三回戦始まりました
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ゾルガンは直接の犯人じゃなかった。となると別にワイバーンの群れを呼び込んだもしくは引っ張ってきたやつがいるのだろうが今は本当にノーヒントだ。目星が無いわけでは無いが向こうのテリトリーで無駄に暴れるのは迷惑が掛かる範囲を考えてダメだろう。一般的には名宰相だと言われているのだから。
話を戻して、ゾルガンに罪が無いわけでは無い。逃げ帰ってから報告をきちんとしていればティートとセラ以外にも助かる人がいたかもしれないし、2人ももっと早く保護されていた。
過度な誇りは周囲にとって害ある存在だと断じても不都合はないだろう。
報告をきちんとあげてゾルガンについて公式に処罰をしてもらおう。奴がその後どうなろうと知ったことではない。
いや、さっきのゾルガンへの尋問は冒険者組合側の案内で行ったから俺が報告しなくても断片的には伝わるか。村で二人を保護したことを伝えれば問題無いかな。
これからすべきことを頭の中で整理しながら急いで会場へと戻る。会場の様子を上空からの空間接続で確認してみると一見ヒャーズが一人でうろたえていた。
トワが公開してるのが超スピードの戦闘だから姿が見えないくらいの速度で翻弄しているみたいだ。そこまでやるとやり過ぎだと思うが俺はまだ見える。俺がどう反応するかを診たかったんだろうが俺は現場で見ていない。これは急がないと怒られるな。
トワは色々と戦法を見せて俺の反応を見ている。何が有効で何が見切られていないのか、ある程度見せることで自分の不利にはなるが通用しないと分かっているなら最初から使わなければ良いだけの話だ。おそらくそこまで割り切って試合に臨んでいるみたいだ。
ある程度以上の特技や奥義はあまり見せないで良いぞって言ったらほとんど秘密にしたからな。高速機動だけで困ることが無かったから不満も無いんだけど。
ヒャーズは音を頼りに炎の塊を投げつけるが着弾時には当然トワはそこにはいない。何度か繰り返すうちに炎の壁で防御を固めてしまった。
しかもよく見ると壁を同心円状の途中に切れ目がある形で炎の壁を発生させた迷路状にして真っすぐは進めないようにしている。会場の上空を飛んでいるステルスビーからの中継を見たから気が付いたがどうやっても中心にいるヒャーズには到達しないように出来ている。それは正直上手いと思う。
何も考えずに進むと炎の壁に巻かれて焼かれてしまう。しかも到達できないことは維持しつつ途中で迷路を変形させている。魔法の扱いが上手いな。威力がそこそこに抑えられているのは自分の周りに展開していることと火だから観客への影響を気にしてのことだろうか。
そこでちょうど俺は会場に辿り着いた。中継代わりにしていた空間接続は切る。一足飛びに出場者の見学席に飛び、座る時にはトワは俺の姿を確認していたみたいで攻撃手段を切り替えていた。
上空からの奇襲である。
いつの間にか俺の天歩みたいなスキルを身に付けたのか工夫をしているのかは分からないが空中に留まり、足場らしきものを蹴って上空から急襲する。観客席からの声を聞いていたようでヒャーズも炎の壁を解除するが何とか転がることしかできない。
杖術も使えるヒャーズだが純粋な近接戦闘職では無いのでトワから見れば素人とそこまで変わらないだろう。出来る限り冷静になって振り回すもののトワには簡単に見切れる範囲だ。
トワは誰の目にも見える速度に落として一度フェイントを入れると正面から腹に一撃でダウンを取った。
その後は審判さんがヒャーズの気絶を確認して終了した。
困ったのはその後にヒャーズを放ってトワがさっさと退場してしまった事だ。あいつ!ちゃんとヒャーズをスカウトして来いって言ったのに!でも試合があるのにここから離れるのは既に出来ない。試合まで拘束される場所でもあるのだ。試合相手しかいないこの場で空間接続を使うわけにもいかないし。
たぶんトワはこの後、特別観覧席に戻るだろうからその時にリセルから注意されて思い出すだろう。ヒャーズも気絶から立ち直るまでに時間がかかるからそれまでに思い出してくれれば良いだろう。一応スカウトもザールさん経由で許可されていることなんだし少し遅れるくらいは問題無いだろう。
トワが怒られることをしてくれたおかげで俺が最初から見ていなかったこともチャラだろう。必要なことをしていたのだから俺の方が若干セーフかな。
よし、目の前に集中しよう。三回戦第二試合はさっき気合入りまくりの熱戦を繰り広げたデテゴとこれまで本気を出さずとも勝ち上がってきた今大会一番期待されているボナソンだ。
二人の本気を見たことが無いのでどちらが上かは俺も見当が付かないぞ。冒険者組合の等級だけで強さが計れるのなら苦労はしない。一般的に分かりやすいだけだ。デテゴだって伊達に銀級最強とか言われてないしな。
一方ボナソンだって負けてはいない。前回大会までがどうだったかなんて知らないけれど3位まで残っているのだからそれなりの実力者であることは確かなのだ。一番人気ということもあって無様な負け方だけは出来ないのは間違いない。
腹の中に何を抱えているのかなどは置いておいて興味を持つ試合というのは確かだ。
そこに不穏な影が現れた。トワだ。ここ数日の尖った印象は消えていて人差し指を突き合わせている。トワくらいならその仕草は許されるな。うん。
「どうした?」
一言かけるとビクッと過剰反応を見せる。僅かな時間だったがリセルに怒られたようだな。
「戦術と勝ち方に問題は無いんだ。何がいけなかった?」
「わたしたちの目的であるスカウトを忘れていた」
「そうだな。ヒャーズとは話してはいないが、あれだけ細かな魔法の技術の持ち主だったら相当な努力を対価にしているだろう。そういう人が一人いる方が助かる。俺はチートが過ぎるからな」
スキルポイントを貯めればいくらでも規模の大きいことが出来るようになるとか真面目に努力している人からすればボコボコにしてもしたりない反則技だろう。
これからどうなるかはともかく、真っ当な魔法使いが一人いても良いだろうとは思う。火だから色々できるだろうし、他系統の魔法が使えるのかなど一般的な話も聞きたい。
「ってことでスカウトはぜひ頼みたいんだが?」
「うぅ…」
「どうした?」
「…て、手伝ってほしい…」
トワにはまだ早かったかぁ。初めての人には中々話しかけづらいもんな。共通点が何かあればいいんだけど、今まで話したことも無いしトワが興味持ちそうな感じの人でもないからな。
仕方ない。見たかったけどボナソンは色々あってスカウトしないし、デテゴなら大会じゃなくても模擬戦くらいいつでも出来るしそっちに行きますか。
「じゃあ俺の代わりに座っておいてくれな」
高速で俺とトワの姿の見かけを入れ替える。ボロが出てはいけないのでトワは俺の姿で座っておいてもらう。俺に関しては会場ではトワの姿だが裏に回ってしまえば元に戻せばいい。
幸い試合が期待大の試合なので誰の目にも触れないように移動すれば良いだけだ。冗談で言っていたら幻魔法で出来たことなので驚きである。言ってる間にヒャーズのところにいくか。盛り上がる会場を背に目的の救護室へと急ぐ。
移動の最中にも歓声が沸き起こっている。俺がいないからさっきみたいなプロレスみたいなことはしていないんだろうけど普通に戦ってもあの二人なら魅せる戦い方は出来るだろう。
場を温めるだけ温めてどちらが勝つかは二人次第だ。底が分からないから考えるだけ無駄だな。はい、到着っと。
中に入るとヒャーズがまだ眠っていた。
「どうかされましたか?」
「ああ、いえ。近々やる大きなプロジェクトに彼をスカウトしようかと思いまして」
「まだ試合もあるのにお忙しいことですね。さすがは金級冒険者というところでしょうか」
「まあそんなところです」
話しかけてきた人は冒険者組合の人だったらしく俺のことに詳しかった。既に俺は自分の姿に戻っている。あくまで見かけだけを騙す幻だから話すとバレる。俺の姿でいかないと身長差も誤魔化さないといけないので色々と面倒なのだ。
「いつ起きますかね」
スカウトだけで言うならサティさんと対戦のミルティナにも声をかけておきたい。女性闘士は珍しい上に理力というスキルもエルフという種族も珍しい。自分の試合もあるがそこまでには戻って一声かけておきたいのだ。あとはトワとサティさんでリセルのところまで連れて行ってくれればたぶん同郷同士話も弾む、と思いたい。
もろもろの事情を考慮すると目の届く範囲にいてほしいと思うのだ。最悪に転がると99年の時間を先取りしてゲーム本編のイベントが始まりかねない。自分のくじ運の無さを色んな意味で嘆いてしまいたいところだ。
「きれいに気絶させられているからすぐだと思いますけどね」
「そうですか。可能な限り待ちます」
もう一度ワアアアアアアアアッと盛り上がる声が聞こえる。もう勝負が着いたのだろうか。人がいるところでは使えないから状況が分からないな。
「ここから会場を見ることは出来るんですか?」
「いえ、患者さんに刺激の強いものを見せるわけにはいきませんから」
それなら仕方ないか。廊下にでも出てこっそり見てようかな。いずれ戦うことになるんだろうし、少しくらいは戦い方のヒントになるものは見ておいても良いはずだ。そこまで考えた時にちょうど声がした。
「うッ」
「ヒャーズさん、気が付かれましたね」
「タイミング良すぎですね」
ではスカウトいきましょうか。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




