二回戦第一試合がすぐ終わったので第二試合
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そして翌日は予定通りに二回戦が行われる。既に第一試合は終了だ。結果は当然ながらトワの圧勝だ。開始の掛け声とともに姿がかき消えたトワは問答無用で相手を圧倒した。相手の武器も防具も壊しちゃダメときつく言い含めておいたのは守ってくれた。審判の勝利宣言のときには後ろ姿を見せて歩くほどの余裕だ。
あんなにバトルジャンキーではなかったはずなんだが、いつのまにああなった。それはまあいい。相手もそんなに強いとみてなかったしな。それよりは次の第二試合だ。期待していた通りに魔法使い同士の戦いだ。
風魔法の使い手ホイト。こいつはティートとセラの村が滅んだ理由を知っているかもしれないゾルガンのパーティメンバーだ。本当は直接俺たちで当たりたかったところだ。相性的にも悪くない気がするんだがどうにもこいつが勝つイメージが湧いてこない。
対して火魔法使いのヒャーズ。風と火の相性としてはうまくいけば火が大きくなるが、逆に小さくもなるわけで。どちらにでも転がりかねない相性をうまく自分に有利なように持っていけるかが勝負の分かれ目だろう。鍵はより攻撃力の高いヒャーズの方が握っているかな。心情的にもこちらを応援したいところだ。
「借りにヒャーズが負けたらトワにホイトを生け捕りにしてもらえば良いだけだしな」
「そんな狩りみたいなこと言わなくても。イレブンが確保すれば十分じゃないのかい?」
「バイス。同じ情報でもいくつかの情報源から手に入れて同じだってことに意味があるんだぞ」
「なんというか、疑り深いね」
「慎重と言ってほしいね」
昨日と同じ大きさの出場専用の大型控え場所にはバイスと一緒に並んでいる。デテゴとサティさんは俺たちと対等に戦いたいとのことで、終わるまでの交流はなるべく控えようといわれてしまった。
初めて会ったときから考えると大型の剣みたいに荒々しい雰囲気を放っているし、サティさんも冷たい殺気みたいに研ぎ澄まされているしであまり雰囲気はよろしくない。あの二人はたぶん勝ち残るだろうから個人用の部屋に引っ込んでいても良いんだけど。そうすると試合が見れない。まあ気にせず居座ることにしよう。
ちなみにバイスが浴びるには少々刺激が強いので彼にだけ少し結界を纏わせている。トワも俺に対して冷たいから話し相手がいないのだ。試合が始まる時には解除するから許してくれ。
二回戦になってからは細かい説明は省かれているよ。では試合をどうぞ。
「始め!」
試合開始とともに接近を試みるヒャーズだったが、同時に後ろに下がった上に風の膜を張られたことで物理的な接近戦は封じられてしまう。
「これでもう、近寄らせんぞ!ウインドブレット!」
風の膜をそのまま弾丸に変えたかのような使い方で間合いを取らせようとする。魔法使いらしからぬ杖さばきで攻撃を叩き落していく。あれは杖が特殊で丈夫なんだな。
杖本体だけでなくその周囲にも結界に似た効果を及ぼしてくれるから振り回してるだけで攻撃にも防御にも使えるように出来てるな。それに動けるように訓練も積んでるみたいだし、これは大きな差だな。
その杖を大きく振って一つ魔法を唱える。
「フレイムウェイブ」
例えるなら炎の津波だ。舞台上をヒャーズを中心に放射線状に広がりながら襲っていく。ホイトには逃げ場はない。あまりの攻撃方法に悲鳴やら歓声が観客席からも巻き起こる。広い会場からも魔法の方が影響範囲が大きいから分かりやすいらしい。
「エアカーテン!!」
ホイトの周囲に光る膜のようなものが張られ、炎の侵入を防ぐ。完全に治まるまでしばらく睨み合いだ。炎が治まると同時に準備しておいたらしい魔法を放つ。
「エアエッジ!!」
不可視の刃、本当はうっすらと見えているがその速さも相まってほとんど見えない、がヒャーズ目掛けていくつか飛んでいく。ほとんど見えないからか観客は何が起こるのか分かっていない。
「ミスすればヒャーズがバラバラになるな」
「何を悠長なことを!」
止めなければとバイスは言いたいのだろうが、助けなければいけないような男ならここまで勝ち残っていない。
「フレイムウォール」
火の壁がそそり立ち、不可視の刃を飲み込んでしまう。
「お前が助けられたらどう思うよ」
「……バカにするなって思うね」
「その通りだ。ハイ、さっさと座れ!」
大人しくバイスが座ると今度は魔法の撃ち合いになった。片方が撃てば片方が防ぐ。隙を突いて攻守が逆転するものの決め手には欠ける状況になった。
色々な種類の魔法が見ることが出来ていたが、同じ状況が繰り返されることになった観客が慣れたころ、ホイトが仕掛けた。
「これで閉じ込めたぞ、エアロック!」
「……なるほど」
気が付くとヒャーズの周囲に見えない幕が出来ていた。ヒャーズが拳で叩いてみると物理的な固い音が響く。あれでホイトが閉じ込めたということだろう。
「これで場外にすることも出来るし、上空で解除して叩きつけることも出来るぞ。イヤならば降参しろ!」
「お互い魔法使いタイプというのは皮肉だな。自分に出来ることを考えた時に似たようなことを考えてしまう」
「聞きたいのはそんな言葉ではない!」
「勝ったところで次はあの姿すら見えない速度で動くお嬢ちゃんだぞ。お前に勝ち目があるとは思えないが」
「関係ない!やってみなければな!」
何か思うところがあるのか苦しそうな表情で言い放つホイトにヒャーズは拍手を送る。
「降参しないのならば場外へ出してやる!」
「お前は似たようなことをされたときにどうするか決めているか?俺は決めている」
「何をっ―――!?」
「エクスプロージョン」
突如ヒャーズの周囲で爆発が起こり、ホイトのエアロックの中が舞い上がった煙で見えなくなる。
「バカな!エアロックの解除のために自爆だと!?」
しばらく観客と同じく傍観姿勢に入ってしまったホイトだが、ここで大きく分かれ目となった。しばらく立っていたかと思うとふっと倒れてしまった。観客が何があったか分からないまま静かになっている間に煙から姿を現したヒャーズはホイトに近づくと送風の魔法で煙を散らす。ついでにホイトの脈を取る。確認した後、審判を呼ぶ。
「気絶させたぞ。勝負はこれで終わりで良いんじゃないか?」
「え?あ、はい!……気絶ですね。では、勝負あり!勝者、ヒャーズ!!」
「おおおおおおおおっ!!!?」
観客もいつの間にかついた決着に動揺しつつもヒャーズを讃えていた。これで決定だな。ヒャーズはスカウトしても良いかもしれない。ザールさんに推薦することを考えているとバイスが呼んでいることに気づく。
「何?」
「最後どうなったの?」
魔法が使えないバイスには最後のやり取りは分からなかったらしい。確かに無理があるな。隙さえ突けばどんな相手でも下手すれば確殺だもんな。
「人の奥の手を勝手にバラすのはダメな気はするんだが、こんな大人数の前で見せたんだから許してもらおうか。あれは酸欠だよ」
「さんけつ…?」
全部を解説しなければ良いだろう。詳しくは自分の中だけに留めておく。
ヒャーズは自爆と共に見えないくらいに高音の炎の檻をホイトの顔の周囲の少し離れたところに作り出した。その檻がバレないように自分の方には脱出兼目くらましとして爆発で煙を起こしたんだ。
やがて炎の檻が酸素を使ってホイトが気絶。同時に炎の檻は解除して自分も姿を見せたんだ。すぐにホイトの状態を確認したのも同じような撃退をくり返してきて相手がどうなっていれば安全か危険かも見れば分かるのだろうね。
しかもこの世界では酸欠とかいう状態異常は無く、あくまで全部気絶らしい。『鑑定』で見て初めて知ったよ。後遺症の心配もないらしい。そこまでの検証は俺もしたことが無かったなぁ。俺以上にこの世界を検証している存在はスカウトしておきたいな。と思ったところでバイスに呼ばれたって感じだ。
「ものすごく簡単に言えば炎魔法で気絶させたんだ。その方法が相手に逃げられないように囲むこと。似たようなことされたらうんぬんを言っていたのは最後の決め手が同じだったから言ったんだろうね」
「はぁ…?分かったような分からないような…」
「ある程度学んでないと思いつかないことだし理解も難しいかな?まあ色んな意味でヒャーズさんは有能な人ってことだよ」
トワに指令を出しておくか。勝った後にちゃんと話が出来るようにしておけって。
しかし前日と同じようにトワは観覧席に戻ってしまっている。俺と一緒にいたくないらしい。これもリセルを通じて話をしておいてもらうことにしよう。
お読みいただきありがとうございました。毎回の文言は同じですが、毎日感謝しております。




