VSフレアワイバーンの群れ
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そう考えているとフレアワイバーンが十数頭会場の上に姿を現した。避難はほぼ済んでいるが完全ではない。避難民が前を見ずに上を見たらしく悲鳴が響いている。なぜ上を見ていたのかは知らないが避難する時くらい静かにしてくれないものか。標的になるぞ。
ボナソンは完全に無力化したのでデテゴ達が近づいてくる。
「フレアワイバーンたちが暴れ出す命令はこいつが出すんだよな?」
「そうだと思うよ。命令が出る前だし大人しくしておいてくれるとかなのかな。だとしたら助かるね」
この一連の騒動を治めるためには全滅させないといけないだろうけども。考えていた時に魔力が広がる。これは拡声の魔法か?でも審判さんの魔力じゃないぞ。
『これでもう良いのかしら?…そう。いくわよ。フレアワイバーンよ!暴れなさい!!』
大きな声が響いた。明らかにフレアワイバーンたちに対する命令だ。どこから命令が出たのか分からないフレアワイバーンたちはきょろきょろと確認している。少しの時間が経てば、命令通り暴れ出すだろう。
何よりもこれでフレアワイバーンを全部狩り尽くさないと危険ということになった。だがそれよりも聞こえてきたその声が俺の行動しようとする体を震えて動けなくさせていた。
「なんだぁ?今の声は!?」
「拡声の魔法を使えるものが他にいたのだと思われます。たぶんあの方とやらがこの場にいたんでしょう。って、イレブン君!どうしたの!?顔が真っ青よ」
「……いえ、聞こえるはずの無い声がしたもので。ちゃんと切り替えます」
そうだ。まずはこの場を治めてから考えよう。目の前の魔物を抑えないと関係ない人が死ぬ。それはダメだ。
ボナソンの頭を持っていた手を放して、両頬をはたいて気持ちを整える。ゴンという音がしたのは気にしてはいけない。
「デテゴとサティさんも本調子じゃないでしょ?」
「まあな」
「こいつのアイテムをまず全部剥がして。俺がアイテムボックスで回収する。肌着くらいにしておかないと余計なもの隠し持ってたら面倒だ」
「了解」
「すぐに取り掛かりますわね」
二人がかりで乱暴に装備を剥いでいく。こんなところで息ピッタリなところを見せなくてもいいと思う。ものの数秒で終わらせると体をひっつかんで退避していく。残されたものはアイテムボックスに収納だ。
目当てのものも見つかったので同時に黒幕もほぼ推測通りと確認できた。これでさっきの声とこれが繋がるのだとしたら信じられないことだが、俺が異世界にいるのだから可能性は十分にあることらしい。そんなことあるかって言いたいけれど。
おっと、考えるのは後だ。残っているのはトワだ。律儀にこの場に留まっている。
「トワはリセルのところに行ってろ。一緒に戦いたいならまずは治療を受けてこい」
「御意」
久しぶりに聞いたと思っていたがすぐに姿を消した。
よし、俺の次の相手はフレアワイバーンだな。相手が魔物ならこれを使うしかないだろう。
「挑発!!」
途端に周囲に散ろうとしていたフレアワイバーンたちが一斉に俺の方に注目する。先程の命令よりも動きが速い。対象が持っている魔力なり力が関係しているのかな。
何にしてもフレアワイバーンはティート達にとっては第二の敵だ。どの個体がとは言わないが目に付いたものは狩っていくことで少しくらいは溜飲が下がるだろう。
一番に急降下してきた一体が噛みつこうとしてくる。
「見え見え過ぎるだろう」
天昴を上段に振りかぶりまっすぐに振り下ろす。スッパリと切られたことに血を流しながら吠え盛るフレアワイバーン。あまり長居されても後ろがつかえることになる。少しステップで間合いを取り直す。
「穿突」
体のどこが急所なのか知識があるわけでは無かったが、なんとなくの位置に突きを通す。ピタリと止まると今までの魔物と同じように煙をあげて消え去る。やっぱりこれも変わらず魔物の一種ってことだな。
仮にも竜だし素材がたくさん残れば村の再建に役立つと思ったんだけどな。仕方ない。全滅させてからのドロップアイテムに期待しよう。
仲間の一体が消えたことに臆さず、しかし俺が油断の出来ない相手だと認識したのか今度は5体が降下してくる。しかし、今度は無暗に近づいてきたりはしないようだ。ある程度の距離でホバリング飛行したかと思えば喉の部分がぐっと大きくなった。
「火炎の息か」
ゲームの時でもタイミングを揃えて攻撃してくるなんて連携は無かったが、群れを作る生き物ならそれくらいの知識や社会性があってもおかしくないんだろうな。
「「「「「グゥアアアアァァァァァ!!!」」」」」
真っ赤な炎の波が正面から襲い掛かって来る。何もしなければ熱でダメージを負うことになるだろう。
「何もしなければの話な。『結界』っと」
火炎の息のおかげか境界となった結界がいつもよりも分かりやすく浮かび上がっている。結界のこちら側は今まであった熱気が残っていて少し暑いくらいだが向こう側は舞台の石が熱で変色するくらいには高熱に晒されているようだ。
「半球状に結界を張ってなかったら暑いどころじゃなかったな」
この炎の壁が無くなってから周囲がどうなっているのか確認するのが少し怖い。
少し待つと相手も魔物とはいえ生物らしく勢いが弱まってきた。結界で防いでいることが見えているのかいないのか分からないな。気にする必要は無いか。とりあえず撃ってしまおう。
「氷槍多連」
大体の位置目掛けて結界を外側から大きく回り込むように両側から打ち込んでみた。
「グッ!」「グギャ!」
手ごたえはあったようだ。攻撃を加えたことで炎の勢いが減少する。ならば正面からも打ち込もう。フェンリルから加護をもらっている以上、不利な属性とはいえ貫通するくらいは出来る。
「氷槍多連・氷槍多連!いけぇええええ!!!」
同じコースでも放つが正面突破でも放つ。同じようにフレアワイバーンの悲鳴が続き、炎が完全になくなるころには正面にいる数が3体に減少していた。
しかも氷槍が既にいくらかダメージを与えているようで、あともう少しで倒すことが出来そうだ。まだ上に飛んでいることだし手負いを残すよりも怯んでいる時に倒しきってしまおう。
「ハアアアアアアアア!」
いつもは制限しているステータスが全開であることで、バターを切るかのようにワイバーンの体を切り裂いていく。まだ治療可能ならば体は残るが、HPを削りきった時点で何も残らずに煙になって消えていく。
「合計6体!あとはどれくらいだ?」
しかし挑発の効きが良くなかったのか。最初の勢いがない。ワイバーンくらいになると最初は良くても効果が続かないものなのだろうか。元から操られていることも関係しているかもな。
来ないならば行くのみである。
「空歩!」
空中を文字通り駆け上がりながら途中のワイバーンを切りつけていく。第一の目的は残りの数を確認するべく闘技場の上空まで達することだ。狩り残しはどうやらトワがやってくれるらしい。
風の魔法だか忍術だかで切れ味が良くなった斬撃が首をスパンと切り落としている。ならば行動の阻害を俺がして止めはトワにやってもらうことにするか。
連携を取りながら上昇していくことで会場内に侵入していた15体のフレアワイバーンたちの殲滅は終了した。
残すは会場上空からの確認だ。
「イレブン様」
「毎果か。状況は?」
「糸太郎中心にフレアワイバーンを駆逐しております。上空から見えないということは全て始末済みです」
「被害は?特にけが人の手当ては?」
「現在確認中ですが、避難中の事故がほとんどでフレアワイバーンに怪我を負わされたものはいないかと」
「わかった。何かあればまた教えてくれ。俺はさっきの声の主を確認する」
予想通りなら俺は積年の思いを遂げられるかもしれない。
「既に尾行を付けております。名前などは調べられておりませんが、このままお時間頂けるなら御前に引きずり出しましょう」
「よし!だったら…」
そこまで考えてふと思い当たる。万が一相手の表の顔が善良を装っていたらどうする?前の時もそうだった。圧し潰しても良いけれどそれで困る人が出て来ても問題だ。
「調べるだけで構わない。社会的地位が足りないというなら俺の金級冒険者としての地位を賭けても良いし。こっちには冒険者組合の若き組合長候補と引退しているとはいえ金級冒険者もいるんだ。フレアワイバーンを扇動しようとした女がいたという証言は通るだろう」
完全に戦闘が終了したと判断して良いドロップアイテムが出現したことで戦闘態勢を解除する。
不思議なものでフレアワイバーンの吐いた火炎の息でまだ熱が残っているところには出現せず、ワイバーンの肉や皮膜、牙や魔石などは置いても問題無いところに出現していた。空中で倒した分も地上に現れてくれたことで集める手間は多少省けた。
デテゴ達が大会運営や冒険者組合の関係者を呼んできてくれたことに併せて、外で討伐活動をしてくれていた従魔隊や薙刀隊がドロップアイテムと共に帰還してくれたことを労った。
これで武闘大会の個人戦は終了した。団体戦がどうなるかって?知らないね。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




