二回戦第五試合から第七試合まで
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第五試合は難なくミルティナが勝利していた。しかし、若干勝負を焦っていたような気がする。その原因も分かっていたので、逆に自分のスキルに付いてしっかりと把握をしていることが分かる。
ミルティナのスキルは『理力』だ。MPを闘気に変えて出力することが出来る。魔法に変えるんじゃないんだねとかエルフなのにとか思うかもしれない。それには俺も同意見だ。
エルフが近接格闘が出来ないことは無いので使い方次第としか言えない。魔法や弓などの遠距離攻撃の方に適性があるというだけだ。相応の苦労はしただろうし、修羅場も超えているだろう。
そして理力のスキルの唯一にして最大のデメリットはオンオフが出来ないことのようだ。説明欄はこんな感じ。
理力 MPを闘気に変換するスキル。使用する武器にも闘気を乗せて使うことが出来るようになるため鍛錬すべし。
魔力として使用できないためこのスキルの持ち主は魔法は使えない。また何もしていなくても1分間にMPを1消費する。戦闘時はより消費することになる。眠っているときは消費しないが意識がある時は常に消費し続ける。
出来ることの説明よりもデメリットの説明の方が長い。闘気は使おうと思えば色々なことに使えるから書き切れなかったのだろう。ミルティナはシンプルに打撃技に使っているようだ。剣に闘気を乗せようと思うと先端まで伸ばすのは苦労するからな。
今日は勝ち上がることで二試合する必要があるし、二試合目の相手はあのサティさんだ。まだ決まってないけど。どちらにしたところで相当な強敵と戦うっていうのに今よりも更に消耗した状態で戦うことになるからMP切れになる前に勝負を決めようと焦っているのだろう。
少なくとも無理して勝ち急ぐ理由は理解できた。う~ん、エルフだけに美人さんだし、下手な貴族に手を出される前に保護しておこうか。リセルも出身国が同じ魔国っぽいってなると興味を持つだろうし。次の試合には確実にミルティナは苦戦するからその時には保護できるようにしておくか。
他の出場者からは見えないように秘かに隠れているステルスビーにミルティナについてリセルへの伝言を頼む。万花たちの誰かを通訳にしてくれれば大丈夫だろう。終わるころにはトワも観覧席にいるだろうしな。
そして第六試合はサティさん対謎の老剣士ガンジャスの試合だ。
試合の形式は剣のみの試合であることに決まった。純粋な技術だけでいえば俺はこの二人には負けるかもしれない。それだけに学ぶことの多いだろうこの試合は非常に楽しみでもある。
「始め!」
掛け声とともに始まった試合はまずは両者ともに全くの不動から始まる。二振りの剣を持った状態で固まるサティさんと剣を納めたままじっと固まるガンジャス。俺の目には微妙に重心や持ち手の力具合を変えていることが分かるので面白いことこの上ないが隣に座っているバイスですらよく分かっていないようだ。
とすると観客はそれ以上に分かっていないだろうな。何とも玄人志向な試合である。そのまま5分も固まっていたが、さすがに痺れを切らした審判さんが声をかけに二人に近づく。
「あの――――」
ガキィィィン!
声をかけた瞬間にガンジャスが抜刀しそれを交差した剣で受けるサティさん。音が響くと共に気合が風を起こしたのか審判さんの服がはためく。
「ひいいぃぃぃぃ!」
あれだけ近いと剣が当たる音が激しいだろうな。地面に這うようにして必死に遠ざかっている。
その間にも立ち位置を途中入れ替えるような移動しながら切り結んだかと思えば立ったままの状態でしばらく応酬をくり返す。
実際に動くとなるとその呼吸の使いどころや踏み込み方に二人の違いがあって勉強になる。俺なら止まる一歩を二人とも躊躇いなく踏み込みお互いの剣を受けているところは痺れる瞬間だった。
動きのある試合となると観客も文句は無い。逆に速すぎてどちらが有利なのかを掴めていないようだ。目まぐるしく動く試合を騒ぐことなく見守っている。
うるさいヤジを入れようものなら近くの人間にふんじばられている。「騒ぎたいだけなら出て行け」ということらしい。素人の観客なりにレベルの高さを察知しているようだ。
しかし徐々に形成が傾いてくる。剣の練度ではわずかにガンジャスの方が上だが二剣持ちのため攻撃の汎用性や力強さはサティさんの方が上、そして若さ、体力はサティさんが女性であっても遥かに上だ。
疲れから精彩の欠けたガンジャスの持っていた剣を弾き、右手で持った剣を喉元に突き付けたサティさんがガンジャスから降参をもぎ取った。
「いや~、剣の極致のような戦いだったね」
「何が起こっていたのか半分も分からなかったよ」
「じゃあバイスもまだまだだな」
とは思いつつも、あんな剣の技術を持った爺さんが予選勝ち上がりから何を求めてきたのかは想像に難くない。彼にも声をかけるべく控え会場の席を立って出迎えるべく進んでいく。バイスも次の試合だから一緒について来る。
「ガンジャスさん、惜しい試合でしたね」
「寄る年波には勝てん。最後の余興のためじゃ。老骨に鞭打ってよかったわい。釣りは成功かの?」
「はい。お手並みお見事です」
何のことか分かっていないバイスはハテナマークが頭の周りに乱立している。
「バイス、グレイブ村って知ってる?」
「それくらいは知ってるぞ。何でも入った冒険者は二度と戻って来ないと言われているアンタッチャブルレベルのダンジョンが発生した死の村だろう?何でもそこに挑戦しようとしちる命知らずが……いる、とか……まさか?」
「それ、俺」
正に鳩が豆鉄砲を食ったようなとはこのことだった。口と目が大きく開かれている。どこで悟ったかは知らないけどガンジャスの爺さんは気づいていたというのに。
「儂が聞いたのはどこぞの商会がいくつか掛け合っておるという噂を聞いておってな。この試合で強者をすかうとする聞いたので出てみたのじゃ」
「ダンジョン潜られます?」
「いや、儂は最後に死ぬなら後進の育成に人生を使いたかっただけじゃ。難度の高いダンジョンの近くなら有望な若者は寄ってくるじゃろう。儂が見込んだ者を育てる!」
「まあ分かりました。俺が紹介するんで一緒に行きましょう」
「了解じゃ。儂のことは気軽にガンジャスおじいちゃんとでも呼べ。酒と剣が儂の生きがいじゃからの」
「覚えておきます。トワ~!」
まだもう一試合あるため気を尖らせているトワだが呼んでこない程ではない。
「ガンジャスさんを」
「おじいちゃんと呼べというに」
「呼んだとしても師範とかですよ。ガンジャスさんを俺たちのいるところに案内してくれ。お酒がすきだそうだからロイーグさんたちにおもてなしをしてもらってくれ」
「ん。わかった」
ガンジャスさん達を見送った後、俺は少々気の抜けたバイスに向き直る。
「次が試合なのに呆けてる場合か。次に勝てば俺とだぞ」
「イレブンだって試合はまだだろう」
「ん~。一回戦を見た感じ余裕だね」
言わないけど1割のステータスがあれば今回の大会で負ける可能性があるのは、トワとデテゴとサティさんだけだ。短期決戦となるとガンジャスさんも怪しいかもしれないが。
「勝てるかどうか怪しい相手だからな。よし!気合を入れて臨んでくる!」
「おう!がんばってこい!」
そんな特に何の危機感も無い感じでバイスを送り出した。
☆ ★ ☆ ★ ☆
10分後、俺は場外にて血まみれになって投げ飛ばされたバイスを受け止めていた。壇上からはバイスの対戦相手だったルブトが愉快そうに笑っている。
「ひゃっはっはっはっはぁ!やったぞ!貴族を俺のこの手で討ち取ったぞ!」
思ったよりも良い試合をしていたバイスだったが、ほんの少しの差で逆転されてしまった。その差とは相手の命を奪うことにためらいがあるかどうか。
直前のサティさんとガンジャスさんの戦いを見ている間に呼吸を盗み取ったのだろう。俺が最初に想定していた以上の動きでルブトを追い詰めることが出来ていた。
ルブトが一撃の重みを追求した豪の剣士ならばバイスはバランスよく成長した正統派の剣士だ。うまく捌くことが出来ているうちは良かったのだ。
耐えて耐えてのようやく出来たルブトの隙にバイスは差し込むことが出来ていた。そこで剣を止めた。動きが止まった瞬間にルブトは動いた。それはバイスの寸止めとは違い、体を切り裂く一撃だった。
まだ審判さんが判定を出す前だ。俺からしたら勝負ありの瞬間だったとはいえ観客からはギリギリの応酬にしか見えなかったようでルブトを卑怯だと断じる声は聞こえない。
「貴様も貴族が嫌いだっただろうが!俺たちのことを平民と呼び!苦しめるだけ苦しめたら自分たちのエゴのためにいくらでも俺たちを使い潰す!見捨てる!そんな業の持ち主だろうが!」
「お前うるさいよ」
ルブトの存在はいらないな。声が観客に聞こえないように空気の震えが伝わらないように干渉する。今はかける言葉は無い。自分の声が自分にすら聞こえなくなったことに焦った表情のルブトを放っておいて最低限の治療を済ませたバイスを治療班に引き渡す。
俺が言ったところで第七試合の結果はルブトの勝ちだ。バイスは負けてしまった。
次が俺の出る第八試合になる。次の相手も決まった。なんでクズばっかりと戦わなければならないのだろうか。冷静になるために頬を張って気合を入れ直す。まずはティートとセラの村の話から片付けることにしよう。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




