ドン引きされた
ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。
「当然行くぞ」
迎えに行ったら見覚えのある部屋に出た。冒険者組合の応接室だ。借りて使っていたらしいデテゴは何やら難しい顔をしながら書類とにらめっこしていたが、俺を見ると表情を変えた。パーティーの誘いだと伝えると満面の笑みでさっきのように答えたのだった。
「それは良かった。……面倒なことになってない?」
「まあ大したことは無いって言いたいところなんだが……。いや、正直に言った方が良いな。結構な大事になりそうだ。もしかするとイレブンにも手伝ってもらうことになるかもしれん。詳しくはまあ決まったら教えるよ。必ずお前がいないといけないことも無いからな」
俺が声を聞いて顔色を悪くしたことを覚えてくれていたようだ。そうなると答えは決まっている。
「まあ俺も気になるし手伝えることがあれば手伝うよ」
「ああ、助かる。細かい話はまた今度にしよう。早速行くのか?」
「行けるならね。サティさんは?」
「私は組合のお仕事をする立場ではありませんから。無用な関わりを避けるためにデテゴ様のお手伝いをしているように見せているだけです。むしろ獣人の村にお世話になろうかと思ってしまいますね」
こちらも溜息を吐きながら教えてくれた。
「帰る時は俺じゃなくても福来に言ってくれれば大丈夫だから行こうか」
しばらく出かけるとメモを残したデテゴもやって来て応接室から3人ともの姿を消した。
☆ ★ ☆ ★ ☆
デテゴとサティさんはそれぞれの知り合いや対戦相手のところへと行ってしばらく休憩とするようだ。
獣人の村に戻ってきたとしても俺のやることは変わらない。唐揚げを揚げる作業の続きだ。リセルに休憩したらと言われたが揚げ具合を見極めているときは余計なことを考えなくて済むから集中できる。
これからすることは何になるかな。ザールさんとの約束通り思いっきり目立った。優勝もしたし、軽く貴族に睨まれるくらいにはなったと思う。
次の段階としてはグレイブ村に生活基盤を取り戻していくことだけど、先遣隊として入ったと聞いているトワの仲間の人たち、元暗殺者だけど手に職はあるらしいからがんばってくれているのだろう。どんな風になっているのか楽しみだ。
俺が任されているのは全体的なレベルアップだ。パワーレベリングと言い換えても問題無い。いきなり極上の果実に入れる人は少ないから他のダンジョンを利用することになるが、とにかくレベル上げをやっていく。
細かい技術なんかはそれぞれで深めてもらうかガンジャスさんにでも指導してもらえば良いだろう。そのうち村での役割を持てば自分には何が必要かもそれぞれで考えてくれるだろうし。
相談相手としてはどこまで何が見えているのか分からないザールさんだけじゃなく、実際に一つの村を引っ張っているミケンダもいるし、困ったときの相談相手はいると言っても良いだろう。
というか俺の役割は何だろう。村長なんてやる気は無いぞ。そのうち魔国にだって行くつもりだし、まだまだ1つのところに居座るつもりは無い。
それも含めて考えれば良いか。さっき考えていた通りだし。周囲から求められていることをしているうちに見つかるものもあるだろう。少なくとも自分で食べる物を持ってきているうちはそこまで何かを言われることも無いだろう。
「つまみ食いしても良い?」
「いきなりなんだ?」
「え~、イレブンはお腹空かないの?」
「考え事してるからかな。作業だと思うとあまり腹減った感じはなかったんだけど」
話しかけられて現実に意識が戻ってくると、嗅覚が仕事を始めるし、空腹感があることを思い出させてくる。たっぷりと加熱した油の入った鍋を前にしているとそれだけでカロリーを吸収しているような気になってくるが、それを超える香りを醸しだしてくるのがワイバーンの唐揚げだ。
よく竜の肉は美味いなんて言うけれど、どうなんだろうか。ぐ~っと腹が鳴ったような気がしたので決断する。
「少しくらいいいか」
「お腹鳴らしてたら仕方ないよね」
本当に鳴ってたか。
「聞いてないふりしろよな」
「私のときはそうしてね」
「はいはい」
あまり数を減らしてもいけないのでそれぞれの唐揚げの出来具合を確かめるという名目で1つずつ半分に切って試食してみることにした。
まずはトリの唐揚げ。
「もぐもぐ……。あ~、これこれ。あふれ出る肉汁まで美味い」
「もぐもぐ……。二度揚げの衣がサクサクいってて美味しいね」
その次は豚の唐揚げ。これは薄切りにしたのと塊とあったが薄切りの方を試食する。
「もぐもぐ……。カリッと感がいいな」
「もぐもぐ……。ホントだね。でもお肉自体の味も負けてないよ。おいし~ッ」
これも滅多に無いが牛の唐揚げだ。
「もぐもぐ……。あぁ良かった。ちゃんと美味いな。肉を食ってるって感じがする」
「もぐもぐ……。元から火を通し過ぎてもいけない種類だからね。パサつかない感じでいけるね。少しこれは火を通し過ぎてたかも」
「みんなには出さずに俺たちでなるべく食べてしまおうか」
「そうだね」
豚と牛の唐揚げがあんまりない理由が分かった気がする。おいしいのはあるが作るのが少々難しい。
「さて、ワイバーンの肉だ」
「未知の食材だね」
「「あ~ん…、もぐもぐ……」」
あぁ、試食用に切り分けた時から分かってはいたし、口に持っていくまでに吸い込んだ香りでも分かっていた。
「うっま……。まじか。これは、美味い……っ!!!」
「おい、しいよねぇ……。いつまでも嚙んでいたいよ」
リセルも顔をほんのり赤くして頬張っている。目がとろんとしていて頬に手を当てて幸せをしっかりと噛みしめている。きっと俺も同じような顔をしているのだろう。
普段ならお互いになんていう顔をしているのかと指差して笑いそうなところだが、その表情になっているのがお互いに理解できてしまうため指摘はしない。
噛んでも噛んでもあとからあとから尽きることなく溢れ出てくる肉汁。他と同じように下味をつけて衣も付けたなのに、まったく違うような歯ごたえを返してくる肉質。この噛み応えはは肉自体がもたらしてくれているんだな。
行儀は良くないかもしれないが本当にいつまでも口の中に残して噛んでいたいと思わせる幸せが広がっている。
「この美味さは注意書きが必要だな」
「単品で味わうことをお勧めしますって?」
「腹いっぱいになってからでも大丈夫とか、あとは一人一つくらいしか無いけどそれを遵守だな」
「余ったら?」
「そこは武闘大会出場者優先じゃないか?」
「ちぇ。優勝者の言うとおりにしますよ」
これで俺たちの準備は終了した。店をやるわけでは無いので取り分けについてはワイバーンの唐揚げを除いて自由だ。もし足りなくなりそうなら別に何か出しても良い。作るのに関しては別に体力的にも時間的にも問題無いしな。炒め物でもする準備しておいた方が良いかな。米ももう少し炊いておこうか。
それぞれがそれぞれに自分の食べる量を考えて取っていく。ウォーレンさんの子どもはよほど懐いたのかティートとセラと一緒に取り分けている。酒のあてとしてはいいなと食べているガンジャスさんは胃腸もまだ若いようだ。魚ももうすぐ手に入れますからそのときを期待していてください。
「少し良いだろうか」
「何ですか、ミルティナさん」
困った表情で話しかけてきたので話を聞く。
「用意してもらって申し訳ないのだが、肉と油はあいにくと食べ慣れていなくてな。もう少し油の少ないものは無いだろうか」
「あっ、エルフはあんまり食べられないんでしたっけ。やっぱり作るか。肉はいけるんですか?」
何の気なしに聞いたのだが、ミルティナさんは震えている。
「なぜ私がエルフだと知っているのだ?」
「あ~、言ってなかったか。『鑑定』持ちなので見えちゃったんですよね。これから言わないように気を付けます」
「騙して何かしようというようには見えないから信用するが……」
「でもあんまり隠れてないような気もしますけどね」
「何!?なぜだ?」
「隠してるのは耳だけでしょ?人間離れした美しさが疑いを持たせますよね」
「……あまりそういうことを直接言うものではない。里に帰れば私も将来を誓ったものがいる」
「そういうつもりで言ったんじゃないけどすいません!!」
平謝りで許しを得た。ついでに肉もあまり得意ではないとのことで肉抜きの正真正銘の野菜炒めを作った。食材の宝庫から手に入れたものだから保証はされてるようなものだしね。
あとはおまけで目標となるものも出しておこうかな。極上の果実で手に入れた果物も切り分けていく。
いつの間にか始まっていたパーティーも俺を気にせず始まっている。全員から祝いの言葉を個人個人でもらっていては落ち着かないから気にしないでくれと言っておいたのだ。獣人たちも祝う気持ちはあるんだろうけれど、イチイチ言わずにそっとしておいてくれている。助かるなぁと思っていたらまたミルティナさんが今度は少し興奮して話しかけてきた。
「ちょっと待ってほしい。その果物はなんだ?里でも味わったことが無いほど素晴らしい味だぞ!」
「これ?極上の果実で手に入れた果物だよ。これが取れるようになるまでがんばろうねって目的を持ってもらおうと思ってさ」
「不可侵のダンジョンのはずでは?」
「公式発表できないからね。そのごまかしのためのグレイブ村開拓なんだ。もし氾濫が起きても大丈夫なようにしておきたいし」
気が付いたらミルティナさんだけでなく武闘大会でスカウトしてきた人たちが口を大きく開けてこっちを見ている。普通にしているのは元から知っていたメンバーと子どもたちだけだ。ウォーレンさんとこの子どもが固まった父親をこしょばそうとしている。良い性格してるな。慌てたティートが止めているけど。
「もう少し秘密の方が良かった?」
「そうみたいだね」
レベルを聞かれて180と答えたらヒャーズさんが分かりやすく落ち込んだ。
「勝てるわけないじゃねぇか!」
お酒も入っていないのに叫んでいた。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




