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漢の第三試合

ブクマ・評価・いいねなどいつもありがとうございます。読んでいただけるだけでありがたいです。お楽しみ頂けると幸いです。

次は第三試合の斧使いのウォーレンさんとデテゴの試合だ。


「よ~し、見てろよイレブン。盛り上がった雰囲気にあう試合を見せてやるよ」

「お、おぅ」


俺に声をかけるとデテゴは楽しそうにしながら闘志満々で舞台まで向かって行った。


あいつ、俺のことを試合相手とみて話しかけに来ないんじゃなかったのか?ただ単に戦闘前に集中したかっただけか。サティさんはどうなんだ?

そう思って振り返って見るとサティさんは極寒の眼差しで俺を見ていた。デテゴのヤツ、俺と戦いたかったとか言ったんだろうな。その気持ちを汲んだのか俺にはそういう感じの態度を貫くらしい。うわ~、女性からそういう視線を叩き込まれるのってほとんど初めてだから余計に怖いや。

デテゴの試合に集中しよう。前を向いて座ると何か話し合っていた。バイスに聞いてみよう。


「あれ何してるの?」

「勝敗の決め方について話し合っているのさ」

「何それ」

「どちらかが勝敗の決め方について相談を持ち掛けて両者の合意が取れたらその試合形式になるんだ」

「えっと、じゃあ極端な話大食い勝負ってなったらそれで勝負を決めても良いの?」

「ご、合意が取れればね」


ちょっと極端な例を出してしまったがそういうのを提案してくるかもしれないのか。相手が何してくるかも考えておかないといけないかも?

そう考えている間に合意が取れたらしく決定されたようだ。デテゴが壇上から俺に手招きをしている。近づいていくと分かった。都合の良いように使おうとしている時の笑顔だ。


「前に話してくれてただろう?正方形に4つ杭を立ててくれ」

「あれか。舞台に穴が開くのは良いの?」

「修理するための土魔法だか石魔法だかの使い手がいるだろうから問題無い」

「それでロープを括りつけたらいいんだね」


デテゴに話すんじゃなかったな。プロレスやボクシングの話を覚えていたんだろう。ウォーレンさんもデテゴも体格はいいから今からプロレスをやるつもりなんだろう。俺もくわしくないから攻撃を避けてはいけないってことしか話してないけど良いのか?

いや、デテゴは良いにしてもウォーレンさんはあの優しそうな顔の割によくこんな話に同意したな。でも普通に戦う方が勝ち目ないかもしれないから武器無しの根性でいくとしたらこっちの方が良いかも?

まあいいや。イメージが分かっているのは俺だけだから従うとしよう。


「やりゃあいいんでしょ」

「助かるぜ。ついでに教えといてやるよ。サティは結構真剣にお前との戦いを楽しみにしてるからな。覚悟しとけ」

「さっき痛感したよ。忠告ありがとよ!」


言われた通り準備をした。ロープに弾力性なんて皆無だから付与魔法で少々いじっておいた。下が石舞台なのはもう仕方がない。これでも少しマシだろう。あとはウォーレンさんが受け身を取れるのかの話なんだけど。デテゴが普通の受け身から前回り受け身まで教えていた。

その間観客たちはポカンとしていたり、今のうちにと休憩時間代わりにしたりと人それぞれだ。お祭りみたいなものなんだからそれぞれの楽しみ方があったらいいよね。

準備が終わったことが告げると入場曲のことまで言われたのでそこまでは受け付けないと断った。

一応サービスで赤色の布と青色の布を巻きつけておいたのでそれを代わりにするように言ったし、時間も砂時計を渡して砂が落ちるたびに休憩を取らせることを伝えておいた。デテゴはいらなくても観客とウォーレンさんには必要だろう。

なぜかスタッフの位置にちゃっかりと居座ることになってしまった。俺って出場者だよね。まあ今回だけだと割り切ろう。


最後のサービスはこれだ。


「赤コーナー、ウォーーーーーーーレーーーーン!!!」


うおおおおおおおおおおお!!!!


「青コーナー、デーーーーテーーーーゴーーーー!!!」


うおおおおおおおおおおお!!!!


一応拡声して観客にも声を出すだけでも良いからやってみろと指導したら思った以上にノリノリで盛り上がった。みなさん、声を出すのに遠慮しがちだったからね。こうなると審判さんもノリノリである。


「レディーーーーー、ファイッ!!!」


まずは何から始まるのかを見守っていたら。デテゴがまずは仕掛けて来いと手でウォーレンさんを挑発している。ウォーレンさんも自分が格下だと理解しているからしかけていく。複雑な組技など二人とも知識がないから、主に打撃のみで戦うようだ。いや俺にも知識無いけど。


ウォーレンさんが一発張り手を食らわせるが、反撃もせずにもう一発来いと手招きするデテゴ。ならばと張る!もう一回挑発!張る!挑発!張る!


五発食らったところでデテゴが水平チョップ!!たまらず2歩下がるウォーレン。沸き上がる観客達。


「このタイミングで立ち上がって声をかけるんですよ~」


俺が邪魔にならない程度に何度かアドバイスしていくとそこから徐々に熱気を帯びていく。完全に俺が煽ってる感じになってるじゃないか。


リング上では今度はタックルのぶつけ合いになっている。ロープの使い方に関しては試合前に教えておいたから避けるとそこから反動付きの一発を食らうことになるのはお互いに分かっている。

しかし、デテゴが敢えて躱した!そこから1往復したウォーレンのタックルを敢えて受ける!


多少ふらつきはしたが、不敵な笑みを浮かべて相変わらずもう一回仕掛けて来いと挑発するのをやめないデテゴに歓声が飛ぶ。これが意外なことに、いや意外でも何でも無いか。


「きゃ~~~!デテゴ様~!ステキです~!!!!」


誰よりも通る声で応援している女性がいらっしゃる。あんたさっきまでの俺への敵意はどこに行ったのさ。いやまあデテゴとウォーレンさんの筋肉でバチバチに肉弾戦やってたら戦闘に普段関わらない人でもテンション上がるんだけどね。

観客席からも次々に応援が飛ぶ。いや~非常に盛り上がってらっしゃる。頭の中にこういう興行をして回るのも楽しいかもしれないなと思ったりしたとき、一瞬寒気がする。どこからか見られている感じだ。

何となくザールさんな気がする。いや、ほぼ間違いなく!ザールさんのふふふと笑う声を幻聴で聞いた気がしたが、振り払うように頭を振り、目の前の試合に意識を戻す。


お互いに水平チョップの打ち合いをくり返している。やはり基礎的な能力の差が響いているからウォーレンさんの方が不利だ。しかし、気合だけは負けていない。

ウォーレンさんの貫くかのような視線はデテゴに手加減することを許さない。気合の上ではお互いに一歩も譲らずに打ち合いをする。


が、しかし、ウォーレンさんが水平チョップを繰り出すことなく倒れ込みそうになる。なんとか自分で持ち直すと勢いそのままデテゴの前まで進む。上背ではウォーレンさんの方が高いが、満身創痍なのもウォーレンさんの方だ。

技を知らない二人の最後は意地の張り合いになった。ウォーレンさんから一発殴ればデテゴが受け、お返しとばかりに一発殴り返す。ウォーレンさんが張り手を繰り出せばデテゴは張り返した。

この辺りから観客の中には感動からか涙を流して応援する人も出始めた。スタッフみたいな動きをしていなければ俺もそうだったかもしれない。ウォーレンさんの負けと分かっていても立ち向かう姿は心を打つものがある。


既にふらふらになっているウォーレンさんに対してデテゴは攻撃を食らっても挑発を繰り返すばかりだ。反撃するほどの一撃に満たないのだろう。ウォーレンさんの意識も多少危ういのかもしれない。


止めようとしたがデテゴが視線で止めるなと訴えてくる。まだウォーレンさんはやれるのか?そう思った時、目がハッキリと闘志を取り戻した。足に踏ん張りを効かせ、全身を震わせると後ろに伸びあがり拳を握ると全身の力を使ってヘッドバットを仕掛けてきた。

受けるデテゴは踏ん張る形では負けると思ったのか自らも前に出てヘッドバットを返す。


ドゴンという音が会場全てに響き渡った。頭同士で鳴った音か、頭蓋骨に皹どころか割れたのではないかと心配になってしまうような音がして5秒、ゆっくりと敗者が崩れ落ちる。


「あ~~~、痛ってええぇぇ~~……」


最後の一撃だけど相当なものだったらしく、デテゴが情けない声をあげている。


「勝ーーー者!!!!デテゴーーーーーー!!!!」


ウオオオオオオオオ!!!!


救助とばかりにデテゴとウォーレンさんに近づいて怪我の具合を確認しつつ、雑談に興じる。


「その声が無けりゃ勝者としてカッコが付くんだけど。ウォーレンさんも気を失ってはいるけど無事だからね」

「それは良かったどうしたら幕引きになると思う」

「こういう時はね、お互いの健闘をたたえ合うんだよ」


俺とデテゴでウォーレンさんを立たせるように脇から抱えるとデテゴがウォーレンさんの腕を持ち上げた。


「最後まで気力を振り絞ったウォーレンを皆も褒め称えてやってくれ!!!」


ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!


何度も声をあげてもらっていた甲斐があり、一番の歓声が沸き上がった。こっそりと最低限の治癒を施しておいたので後はスタッフさんに2人を送り届けるだけだ。デテゴも今日はもう一試合あるから体力の回復をしなくてはならない。


「何でこんな試合形式にしたんだ?」

「ん?盛り上がるからだ!……と言いたいところなんだが、なんとなく武器有りにすると死ぬまで向かってきそうな気がしてな精神的に動けなくなるまで削れるこの形の方が良いと判断したんだ」

「引けない事情があったってこと?」

「ああ。その辺りは起きるまで待って聞いてみるよ。勝者の立場を使ってな。変に死闘となると関係ない観客たちが可愛そうだろ。だからそうしたんだ」


ここは耳が痛いな。ゾルガンに対して、ティートとセラの村を見捨てて逃げてたらいたぶるつもりだったからな。どこか乾いた笑い声を上げるしかない。


「後は引き渡してゆっくりするから舞台の片づけを頼む。お前の力で埋めたなら簡単には抜けないだろ」

「そうだね。もし戻って来れたら後で教えてよ」

「了解だ」


デテゴにウォーレンさんを任せた後は、どうやっても抜けなかったらしい杭を抜いた。あとはぜひ記念に杭とロープを引き取りたいと言われたので進呈することにした。

ロープに関しては弾力性があるのは俺がちょっと特殊な魔法をかけていたからなので、使わないように念押ししておく。代用できそうな材質の物を作らなければいけないかも?いやこれくらいは現地の人々にがんばってもらいたいところだ。依頼が来ない限りは俺は手を付けないことにする。


全てを終わらせて戻る時に次の試合の選手とすれ違う。ボナソンとその相手を押し付け合って勝ち上がってしまった選手だ。しかし、今日は表情が違った。

どうしたことだと思ってバイスの横に戻ったら理由を教えてもらった。


「絶対に勝てないと分かっていても立ち向かうべき時があるのかって呟いてたよ」


結局第四試合はボナソンが勝っていたけど、その言葉通りデテゴ対ウォーレンさんほどでなくても非常に良い試合をしていた。

書き始めたとき、第四試合にまで影響を及ぼすとは思っていなかった。


お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。

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