全力をふるいます
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「なんだ?」
「なんでしょうね?」
デテゴとサティさんは初対面みたいだから顔を知っている俺たちが対応すべきかな。トワの方を確認するといなくなっている。周囲を確認するとデテゴの後ろに隠れている。そうすると確かに奴から見えなくなるけどそれはズルくないか?
いや、トワがこの中では一番消耗しているから余計なことはさせない方が良いか。決勝終わって休憩らしい休憩はしていないからな。聞いたわけでは無いが自分で納得して対応の覚悟を決める。
「何やってるのかな、ボナソン」
「何を、だって?」
仏のように思っていたのだが誰と話していてもずっと感情図が黒かった。魔眼のおかげで感情が見えるようになってから一番黒かったよ。もっと黒い人もいるんだろうけど今のところはね。
ボナソンがあまり良い人では無さそうであることはメンバーの誰にも言っていない。言っていることと本当に心で思っていることが違っている人なんていくらでもいる。それでもその場では善行となることをやっているのであれば俺が何かを言う権利など無かったし、資格試験の場ではボナソンの方が信頼されている場だと思ったからだ。
それに何らかの事件を起こすとも思えなかったしね。評価されることに対して反感を持っているだけでも黒くなることもあるだろうと思っていたんだ。仏と呼ばれることが嫌だったのかなって。まあそうじゃなかったみたいだけども。
でも、明らかに悪い笑みを浮かべて立っているボナソンは今までのことを全て忘れてしまったのだろうか。
「フレアワイバーンをこの場に呼び寄せて王都を火の海にするのさ」
「何だって?」
「何のためにそんなことを?」
デテゴとサティさんの付き合いが良いな。
「うっとおしかったのさ!いつまでも仏だとか呼ばれているのはうんざりしていたんだ!本当はもっと暴れてしまいたかった。そんなときにあの方がこの力をくれたんだ」
そう言って取り出して見せたのは何かのブレスレットのような物みたいだ。ワイバーンの頭みたいな飾りがついている。そういう意味では分かりやすいな。
「それを壊せば解決するのか?」
「これは呼び寄せるだけだ。暴れるのは俺の命令次第だ」
「ちぇ。じゃあ聞きたいのはあと1つだけだ。ディライの村を壊滅させたのもお前の仕業ってことだな」
「予行演習だよ。まさか初めて使うのが本番で失敗してしまっては話にならないだろう」
「ああ、そうか」
そんなことでティートとセラの故郷は滅ぼされたというのか。メラメラとヤル気が湧いてくるようだ。
「本気でやらしてくれ」
そう言うと制限を解除してもらう。全力を出せるようにしてもらう。久しぶりだからか体が軽い。と、同時にデテゴ達にも言っているからお願いとして聞いてもらえる。
ボナソンが一人で良い気になって話し出したころから観客席は逃げようとする人々でごった返している。フレアワイバーンなんて不吉な単語を言われてしまっては危機感が湧いてくるよね。どこに逃げるつもりかというツッコミも無きにしも非ずなんだけど。
近くの出口に集まろうとするものがほとんどだが徐々に収まりつつもある。審判さんが指示しつつどこからか現れてきた兵士が整理しだしている。余りにも周囲に迷惑をかけているやつは毎果たちが無理矢理大人しくしているらしい。
どうやってか?俺も知らない。
緊急的にだがこの一件の容疑者らしいボナソンの捕獲は準決勝以上に残った4人に任されることになるらしい。だが。
「ねえ、一人でやるのはいいんだよね」
「ん?構わないぞ」
「そんなに滾らせているイレブン君の邪魔はしませんわ」
「私はちょっと疲れてるから譲る」
デテゴ達は問題無し。
「良いのか?既にへとへとだろう?全員でかかって来ても良いんだぞ?勝てると思っているのならな。わざわざ個人戦の全てが終わるまで待ったんだ。ここに集まっている観客どもと併せて一人でも多くあの世に送ってやろう」
「一人で勝てる気がしなかったから臆病にもタイミングを見てたんでしょ。自慢たっぷりで言うことでは無いよね」
さっきから気になっていたけどボナソンが本気の時は武器の棒には棘が付くらしい。
多少は鼻白んだようだが、自分の有利を信じて疑わないボナソンは自分で気を取り直してまだ話を続ける。
「優勝者とはいえ一人とはなんと無謀なことを言っているのか。分かるころにはあの世だろうが悪く思うな」
「あ~、一人で十分だよ。逆にお釣りが来すぎて十分だよ」
「ふふっ、言い過ぎだろ」
デテゴに笑われた。事実だと分かっているので気楽なもんである。
リセル達の散らばり具合から言うと避難誘導がほとんどか。従魔隊と薙刀隊はフレアワイバーンの駆除だな。王都の中に入り込んだやつはこっちで何とかするので放っておいていいからまだ外にいるやつは外で仕留めておいてほしいかな。感覚として伝わってくれ~~と念じておく
「わずか少ない勝ちの目を自ら捨てるとは、愚かな」
「なあ。悪役慣れてないんだろう?口数多いのは三流にしか見えないから黙った方が良いよ」
「っ!?」
「ここまできたんなら黙って戦うしかないでしょうよ」
抑えていた力はそのままに戦闘の開始を待つ。
「合図は俺が出せばいいか?」
「うん、お願い」
デテゴ達も少し後ろに下がる。どこかに行かないのは避難を手伝おうとしても観客にボナソンが手を出しかねないからだな。お互いにお互いの行動を抑え合っていると言える。腐っても金級冒険者、観客目掛けて遠距離攻撃を仕掛けられでもしたら困る。そういう意味ではトワが姿を隠しているのはこちらに有利とも言えるのだ。この冷静な考えが出来て10歳くらいですよ。この弟子、有能でしょ!
ま、何はともあれチートイレギュラーの俺がいなければもう少しその作戦も上手くいってたかもね!ご愁傷様です!
「じゃあこのコインが床に落ちたら開始な」
そう言うと銅貨を見せる。すぐに距離を取って俺とボナソンが相対したことを確認したデテゴは指で弾く。異論など誰からも出ないだろうことは明白だからだ。
多少山なりに上がったコインは特に何も無く床にコツンと落ちる。観客も逃げることに必死でほとんど誰も見ていないだろう。だからこそ良い。
コインが落ちていくのを見て心がどんどんと冷えていく。
動機なんてどうでもいいけど村一つの焼いたやつが俺の目の前にいる。どうしてやるのが一番良いかなんて決まってる。
遠慮なくやれる。
コン、コン、コーンと金属が落ちる音がする。元々はボナソンの棒だったものだが二十以上の破片となって地面に落ちた。
それに混ざってポトポトやドサドサと落ちる音もした。食材の宝庫のダンジョンでドロップアイテムの肉が落ちる時にしていた音に似ている。ポイントは食べられる肉とゴミにもならない指や腕であるという違いだ。天昴についた血を振り払って鞘に納める。
俺は後ろからボナソンの頭を掴んで意識が落ちないようにしてやる。
「俺の武器が…?腕が…?なんだ、これは~~~~~~!!??」
「大声禁止。うるさいから」
「ガッ!?ゴホッ!ゴホッ!」
空いていた方の腕で喉を掴んで無理矢理声が出ないように抑える。咳き込むだけなら自由だ。それでも耳障りではあるけど。
床にはボナソンの腕から先に存在していたものが細切れになってぶちまけられている。これはあんまり映像には出来ない感じですね。虐殺者相手だしこれくらいで済んだのなら良しとしてくれ。
この損傷を元通りにできるのは俺かリセルくらいじゃないかな。ということでもう二度と悪さは出来ないね。
「あ、でも仮にも金級冒険者なんだから足だけでも何か出来てしまうね」
口を開けて無理矢理布を噛ませると先程と同じことを脚にも執行。もう一度天昴を抜き放つ。心の中ではティートたちの村の人の冥福を祈る思いを満たしながら。
本当なら激痛の信号が気絶という形で意識の遮断を行うんだろうけど、頭に治癒魔法をかけていたら痛みを感じるかどうかはさておき意識を失わずには済むみたいだ。良いごう…ゲフンゲフン、懲らしめるには良い方法だと思う。
ぶちまけられたものは俺がアイテムボックスに保管しておく。一応自分で告白していたから間違いないだろうけど何かの間違いがあったときに元がある欠損補修と何も無いところからの欠損の治療はMPの消費が桁違いだからだ。
ん?なんでここまで詳しいのか?時間があったときに盗賊相手にちょっと色々としてました…。
「やり過ぎじゃねぇか?」
「それ殺された人たちの遺族の前で言える?」
「……悪かった」
「なら良し」
こいつからはあの方とやらを聞き出さないといけない。あと、持ち物にあれが無いかも確認しないといけないんだよね。忙しくなりそうだ。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




