三回戦突破!
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「ルブトさん、イレブンさん、第四試合が始まります!壇上へとお願いします!」
呼ばれたので壇上に上がりながら考える。
「どうしようかな…」
「なんだ?どんなやられ方にするかでも考えているのか」
一方的に友好的な感情でも押し付けて来るかのようでルブトが話しかけてくる。
「ん~。話しかけないでくれ、考え事だ。……さっき笑われるのはやったからなぁ」
どちらかといえば思いついてはいるけど思った方向に動くかどうかに自信が無い、というのが本音だ。何事もやってみないと始まらない。
「俺はお前とは仲間になれると思っているんだ。さっき貴族になろうとした裏切り者を圧倒的に潰しただろう?俺が貴族からの落ちぶれたやつを処断したときも表情は変わらなかった。心の中では貴族なんてクソだってことが分かってるんだろう?一緒に叩き潰すのはどうだ?」
そう言って肩を組もうと手を伸ばしてくる。ここで裁断してもいいかと思ったけれど試合前にそんなことをするとここで反則負けになりかねない。ゴミを払うように払う。
力を込めたつもりは無いが無意識に強かったようで勢いが強くて払った腕に振り回されてルブトは少しだけ距離を取るほどだった。
「俺の友達を不必要に痛めつけたお前は未来永劫俺の敵だ。馴れ馴れしく振舞うな。目障りだ」
「……なんだと」
表情の変化からこいつの憎んでいるポイントが分かった。
「貴族が、友達、だとぉ。……ハッ!もういい。壇上で貴様は切り刻んでやる」
分かりやすく激怒の表情を見せた後ルブトは壇上へと上がっていった。
貴族に恨みでもあるんだろうな。それがどんなに同情すべきものでもバイスに当たり散らした時点でお前も憎悪の対象にされても文句言えないんだけど、気が付いているんだろうか。
俺も呼ばれているんだし早く壇上に上がることにしようか。
歓声は上がっているが声量は控えめだ。ルブトが出ている試合だし、分かりやすく不機嫌だからわざわざおだてようとする観客は少ない。俺だって相手を馬鹿にするような振舞いをしたし、褒められる方ではないだろう。
まっすぐと中心部に向かう。審判さんもルブトとの会話は把握しているだろうに知らないふりをしてくれている。その方がありがたい。お互いに少し苦笑気味になると気が付かなかったふりをして試合の開始位置へと立つ。
「一応聞きますけど試合の勝敗は何で決めますか?」
「普通のルールで、「デッドオアアライブだ」はぁ?何を言っている?」
無駄に命を散らす必要など無いだろうに。あ、それは俺に勝てると思っているから心配の必要が無いのか。
「じゃあこうしましょう。俺は負ける時は死ぬことで、あと降参や場外の場合はペナルティで死ぬことにします。でも俺は殺すつもりは無いので相手の負けは降参だけにしてもらいたい。場外は負けとは認めないということで」
「殺すのが怖いのか、腰抜けが!俺が降参すると思ってるのか!」
「死ぬほど痛い目に遭わせるってことで」
結局は殺す気でやるってことにしないとルブトが納得しなかったので、一応本気でやると口に出させられた。そこまでせずとも力づくで勝利をもぎ取ることにしておこう。
しかし、そんな簡単に死なないだろう俺相手に命がけの勝負を振って来るなんて命知らずにも程がある。
……あぁ!!俺に勝てると思ってるのか!
表情からも自分が負けるはずがないと考えているのが見て透けるぞ。それこそ命知らずだろう。命がけだとなれば負けそうになったら精霊たちも制限解除してくれるだろうし、そもそもトワよりも弱いこいつに1割に制限した俺が暴れたら確殺だぞ!?
「貴族なんぞ軟弱の代名詞!そんなやつを友人と呼ぶようなやつが強いわけが無い!この場で殺してやる!」
「一応確認しておくけど弱いことが悪いってことか?」
「弱さは悪だ!強ければ守れた!だから俺は弱さを憎む!」
過去に何かあったっぽいけどバイスに対しての所業が全てを台無しにしているし、俺も尊重してやるつもりは無い。
「分かった。強いのが正義だっているなら相手してやる。割と本気で」
制限がかかっているという条件は付いているけどね。
条件も決まったところで試合が始まる。
「始め!」
「『覚醒』!」
掛け声とともに速攻で覚醒を使用する。そして覚醒状態で全てのステータスが上昇しているのを利用して懐に潜り込む。ルブトは目では追いかけられているが体は反応しきれていないようだ。
「秘奥義、一拳!!」
どてっぱらにドゴンと一撃をお見舞いする。いや音の響きだけで言うともう少し大きな音だったように思うが。
ルブトは闘技場から飛び出し、場外を転がり続けて観客席の大きな壁にぶつかって止まる。しかし、場外は負けでは無いので終わりではない。
「審判さん降りても負けじゃないよね」
「事前の取り決めにより今試合は違います」
「ありがとう。では」
場外に下りて近づいていく。殺さないようにダメージ千分の一を発動させている。死んでもいないし、HPを全部削りきったわけでも無い。死にはしないだろうからと手加減のスキルまでは使っていない。これで殺していても本人が望んだことなので罪悪感を持つ必要もないし。
「う……」
「なんだ。気絶もしてないじゃん。起きてさっさとかかって来いよ」
ダメージ千分の一のすごいところは効果は通常時と同じだが、効果だけを落とし込んでくれるから。見た目よりもルブトが丈夫に見えてしまうのだ。俺の攻撃力が低いと見えなくもない。ある程度の実力者には何かがおかしいとはバレると思うけれど。
ルブトの足を持つと舞台の上に投げる。壁際では見えない観客もいるからね。
舞台の上に歩いて戻るが、ルブトは腰が抜けてしまったのか立ち上がれていない。思った以上に衝撃が大きかったのだろうか。まだ死にはしないと言っても手加減を使った方が良かったのだろうか。
「立ち上がることも出来ない?」
「そうみたいですね」
「この状態だと試合は?」
「続行です。イレブンさんが止め刺します?」
「あんた、鬼か」
やんわりと殺害をそそのかされたような気がするが、やめておく。ならば社会的にルブトを殺そう。
拡声を使用して発表する。
「ひとつ会場の皆さんに知っておいてほしいことがあります。さきほどルブトと二回戦で戦ったバイスという男のことを。まだ冒険者組合からも発表されていないことですが、ぜひ知っておいてほしいのです。タッツの町はご存知ですか。ここ王都とユーフラシアの途中にある町の1つです」
何を発表するかって?バイスの武勇伝を広めてやる。
「そこでは何日にもわたって魔物の襲撃が起こっていました。中には長期間の襲撃に耐えられず怪我をするものや逃げる者もいたそうです。そんな中町を見捨てることなく先頭に立って守り続けた男がいました。それが二回戦で負けてしまったバイスです。」
突然始まった話にどよどよしていた観客たちも声の大きさに圧倒されて静かになっていく。うん、ありがたい。すこしだけ『威圧』を混ぜておいて良かった。スキルの無駄遣い!
「襲ってくる魔物は多岐に及んだそうですが、一緒に戦う冒険者や支えてくれる町の人たちを背に背負って戦い続けたのがバイスです。タッツの町の英雄です!心の優しいやつなのです!貴族だからどうとか考えずに弱い者を助けようとするのがバイスです。不必要に傷つけないようにするのが本当の強者なんです!」
止めは真実を言うしかないかな。
「それにも関わらず、不当に三回戦に出場しているのがこのルブトです。最後の瞬間バイスは寸止めしようとしていたのに、その止めようとしていることを見切ったルブトはそれが必勝の一撃になると分かってバイスに攻撃したのです。貴族だからというのは後付けにも近しい。殺人鬼のようなことをこの場でやってのけたのがこのルブトです!!俺からはそれだけです。バイスは治療により一命は取り留めていますので安心してくださいね
そう言って拡声をやめる。威圧も解けるので会場がざわつく。それもそうか。勝ち上がるために人を殺しかけて今もまたルールを悪用したように見せかけて殺人を仕組んだ奴なんて観客からは許せるものではないだろう。見たいのは戦いであって殺し合いではない。
「そんなやつ負けにしちまえ~!」
「バイスさんの勝ちにした方が良いんじゃないか!」
「快楽殺人者を許すな~!」
観客たちは全員では無いにしてもルブトの敵になった。
呆然と見守っていたルブトは消え入りそうな声で呟く。
「同じ平民なのに、貴族を敵に見ないのか?」
「イヤな貴族もいるけど良い貴族もいる。平民でも同じなんだから貴族もそうだろう。比率は違うかもしれないけどな。お前の間違いは貴族を一緒くたに全部敵にしようとしたことだ」
正面にしゃがんで囁いておく。
「分かったところでバイスへ行ったことは許さないけどな」
肩に手を置いて魔力だけの解放を精霊に願う。舞台上にいる人間に分かる程度に一瞬だけ見せたところで顔色は真っ青だ。それを確認したら立ち上がる。
「さて、これでお前は1つの町を救った英雄を不当に傷つけた悪人だ。貴族を敵に見るのをやめろとは言わないけど、お前は今日の観客の敵だよ」
俺に勝てないことも分かり、自分が傷つけてはいけない人を騙して勝利し、扇動したかった味方と思っていた観客から敵視されることになった。自業自得にしか思えないがルブトは前のめりに倒れて気絶した。
「おや、バイスの時と同じように審判判断でお願いします」
「……了解です」
「ルブトが気絶から復帰しなければ分かりませんが、戦闘続行不可能と見なします。よって勝者はイレブン!」
またも微妙な勝利だけど拍手だけはもらって三回戦を突破した。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




