあるのかな?
「すまなかった」
「いきなり頭下げられても分かりませんよ!頭上げてください」
本当は不要な案内だが、どうしてもという視線に耐えられずにお願いすることになった。そして一般の人からは見えない通路に入ったところでネマさんから腰から直角に曲げた状態で謝られてしまった。
「ボナソンのことだ。不必要に迷惑をかけてしまったからな。冒険者組合の関係者として謝っておきたかった」
「そんなこと言っても正確にはあいつはただの金級冒険者の1人だっただけでしょう?デテゴみたいに職員として在籍していたわけでも無いですし」
「それでもだ。危険人物を雇っていたことには変わりない。代わりに捕縛してくれたことをありがたく思う」
「捕まえ方に少し引いてません?」
四肢が無くなっているのだ。感覚が違う人からすれば大問題の事件だ。
「冒険者など乱暴に言えば強さがモノを言う世界だ。罪を犯した時点でより大きな力で捻じ伏せられても文句は言えないよ」
「その感覚って世間一般的ですか?」
「冒険者やってるならほぼ同じだろうよ。自分や仲間が死ぬくらいなら相手を仕留めるってだけさ。命かけてまで生きていない街中の住民だったら同じことは言わないね」
「分かりました。参考にしておきます」
冒険者関連の人たちには物理的に反抗不能に追い込むのは大丈夫みたいだな。今後の参考にしよう。
「で、ボナソンってなんか裏の関係は吐いたんですか?」
「私たちにも教えてもらってないよ。唯一聞かれたのは懇意にしている女はいるかという話くらいさ」
「女ですか。ネマさんに聞くのもどうかって話ですね」
「ほとんどが知らないって答えたらしいよ」
せっかく謝ったのに全く興味を示さずに違う話題になったのがちょっと不満げの様子だ。しかし本当に気にしてないし、ネマさんが悪いとも思っていないので全く気にならない。
「分かりました。ちょっとキーワードになりそうなのは確かなので覚えておきます」
「あ、あぁ。参考になったのなら良かった」
既にデテゴのいる応接室には到着している。
「じゃあありがとうございました」
「ああ、ではな」
別れを告げて中に入る。デテゴが書類整理を終えて休憩していた。
「ああイレブン来たか」
「来ましたよっと。それで何か分かったこととかあるの?」
「これから何とかしようというところだな。ボナソンは女と何か繋がりがあったらしい」
「ああ、ついさっき聞いたよ」
「耳が早いな。情報網なんて作ってるように見えなかったから感心だな」
たまたまだとは言えなかったので勘違いしておいてもらうことにした。
「俺たちが関わる手段としては2つだ。そのうち1つは王命まで出して頂いている」
「大事だね」
「当たり前だろう。王都の町中までフレアワイバーンなんていう大物が出てきたんだ。それを扇動した犯人がいるなら捕まえないといけないってところだ。ちなみに解決のめどが付くまでは俺は大っぴらにグレイブ村には行けないぞ」
「俺は勝手に行くつもりだけど」
「お前も可能なら王城に招きたいって言われてるんだがな」
「絶対に嫌だ」
「はあ。王城内のことで脅し過ぎたか」
「そうでなくても貴族の勧誘がイヤすぎたんだよ。罰するなら俺を大会終了翌日に俺のところに来た貴族を罰してくれ。『あれが貴族の普通なら一生関わり合いになりたくありません』ってさ」
「あ~はいはい。説明するぞ」
デテゴが教えてくれたのは相当踏み込んだ内容だった。
まずフレアワイバーンたちに命令を下せたのは、1つに拡声の魔法を使える人物がいたからだ。拡声は風属性の魔法が使えればあとはコツさえつかめばいくらでも可能だ。だから王都内にいる魔法使いをリストアップして事情を聞いていく。
怪しい者がいれば感情を覗き見ることが出来る俺が参加することで洗い出すことになっている。俺が感情を見られることに関しては秘密だ。普通に操作した中で俺が現場にいた当事者だからとか理由を付けると言われた。
「感情が見えるとか反則だろう」
「初対面の人くらいにしか使わないよ。友達減らしたくないし」
「ならまあいいか」
その次は大掛かりだった。王命も出すはずだ。会場に来ていた貴族女性全員を拡声魔法を通して試し、同じ声を人がいないかを探すそうだ。
「そんなこと可能なのか?」
「だから王命なんだよ。非協力的なことを言えばお前が犯人かってことになるし、お前の話通り、今から考えてみれば人の声も一人一人違うってのも確かにそうだろう」
「そのときだけ違う声を出すかもしれないんじゃない?」
「あまりに普段と違う声だと一緒にいる他の方々が気づくだろう。よっぽど何か後ろめたいことが無い限りはこれで凡そ見つけられるだろう」
確かに。それにあの声は俺も聞けば分かる。多少声を変えられたくらいで分からなくなるほどでもない。
「それに合わせて会場スタッフの中に一台だけやたら遅く会場から出て行った馬車がいたことを言われているんだよ。フレアワイバーンが暴れるのを見ようとしていたのかもしれないが、そんなやつらもピックアップしている。問い詰めれば何か出てくるだろう。色んな角度から情報を集めていって全てに当てはまる奴が犯人だ」
「簡単に見つかるのかなぁ」
「こういうのは出来ることからやっていくことで真実に近づいていくってもんだよ。まずはやってみようぜ」
「わかったよ」
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




